Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

新年のアナログ再生

2013-01-07 12:34:54 | JAZZ
一日おきの24時間勤務が1月6日の放射冷却による冷え込みのきつい朝でようやく終った。その隙間の休日には座間までやってきた旧友もいる。彼らの手土産は横浜・高島屋内で販売している好物の「ご座候」の美味い今川焼だったり、独居生活の不精や欠乏を案じての茨城地方で収穫した新米だったり、さりげない配慮が身に沁みてくる歳ということをとても実感する。

そのオーディオ&ジャズ旧友との放談に刺激されたせいか、アナログLPの新年が昨日からスタートしている。旧友達がやってきた時間帯が夜のせいか、マンション暮らしに伴う小市民的音量制約をしていてどうもストレスとなっていたようである。今朝はスモークチキンの細片をマスタードで和えてトーストサンドを作っている間に、コーヒーを沸かして真空管アンプも温めるというゆとりが効を奏したみたいだ。そんなことをしていると村上春樹が「意味がなければスイングはない」の文中で真空管アンプを温めている間にコーヒーを沸かすというようなちょっとした間合いの時間を丁寧に慈しむことの大切を読者に向かって推奨している箇所を思いだして失笑する。

ドイツ・エラック社のターンテーブルもアンプと同じようにしばらくの暖機運転を心がけるのは、冬場の古風なアナログ愛好家の必須項目というか、神妙なるイニシエーションでもある。今朝の一枚は暮に駿河台で買ったファンタジーのレッドワックス仕様になるガス・マンクーゾの「MUSIC FROM NEW FACES」という地味なモノラルLPである。1500円也。マンクーゾというジャズメンは、アメリカの軍楽隊上がりでそれもスムーズなメロディを歌い上げることに難渋してしまうバリトンホーンという楽器の名手である。ブラスバンドなどでよく見かけるユーフォニウムと似ている重い金管楽器である。音色の茫洋とした音調はトロンボーンにも似ている。この人のレコードはファンタジーレーベルにもう一枚あるが、四谷で「音の隠れ家」をしていた時分からこういう良質な音力を潜ませたジャズ的には異端系楽器をオーディオ再生するのが好きになっってしまった。

リーマンショックで俗界が不況になって、こういったLPもグンと値が下がったみたいだ。かっての三分の一という相場のようだ。日本人の名盤崇拝者の視野に入ってこないというよりも、鳴らすことが苦手なこういうジャズLPを買い漁るチャンスが到来しているのに手元が慢性的に不如意であることが惜しまれる。

そのせいか金や流行にあかせない丁寧な聞き込みという慣習も身についたようだ。サイドのリズムにはベースのレッド・ミッチェルがガッチリと重い骨格のコントラバスを弾いている。彩度を上げにくいバリトンホーンのくぐもった音調に野放図な遊撃感と自在なソロプレイでコントラストを添えるのは、ジョー・ロマーノのサックスだ。ロマーノの動、マンクーゾの静、対極の性格をソロの交換で味わえることで、このモノラルLPは1950年代中期のコンボジャズの美味を獲得しているようだ。きわめつけの演奏は、サイドBの二曲目にある「Guess Who I Saw Today」につきる。こんなに素晴らしい重力感に充ちたバラードを切々と吹くマンクーゾはやはり只者ではない。カーメン・マクレーなどでもしみじみと聴いた覚えのメロディーが、無名に近いガス・マンクーゾを私にとっての忘れがたきジャズメンに高めているようである。