つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

地域限定って……

2012-03-10 13:45:49 | 恋愛小説
さて、なにげに角川文庫が多い気がしないでもない第993回は、

タイトル:まほうの電車
著者:堀田あけみ
出版社:角川書店 角川文庫(初版:'96)

であります。

……読んだことないひとだと思っていたら、読んでいましたね、この人……(笑)
しかも×つけてるし……。

ブランクが長いと1回でも読んだことがあるひとなのかどうかもう忘れてますね。
はてさて、2冊目となる本書はどうなることやら……。

ストーリーは、

『ひめこは、怒りにまかせて渋滞で止まっている車から降りて歩き出してしまう。
運転席に座っているはずの恋人は追いかけてきてもくれない。赤信号で止まらざるを得なくなって車を振り返って誰に言うともなしに呟いた一言に、思わぬ返事が返ってきた。
それがタツヤとの最初の出会いだった。
第一印象は最悪。けれど、ほとんど勢いと機嫌の悪さでタツヤを自棄酒に付き合わせることに。

でもそれっきりの関係のはずだったが、偶然タツヤと再会することに。
そのとき、特に行く気もなかった店長の恋人の誕生パーティへ向かう途中だったひめこは、それをキャンセルしてタツヤに誘われるままに食事をすることになる。
その席で美容師見習いのタツヤにワンレンボディコンの容姿を指摘され、髪を切ったほうがいいと言われる。

そのときは反発したものの、後になってひめこは友人と行ったコンサートの帰りにタツヤが務める店へ赴き、タツヤに髪を切らせ、ショートカットにする。(無論、見習いのため、ひどいことになって後から師匠であるジュンさんに整えてもらった。)
そこからひめこは変わり始め、タツヤとの関係を進展させていくことになる。』

前に読んだ「恋愛びより」でも書いたけど、

ホントに読みにくいね、

この人の文章。


体裁は「恋愛びより」と同様、彼彼女で語られる一人称なんだけど、とにかく視点がころころ変わるのが読みづらくてかなわない。
視点を変えるために、「※」を使って区切る手法は別段問題ないのだが、視点の変化が長くても数ページ、短ければ20行もしないうちに、ひめこ、タツヤ(中盤からミヤコと言う女性も加わる。)と変わっていくため、ストーリーがぶつぶつ途切れてしまうような印象を与えてしまう。
おまけに誰の視点かを判断するのが彼、彼女と言う単語で、しかも彼女(=ひめこ)の視点で書かれていても、タツヤのことを「彼」と表現していたりして(これはタツヤの視点の場合でも言える)、どっちの視点なのか判然としない場合も多々あるなど、読みづらさ倍増。

それにめげずに読んでいってストーリーはと言うと、舞台は名古屋。偶然の出会いから始まり、その出会いから変わっていく24歳のブティック勤務のフリーターひめこと、19歳の美容師見習いのタツヤとの恋愛の過程が描かれたもの。
中盤以降、モデルをやっているミヤコと言うタツヤに惚れる女性が火種を置いていくものの、基本的にはひめこ、タツヤの両方の視点で思いを深めていくと言ったストーリー展開。

ドロドロした部分は少なく、ストーリーとしてはあっさりめで、そのせいか、ひめこがタツヤと付き合っていく中での心理描写とかが薄っぺらい印象。
これはタツヤの視点で書かれている場合でも言えることで、おかげでキャラに深みが感じられない。
視点がころころ変わる読みづらさと相俟って、全体的に薄っぺらい作品になってしまっている。

おまけにこの作品が名古屋の情報誌の連載だったものだから、地元色が強いのも難点。
あとがきで「この話の舞台は、一話ごとに地下鉄東山線の駅を名古屋から一社まで西から東へ、一つずつ進んでいます。」と書いてあって、そんな地元民でなければわからないようなことをアクセントにされても地元民でなければまったくアクセントにもなりゃしない。
最初は名古屋の出版社で別の題名で出版されていた作品で、改題して本書になったわけだが、はっきり言ってそこで止めておけばよかったものを、と言う気がする。
薄っぺらいストーリーとキャラに加えて地域限定のネタがアクセント、って全国区で売り出すには不向きすぎる。

