つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

何も考えてはいけない(笑)

2007-12-23 13:26:43 | 小説全般
さて、なんかみょ~なのを手にしたなの第931回は、

タイトル:ショート・トリップ
著者:森絵都
出版社:理論社(初版:'00)

であります。

私的に2005年7月以来の森さんの作品。
つーか2年以上も前かよ。
けっこう評価がよかった割には、そっから読んでなかったなぁ、と最近になって気付いたもので……(^_^;

さておき、本書はタイトルにもあるように、ショート、つまりショートショートを集めた短編集。
「毎日中学生新聞」と言うもので1年間連載されていた52編のうち、40編を加筆などをして収録している。

ストーリー紹介は……40編もあるとさすがに全部出来ないし、そもそも1編の平均ページ数が3ページ、なんてヤツなので、いつもとは違った体裁で書いていきます。

まず、読み終わったときの初手の印象は、あれこれ考えずに読むべき短編集、ってところかな。
これもタイトルにあるとおり、各作品のベースとなっているのはトリップ=旅。
3ページという短い中に、様々な「旅」の物語が描かれている。

これから旅をしようとする者や旅の途中の者、旅の終わりに差し掛かった者、故郷へ帰ってきた者、物語の中で旅をさせようとする者、罰として旅をさせられている者などなど。
いろんなシチュエーションでの旅が描かれている。

……のだが、キャラや地名とかのネーミングがすんごい安直だったり、旅の目的が「それでいいのか!?」ってツッコミ確実なくらいくだんなかったりと、かな~りの頻度で、「あまりのバカバカしさに笑ってしまう」状態(笑)
たとえば、「時間旅行」という作品。

『西暦2800年、人類はついにタイムマシンを手に入れ、時間旅行をすることが出来るようになった。
全世界が注目する中、初の時間旅行は、タイムマシンを発明した人物が住む村にある「お河童様像」の頭に、昔は孔雀石が乗っていたことを確認しに行くことだった!』
……初めてでそれかい!(笑)

たぶん、誰もがツッコミ入れるでしょう(笑)
まぁ、突っ込もうと思えば、村の名前が花葉波村かぱぱむらだったりするとことか、時間旅行をするのが花葉スケ氏と花葉カクだったりすることとか、西暦2800年なのに、このふたりの会話はすべて語尾に「ござる」がつくこととか、いくらでもあるんだけど。
そんなあからさまにバカバカしい作品がけっこう入っていて、思わず吹き出してしまうこと請け合い。

もちろん、そういうのが40編もあるわけでもなく、中には不思議な雰囲気の謎めいた物語があったり、ちょっとしんみりさせられるような物語があったり、皮肉の効いた物語もあったり、ちょっとネタ的にいいのか? ってくらいダークなのがあったりと、さすがに数が多いだけあって、多彩。

皮肉の効いた物語だと、最初にそういうのが出てきた、と言うことで8編目の「大きなダディ、小さなフランツェ」が好みかな。

『小さなフランツェは宿題のために、わがままなモグラと親切なロバと凶暴なペルシャ猫が相談をして旅に出る、と言う話を作ろうとしていた。
そこへダディが現れ、人間も動物もそんな一面で判断は出来ない、とフランツェを優しく諭した。
仕方なく、フランツェはダディの言うとおりに書き直し……。』

これは最後のフランツェの一言がぴりりと効いていて秀逸。

哀愁と子供らしい素直な残酷さが見えるのが34編目の「帰郷」

『ナデルは朝から絶好調だった。苦手だったりイヤなことだって、我慢してこなしていた。
それは8年前にふらりと旅に出ると書き置きを残して出て行ってしまった父さんが帰ってくる日だったからだ。
放課後、魅惑的な上級生の遊びの誘いも断り、家に帰って父さんに出会ったナデルは、待ちに待った一言を父さんに告げた。
「おみやげは?」』

まぁ、ここまで書いておいてオチがわからないひとはいないと思うので、書くけど、もちろん、おみやげなんかあるわけがない。
父さんのあからさまな態度に、ナデルくんは誘われた遊び「ひよこを追いかける」ほうにあっさり方針転換。
……父さん、撃沈(笑)
きっと、背中を見せて走り去っていく父さんの姿は哀愁に満ちていることだろう。

……とまぁ、いろんな物語があって、作品によっては、いろいろと名称とかを深読みしようとすれば、いろんな裏が想像できたりするんだろうなぁ、とは思うけど、でもこの笑えるショートショートにあれこれ理由をつけるのはちょっと野暮じゃないかな。
単純に短い旅の物語の中にある笑いや皮肉、哀惜みたいなものをさっと読んで感じる、ってのがこの本の読み方ではないかと思う。

そう言う意味では、感性型の人間にはけっこう合う短編集だろうね。
個人的にはオススメできる短編集だとは思うけど、感性型限定のオススメ、なので総評としては及第ってとこで。