つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

いつ終わるのかな?

2006-09-20 23:59:18 | ファンタジー(異世界)
さて、何巻まで出てたっけ? とか考える第659回は、

タイトル:黒曜宮の陰謀(グイン・サーガ21)
著者:栗本薫
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:S60)

であります。

百巻越えちゃったけど終わる気配が全然ない(らしい)、ハヤカワの顔です。
自慢じゃありませんが、ケイロニア編以降は飛び飛びでしか読んでいません。
マジで終わるんかいな……これ。

主人公は豹頭で記憶喪失の超戦士グイン。
当初は、義理堅くてパワフルで計算高いパーフェクトヒーローのグインが、謎の国ランドックを探して各地を放浪するというヒロイック・ファンタジーでした。
しかし、サブキャラの台頭や、各国の枝話の増加に伴って話は大河ドラマへとシフトし、主人公だった筈のグインはいつの間にやら外伝担当に……。
(ここらへん、カムイ伝とよく似ている)

そんな脇役街道まっしぐらだった彼が久々に表舞台に復帰するのが、『ケイロニア編』(19~24巻)です。
グイン・サーガはおおむね五巻セットで一つの編を構成しているのですが、私的にはこれがベスト。
北の大国ケイロニアを舞台に、グインの異例の大出世、皇帝アキレウス暗殺の陰謀、グインの親友マリウスの恋物語等、物凄い数のエピソードを盛り込んだ娯楽巨編です。

で、その内の一冊である本巻ですが、めでたく百竜長になったグインが皇帝暗殺の陰謀劇にケリを付けます。
見所は、腹に一物抱えた連中の告発合戦と、最後の最後に裏技二連発で一同をシメるグイン!
外伝に追いやられてた間に鬱憤がたまってたのでしょうか? 妙に生き生きとツッコミを入れ、都合の悪い質問は沈黙と重々しい台詞で封殺、越権行為としか思えない行動を繰り返して一気に事を収めます……本当に面白い。

グインのことばかりですが、サブの方々もいい味出してます。
お気に入りは皇帝の腹心・アンティーヌ侯アウルス。
どこの誰が相手でもタメ口で、一度決めたら皇帝相手でも自分の意志を貫き、よく解らないことは全部運命神ヤーンに押しつけるグインが珍しく逡巡した際、最後の一押しをしたイカスじーさまです。
(ちゃんとグイン暗殺も視野に入れてるしね。食えない人だ……)

陰謀劇の他にも、地味に頑張るトール君の活躍があったり、微妙な立場にいる魔導師ヴァレリウスとグインのファースト・コンタクトがあったり、マリウスが心の恋人イリスに自分の正体を明かしちゃったりと見所満載、非常に美味しい巻でした。

長~いシリーズの内の一冊だけ紹介するというのもなんですが、オススメ。
ずっと読んでる方に、ちょっと書庫から掘り出して読んでみて欲しい一冊です。
グインが『エネルギー』って単語を口にしたのだけは引っ掛かりましたが……。(笑)

(※おわびと訂正。
大いなる記憶違いをしておりました。
マリウスが自分の正体を喋っちゃうのは次の二十二巻です……すいません)

「呼ぶがよい!」って、修技生の態度じゃないぞ

2006-09-19 23:53:09 | SF(国内)
さて、実はSF紹介するの久々だったりする第658回は、

タイトル:星界の紋章I――帝国の王女
著者:森岡浩之
出版社:早川書房 ハヤカワ文庫(初版:H8)

であります。

老舗ハヤカワが社運を賭けた(半分冗談ではない)、スペースオペラ長編です。
実は私、スペオペには物凄い偏見がありまして、これもなかなか手出す気になれませんでした。
ま、基本はボーイミーツ・ガールだし、気楽に読めばいっか~、と自分の背中をテラトンハンマーで押してみたのですが……さて、結果は?



十歳の時、惑星マーティンの政府主席の息子ジント・リンの人生は一変した。
当時、マーティンは『アーヴによる人類帝国』の侵略を受け、抗戦か降伏かを迫られていた。
問題はその結末である。秘密裏に取引を行った父は、故郷を売り渡すことで帝国の爵位を得たのだ。

七年後、ジントは惑星デルクトゥーの宇宙港にいた。
遺伝子操作により美しき容貌と長命を得た種族『アーヴ』について学ぶだけでかなりの期間を要したが、ようやく主計修技生として帝都に留学することが決まったのである。
デルクトゥーで得た友人と別れた直後、黒と赤の軍衣をまとったアーヴの少女がジントを迎えに来た。名前を尋ねると、彼女は胸を張って答えた。

「ラフィールと呼ぶがよい!」



出自バレバレだぞ、ラフィール。
というツッコミは置いといて――。

内容薄っ! が、読後の印象でした。
エピソードだけ考えると、普通の長編の三分の一程度しかありません。
気楽に読めることがウリな作品だし、三分冊の一発目なので世界説明が多くなってしまうのも仕方ないとは思いますが……にしてもねぇ。

アーヴの歴史とか、軍の階級分けとか、ユアノンなる粒子を使った宇宙航法とか、非常にマニアックな設定が目立ちますが、内容的にはジントとラフィールのラブコメです。
地位や種族を越えた二人の交流を描くために世界があるといった感じなので、階級と名を羅列しただけの脇役紹介や、アーヴ語のルビ(手当たり次第に入れすぎ! もっとメリハリを!)なんかは殆ど読み飛ばしました。
スペオペらしく戦艦同士の戦闘もあったりするのですが、アーヴ嫌いなんで味方側を応援する気になれません。よって、カタルシスも危機感もなし。