と言うわけで、満場一致(?)で落第。
あーあ、結局2冊目もダメだったか……。もう読まないだろうな、この人……。


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第一印象って大事よね

2012-03-09 22:37:37 | SF(国内)
さて、第992回は、

タイトル:なぞの転校生
著者:眉村卓
出版社:角川書店 角川文庫('75)

であります。

1975年って37年前だよ、古いなぁ、この作品……。
と言うわけで、Amazonに該当するものが出てこなかったけど、手に入るのがあったのでそちらにリンクしました。

ちなみに、表題作と「侵された都市」の中編2作なので、それぞれストーリーをば。

『「なぞの転校生」
よく晴れた日曜日、広一はでかけるために団地のドアを開け放った。
廊下を歩きながら何気なく隣室六四〇号室のほうを見た広一は、そこに名札がかかっているのを見て驚いた。
空き室だったはずの六四〇号室。しかし、昨日まで引っ越しの気配はなかったからでもあった。

そこへ六四〇号室の住人であろう少年が現れると息を呑んだ。まるでギリシャ彫刻を思わせるような美少年だったからだ。
怪訝そうな少年に、広一は気まずくなって立ち去ろうとしたが、少年は用事でもあるのか、広一の後を追うようにしてエレベータに乗り込んだ。
――そこへ運悪く停電が起こり、ふたりはエレベータの中に閉じ込められてしまう。
すると少年はポケットライトのようなものを取り出し、鬼気迫る様子でエレベータのドアに穴を開けようとする。

幸い、停電はすぐに復旧したものの、広一は異様な行動を取る少年とこれ以上関わりたくなかった。
だが、それはかなわぬことだった。翌日の月曜日、少年――山沢典夫は、広一のクラスに転校してきたからだった。

典夫は瞬く間にクラスの人気者になった。美少年の上、勉強しているふうでもないのに成績はよく、スポーツをやらせても万能。
人気者になってもおかしくないだけの才能を持った典夫は、しかし奇妙な言動や行動があった。
単なる夕立に放射能汚染の危機を感じてわめいたり、運動会の競技の途中、ジェット機の音で競技を放り出したり……。

しかもそれは典夫に限ったことではなく、典夫と同時期に転校してきた生徒がいて、その生徒たちも同じだったのだ。
さらには広一の学校だけでなく、大阪市内のいくつもの学校で同じような生徒が現れていて……。

「侵された都市」
記者をしている古川は、取材を終えて羽田へ向かう飛行機の中にいた。2時間後には見慣れた羽田空港に到着するはずだったが、到着直前、機体は不自然な挙動を取る。
それでも何とか持ち直し、羽田空港へ着陸した――はずだったが、そこには見慣れた羽田の景色ではなかった。

まるでロケットの発着場のようなそこは、乗客はもとより、機長と言った飛行機のクルーでさえ知らない景色だった。
とにかく様子を見てこなければ何もわからない。古川は、副操縦士の桜井とともに、飛行機を降りて空港事務所らしき建物へと向かった。
ほとんど使われず、廃墟のようなそこを調べていると、どこからともなく円盤状の物体が飛来してくる。
それと同時に、まるで神の声のようにその円盤の元へ向かわなくてはならない衝動に駆られてくるのだ。
桜井も同様のようで、先を争うようにふたりは円盤の元へ向かおうとして――壊れかけていた階段から落ちて気を失ってしまう。

目覚めたとき、円盤はすでにおらず、代わりに何人かの人間が現れ、ふたりを連れて行く。
連れて行かれた先で、円盤への強迫観念を消し去られた古川を待っていたのは、古川が乗った飛行機が降り立ったのは30年後の東京で、バーナード人という宇宙人に支配され、人間は奴隷のように使われているのだと言う現実だった。』

まずは「なぞの転校生」からだけど、これ、1998年に映画化されてるんだね。Amazon見て初めて知ったわ~(笑)
でも、映画化されるほどおもしろいか、これ?

