Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

冬の夜と似た人

2022-01-15 21:33:15 | ラジオ亭便り

年々、寒さに弱くなっている。エアコンの熱は嫌いだ。寝る前に石油ファンヒーターをつければ、部屋は暖まるのに切らしている灯油をガソリンスタンドへ買いに出かけるのが面倒である。そこで寝床の脇に電気ストーブを点けて読書している。寝入る前に電気ストーブを消す頃には、先に布団へ入れてある湯たんぽと自分の体温が効いてきて朝まで何とかなる。湯たんぽの微温が心地良いのはここ数年の発見である。

寝床で読むのは古本屋の均一本コーナーで見つけておいた釣り随筆本、民俗学、食文化本の類いである。この前に読んで印象に残ったのが、「無限抱擁」くらいしか知らない瀧井孝作(文豪志賀直哉の信頼厚き一番弟子格的小説家)の角川新書の「釣なかま」。さすがに場末の古書店もこの手のやや古目な趣味本は100円棚に投げださないところが、商売というものの矜持なのだろう。220円。

瀧井孝作は八王子市に住んでいたようで、八王子から遠くない相模川、桂川、多摩川上流などの覚えがあるポイントの昔日の駅名や川相描写に親近感を覚える。もう一点は釣果をめぐる豊漁と貧果の虚飾なき心理記述の塩梅加減、リベンジを企図する釣り仲間との懲りない生態描写は、我が身に照らす時にも頷けるような気持ちにさせる、こうした一級私小説家ならではの妙技なのだろう。

最近読んだもう一つの寝床本が岡本綺堂。「綺堂随筆集 江戸っ子の身の上」(河出文庫)、随筆が小説の世界にも往還するような、淡い不気味を描かせたら天下一品の近代作家だ。この随筆集に登場する品川から川崎大師への参詣途上や帰路にも何度も出会う少年との奇遇話も面白い。タイトルは「大師詣」。世の中には因果が解きほぐせない摩訶不思議な事象があることを綺堂随筆集が知らしめている。

これを読んだからではないが、私も暮れに京都の東寺「弘法市」へ寄ってみた。京都を代表する大きな縁日だ。その時に撮っておいたスナップ写真を帰ってから何気なく眺めていた。すると撮って記録したファイル写真中に、オーディオ仲間で物故者であるHさんと瓜二つの人物が写っている。撮った時点のこちらの意識にも全然、登場する筈がない。最晩年の二年は、現世の四苦八苦と病気に苦しむ噂はこちらにも流れて来ていた。しかしそのスナップ画像は、Hさんがラーメンなどを愛好していた暫く前の姿形に似ている。もの好きだったHさんも未だ見残している場所を徘徊して成仏し切れていないのではないかと、岡本綺堂を読んでいたら、尚その意を強くした次第である。


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