まー、若人二人のズレまくった会話は微笑ましいと言えば微笑ましい、かな。
ただ、十七歳と十六歳の会話にしてはかなり違和感が……三歳引きぐらいが妥当な線。
妙なところで漢字が平仮名になっている箇所もあり、余計幼さが感じられました。作者の変換ミス&校正担当の怠慢という可能性もあるが。(爆)

本巻だけで考えるとダメダメです。
一応、全巻紹介するつもりですが……期待はしないで下さい。
次回は『ローマの休日』ごっこだぁ!(ヤケ)

いくらなんでも若すぎ

2006-09-18 23:28:52 | マンガ(少女漫画)
さて、ようやく発見した第657回は、

タイトル:モーツァルトは子守唄を歌わない(全四巻)
原作:森雅裕  漫画:有栖川るい
出版社:エニックス ステンシル・コミックス(初版:H13~14)

であります。

江戸川乱歩賞受賞作『モーツァルトは子守唄を歌わない』のコミック版。
探偵役のベートーヴェンが、モーツァルトの死にまつわる謎を探っていくというミステリです。
出荷数が少ないのかどこの本屋に行っても見つからず、つい先日、ようやく全巻揃えることができました。



モーツァルトの死から18年が過ぎた1809年某日。
楽譜屋に立ち寄ったベートーヴェンは、店の主人トレークと謎の少女シレーネの口論に巻き込まれた。

原因は、トレークがシレーネの父ベルンハルト・フリースの曲をモーツァルト名義で出版したことにあった。
無名の作曲家の曲を売れ筋の名前で出版するようなことはどこの楽譜屋でもやっているが、シレーネにとってそれは特別な思い入れのある曲だったのだ。
怒りを爆発させたシレーネが店を飛び出していった後、トレークは、彼女がモーツァルトの隠し子だという噂を口にする。

店の外でシレーネに捕まってしまい、嫌々ながらベートーヴェンは彼女の差し出した件の楽譜に目を通す。
それは何の変哲もない子守唄だったが、所々に奇妙な箇所があり、モーツァルトの作でないことは明白だった。
トレークにとって、この曲がフリースの名で出されるのは都合が悪いに違いないと、シレーネは強く主張するのだが――。



いや~、面白かった。二巻まで見つけた後、半年探し続けた甲斐がありました。
原作未読なのですが、これ読む限り、恐らく乱歩賞の名に恥じない名品だったのでしょう。
主役のベートーヴェンが、とても三十九歳とは思えない美形青年に描かれてたりしますが……格好いいんで黙認しときます。(爆)

上記の粗筋以後の展開ですが――探偵役のベートーヴェン先生、シレーネの『貴方も協力して』攻撃程度では動きやがりません。
さすが、ケチで皮肉屋で自尊心の塊でおまけに年中仏頂面してるだけのことはあります。音楽とワインさえあれば、陰謀なんぞどうでもいいようです。
フリースの楽譜自体には興味を示したものの、それを持ってきたシレーネにはつれない態度。女嫌いというのもあるのでしょうが……ヒロインはもっと大切にした方がいいぞ。(笑)

そこで登場するのがベートーヴェンの弟子チェルニー君。
可愛い容姿と無邪気な笑顔でろくでもない性格を隠し、師匠を超える毒舌と抜群の行動力で世を渡る彼は、あの手この手でベートーヴェンを挑発したあげく、まんまと事件に介入させることに成功します。
ある時はトリックスター、ある時は漫才コンビの一人、またある時は孤高のピアニストと、属性をコロコロ変えて縦横無尽の活躍をする、素晴らしいワトソンです。恐らく一番人気。

シレーネとチェルニーに挟まれたベートーヴェンは、しぶしぶ調査を始めます。
しかし、時間とともに謎が増えるばかりで、真相は一向に見えてきません。

――宮廷楽長サリエリがモーツァルトを暗殺した噂は真実か?
――トレークが、フリースの楽譜をモーツァルト名義で出したのはサリエリの指示か?
――フリースはなぜモーツァルトの死の翌日に自殺したのか?
――彼の妻がシレーネに、フランス軍がウィーンを占領したら楽譜を出版するよう指示した理由は?
――その子守唄の中に、まるで故意に入れられたかのような不審な箇所があるのはなぜか?

等々……疑問を挙げていくとキリがありません。
いかにもミステリ好みのパーツばかりですが、『楽譜の暗号』だけは探偵達の推理を楽しむだけにした方が無難です。
ドイツ語辞典をお持ちで、かなり音楽に詳しい方でない限り、自力で解くのはまず無理だと思います。

調査の進行とともに、物語はどんどんサスペンス色が強くなっていきます。
そして最後に明かされる真相……やられました。まさか、××××××が××××××を××××××とは!(×ばかりですいません)
モーツァルトと言うと、映画『アマデウス』を思い浮かべる方も多いでしょうが、こっちの彼もいい味出してると思います。

かなり上質のミステリ漫画です。三重丸のオススメ。
漫才コンビのようなベートーヴェンとチェルニーの活躍をお楽しみ下さい。
余談ですが、まだ十二歳のシューベルトがゲスト出演したりもしてます。



――【つれづれナビ!】――
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甘さすっきり

2006-09-17 23:59:20 | 恋愛小説
さて、出版社がおなじなのは特に意図はないのよの第656回は、

タイトル:玉の輿同盟
著者:宇佐美游
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H17 単行本初版:H15)

