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SDGs特集

2020年06月08日 | 妙法

SDGs特集〉SDGsジャパン政策顧問の稲場雅紀氏に聞く  2020年6月8日

  • 危機克服の道示す羅針盤がここ

 新型コロナウイルスがもたらした危機を乗り越え、人類社会がより発展していくための「道しるべ」として、国連のSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる理念が改めて注目されている。第2次世界大戦以来の「最大の試練」といわれる危機を、「誰も置き去りにしない」社会を築く契機へと転じていくには何が必要なのか。日本のNGOやNPOなど130の団体からなる「SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)」で政策担当顧問を務める稲場雅紀氏に、話を聞いた。(聞き手=高瀬光彦)

 【プロフィル】1969年生まれ。90年代初頭から横浜市寿町で日雇い労働者の保健・医療の活動に従事。その後、LGBT(性的少数者)の人権や、エイズの問題に取り組む。2002年から、NPO法人「アフリカ日本協議会」の国際保健部門ディレクターとして、感染症や国際保健に関する調査や政策提言を行う。現在、一般社団法人「SDGs市民社会ネットワーク」政策担当顧問。
 【プロフィル】1969年生まれ。90年代初頭から横浜市寿町で日雇い労働者の保健・医療の活動に従事。その後、LGBT(性的少数者)の人権や、エイズの問題に取り組む。2002年から、NPO法人「アフリカ日本協議会」の国際保健部門ディレクターとして、感染症や国際保健に関する調査や政策提言を行う。現在、一般社団法人「SDGs市民社会ネットワーク」政策担当顧問。
 
社会の百八十度の転換

 ――コロナ危機によって、世界的に社会の在り方が大きく変化しています。
 
 これまでの社会では「つながっている」ことが重視されていました。グローバルな単一市場の重要性が強調され、“どんどん人と接触せよ。お金の取引をせよ”ということで、いわば世界の果てまで手を伸ばして利益を拡大することが目指されていたわけです。
 
 しかし今回の危機によって、誰もが家にいなければいけないことになった。これは社会の百八十度の転換といってよいでしょう。
 
 この急速な変化の中で、新型コロナの罹患者や一部の国などに対する差別や偏見が強まっていく可能性があります。一時的なものかもしれませんが、急速な大転換の渦中にあって、どのような方針をもって事態の対応に当たっていくべきか。その原則に、私はSDGsを据えるべきだと考えています。
 

 

新型コロナ対策の三つの提言
 

 ――SDGsジャパンは、感染の拡大を受けて3月27日に声明を発表しました。
 
 ええ。声明ではSDGsの理念に基づき、新型コロナの対策として三つの提言を行いました。
 
 まず、最も厳しい状況に置かれた人たちを最優先に支援する必要性についてです。
 
 ソーシャルディスタンス(社会的距離)に基づく緊急対策によって、学校に通えない子どもたちや職を失った人たちのほか、支援の停滞などにより紛争や迫害等で苦しむ人々が深刻な“しわ寄せ”を受ける結果ともなりました。
 
 今後の経済政策として社会全体の経済的な損失を最小限に抑え、景気を浮揚させることは当然、必要ですが、その上で、最も厳しい状況に置かれた人々の生命と生活を救うことに最大限の力を注ぐ必要があります。国内にあっても国際的な政策においても、「誰も取り残さない」という視点が不可欠です。
 
 2点目として、社会的距離を保つことは生命を守る上で不可欠な行動ですが、それが罹患者をはじめ一部の人に対する不必要な差別や、社会からの遮断などの人権抑圧につながることがあってはならないと強調しました。
 
 そして3点目は、危機への対処の一環でさまざまな規制が行われていますが、その手続きは民主主義と法的手続きを順守し、透明性と公開性が担保され、かつ科学的な根拠に基づいた政策でなければなりません。さらに、差別や偏見、虚偽情報をなくすために最大限の方策をとることにも尽力すべきだと考えます。

 

