田中啓文『聴いたら危険!ジャズ入門』(アスキー新書、2012年)を読む。タイトルだけ見たら誤解する、これは「フリージャズへの愛を語った本」である(いや、あえて誤解を招いて落とし穴に誘いこもうとしているのか)。ブログ仲間のjoeさんや、ツイッターで呟き合うサックス奏者の吉田隆一さんらが執筆協力者として寄稿しているとあって、発売日を心待ちにしていた。そして、あまりの面白さにあっという間に読み終えてしまった。
最初に紹介しているプレイヤーがペーター・ブロッツマン。「いきなりギャーッと馬鹿でかい音で吠え、そのあと吠えて、吠えて、吠えまくり、途中で音が裏返ったら、そのままフラジオに突入し、ピーピーいわせて終わり・・・・・・だいたいこのパターンだ」とのくだりで、いきなり脇腹が痙攣しそうな笑いに襲われる(電車の中なので困る)。ローランド・カークを船長に例えたと思ったら、突然「カーク船長」が出てくる。ファラオ・サンダースは山師。アート・アンサンブル・オブ・シカゴは「ヘタウマの王様」。ドン・チェリーをスナフキンに例えて話しているうちにそれていく。ジュゼッピ・ローガンの「想像を絶する下手くそさ」(爆笑)。ハミエット・ブルーイットの「ぶっとい低音と張り切った高音」。姜泰煥のあり得なさ。チャールズ・ゲイルの音=生き物論。ヘンリー・スレッギルのカオスから魅惑への転換。ウィリアム・パーカーの「重さと速さの同居」(自分は、ラオウの剛の拳とトキの柔の拳との同居だと思っていた)。川下直広の「波のような息づかい」。
もちろん「そんなことないだろ!」と言いたくなる箇所はある。個性を最大限に尊重するフリージャズであるから当然である。むしろ、多くの「ブギャー」という音を発し続けるプレイヤーたちの個性をことばで表現する、「ことばの立ち上がり」こそがひたすら面白い。
どこかの権威主義的でレイシズムにまみれたジャズ評論家のディスク紹介本を読むくらいだったら、本書を読んでは自分のイメージとの重なりやズレを反芻するほうが百万倍愉快である。「有益」とか「名盤」とか考えて音楽に接する精神とは、本書は対極に位置する。地獄への道かもしれないが、それもよし。