であります。

イチキ商事に勤める吉町佳南子、堤明日香、谷崎真理は、それぞれ商事の秘書、経理、営業の仕事をしている33歳の会社員。
女子社員は27歳で給料頭打ちの会社で、ほとんどの女子写真は30前にして結婚ラッシュ。
すでに30を超えて残っているのは、古株を除けば佳南子、明日香、真理の3人だけ。

しかし結婚はしたくとも付き合う男はろくでもない男ばかり。
佳南子は美人で、いちばん女性らしさを持っているが、いつの間にかアパートに住み着いてしまった39歳独身の亭主関白然とした男と別れられない。
明日香はさばさばした感じの女性だが、年下の癇癪持ちの男に振り回されている。
真理は営業でも成績のいいキャリアウーマンだが、くどくどと愚痴っぽく泣いている男の頼られ女から脱却できず。

そんな3人は、こんなことではいけない。
いまからでも遅くはないと玉の輿同盟を結成。
明日香のつてを辿って医者や官僚、東大出身の男などなど、それぞれ新しい男との結婚を夢見つつ、半お見合いを繰り返す。

だが、当然順風満帆と行くわけもなく、いろんな男に期待し、裏切られ、同盟を結成したはずの友達たちともケンカもし、仲直りし……。
3人の女性たちはそれぞれの人生に向かってステップアップしていく。

いやぁ、おもしろい話はストーリー解説の筆も進みやすいねぇ(笑)

単純に、おもしろかった。
一気に読んでしまったし~(笑)
女性らしさを武器に男たちだけでなく、同盟内部も引っかき回す佳南子やターゲットにされる明日香、頼られ女を最後まで演じつつもなりふり構わない一面を見せる真理。
タイプは違うながらも、どこかやはり根っこはおなじ女性らしい姿がきっちりと描かれている。
それがまた、笑ってはいかんなぁ、と思いつつもどうしても笑えてしまったり……(^^;

また、女性だけではなく、男性側の書きぶりも見事。
著者はモデルや銀座ホステス、商社OLなど、様々な職を転々としているが、そうした経験が活かされているのだろう。
佳南子が捨てきれない亭主関白然とした男や、今時の傷つくのが怖くてすぐに手を切ってしまう20代の男性像などを用い、そうした男に振り回されつつも、幸福をつかみ取ろうとする3人の女性たちには等身大の魅力が十二分に感じられる。

ストーリー的には、そうした3人の主人公を軸に、男性関係だけでなく、友情も描いたもので、展開としては定番。
とは言え、定番でなければちょいと泥沼で救いがない気がするので、これはこれで仕方がないか。
安心して読めるし、奇を衒いすぎてそれまでを台無しにするよりはいいやな。

ただ、難点は登場人物の書き分け。
まだ3人のうち、誰かが相手の男と一緒にいるなどの場合、相手からいまそこにいるのが誰なのかがわかるのだが、3人一緒になると、かなりわかりにくい。
いったい誰が喋っているのか、読み返さないといけないところは減点対象。

こうしたところが解消されていれば、文句なしに優なのだが……。
総評、良品。

辛うじて

2006-09-16 16:46:53 | 小説全般
さて、読みにくいぞ、ペンネームの第655回は、

タイトル:無花果日誌
著者:若合わかい春侑すう
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H17 単行本初版:H13)

であります。

お嬢さまたちが通うと言うカトリック系の女子校に通う岩岸桐子とうこは、しかしながら周囲に魚市場やそれに付随する冷凍冷蔵工場、乾物問屋などが見渡せる地域の青果店の看板娘。
こんな劣悪な環境にいてはいけない、とお嬢さま方の通うカトリック系の女子校に入学。

お嬢さま学校とは言っても、そこはやはりおなじ高校生が通う学校。
お上品ぶっていても嫌みなクラスメイトや先生、修道女の中での生活にあれこれと思いを巡らせつつも、大好きな我孫子かおるとの恋に悩んだり……。

そんな中、弟の匠が実は好きだった子が転校していったことを契機に行方不明になったり、大好きな郁とのロストバージンが不発に終わったり、ある出来事をきっかけに同級生が自殺したり。

そんな様々な出来事を通じて、大人でもなく子供でもない、賢いけれど愚かでもある、そんな高校2年生……17歳の桐子の飾りのない心の動きと言ったものが描かれている。

総評としては……ん~、辛うじて及第かなぁ。

まずいまいちなのは、一人称だから描写に制限がかかってしまう、と言うところもあるが、桐子を除くキャラが薄い。
彼氏役の郁や両親、弟の匠でさえもストーリー上のただのパーツにしか見えない。
まぁ、様々な出来事に対する桐子の心理描写や、ときに軽快なユーモアのある語り口調など、見るべきところは、ある。

とは言っても、なんかいまいち作品に入っていけなかった、と言う根本的な問題もあったりはするんだけどね。
まぁ、ぶっちゃけて言えば、17歳の女子高生の心理なんぞわからん、ってだけだったりするのかもしれないが(爆)

やっぱり、これは女性向きの小説なんだろうね。
同年代の女性や、そうではない年齢でも自分の17歳のときを思い起こして、どういう感想を抱くのか、聞いてみたい気はしないでもないかな。

濃厚とんこつ(嘘)