アメリカ・ニューヨークの国連本部内に設置されたSDGsの各目標を紹介するバナー
アメリカ・ニューヨークの国連本部内に設置されたSDGsの各目標を紹介するバナー
 
公共の保健医療制度の充実を
 

 ――17あるSDGsの目標のうち、目標3には「すべての人に健康と福祉を」とうたわれています。今回のコロナ危機に学ぶべき教訓は何でしょうか。
 
 鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)などの先行事例があったにもかかわらず、より感染力の強い感染症が発生した場合にどのように抑え込み、終息させていくかという筋書きが、世界的に共有されていなかった。それが今回、非常に大きな被害につながった一因であると思います。
 
 もう一つは、医療制度が充実していると思われていた欧米においても、保健システムを迅速に機能させられませんでした。背景の一つに、公共の保健医療制度に対する財政支出の低下があります。過度な民営化によって、制度が極めて弱体化していたという事態がありました。
 
 今の時代、パンデミック(世界的大流行)の脅威は、テロリズムや2国間の戦争といった旧来の国家安全保障が想定しているものよりもずっと大きく、地球規模の脅威になっています。
 その意味で今回の教訓は、公共の保健医療制度に対して、資金を含めた政策的な優先順位を格段に上げなければいけないということでしょう。

 

新型コロナウイルスの感染者らを検診した後、消毒を受けるフィリピンの医療従事者。多くの人々によって、地域の保健衛生が支えられている(5月、EPA=時事)
新型コロナウイルスの感染者らを検診した後、消毒を受けるフィリピンの医療従事者。多くの人々によって、地域の保健衛生が支えられている(5月、EPA=時事)
 
“コロナ後”の持続可能な社会の建設へ 今こそ準備と行動を

 ――これまで実施されてきたSDGsの取り組みに、新型コロナのパンデミックはどのような影響をもたらしたのでしょうか。
 
 最も警戒すべきは、“SDGsが忘れ去られてしまう”という事態です。
 
 “新型コロナを克服さえすれば、経済はV字回復する”という考え方は、問題の本質的な解決にはならず、コロナ危機を“なかったことにする”という発想につながっていく懸念があります。19世紀の欧州で、ナポレオン没落後に生じた“ナポレオンはいなかったことにする”という態度に似たものです。その方向に社会が進めば、格差は再び広がっていきかねません。
 
 ゆえに新型コロナと闘っている今こそ、持続可能な社会を志向して準備・行動することが大切なのです。コロナ危機を克服した後の世界を、ウイルスが登場する前の世界よりも一段と持続可能なものにする。それができなければ、SDGsの視点そのものが忘れ去られてしまう危険性さえあります。
 
 私たちの社会、経済の在り方が、どのように今回の危機を生み出してしまったのかという教訓を踏まえ、次の社会への準備をする。これができれば、逆にSDGsの実現にとって非常に大きな後押しになるでしょう。

 

学生部が主催したシンポジウム(昨年12月、都内で)。青年部が取り組む「SOKAグローバルアクション2030」では、SDGsの普及・推進を柱の一つに掲げる
学生部が主催したシンポジウム(昨年12月、都内で)。青年部が取り組む「SOKAグローバルアクション2030」では、SDGsの普及・推進を柱の一つに掲げる
 
前向きな思考へ“自分を変える”ことが重要

 ――新型コロナ終息の道筋が見えない今、社会の先行きに不安が広がっています。
 
 他者との交流を控えなくてはいけない状況では、どうしても悲観的になってしまいがちです。非常に難しいことではありますが、思考のパターンを、“前向き”なものに変えていく努力が必要ではないでしょうか。
 
 つまり、“コロナさえなければ、こんなことにはならなかった”といった受け止め方を変えていかねばならないと思っています。
 
 この状況に対して自らをどのように適応させ、乗り越えていくのか。その先にどんな未来を望むのか。前向きな思考を持てるよう、“自分を変えていく”ことが、今、何よりも大事ではないかと考えます。
 

 
解説

 SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」は、あらゆる年齢の人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進することをテーマとしている。
 掲げられているターゲットの内容は、妊娠中や出産後の女性と子どもの健康、伝染病や感染症の終息、大気・水質・土壌の汚染による死亡と病気の減少など幅広い。
 日本においては、“心の健康”の維持や、自殺率の削減に、社会全体で取り組むことも課題となっている。

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