まず初手に感じた、と言うか最初の1ページを読んだときに感じたのが、まるで起承転結の起を抜かして始まったな、ってこと。
それでもうコケた。
読む気が失せた。
でもレビューのためにと読み進んでいって、やっぱり最初の印象って大事だなぁと思った。

ホントに小説として単純におもしろくない。

文章は簡潔と言えば聞こえはいいが、はっきり言って言葉足らずで深みはないし、心理描写も不足気味でキャラが掴みにくい。
設定になんか目を瞠るようなものもなければ、ストーリー展開も驚きや凝った仕掛けというものもなく、盛り上がりに欠ける。
テーマは……まぁ、書かれた時代を反映したものなので、いま読むとしっくり来ない部分はあるのは仕方ないとは思うけど、テーマそのものに「だからどうした」という程度の感想しか抱けないのでさほど魅力に感じることもない。
児童書として講談社青い鳥文庫からも出ているようだけど、はっきり言って児童書で再版する理由がわからない。

まるっきりいいとこなしだな、この作品。


――で、次の「侵された都市」はと言うと、これまた「なぞの転校生」並みにおもしろくないから困ったもの。
主人公の古川はタイムスリップして、未来へ来てしまって、そこは宇宙人に支配された地球。
そこで出会ったレジスタンスとともに戦って、元の時代に戻るストーリーなのだが、文章のせいなのか、ストーリー展開のせいなのか……まぁ、その両方だろうけど、古川がレジスタンスとともに戦う理由がまったく見えてこない。
おかげでキャラは上っ滑りして人間味はないし、ストーリーもありふれた題材で目新しさはない。(目新しさと言う点では書かれた時期から考えれば仕方がない面もあるかもしれないが)

これまたいいところを見つけろと言うほうが無理としか言いようがない作品。

まぁ、この人の作品は初めて読んだからこれだけで評価するのは危険だが、あんまり2冊目を読もうとは思えないよなぁ、最初がこれじゃ……(苦笑)
と言うわけで、当然総評としては落第。
これ以外の評価をつけろと言われても無理って作品は逆に珍しいんじゃないかなぁ。


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ミステリじゃないけれど

2012-03-04 16:22:41 | 小説全般
さて、この人としては異色作になるのかなの第991回は、

タイトル:7人の敵がいる
著者:加納朋子
出版社:集英社(初版:'10)

であります。

優しい雰囲気を持ったミステリを描く加納さんですが、本作はミステリではありません。
とは言え、お得意の短編連作の形式で書かれているので、各章ごとにストーリーをば……。

『「女は女の敵である」
山田陽子はかなり苛立っていた。一人息子が小学校に入学して最初の保護者会。編集者としてバリバリ働いている陽子は、後々のためになるかと仕事を抜けて来ていた。
――と言うのに、無為に時間だけが過ぎていく。
母親ばかりの保護者会では簡単な自己紹介などをすませたあとに、PTAの役員を決めることになっていたのだが、ここで陽子は失敗してしまった。
仕事が深夜にまで及ぶことなどざらで、土日出勤も当たり前の編集者である陽子に、役員など無理。だから正直に言ってしまったのだ。滔々と無理な理由を挙げたあとに。
「そもそもPTA役員なんて専業主婦の方じゃなければ無理じゃありませんか?」と。
この瞬間、陽子はそこに居合わせたほとんどの母親を敵に回してしまった。

「義母義家族は敵である」
嫁姑問題もなく、陽子は義母とも義理の家族(夫の妹や姉)ともうまくやっていると思っていた。
だが、それも義理の姉の加代子の一言から、それに自信がもてなくなってしまう。
ついでに義理の妹美佐子との衣装の貸し借りのトラブルや、自治会の子供会のことなどが重なって、ますます自信を失いかけたところに新たな火種が投入され……。

「男もたいがい、敵である」
1年前の経験を踏まえ、息子が2年生になった際の保護者会。PTA役員にならないために、手を打っておいてから臨んだ学童保育所の父母会。
父母会の役員も決まり、これでおしまい……とはならなかった。
新会長に選ばれた男性が6月に行われる親子遠足について理想論を語り始めたのだ。
ツッコミどころ満載でも黙って聞いていた陽子は、しかし堪えきれなくなって新会長氏の理想論を完膚無きまでに叩き潰してしまったのだ。
かくして、またもや1年前と同じ轍を踏む形で、陽子は新会長氏を敵に回してしまった。

