Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

味のある話

2013-03-01 20:59:37 | その他

3月になった。夜勤明けの寝不足疲れをとるには家の小さな風呂は向かない。そこでちょくちょく2時間入浴へ出かけている鶴巻温泉の駅前にある「弘法の里湯」に向かう。オープンする時間にはまだ一時間半以上の間があるから、昨秋まで住んでいた日向薬師へ先に寄り道することをを思いつく。梅が満開の里景色でも眺めながら、売店の親父さん(苗字を知らないための仮称)に会えることも期待している。広場のランドマークになっている辛夷の大木も花芽が揃ってきたようで春はそこまでやってきている。

ミカンの盛りは過ぎようとしているが、売店ではいつも盛期が大磯・湯河原付近産、晩期は浜名湖奥の三ケ日産のミカンを売っている。これもお目当てだ。山へぶつかった風が吹き下ろしてくる天気になって雲行きは悪くなっている。売店はやはり閉じていたが、後にある広場の駐車場へ廻ってみたら、ちょうど親父さんが日向薬師の境内にある売店から帰ってきた所でばったり出あう。店を開けるとミカンはやっぱり大きくてとても味が濃い三ケ日産があった。これを二袋買ったら、少し見栄えが冴えないもう一袋をおまけによこす。さりげないいつもの気遣いだ。

昨夕に伊勢原市内の「わくわく広場」で「ポンカン」を買ってあったことを忘れていた。ついでに買ってみた浜松産という新玉葱はすごく柔らかい手触りでサラダの春素材として応えてくれそうだ。それにしても急に柑橘お大尽になってしまった。食べきれない分は施設食では潤沢に食べることができないと嘆く母親への差し入れと近辺に住む友人にあげることにする。

この親父さんは推定80歳くらい、小柄ながらしゃっきとしている。昔は企業のボイラー設備士のような仕事をしていて、引退後は半ばボランティアのようにお寺に付属する売店の手伝い仕事を気ままな様子でしている。めったに雑談をすることはないのだが、この親父さんと雑談した時は必ず味のある横道話に逸れて井伏鱒二の小説に登場するような無駄の妙味を感じて楽しみにしている。

この前はカメラの世界で著名な立木義弘と知り合った時の話が面白かった。どこか富士五湖付近の富士山撮影ポイントで知り合ったらしい。一眼のアナログカメラで富士山を撮っていた時に立木氏が覗いてアドバイスしてくれたのが、偶然に知り合ったきっかけとのことだ。露出やスピードなど、それじゃ駄目だよと笑いながら立木さんは模範撮影の手本を示してくれたようである。同じ対象がどのように違う画像になるのか、数値もよく見ておくように云われて、その日に撮影したネガフィルムをプリントしてみたら全然違っていて吃驚したと高笑いした話等も味のある横道話の一つである。その後立木さんとは、氏が教えに来ている写真アートの大学が厚木にあって、この親父さんの七沢付近にある自宅へ泊まって、のんびり世間話をして帰ったこともあるらしい。しかし最近は交流もなくなっているようで心配している。

今日の横道話は悲話めいてしまうが、やっぱり味があった。いつも売店には鳥かごが吊るしてある。そこに雄の囀りがきれいなメジロが一羽、飼われている。このメジロを眺めることも売店に寄る楽しみの一つだった。今日はいないようだね。とこちらが質問する。百舌鳥(モズ)に頭をちぎられてしまった。残念やるかたないという表情の答えが帰ってきた。店の日陰に鳥かごを吊るしたときらしい。百舌鳥が飛んできてカゴにしがみつく。さすがに山里ならではの事件である。パニックになったメジロが暴れて右往左往する。真ん中でじっとしていればよいものを、勢い余ってカゴの柵側へ向かってしまう。そこを待ち構えている百舌鳥に噛みつかれたらしい。冬枯れの山野で見かける百舌鳥はぽっちゃりとした穏健な小鳥の風情だが、やはり猛禽の仲間ということを示す格好の例だと思った。今度、売店に寄ったときは翡翠(かわせみ)がお寺の池でクチボソのような小魚を捕獲する時の始終について、前に小耳に挟んだ話でも、この親父さんから聞き出そうと思いながら売店をあとにした。