市街・野 それぞれ草

 802編よりタイトルを「収蔵庫編」から「それぞれ草」に変更。この社会とぼくという仮想の人物の料理した朝食です。

白内障手術 手術を終わって

2012-11-29 | 日常
 翌朝、目が覚めると、目の中のごわごわした違和感も無くなり、沁みるような痛みも消えていた。眼帯が突っ張るだけで、きわめて平常な目にもどっていた。このことが、これまでの不安感を拭い去ってくれるのだった。今朝は午前8時ごろに来院してほしいということなので、定刻に8キロ先の宮崎市下北町の新城眼科に長男の嫁に送ってもらった。ややあって、順番が来て、看護師が包装紙でも剥がすように、あっさりと手早く、眼帯を剥ぎ取ってしまった。もう目を晒して大丈夫なのかと思う暇も無いくらい、いっしゅんの作業であった。そのとき、術後最初の世界がみえたのだが、新しい視界はよくわからなかった。ほっとした気持ちだけがつよく、ものを見つめる意識がわかなかったのだ。担当医から、異常なしと告げられ、あっという間に診察も終わり、右目は、見るべく放置されたのであった。そして、見て分かったことは、色彩が冴え、輪郭が明晰になり、やたらとまぶしい光景になっていたことだ。左目だけでみると、黄色い光で覆われた世界は、右目では、白い光で冴えていたということであった。

 もう痛みもなく、目の不快感もなく、日常の体調にもどったので9月以来つづけている夜10時のウオーキングに出て行った。近くの赤江大橋の往復である。2ヶ月ほどの間に早足で歩くほうが快適になってきていて、目を使わぬ夜の散歩でなく、エクササイズとしての歩行となってきつつあった。だが、この夜は違った。なにがどう見え出したのか、これがなによりの関心となっていたのだ。こうして初めて世界を本気で、新しい目で見ることになったのだ。

 まず目を凝らしたのは、この橋の川上600メートルところに架かる「小戸乃橋」の上を走る自動車のライトであった。赤江大橋に上ったとたんに見える往来する自動車のライトを見ると、今回は、その光があきらかに左右2個のヘッドライトとして見える。さらに後ろの赤い左右の2個のテールランプが走るのがみえるのだった。それまでは、輪郭のぼけた光の行列だったのが、モノとして認識できたのであった。どうもこれまでの乱視もなくなっていた。思わす驚嘆して、ヘッドライトとテールランプの往来する様を見続けた。すると1キロ先の鉄橋の上を轟々と音をならしながら列車が渡っていく音が、いつものように聞こえだした。音のほうをみると、列車の走る姿が見え、その客車の窓が並んでうすく黄色く光っているのが見えたのであった。それまでは、音しか聞こえなかったのが、窓が闇夜に並んで走っているのが幻想的に見えたのだ。

 橋を渡りきり、対岸につき、欄干から川岸を見下ろすと、駐車場の白い枠が並んでいた。そこに堀があり、土橋がかかり、草原の広場になっていた。これまでは、土橋の向こう側は2メートルほどの潅木の群れにみえていた。つまり橋の影が地面に落ちて、黒い潅木の藪に感じさせていたのだ。なにもかもはっきりしてきたではないかと不思議な気持ちであちこちと、見回し続けるのであった。そして、この対岸からふたたび、帰ってきて、橋の取り口から川上の方を眺めたときに、おどろくべき光景がひろがっているのに見入っていったのである。

 それまでは、暗闇の漆黒の空間に無数の明りが、綺羅星となって咲き誇っているのが、夜の光景として、一人歩きの寂寥をそれなりに慰めてくれていた夜の空間が、別の空間になって迫ってくるのであった。そこにあったのは、漆黒の闇ではなくて、重なりつづける建築物であったのだ。戸建の住宅、長屋風のアパート、低層のマンション、覆い被さるような大型マンション、商業ビルやデパートやホテルなどが、複雑な大小の形態を示し、そして黒から灰色までのグラデーションで、闇のなかにどこまでも重なりつづけているのがみえるのであった。そして光は、その建物の外灯や窓から発していた。空間はのっぺりでなく、立体として奥行き、巾、それにリズムをもって何キロも先まで重なり続けて闇のなかに広がっていたのだ。思わず息を呑んで、この空間に吸い込まれるような光景であったのだ。

 こればかりでなく、まだまだ光景の新しさについては、あるのだが、差し当たり、この目がどうなったのかを、述べてみたい。さてこの夜の後には左目の手術になるのだが、その時点での右目の視力は、乱視は強制されて、1.5になっていた。1.5というのは視力検査表の下から2番目の位置である。この最下位の標識も、目を凝らして推察でやれば、半分くらいは当たるほどの視力になっていたのだ。つまり裸眼1.5である。これがどのくらいの視力なのかは、手術後一ヶ月ほどの間に経験してきたことを述べて見たいと思う。裸眼1.5の人々は自分の視力の価値が分ってないと思うからだ。自分の価値は自分だけでは測れないのだから。

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