「当然夫も敵である」
仕事に家事、育児、学童保育役員会にと忙しい陽子は、夫である信介に自治会の会合に出るように(表向きは)頼んだ。
――のだが、それが失敗だった。会合から帰ってきた夫は、なんと自治会の会長になってしまい、おまけに総務の仕事まで引っ張り込んできてしまったのだ。
自治会の仕事なんて夫に任せるつもりだったが、それもかなわず、自治会の次の定期総会に夫の代理として出席した陽子は、総務の仕事までは無理と説得を試みるが……。

「我が子だろうが敵になる」
学童保育で預かってくれるのは3年生まで。4月から4年生になる息子に、陽子は習い事をしてみないかと薦めてみる。
放課後をひとりで過ごさせるのもイヤだし、義母に頼りすぎるのも無理。仕事を辞めるつもりはない陽子と夫との話し合いで出た結論だった。
それに息子の陽介はサッカー少年団に入りたいと言った。
とりあえず、入りたいと言うサッカー少年団の練習試合を観戦することにした陽子家族。いろいろと見て聞いて、人見知りの気がある陽介には団体スポーツを経験させるのもいいか、なんて暢気に考えていたのだが、ところがどっこい。
スポーツ少年団はそんなに甘いものではなかった。

「先生が敵である」
突然かかってきた村辺と言う保護者からの電話に陽子は戸惑っていた。何とか記憶を掘り起こして該当者を見つけたものの、電話をかけてくるような間柄ではなかった。
しかし、親にはなくともその娘の村辺真理ちゃんには、間接的ながら陽介を不審者から救ってくれたと言う過去の出来事があった。
その恩義もあって、村辺から話を聞いてみると、それは真理ちゃんが3年生になってからの担任若林先生のことでの相談だった。

「会長様は敵である」
上条圭子PTA会長は、陽子の出した秋の学年レクリエーション活動の予算申請書にダメ出しをして再提出を命じた。
これで3度目。さすがにこれ以上作り直してきても時間の無駄だと思った陽子は、上条会長にどこがいけないのかを聞くと返ってきたのは、ぐうの音も出ないほどの正論で、陽子はかつてないほどにこてんぱんにやり込められてしまった。
だが、ここで負けては女が廃る――わけではないが、陽子は細心の注意と根回しによって、敵を陥落しにかかった。』

今まで読んできた加納さんの作品は、総じて優しい雰囲気の作品が多く、それが魅力でもあったのですが、本作は優しさではなく、軽妙という表現がぴったりの作品になっています。
著者あとがきでも触れていますが、コメディ的な要素もあって、こういう話も書けるんだとけっこう素直に感心しました。

ストーリーの柱は、主人公の陽子――迂遠で遠回し、言わずとも察してほしいと言う女性的な面を嫌う男勝りなキャリアウーマンが、PTAや自治会と言った活動で巻き起こる騒動や案件を乗り越えていく奮戦記と言ったところでしょうか。
各章のタイトルからもわかるように、その章ごとに敵(最終的には敵ではない場合もある)がいて、それに絡んだエピソードが語られていきます。

私は親ではありませんので、作中で語られるしがらみや義務などは、そういうものなのかと軽く流してしまいそうなのですが、共働きで兼業主婦をやっている方にとってはけっこう身につまされる話ではないかと想像します。
実際、主人公の陽子は編集者ですし、昨今では女性編集者も珍しくないでしょう。著者にとって取材には困らないでしょうから、多分にリアリティのある作品ではないかと思います。

各話にしても、お得意の短編連作でもあるため、きちんとオチもついているし、おまけにエピローグでもタイトルに絡めたオチをつけてくれていて、ストーリー展開にそつがありません。
キャラも主人公の陽子の性格や息子の陽介のために頑張ってしまう理由など、納得できるキャラ設定ですし、他の登場人物にしてもわかりやすく、無理のないキャラ設定になっています。
違和感なく、すんなりと想像できるキャラ設定は見事です。

ストーリー展開にそつがなく、文章も軽妙で、キャラに問題もなし――といいことずくめのようですが、あとがきにも書いてあるように「PTA小説? なんか小難しくて、つまんなそう……。」というのは確かにネックかもしれません。
あとがきから読む方もいるでしょうから、この作品がPTAだの自治会だのと言った題材を扱っていることを知って、興味をそがれる場合もあるかもしれません。
また、ミステリが好きな人にはミステリではない作品なので、敬遠される場合もあるかもしれません。