2006-09-15 18:17:12 | ファンタジー(現世界)
さて、もともとよりはの第654回は、

タイトル:末枯れの花守り
著者:菅浩江
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H14 スニーカーブックス初版:H9)

であります。

5話からなる短編連作のいちおうファンタジー。
舞台は現代で、基本は滅びの帝、日照間に仕える青葉時実、その部下である曽我十郎祐成、五郎時致の名を借りるふたりが属する花守りと、逆に永遠を誘い言葉に、花に執着した人間たちの「花心」を狙う永世、常世の姫君姉妹との対立を軸に、様々な人間模様を描いた作品。

では各話ごとに。

「第一話 朝顔」
ひとり暮らしの慰みに植えた朝顔が咲いたその日に出会った島田今日子は、それからというもの、朝顔にかけてその男性を思っていた。
そうした朝顔に向ける思いを姫君方に狙われた女性の物語。

最初の話で、これしかないがラストの一文がいい。

「第二話 曼珠沙華」
田圃の畦に群生する曼珠沙華の花に紛れる子供の姿をした子狐。
その子狐は、自分を見つけてくれたみねこちゃんという女の子を、曼珠沙華の群生の影で待っていた。

人でないものを見ることが出来る少女と子狐の切なさのある物語だが、定番。
ネタとしては見るべきところはさしてない。

「第三話 寒牡丹」
超高校級の演技力を誇り、有名な劇団も注目する岩崎万里美。
容姿、才能などに恵まれた万里美に宿る牡丹の性……他の花を犠牲にしてまでも大輪の花を咲かせるその性が故に姫君姉妹に翻弄される姿を描いている。

これは牡丹という花の種類と人物、物語をうまく融合させた良品。

「第四話 山百合」
自らの容姿と、百合依と言う名前のギャップに失望し、おとなしい従順な性格を育ててきた女性の物語。
前三話と異なり、すでに姫君方に山百合にされた女性の内面を傘状に花開く百合にうまく関連させている。
ラストにどこかほっとする優しいお話。

「第五話 老松」
毎週水曜日に近くの松のご神木へとデートへ出かけるフサおばあさんと、孝行者の孫、和歌子。
時実が持つ黒造太刀くろつくりのたちを預かったフサを姫君姉妹が狙う話。

第五話ではどちらかというとフサ、和歌子のふたりではなく、日照間と時実主従のほうが主眼。
まぁ、短編連作で、この話で完結しているので、致し方ないところ。

とは言っても、この主従ふたりよりもフサばあさんの飄々とした剛胆さが際立っていて、主従ふたりしてフサばあさんに押されまくり(笑)

さて、総じて、雰囲気がよい作品、と言える。
解説は夢枕獏で、そこで書いているが、妖しさや艶やかさと言ったものが濃密に感じられる逸品と言えよう。

時実たち花守り側は、十郎五郎兄弟の名のとおり、歌舞伎風の服に身を包み、日照間は平安時代の様子。
時実は学生服だが、いわゆる学ラン。
永世、常世の姫君姉妹は江戸時代の大奥と言った衣装。
舞台は現代ながらもやや古めいた、異界の存在を感じさせる時代の空気を感じさせる。

文章も、それに見合った言い回しで、こうした妖艶さやどこか現実離れした世界を十二分に感じさせるものにしている。
ただ、そのぶん、やや凝った言い回しなどがあるため、読みにくさにつながる部分があるが。

もともとはスニーカー系で出てはいるが、スニーカーのカラーではないね。
角川文庫という文庫にふさわしい作品であろう。

ただ、衣装などに歌舞伎のものや江戸時代のものなど、ある程度の知識がないと、少しきついかもしれない。
逆に言えば、そうした知識があればより楽しめるものであろう。

しかし、前に「歌の翼に ~ピアノ教室は謎だらけ」でも、もともとのSFは昔読んで大しておもしろいとは思わなかったけど、なんかこの著者の作品は、SF以外だったらけっこう合うのかもしれない。
総評、良品。

往年の名ゲームでいざっ

2006-09-14 22:41:24 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、リセットボタンを押す回数はきっと誰もが最高だと思うの第653回は、

タイトル:ウィザードリィ(第1巻:邂逅編、第2巻:死闘編、第3巻:黎明編)
著者:石垣環
出版社:JICC出版 宝島COMIC

であります。

鈴:やっぱり初代がいちばんだよなぁと思うLINNで~す。

扇:正確には、ファミコン版初代だなとツッコムSENでーす。

鈴:当然!(笑)
初代以外にウィズは用はないっ!
まぁ、要は他のをやってないだけだが(爆)

扇:外伝はやったぞ。
ベニ松さんが作ってるだけあって、いい出来だった。

鈴:ほぅ。
いちおう、プレステで出たヤツのひとつくらいはやったことはあるがな。
それでもやっぱり、初代だよなぁ、って気はするけどな。

扇:まぁね。
もっとも、『ささえのたて』だけは手に入れずに終わったがな。(笑)

鈴:いちおう、全部手には入れた憶えはあるなぁ。
いちばん最後まで残ったのは、……やっぱ「ささえのたて」だったなぁ。

扇:よく発見したな……をい。
特殊効果一切なし、防御力も『まもりのたて』以下、おまけに通過フロアでしか出現しない(だったか?)ので、最後まで拝めずに終わった。
つーか、『村正』と『聖なる鎧』と『手裏剣』の三セット揃えたとこでやめた記憶があるぞ。後は、グレーター増殖ぐらいしかやることないしな。

