つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ミステリじゃないけれど

2012-03-04 16:22:41 | 小説全般
さて、この人としては異色作になるのかなの第991回は、

タイトル:7人の敵がいる
著者:加納朋子
出版社:集英社(初版:'10)

であります。

優しい雰囲気を持ったミステリを描く加納さんですが、本作はミステリではありません。
とは言え、お得意の短編連作の形式で書かれているので、各章ごとにストーリーをば……。

『「女は女の敵である」
山田陽子はかなり苛立っていた。一人息子が小学校に入学して最初の保護者会。編集者としてバリバリ働いている陽子は、後々のためになるかと仕事を抜けて来ていた。
――と言うのに、無為に時間だけが過ぎていく。
母親ばかりの保護者会では簡単な自己紹介などをすませたあとに、PTAの役員を決めることになっていたのだが、ここで陽子は失敗してしまった。
仕事が深夜にまで及ぶことなどざらで、土日出勤も当たり前の編集者である陽子に、役員など無理。だから正直に言ってしまったのだ。滔々と無理な理由を挙げたあとに。
「そもそもPTA役員なんて専業主婦の方じゃなければ無理じゃありませんか?」と。
この瞬間、陽子はそこに居合わせたほとんどの母親を敵に回してしまった。

「義母義家族は敵である」
嫁姑問題もなく、陽子は義母とも義理の家族(夫の妹や姉)ともうまくやっていると思っていた。
だが、それも義理の姉の加代子の一言から、それに自信がもてなくなってしまう。
ついでに義理の妹美佐子との衣装の貸し借りのトラブルや、自治会の子供会のことなどが重なって、ますます自信を失いかけたところに新たな火種が投入され……。

「男もたいがい、敵である」
1年前の経験を踏まえ、息子が2年生になった際の保護者会。PTA役員にならないために、手を打っておいてから臨んだ学童保育所の父母会。
父母会の役員も決まり、これでおしまい……とはならなかった。
新会長に選ばれた男性が6月に行われる親子遠足について理想論を語り始めたのだ。
ツッコミどころ満載でも黙って聞いていた陽子は、しかし堪えきれなくなって新会長氏の理想論を完膚無きまでに叩き潰してしまったのだ。
かくして、またもや1年前と同じ轍を踏む形で、陽子は新会長氏を敵に回してしまった。

「当然夫も敵である」
仕事に家事、育児、学童保育役員会にと忙しい陽子は、夫である信介に自治会の会合に出るように(表向きは)頼んだ。
――のだが、それが失敗だった。会合から帰ってきた夫は、なんと自治会の会長になってしまい、おまけに総務の仕事まで引っ張り込んできてしまったのだ。
自治会の仕事なんて夫に任せるつもりだったが、それもかなわず、自治会の次の定期総会に夫の代理として出席した陽子は、総務の仕事までは無理と説得を試みるが……。

「我が子だろうが敵になる」
学童保育で預かってくれるのは3年生まで。4月から4年生になる息子に、陽子は習い事をしてみないかと薦めてみる。
放課後をひとりで過ごさせるのもイヤだし、義母に頼りすぎるのも無理。仕事を辞めるつもりはない陽子と夫との話し合いで出た結論だった。
それに息子の陽介はサッカー少年団に入りたいと言った。
とりあえず、入りたいと言うサッカー少年団の練習試合を観戦することにした陽子家族。いろいろと見て聞いて、人見知りの気がある陽介には団体スポーツを経験させるのもいいか、なんて暢気に考えていたのだが、ところがどっこい。
スポーツ少年団はそんなに甘いものではなかった。

「先生が敵である」
突然かかってきた村辺と言う保護者からの電話に陽子は戸惑っていた。何とか記憶を掘り起こして該当者を見つけたものの、電話をかけてくるような間柄ではなかった。
しかし、親にはなくともその娘の村辺真理ちゃんには、間接的ながら陽介を不審者から救ってくれたと言う過去の出来事があった。
その恩義もあって、村辺から話を聞いてみると、それは真理ちゃんが3年生になってからの担任若林先生のことでの相談だった。

「会長様は敵である」
上条圭子PTA会長は、陽子の出した秋の学年レクリエーション活動の予算申請書にダメ出しをして再提出を命じた。
これで3度目。さすがにこれ以上作り直してきても時間の無駄だと思った陽子は、上条会長にどこがいけないのかを聞くと返ってきたのは、ぐうの音も出ないほどの正論で、陽子はかつてないほどにこてんぱんにやり込められてしまった。
だが、ここで負けては女が廃る――わけではないが、陽子は細心の注意と根回しによって、敵を陥落しにかかった。』

今まで読んできた加納さんの作品は、総じて優しい雰囲気の作品が多く、それが魅力でもあったのですが、本作は優しさではなく、軽妙という表現がぴったりの作品になっています。
著者あとがきでも触れていますが、コメディ的な要素もあって、こういう話も書けるんだとけっこう素直に感心しました。

ストーリーの柱は、主人公の陽子――迂遠で遠回し、言わずとも察してほしいと言う女性的な面を嫌う男勝りなキャリアウーマンが、PTAや自治会と言った活動で巻き起こる騒動や案件を乗り越えていく奮戦記と言ったところでしょうか。
各章のタイトルからもわかるように、その章ごとに敵(最終的には敵ではない場合もある)がいて、それに絡んだエピソードが語られていきます。

私は親ではありませんので、作中で語られるしがらみや義務などは、そういうものなのかと軽く流してしまいそうなのですが、共働きで兼業主婦をやっている方にとってはけっこう身につまされる話ではないかと想像します。
実際、主人公の陽子は編集者ですし、昨今では女性編集者も珍しくないでしょう。著者にとって取材には困らないでしょうから、多分にリアリティのある作品ではないかと思います。

各話にしても、お得意の短編連作でもあるため、きちんとオチもついているし、おまけにエピローグでもタイトルに絡めたオチをつけてくれていて、ストーリー展開にそつがありません。
キャラも主人公の陽子の性格や息子の陽介のために頑張ってしまう理由など、納得できるキャラ設定ですし、他の登場人物にしてもわかりやすく、無理のないキャラ設定になっています。
違和感なく、すんなりと想像できるキャラ設定は見事です。

ストーリー展開にそつがなく、文章も軽妙で、キャラに問題もなし――といいことずくめのようですが、あとがきにも書いてあるように「PTA小説? なんか小難しくて、つまんなそう……。」というのは確かにネックかもしれません。
あとがきから読む方もいるでしょうから、この作品がPTAだの自治会だのと言った題材を扱っていることを知って、興味をそがれる場合もあるかもしれません。
また、ミステリが好きな人にはミステリではない作品なので、敬遠される場合もあるかもしれません。

ですが、そうしたところを鑑みても、作品としての魅力は損なわれることはありません。
単純に小説としておもしろいし、各話で語られるエピソードから見えるそれぞれの人間関係などの妙味もあるし、小難しそうなテーマでありながら軽妙さを失わないところなどなど。
テーマがテーマだからと敬遠するにはもったいない作品です。

久々にオススメできる作品だと言えるでしょう。
ほんとうに加納さんの作品は外れが少なくて助かります。


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