ですが、そうしたところを鑑みても、作品としての魅力は損なわれることはありません。
単純に小説としておもしろいし、各話で語られるエピソードから見えるそれぞれの人間関係などの妙味もあるし、小難しそうなテーマでありながら軽妙さを失わないところなどなど。
テーマがテーマだからと敬遠するにはもったいない作品です。

久々にオススメできる作品だと言えるでしょう。
ほんとうに加納さんの作品は外れが少なくて助かります。


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アニメはなかなかだったけど

2012-03-03 15:50:12 | ファンタジー(現世界)
さて、いい世の中になったよなぁの第990回は、

タイトル:オオカミさんと7人の仲間たち
著者:沖田雅
出版社:アスキーメディアワークス 電撃文庫(初版'06)

であります。

最近はこっちじゃやってないアニメもネット配信で1週間無料とか、そんなので見れたりするのでいい世の中になったよなぁと思う今日この頃……。
本書も2010年にアニメ化されていて、確か無料配信されていたので見てました。

なら原作は……と言うことで、遅まきながら1巻を借りてみましたが、ストーリーは、

『大神涼子はとある場所でひとりの男と対峙していた――と言うより、ほぼ一方的に殴り倒していた。
それでもめげない男は……涼子の逆鱗に触れる一言により昏倒させられてしまう。

と、そこへ今度はひとりの少女が現れ、昏倒した男を叩き起こす。
少女は自らを赤井林檎と名乗り、さらに御伽学園学生相互扶助協会――通称御伽銀行からの「お願い」を聞いてもらうために男を殴り倒した……もとい、男の元を訪れたと告げる。

御伽学園学生相互扶助協会――通称御伽銀行とは、御伽学園にある組織で学生の依頼を受けて依頼を完遂するとともに、依頼した学生に「貸し」を作って、必要に応じてそれを返してもらう、と言う組織だった。
涼子が男を殴り倒した……訪れたのも男のストーカー被害をやめてもらうための依頼を受けていたためだった。

にこにこと男に証拠を突きつけつつ、ストーキングをやめるように迫る林檎。
往生際の悪い男とのやりとりに紆余曲折はあったものの、男にストーキングをやめるよう納得させたふたり。

日が改まったある日、涼子が帰宅途中、不意に声が聞こえて立ち止まる。
振り返ってみても誰もいず、空耳かと思っていると今度ははっきりと「大神涼子さん、好きです」との声が。
けれど姿は見えず、どうやら隠れている模様。
それに苛々として出てこいと怒鳴ると、案外あっさり出てくる告白の主。

告白の主は、森野亮士、御伽学園1年F組で涼子と同じクラスの男子だった。
とは言え、クラスメイトのことなどほとんど覚えていない涼子。当然亮士のことも同じクラスだと言われるまで知らなかった。
――が、まがりなりにも告白された身。どこに惚れられたのか気にはなって聞いてみると出てくるのは「凛々しい」とか「野性味溢れる」とか「男らしい」とか、およそ女性を褒めるにはほど遠い言葉ばかり。

聞いていられないとばかりに途中退場した涼子は、翌日、教室の中に亮士を見つけ、友人でもある林檎に亮士のことを尋ねる。
林檎のほうは亮士のことは知っていて、周囲に溶け込む才能から御伽銀行に勧誘しようと考えていた人物だった。
涼子が告白されたことも聞いた林檎は、本格的に亮士を勧誘しようと御伽銀行の部室に呼び出しをかける。
――のだが、そこで亮士の致命的な弱点、対人恐怖症と視線恐怖症によってヘタレてしまうことが発覚。
逆に人がいなければとても男らしい面を見せる亮士を引き込みたい林檎だったが、涼子のほうはヘタレっぷりに反対の立場。