鈴:うむ、確か、10Fでいろいろやるのも飽きて、トラップばかりで意味はないが、探索したことがないからうろついてたときに見つけたと思う。
でもまぁ、確かに、「ささえのたて」は別として、レアアイテム見つけて、ワードナ倒すと、途端やる気はなくすわなぁ。

扇:ま、仕方ねーわな。
レアアイテム見つける頃には、ラスボスのワードナ瞬殺できるぐらい強くなってるから……後はキャラクター作り直して、レベル1から最強装備でもう一回遊ぶぐらいしかない。

鈴:それ、中古で買ったときでも出来る話だな(笑)
実際、中古で買って、久しぶりにやったときなんか、レベル1の戦士とか侍が「カシナートの剣」持ってたりしたしなぁ(笑)
売ったひとさまさまだったな。

扇:そこらへん、持ち主の性格が出るよな。
人によっては、ソフトリセットするし……って、ファミコン版はできたっけか?

鈴:確か、出来るぞ。
要は、キャラ全部削除すればいいだけだし。

扇:ボルタックに在庫が残っちゃうぞ。
お金のデータは消えるけどさ。

鈴:なに、持ったまま、削除しちまえばよい話のはずだ。
たいていは、消すのがめんどいのか、そのまんま残ってるから、アイテム、金ともどももらってほくほくになるのが中古だが(笑)

扇:自分で集める楽しみはないが、クリアが楽なのは確かだ。
つーか、バックアップ電池ってよく保つよなぁ……。

鈴:電池はかなり……と言うか、意外に保ってたなぁ。
中古で買ったときでも、だいぶ経ってたけど、しっかりデータ残ってたしなぁ。
あの電池って、そんなに保たないって噂は聞いたことあるんだけどな。

扇:そういや、電池交換したゲームってないな。
子供達の間では、ゲームやってる間に充電してるって噂が、まことしやかに流れてたぞ。

鈴:いや、それ、マジだと思ってたよ。
でないとあの電池の保ちようは説明できんだろ、とか思ってたぞ。

扇:確かにな、ドラクエ3とかもまだ保ってるし。
ウィズはキャラ沢山作ってナンボのゲームだったから、別売りでターボファイルなんてのもあったな。

鈴:懐かしいのぅ、ターボファイル。
いろいろと使い道があったような憶えはあるが、持ってはいなかったのぅ……。

扇:私がウィズやる頃には、ターボファイルなんて過去の遺物になってた。(爆)
持ってたら持ってたで、キャラ108人作って梁山泊ごっこやったかも。

鈴:うわっ、育てるんめんどくさそ~(笑)

扇:天の星三十六人はまだしも、地の星七十二人とかは放置状態だろね。
んで、一キャラ一アイテムで個性を出すと。ワードナ先生どころか、フラックにも勝てないかも知れん……。

鈴:いや、ワードナ先生より、フラック先輩のほうが強いんだけど……(笑)

扇:特殊効果全部喰らわしてくる上にブレス吐くしな。
ティルトウェイトかましてくる分、先生の方が安全かもしれん。
まー、ヴァンパイアロード様の鬼ドレインが一番怖いっちゃ怖いんだが

鈴:なに、ロード様はなんと言ってもジルワンが唯一100%効く、稀有な相手だからな(笑)
……それにしても、なんか久々に紹介するマンガと関係がある話に終始してるなぁ。

扇:確かに……デカ文字も炸裂してないし。
いつもの流れだと、ここで時代劇の話をするんだがなぁ。

鈴:なに、時代劇はこのシリーズがそのまんまだ(笑)
と言うわけで、ストーリー紹介であります。

育ての親であるコンラッドが死に、狂王トレボーの城塞都市へ赴くこととなったリョウは、道中、エルフのリリスと出会う。
出会いから、城塞都市へ赴き、熟練の冒険者であるサコン、シルヴィア、モルグと出会い、冒険を重ねるうちに、最終的な敵であるはずのワードナ、そしてトレボーの秘密を知ったリョウは、かつては属性(善と悪)の違いなどから反目しあっていたパーティの生き残りのカルラたちとともに、ワードナへと戦いを挑み、そしてほんとうの敵を知る。

まぁ、ストーリー紹介は、いつものつれづれらしく書いてみるとこんなもんかなぁ。

扇:最近真面目だね、リンリン。
んじゃ、CM入れますか。


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扇:いや~、死んだわ。(↑CM参照)
過去記事漁って、リンク張って、二冊以上読んでる作家に関してはサブページ作って……。

鈴:相変わらず、まめやなぁ。
私には死んだって無理な所業や(爆)
さて、ストーリー紹介は終わったのでキャラ紹介。
では、主人公のリョウ。初手から腹減ったと言う理由でいろいろとやらかしたりするも、血筋、育ての親など、いかにも少年漫画の主人公的な強さを持つ。
ワードナの迷宮で腕を磨き、ロードに転職してから最終戦に挑むこととなる。
これまた少年マンガらしく、強さは折り紙付きながらも、その他はけっこううとい、と言う特徴を持つ。

扇:では、長髪美形の侍、カルラ。
いわゆる少年漫画的ライバルキャラで、訓練所でリョウに負けたことをずっと根に持っており、ロキ率いる悪のパーティに参加して腕をみがく。
表面上は仏頂面のヒネた男だが、中身はリョウに負けず劣らず単純で、クールキャラのエリスにあしらわれる場面もあった。
善と悪、それぞれのパーティが壊滅状態に陥った際、リョウをパーティに誘い、ようやく成長したか……と思わせてくれたが、高慢な性格だけはそのままだった。ある意味可愛い人物ではある。(笑)

