興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

行動化 (Acting Out)

2014-03-25 | プチ精神分析学/精神力動学

  少し前のニュース(*)で、ピカソの名画『夢』の所有者の資産家が、長年所有していたこの作品を他人に譲ることが決まり、いよいよという時になって、うっかりよろめいてこの絵に肘鉄を入れて破いてしまい、契約が駄目になったいうものがありました。

 「よりによって、なんてドジな」、などという人が多いですが、この話、私としては非常に興味深いです。 特に、このオーナーが長年愛して已まなかった 作品で、いよいよお別れ、というそのタイミングだっただけに、精神分析学的には、明らかな行動化 (Acting Out) が推測されるわけです。

 行動化とは、人が、様々な 言語化できない 無意識の心的葛藤を、文字通り、行動(Action) によって(うっかり)表現することで、当の本人はその行動を意識的に、意図してやっている わけではありません。

 ある人との約束をうっかりすっかり忘れて すっぽかしてしまったり、何かのサービスを受けてお金を払い忘れたり、何かの予定を寝過ごしてしまったり、誰かに連絡しようとしたら連絡先の書いてあるメモをなくしたり、 会議の前夜に熱を出したり、デートしていて 間違えて昔の恋人の名前を呼んでしまったり、 行きたくない目的地に向かっている時に事故を起こしたり、パチンコに夢中になっていて子供を車の中に置き去りにしていることを忘れてしまったり、乗り気でないプロジェクトの文書を作成中誤ってデータを消去してしまったり・・・と、枚挙にいとまがありません。

本人にとっては、

「あぁ、やっちゃったぁ。どうしてかなぁ」

っていう、一見うっかりミスのように見えることが実は無意識の願望や、葛藤や、受け入れがたい想いがそうした形をとって表現されるわけです。前にも言いましたが、私たちの無意識に抑圧された思いは、その無意識の圧力釜のなかから、常にはけ口を探しています。

そこでひとは、Act 「行動」で、Out(気持ちを外に)「出す」わけです。

そして、少なくともこころのどこかで不本意であったその計画や対象は、こうした突発的な「間違い」によってサボタージュされたり破壊されたりします。意識している思いと、意識できない相反する思いが同時に存在していて、そのバランスが保てないと、こういう現象が起きます。

本当に単純なうっかりミスなのか、そこに何かしら本質的な意味があるのは、やはりその行動の起こったタイミングだとか、様々な背景的な状況などが判断材料になりますが、このオーナーのピカソの『夢』への肘鉄は・・・


このオーナーはやはり、大切な『夢』とお別れしたくなかったのでしょう。

そして、行動の結果、「夢」はその所有者のもとに留まることになりました。 でも、このオーナーさんが、『夢』は本当に大切で、どんなに大金積まれても売りたくないんだ、という気持ちをもっとはっきりと意識できていたら、彼はあるいはその大切な『夢』を傷つけずに所有し続けられたのではないかと思ったりします。

そういうわけで、自分でも不可解な、「え~なんで!?」というミスを犯した時、その根本的な心的要因について自己分析してみると、普段得られないような気付きが得られたりします。行動化は、無意識からの貴重なメッセージです。

もしあなたが最近このような、不可解なミスをして、しかしその理由が見つからずに混乱していたり、また、このようなミスをなぜか繰り返してしまい困っていましたら、私のところに来てください。こうした問題の解決には、精神分析的精神療法がもっとも効果的です。
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(オリジナル 2006年11月1日 執筆)

(*)2006年11月の時点



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