けれど、先日殴り倒してストーキングをやめさせたはずの男が涼子に仕返しをしに来たときの亮士の対応を見て、亮士は御伽銀行に正式に入ることになり……』

と、序盤はこんな感じ。

まずは最初に一言。

短編連作ならそれらしく書け

ストーリーは、まず上記の序盤から亮士が御伽銀行に入って初めての依頼をこなす話。
それから竜宮グループと言うあらゆる性産業に進出している複合企業の社長令嬢、竜宮乙姫に狙われる浦島太郎の話。
御伽学園ボクシング部所属で学生チャンピオンでもある白馬王子が涼子を狙う話。
……の3つで構成されている。

ストーリーそのものは各キャラの名前からもわかるとおり、童話から題材を取ってそれをアレンジし、コメディ仕立てにしたもので、御伽銀行のキャラや各話に出てくる脇キャラも古今東西の童話から持ってきている。
キャラは個性や特技がはっきりしていてわかりやすいし、ストーリーも奇を衒うようなこともなく、コメディとしてすんなり読めるものになっている。
ラノベとしては読みやすく、各ストーリーに破綻はない。
元ネタも童話なので馴染みやすく、誰にでもわかると言う意味ではパロディとしてもいいほうだろう。

ストーリー、キャラともに無難な点数をつけられる――のだが、書き方に一貫性がないのが気に入らない。

まずは最初の話で亮士が御伽銀行に入って初めての依頼をこなす話だが、ここまでに副題がついている章がいくつもある。
けれど、次の浦島太郎と竜宮乙姫の話、白馬王子の話には最初に副題があるだけ。
ある程度の章ごとに副題をつけるならつける、つけないならつけないではっきりせんかい、と言いたくなる。

ついでに序盤、涼子が天の声(いわゆる著者)に反応する場面があるが、これも最初だけでそれっきり。
こういう天の声に反応する書き方は好きではないけれど、それをさておいても、そういう書き方をするならする、しないならしないでこれもまたはっきりせんかいと……。

ラノベとしてはせっかく悪くないと思えるのに、どうも書き方にアラがあるのは前シリーズの「先輩とぼく」のときと同じ。
「先輩とぼく」も6冊出ていると言うのに、書き方に進歩が見られないと言うのは何だかなぁ。
(文体が違うとは言え、結局ムラっ気があるのに変わりはない)

アニメにもなるくらいだから、それなりに人気のあるシリーズなのだろうが、いろいろ気にかかる点があるのは残念。
まぁ、そういうわけで総評として良品と言えるはずもなく、かといってラノベとして落第にするほどストーリーとかが悪いわけでもないので、及第というところに落ち着くわけで。
なんかこう、これはいいぜ! って言いたくなるようなラノベってないもんかねぇ。


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大好きな平安もの(笑)

2012-03-02 21:36:50 | ミステリ
さて、それでもラノベが続くよの第989回は、

タイトル:嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹
著者:松田志乃ぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:'08)

であります。

タイトルの前に実はまだ「平安ロマンティック・ミステリー」と名前がつきます。
なので、ラノベではありますが、ミステリに分類しました。

いやー、平安ものと言うとついつい手に取ってしまうのですが陰陽師とかが主人公ではなく、ミステリというところが珍しいですね。
さて、ストーリーはと言うと、

『京の七条界隈、東の市ではちょっとした名物になっている値切り合戦が繰り広げられていた。
片や糸屋の若店主、片や小柄な若い女房――それなりの観客が見守る中、勝負は若い女房のほうに軍配が上がった。

若い女房の名は藤原宮子。女主人で乳姉妹でもある藤原馨子に仕える若女房だった。
宮子、馨子ともに若いうちに親と死に別れ、家人たちも離れていってしまった中、受領の三男坊の妻となった宮子の姉や、馨子の叔母である三条の婦人の援助、ついでに庭でも自家栽培や内職の仕事をこなして、貧乏ながらも五条の荒れ家で日々をたくましく生きていた。

馨子は実は系譜をたどれば皇族の末裔、父は身分ある殿方なのだが、手がかりは母が遺した琵琶ひとつきり。
だが、馨子は父親などには頓着しない現実主義者。しかもこのとき妊娠8ヶ月。さらにその父親は候補が3人もいて、それでも3人とも仲良く付き合っている破天荒な姫だった。
いくら破天荒であろうと何であろうと宮子にとってはかけがえのない女主人であり乳姉妹。
相思相愛のいとこの真幸とともに、幸せな日常を送っていた。