鈴:次に、初っぱなから登場し、リョウに助けられる(?)エルフの僧侶のリリス。
とにかくきゃんきゃんうるさいキャラだったが、長じるに連れ、若くして僧侶のすべての呪文を修得、ビショップに転職後、やはり短い期間で魔法使いの呪文を多く修得すると言う天才肌だが、エルフらしく生命力ヴァイタリティにに乏しく、メインキャラの中では唯一、消滅ロストしてしまう。
ストーリー上はあまり語られないが、リョウと恋仲であるが、ロストによってうやむや。
姉、エリスとともに精神を共有することになり、重要な助言者となる。

扇:では、その双子の姉エリス。
カルラと同じ悪のパーティに所属する魔術師。
妹のエリスとは正反対にクールな性格で、キツイ発言でオヤジ二人組と対等に渡り合う。無論、カルラごときが舌戦で勝てる相手ではない。(笑)
いかんせん、物語的にはサブである悪のパーティ所属だったため、序盤はいまいち印象が薄かったが、リリスとの再会でキャラ属性が開花。師匠から使用を禁じられていたハマンを使い、若年層全員を救う大活躍を果たす。
リリス死亡後は妹の精神も吸収し、二つの心の間で葛藤していたが、最後は自分は自分と割り切って生きることを決めた。ある意味最強キャラかも知れない。

鈴:つか、最強というか、成長過程で最も精神的に成長したのがこの子だよなぁ。
では、次に影が薄いながらも最終的にはヒロインの座を手に入れたミリア。
当初は、未熟なリリスの代役としてカント寺院で死亡していたのを復活してもらい、加わった熟練の僧侶。
死ぬ前に、恋人をロストさせてしまうと言う過去を背負い、その影をリョウに見出すだけのサブキャラのはずだったが、最終的にはリョウとくっつくことになる。
いわゆる目立たないけど、頑張っていれば報われる、と言うのを地でいくひと(笑)

扇:つーか、シルビアと同い年にしか見えなかったしな……ミリア。
では最後に、某超人気モンスターが人間のフリして登場したアルカード様。(つーか、名前でバレバレ)
リョウとカルラが異色のコンビを組んだ後にパーティに加わったビショップ。裏事情に精通しており、呪文担当と言うよりは、情報役としての活躍が目立った。
ワードナに共鳴し、世界の支配を目論む悪魔族に対して色々と手を打つが……ほぼ無駄に終わり、スパイ役に使っていた一族の娘達も敵の手に落ちる。悲惨。
最後はこの世界での自分の役割を理解して、いずこともなく消えた。格好いいんだけど、出番が遅すぎた人。(笑)

鈴:まー、しょうがあんめい。
でも、要所要所で活躍はしてるぞ、アルカード。
それにしても、ジャンル的には少年マンガに属するマンガではあるけど、ヒロインがあれなのはけっこう珍しいよな。

扇:この作者、某御大の影響をモロに喰らってるからなぁ。(笑)
まぁ、調子に乗ってエリスまで殺さなかったのはよしとしよう。

鈴:そうねぇ、エリスとかミリアとか殺してたら、腐りまくってたわなぁ。
まぁでも、そういう意味ではリリスのみできっちりとストーリーを作ってくれたから、いいんだろうけどね。

扇:普通の少年漫画だと、リョウとリリスとミリアで三角関係だわな。
リリスの記憶を受け継いだエリスとの絡みもあるか……と思わせたが、上手いこと処理したと思う。
後は、絵かねぇ。とにかく初期はデッサンが荒かったんだが、後半は割と落ち着いたな。主人公達の年齢も上がったんでちょうど良かった。

鈴:絵はなぁ。
特に斜めからの絵はかなり終わってた気はせんでもないが、まー、話そのものがウィズ好きには楽しめる作品になってたと思うのでよしとしよう。
それにしても、初版で88年だから、ふっるいよなぁ、これ。

扇:絵を気にせんお前にそこまで言われるとは。
モロに80年代アニメの影響喰らってるあたり、納得だな。これはどうかと思うぞってところも多々ある。
ただまぁ、そういうとこを割り切って、ワンパックのウィズ漫画として楽しむ分には悪くない話やろね。ちゃんとアイテムとか職業は原作を踏襲してるし。
では、このままの勢いで次回は外伝を紹介しちゃったりします。また来週~。

鈴:そうそう。
Wiz初代を知っていれば、それをちょろっと拡張した設定とかではあるが、楽しめる作品ではある。
ただ、ものそのものが手に入りにくいほうなのが難点だがねぇ。
まぁでも、少年マンガ、と言うジャンルとは弱冠方向性は違うものの、楽しめる作品ではあるので、特にWiz好きにはオススメ。
と言うわけで、今回の木曜劇場、通称木劇はこの辺で、さよ~なら~

久々にクロスレビュー

2006-09-13 23:50:46 | ホラー
さて、意図せずして拾ってきた第652回は、

タイトル:水無月の墓
著者:小池真理子
出版社:新潮社 新潮文庫

であります。

小池真理子のホラー短編集です。
表題作を含む8編を収録。
買った後で相棒が読んでいたことを思い出しました。(このパターン多いな)

