つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

容赦ねぇなぁ、このひと

2006-11-04 14:10:51 | 恋愛小説
さて、他のにかまけて返却日間近だったのよ第704回は、

タイトル:柘榴熱
著者:宇佐美游
出版社:実業之日本社(初版:H17)

であります。

約50回ほど前に読んだ「玉の輿同盟」がなかなかよかったので、お初に手を出すよりは安心かなと言うことでチョイス。

野瀬光希は、優しくそれなりに資産のある家の息子である悠一と結婚し、主婦業を務めていたが、悠一のジャカルタ派遣について行き、帰ってきてから、主婦業だけの生活に嫌気が差して小さな出版社の契約社員となる。
しかし、セクハラが当たり前の会社ですでに30を超えた光希は、ことあるごとに嫌みを言われ続ける日々だった。

そんな光希に、思いがけず会社でアルバイトをしていた年下の市村が思いを寄せてくる。
年齢から、もうこんなことはないと思い、付き合いを始めてしまう。
履歴書に未婚と書いた嘘、悠一への嘘、市村への嘘を重ねて続ける不倫。
それを話せるのは友人の伊都子、多香実のタイプの違うふたりだけ。

だが、甘い蜜月はそう長くは続かない。会社の同僚たちと同じように次第に言葉で光希に攻撃する市村。それでも離れられない光希は、いつバレるのかと言う不安や、逃れられない思い、悠一への裏切りなどから次第に……。

前は女性4人組の赤裸々な人間関係を描いたものだったが、今回は野瀬光希と言うひとりの女性に焦点を当てている。

ストーリーは、女は、男に負けるもの……そんなふうに言い聞かされ、育てられた光希が持つ、負けて当然という根底の意識と自立願望が、会社での出来事や市村との不倫などに形を変えて光希を翻弄する姿がじっくりと語られている。
「玉の輿同盟」では人間関係を軸に各キャラの赤裸々な姿が描かれていたが、これも光希中心ではあるが、やはりひとりの女性の姿が直接的に描かれており、興味深い。

文章は光希ひとりを中心にしているぶん、前みたいに誰が何を喋ってるのかわからない、なんてことはない。
だが、逆にひとりだけというのは中盤以降、変化に乏しい分、冗長に感じることが往々にしてある。
雰囲気も、光希の根底にある相反する意識と不倫生活の嘘と不安など、重いほうなので、冗長さに拍車をかけている。
全体的には概ねおもしろく読めたが、冗長な部分が続くところはやはりマイナス。
……つか、「ええいっ、とっとと腹ぁくくらんかいっ!」と、ちょっとばかしイラっと来るところがあったり……(笑)

総評としては及第だが、楽しさと言う点では「玉の輿同盟」のほうが上。
悪いとは言わないが、良品とまでは言えないか。

記事のためならえ~んやこ~ら♪

2006-10-22 13:50:20 | 恋愛小説
さて、どんな作品でも最後まで読むぞの第691回は、

タイトル:ラスト・ワルツ
著者:盛田隆二
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H17 単行本初版:H5 新潮社刊)

であります。

18歳で上京してきた青年の「ぼく」は、12年後のいまはある情報誌の編集の仕事をし、妻と2歳になる娘がいる男だった。
あるとき、新宿のバーで、花菜子さんに再会した。

12年前、上京したときに3週間ほど一緒に暮らしたことがある花菜子さんは、上京したばかりのときに出会ったメグが所属するアングラ劇団のメンバーとして出会った。
3歳の息子がいる花菜子さんと暮らすようになったとき、花菜子さんは犬の首輪をつけて帰ってきた。
それはある男と他人のままつながっている証だった。

それをきっかけに、様々な事情から同居生活を解消した「ぼく」は、12年ぶりに再会した花菜子さんと、いまの家庭生活の中とで揺れ動く。

あー、おもしろくない小説の作品紹介ほどどーでもいーことはないなぁ、マジで。

構成は、1985年と1973年のふたつの時間の「ぼく」が主体となっており、最初の1985年はプロローグのようなもの。
花菜子さんとの再会が描かれ、次に1973年の「ぼく」が上京したとき、そしてまた12年後に再会してからの物語が描かれている。

まずはひとつ。
これはまぁ、男が書いた男のための恋愛小説、と言えるだろう。
しかも何となくもしかして……と思っていたら、「ぼく」は著者がモデルの小説だと堂々とあとがきで書いてあった……。

私小説かよ……最悪……

まぁ、私小説嫌いにはこの時点で評価はがた落ちだが、読みにくさもまた評価を下げる。
著者の初期作品で、あとがきでも自分の文章の稚拙さに愕然としたとあるが、ほんとうに、下手だ。

何はともあれ、とにかく「間」が悪い。
場面転換などでの「間」や、行間の「間」など、想像力がそのシーンを描き、流れていく、そんな流暢さはほとんどない。
特に前半部分はそれが顕著で、キャラの行動、言動すべてにおいて激しくコマ落ちするアニメでも見ているようなもの。