ある日、宮子は真幸に求婚され、とうとう新妻に……と胸ときめかせるとき、ひとりの男が宮子と馨子の前に現れる。
三条の婦人は馨子の母の形見である琵琶をもとに馨子の父親を捜していたのだが、その琵琶は故九条の右大臣のもので、その次男である藤原兼通が九条家の落胤として馨子を迎えに来たのだった。
しかも宮子を馨子と勘違いして。

ただし、兼通が馨子を九条家の一員として迎えに来たのは多分に政治的思惑があってのことだった。
賢い馨子は、そのことを敏感に察知し、兼通の勘違いをたださないまま、兼通の導きのまま、兼通の邸宅である堀川邸へと赴く。
そこで知らされたのは、近々御匣殿(みくしげどの(注))として就任するはずだった兼通の兄伊尹(これだた)の娘、大姫の失踪だった。
御匣殿の就任は決定事項――そのため、必要となったのが九条家の落胤である馨子だった。

だが、兼通は宮子と馨子の入れ替わりを勘違いしたまま。本当の馨子は身重の身で御匣殿など務まるはずもない。
そこで馨子は大姫の事件解決と引き替えに、たんまり礼金をいただいて貧乏生活から少しでも脱却しようと企んで、大姫失踪の謎に挑むことになる。』

(注)「御匣殿」とは後宮の役職のひとつで天皇や皇族と言った身分の方々の衣服を調製する役所の長官で、この時代ではほぼ名誉職。本作では東宮妃候補と目される立場にあるけれど、実際には主上が手をつけたりすることもあって、後世では身分の低い妃のようなものとなった場合もある。

ミステリと言っても本書では人死にはでません。
いまのところ、8巻まで読んでるけど(ちなみに全11巻らしい)、その中には人死にの出るミステリもありますが、第1巻であるこの作品ではそれはありません。
あくまで大姫の失踪事件の真相を解明するのがミステリ部分です。

さて、平安もの大好きな私ですが、その贔屓目を差し引いても、平安ものとしてはとてもよくできているし、よく調べています。
藤原伊尹、兼通(三男に兼家)と言えば史実にも出てくる実在の人物で、時代もその時代に則しています。
(兼通と兼家の仲が悪い、とかも史実通り。ちなみに、兼家は病気の兼通の屋敷の前を行列で通ろうとし、兼通は仲が悪くても見舞いに来てくれたのだと思うが、実際は単に参内の途中であったため、素通り。それに激昂した兼通は、病気を押して参内し、次の関白を兼家ではなく、別の公卿にする人事を行って帰った、と言う逸話もあったりします(笑))
もちろん、創作部分も多々ありますが、それを差っ引いても「平安もの」としての出来は秀逸です。
有職故実をかじっている私から見ても、服飾の描写や和歌の作りなど、ラノベとバカにできないくらいです。
かなりの資料を持ってこないとこれだけのものは書けませんから、それだけでも十分評価に値します。

次にキャラの話で言うと、キャラは個性がしっかり出ていてきちんと立っています。
ストーリーも……と言いたいところだけど、どうも肝心のミステリの部分がなんか納得いかない。
この辺りの分析は相方が得意なんだけど、私はそういうタイプではないので、どう納得いかないのか説明するのは難しいんだけど、探偵役の馨子が得た情報から大姫失踪の謎と犯人を割り出すと言う流れで進むわけだけど、そのトリックにどこか無理があるような気がしてならない。

ミステリと銘打っておきながら、肝心のトリックがこれではおもしろさが半減してしまう。
平安ものとしての出来はいいのに、ミステリとしての出来はいまいちと言う残念な評価になってしまう。
なので、ミステリとして読む場合にはあまりオススメできません。
まぁ、そこには拘らず、時代ものとして読む場合にはいい出来なので手に取ってみても損はありません。
(個人的にミステリの部分はあまり拘らないので、私は好きな平安ものとして8巻まで楽しく読ませてもらいました(笑))

と言うわけでいいところ、悪いところもあって、総評としては及第ですが、ミステリ好きの人は遠慮したほうがいいと思います。


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