『足』……頻繁に訪れるべきではないと思いつつも、『私』は今週もまた妹夫婦の家へと向かっていた。不倫関係にある浜田が不在の時の寂しさを紛らせてくれるのは妹の家庭だけだったのだ。ふと、今は亡き叔母・筆子のことを思い出す。彼女もまた、『私』の家によく出入りしていた――。
現在と過去が交錯し、今の『私』と筆子おばさんが少しずつ重なっていく展開は見事。ほとんど完璧に重なったところで、ぶれていたピントを合わせるように、さっと終わらせているのもいい。

『ぼんやり』……喧噪を嫌うナオは、小さな一軒家を借りてぼんやりと生きていた。尋ねてくるのは、学生時代の友人・康代とその娘・こずえ、そして大学生の和春だけ。しかし、康代は来る度に夫の愚痴を撒き散らして、静かな時間にひびを入れる――。
どこか昔を懐かしむような語り口調が印象的。康代の傍若無人さが目立つが、影の薄い和春にもラストで面白い役回りを与えているのは上手い。真相が判明してもぼんやりしたままの主人公の姿が、奇妙な余韻を残す。

『神かくし』……母の七回忌、『私』は以前から折り合いの悪かった父方の叔母に嫌味を言われた。それだけならまだいいが、話は『私』の縁談、そして後妻だった母の中傷にまで及び――。
感情を抑えて笑うことで人との衝突を避けてきた主人公と、彼女の周囲で起こる謎の神隠し事件を描く、非常にホラーらしい話。素直な筋の話だが、ラストの雰囲気作りが素晴らしく、主人公の悲壮感がひしひしと伝わってくる。一押し。

『夜顔』……生来病弱で孤独だった『私』は、ある日出会った三人家族と触れ合うことで安らぎを得た。が、交通事故で重傷を負った弟の回復を祈る内に、再び心身に異常をきたしてしまう。そんな時、夢の中に彼らが現れて――。
寂しがりや達の饗宴。いわゆる『終わりなき連鎖物』で、ホラーはバッドエンドじゃないと駄目! という定義を用いるなら、本書中最もホラーらしい作品。でも、この人の書く話ってあんまり怖くなかったり。

『流山寺』……『私』は今でも十二時には帰宅するようにしている。夫が帰ってくるかも知れないからだ。彼はもう生者ではないが、自分が死んだことに気付いていない――。
妻が夫に対する想いを語る前半はいいが、ぼやかしたような後半部分はイマイチ。今まで(前の四編)のこともあって、ちょっと裏読みしてしまったが、あまり深く考えなくても良かったようだ。(爆)

『深雪』……大学生の保夫は、十日間で十万円という破格の短期アルバイトを引き受けた。別荘地内を巡回し、電話番をするだけの楽な仕事。だが、よりによって最終日に大雪が降り、彼は管理事務所で朝を待つハメになってしまう――。
ストレートな幽霊物。深夜の電話、豪雪を越えて来る訪問者、といったお約束の小道具を使い、色々期待させてくれるが、特に大きな仕掛けはなかった。ただ、サブで登場する狐がいい味出している。

『私の居る場所』……子供の頃、『私』は奇妙な世界を訪れたことがある。ある筈の家がなく、人の姿も見えない静寂の地。あの時は帰ることができたが、今度は――。
ちょっとしたヒネリを加えた異界訪問譚。一度目の転移は単なる異常現象のように描かれているが、二度目の転移の際、それが主人公の心理に起因していることが判明する。ラスト一行がかなり秀逸。

『水無月の墓』……ある雨の日、偶然にも『私』は阿久津と出会った場所を訪れていた。かつて不倫関係にあり、事故で失った男。二十数年が過ぎ、彼との関わりは綺麗さっぱり消えてしまった。だがその晩、彼の助手であった梶原から電話があり――。
以前読んだ、『康平の背中』(『七つの怖い扉』収録)に似ているな……と思ってたら、尻切れトンボなとこまで同じだった。結局何なの? と言いたくなるこのテの作品はあまり好みでない。

スプラッタではなくサイコ系のホラーでした。
じわじわと読者を追い詰めていくことより、丁寧に主人公の心理を追っていく方に重点を置いているため、ラストで不条理さを感じることが少ないのは結構好み。
ま、その分、筋が読みやすかったり、全然怖くなかったりするんですが、雰囲気作りが上手いのでさほど気になりません。ホラーというジャンルにこだわらなければかなり楽しめるのではないかと。

これは絶対読んどけ! と言うほど突き抜けた当たりはありませんが、読める作品の多い短編集です。オススメ。
ちなみに、LINN君の記事はオチまで喋っちゃってるので、未読の方はご注意下さい。(手遅れ?)


☆クロスレビュー!☆
この記事はSENが書いたものです。
LINNの書いた同書のレビューはこちら

華表家の人々

2006-09-12 23:27:56 | マンガ(少年漫画)
さて、ちょっと毛色の違う作品を……な第651回は、

タイトル:DEAD SPACE(1~2巻:以下続刊?)
著者:SUEZEN
出版社:幻冬舎 バーズコミックス

であります。

アニメーターとしても有名なSUEZENの異色作。
載ってた雑誌が『コミックバーズ』だったためか、知ってる人がかなり少ないのが残念。(爆)
しかぁし! 本作は、マイナーのまま埋もれさせておくには惜しいぐらいの怪作です。

