Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

水曜日の読書

2014-07-23 20:43:45 | 

ようやく梅雨が明けた。毎週水曜日は厚木の奥の方にある愛川町まで仕事に出かけている。ここの仕事は一人きりの部屋で過ごすことができるから気が楽だ。やることをきちんと消化すればあとは惰眠をむさぼるわけにはいかないが読書くらいはできる。難点は通勤アクセスが悪いことだ。クルマの場合は国道246号を厚木の金田で右折して129号線を辿ることになる。このコースはまるで景色がよくない。灰色の一日が暗示されるような殺風景な街道筋である。これをやめて相模川沿いの東岸を行く県道コースも選択してみたがこちらは川を渡る渋滞が一苦労ということがわかった。そこでたまには原付2種バイクの出番である。昨日もおにぎり2個の弁当に横浜周辺の「ブックオフ」で買った108円の文庫本を数冊袋に投げ入れてバイクのホルダーにひっかけて通勤する。座架依橋の手前にある曲がりくねった農道を辿って相模川の昭和橋を目指す10キロコースだ。道端に野生する朱色の「カンゾウ」はとうに盛りを過ぎている。これからの「大暑」時期には青田の背後を彩る「向日葵」「大松宵草」「カンナ」などが川風になびく風情が座間や相模原の田舎道の魅力を高めてくれる。

持参した文庫はヘディン「さまよえる湖」ガルシン「赤い花」池波正太郎「包丁ごよみ」木田元「反哲学入門」どれもこれもオール108円の名著ばかりだ。中央アジアの移動するという伝説の湖ロブノール探検記がヘディンの本だが、こちらも108円でヘディン一行の筏や馬の旅のスリリングに同行させてもらうことができる。昔、「生活の探求」をものした島木健作という小説家は短編小説「黒猫」という傑作の中で旅行記、探検記の面白さを称揚している。ちょうど島木健作が結核を患っていた時にその鬱屈を晴らしてくれたものが古今の旅行記だったらしい。自分も金子光晴の「マレー蘭印紀行」田村隆一「インド酔夢行」等の紀行本をたまに読んでは詰まらない生活からの一時逃避を図っている。ヘディンの探検記も同様でこうした類ならシベリアだろうが、南米だろうがいつでも在宅漂流をきめこんで夢想は尽きることがない。

「舟旅」の箇所でいつも感動するのが1899年の第一次探検に従僕として水先案内をして活躍した東トルコの山岳砂漠人「エルデク」との32年ぶりという再会シーンがある。老人になったエルデクについての印象を記すヘディンの描写に泣かされるのだ。

ガルシンの「赤い花」は奇しくも「啄木歌集」を読んで触発されている。啄木の「忘れえぬ人々」の中にある「みぞれ降る 石狩の野の汽車に読みし ツルゲネフの物語かな」という歌だ。若い頃読んだツルゲネフ、チェーホフ、ガルシン、若い頃浸っていたチャイコフスキーの音楽、どこかで置き忘れをしてきた抒情の同質を感じてこの期に及んで読んだり、聞いたりし始めている始末である。ガルシンの短編では「信号」がよい。やっと職にありついた線路守の男の物語だが19世紀末期のロシア的暗澹の描写はやはりトルストイ、チェーホフの空気と同じもので、1924年以降のプロバガンダ芸術には失われてしまった貴重な感性ということに気がついたのが今回の我が成長である。

「包丁ごよみ」は池波の「剣客商売」中の料理シーンの抜粋集だ。料理の実例は「山の上ホテル」の名料理人、近藤文夫という達人が素敵なレシピを披歴している。夏の候に登場する鮎、鱸、鰻、茄子、どれも美味そうなものばかりだ。隠居剣客秋山小兵衛の20も年が離れた若嫁「おはる」が「はい」と答えるのを江戸弁で「あい、あい」と応じて気のよい台所仕事にいそしむ描写はいつ読んでみても素晴らしい。水曜日の文庫本デーはこの八月も続行する気配である。


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