見てはいけない隙間(タイトルもここから来ている)を覗いてしまった人々が遭遇する事件をオムニバス形式で描いていく作品。
こう書くと超常現象ホラーのような感じがしますが、実際は殆どの事件が『人為的』に引き起こされたものだったりします。
主人公は特定されておらず、各編の時代もバラバラですが、一貫して大学生・柳樽紅絹とその血筋の女性を出すことで、一つの血族の数奇な運命を描く物語として全体をまとめているのが特徴。

時間が前後し、キャラクターもコロコロ入れ替わるので、雑誌で読んだ方はさぞや混乱したのではないかと思いますが、こういう構成って好きです。
話が進むにつれて登場人物の裏の接点が判明したり、意外な過去が明らかになったりするので、少なくとも全部のネタが割れるまでは楽しめるのがいい。
本作でも、素性不明の人物の正体が、別の話の中でさりげなーく明かされてたりしました。

それはそうと本作、可愛い絵柄に反してかなりインモラルな漫画です。
軽い会話の中に凄い内容が混じってたり、年齢差問わず男女絡みまくってたり、屍姦、近親相姦、挙げ句の果てには集団――あ~、やばいんでこれ以上は割愛。
ただ、無意味にエロチシズムを炸裂させているわけではなく、殆どの場合、時代や風土を表現するためや、事件の根幹に関わるキャラ間の愛憎を描くために使われており、違和感はありません……好き嫌いは別として。
(特に、民俗学ミステリーである『座敷童の章』はこのテのカラミがないと話自体が成立しない)

ダークな描写も結構あります。
中でも、メッタ刺しにされた女郎絡みの話はえぐいの一言。
勝手に所有物扱いされた上に惨殺され、おまけに死後はホルマリン漬け――って、をい。

人を選ぶ作品だとは思いますが、エログロ苦手じゃない人にはオススメです。
最強のキャラ『紅絹の祖母』の格好良さは並みではありません。(←それが理由かっ!)

問題はこれ、未完です。
続きが出る可能性は皆無……幻冬舎のホームページからも削除されてるし。(泣)

さぁ、どこまで創作でしょう?

2006-09-11 23:54:51 | 時代劇・歴史物
さて、さりげにキリ番ゲットな第650回は、

タイトル:五台山清涼寺
著者:陳舜臣
出版社:集英社 集英社文庫

であります。

ミステリ作家にして中国歴史小説の大御所、陳舜臣の短編集。
拾い読みではなく、まともに一冊読むのはこれが初めてだったり。(爆)
例によって、一つずつ感想を書いていきます。

『日鋳の鏡』……時は三国時代、舞台は呉の国。鏡作りで知られる日鋳嶺の工匠達は、孫権の命で武器作りを強制されていた。本来の仕事に戻りたいが、戦は当分終わりそうにない。そんなある日、脱走した若者の一人が帰郷し、東方にある倭の国に行けば鏡が作れると持ちかける――。
三国時代、倭の国、鏡と来ればあのネタか? と思っていたら、見事にラストで出てきました。ただ、呉の国の工匠が『景初』を使うのは不自然なので、例の論争を巻き起こした奴とは違うよね?(マイナーなネタですいません)

『天魔舞の鐘』……時は元朝末期。王室需要の物資製造を担う厳安福は、部下の工匠であり幼馴染みでもある羅忠に時計製作を頼んだ。羅忠はこまごました仕事を嫌い、何万斤という大鐘を作ってみたい、ともらす。友のため、厳安福は一計を案じるが――。
元の支配に対する、漢人工匠のささやか(?)な抵抗を描いた物語。厳安福と羅忠の微妙な友情も上手く描けている。

『紙は舞う』……時は北宋末期。名だたる書家の文字に似せた形に紙を切り、客に披露する芸で知られる兪敬之は牢に入れられた。皇帝の寝所に潜り込み、切り抜き文字で脅しをかけた罪であった。兪敬之は身に覚えのないことと釈明するが――。
水滸伝の時代を扱っているが、国の興亡は飽くまで枝葉で、兪敬之の芸に対する想いを描くことに重点を置いている。サブで登場する、娘や助手との会話もいい。

『舌声一代』……時は明代末期。子供同士の戦争ごっこでいつも悪玉をやらされていた曹逢春は、全員を物語に合わせて動かす『語り役』をやりたいと強く願っていた。彼はある講釈師の弟子となるが――。
激動の時代を生き延び、その道の第一人者として名をはせた講釈師の物語。『紙は舞う』よりさらに深く、主人公の芸に対する想いが描かれている。ライバル(?)の名妓・王月生の使い方も面白い。

『五台山清涼寺』……時は清代初頭。南下する清軍と迎え撃つ明の残党に挟まれた豪族・冒襄は、軍隊によって愛妾・董小宛を奪われてしまう。董小宛以外の女性を否定する冒襄は、執拗に彼女を探し求めるが――。
史実を上手く利用したミステリ。最後の真相はちょっと裏技っぽいが、登場人物の設定を考えると納得はいく。イチオシ。

『花咲く月琴』……太平天国の重鎮・楊秀清が、天京内部に潜むスパイを探す話。作者自身が聞いた物語、という体裁なためか、小説と言うよりは中国史解説といった感じ。

『虎たちの宝』……これも形式的には『花咲く月琴』と同じ。第二次大戦終了後、香港に潜伏していたアーサー・ウィルソンの謎を追う話。こちらもイマイチ。

以上、最後の二編以外はかなり楽しめました。
軍人でも王族でもない人々の視点、というのがかなり好み。
ただ、主人公達の話と並行して、結構長い歴史解説が入っているので、中国史に興味がない人にはちと辛いかも。