そのせいで作品の世界には入っていけないし、読み進めるのには苦労するしでいいとこなし。

ストーリーも、世界に入っていけないとなかなか同調することは出来ないし、だらだらと進むだけでメリハリもない。
読みにくいだけで、物語そのものがおもしろければまだいいのだが、私小説であることを差し引いても、まったくおもしろいと思える余地はなかった。

もっとも、これは他の作品を含めて「恋愛小説三部作」と言うことになっていると言うことで、別の作品を読んでいれば、また違った評価になるかもしれない。
ストーリー面においてのみ、だが。
総評、落第。

○つけといて

2006-10-14 15:12:03 | 恋愛小説
さて、2冊目を読んでいなかったの第683回は、

タイトル:バイバイ
著者:鷺沢萠
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H12 単行本初版:H9)

であります。

峰沢勝利は、恋人の朱実が激昂して泣いている姿をただ見ていた。
それが小さな暴力に変わり、頽れる朱実に、しかし勝利は怒りもせずに宥め、説明を始めようとする。

この後、場面は過去に戻り、プロローグの描写の原因へとつながる。

峰沢勝利。
東北出身で、貧乏がイヤだという理由で東京に出て小さな工場を営んでいた両親のもとに生まれたが、小さいころに離婚。
朝から晩まで働かなければ食べていけない生活に、やむなく実家に戻された勝利が親戚の家を転々とする中で築いたものは、いかに嫌われないように生きていくか、と言うことだった。

嫌われることは、生活の保障をなくすことを意味していたため、それが本能に近しいところまでになった勝利に、さらに祖父が忠告をする。
決して人を信じてはいけない、と。
それは狂気の沙汰だと理解した勝利だが、見に染みついた「嫌われないこと」の様々な経験は、中古車販売の営業に十二分に役に立っていた。

最初の会社から引き抜かれ、外車の中古車販売会社に再就職した勝利は、そこで車を買いに来た朱実と出会い、付き合うようになる。

しかし、嫌われない=嫌われるのが怖い勝利は、前の会社の同僚の圭子や、中古会社販売の社長とともに行った銀座で出会った薫と、朱実と付き合うようになってからも関係が続いていた。

そんな中、風邪を引いた勝利を見舞った圭子と、そのことを知った朱実が鉢合わせたことで、プロローグの場面に至る。

ここまで半分。
このあとは、朱実が圭子に逢い、真相を知って別れを切り出す部分、間遠になっていた薫に呼び出され、いろいろと話す場面、そして狂気の沙汰だと感じていた「信じる」と言うことを圭子が告げ、それから勝利が圭子と僅かな一歩を踏み出す瞬間までを描いている。

……ストーリー紹介長ぇなぁ……。
いかに規定文字数をクリアするために……っと、なに言ってんだ、オレは(笑)

さておき、なんか、久々に「ふぅ~ん……」で終わる、何にも感じない話だったなぁ。
と言うか、ストーリー紹介がそれなりに長いし、オチまで言ってしまっているので、いろんな作品を読んでいるひとはぴんと来るかもしれないが、あまりにもありふれて、使い古されたテーマとストーリー、展開であるために、解説の方がいくら何を言っていようと、「ふぅ~ん……」でおしまい。

印象的なシーンや言葉はないし、作品の雰囲気にも乏しい。
前のはなかなかよかったのになぁ……と残念。

と言うわけで、総評、落第。
まぁ、まだ最初がよかったので、これだけでもう読まない、なんてことはないけどね。

甘さすっきり

2006-09-17 23:59:20 | 恋愛小説
さて、出版社がおなじなのは特に意図はないのよの第656回は、

タイトル:玉の輿同盟
著者:宇佐美游
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H17 単行本初版:H15)

であります。

イチキ商事に勤める吉町佳南子、堤明日香、谷崎真理は、それぞれ商事の秘書、経理、営業の仕事をしている33歳の会社員。
女子社員は27歳で給料頭打ちの会社で、ほとんどの女子写真は30前にして結婚ラッシュ。
すでに30を超えて残っているのは、古株を除けば佳南子、明日香、真理の3人だけ。

しかし結婚はしたくとも付き合う男はろくでもない男ばかり。
佳南子は美人で、いちばん女性らしさを持っているが、いつの間にかアパートに住み着いてしまった39歳独身の亭主関白然とした男と別れられない。
明日香はさばさばした感じの女性だが、年下の癇癪持ちの男に振り回されている。
真理は営業でも成績のいいキャリアウーマンだが、くどくどと愚痴っぽく泣いている男の頼られ女から脱却できず。

そんな3人は、こんなことではいけない。
いまからでも遅くはないと玉の輿同盟を結成。
明日香のつてを辿って医者や官僚、東大出身の男などなど、それぞれ新しい男との結婚を夢見つつ、半お見合いを繰り返す。

だが、当然順風満帆と行くわけもなく、いろんな男に期待し、裏切られ、同盟を結成したはずの友達たちともケンカもし、仲直りし……。
3人の女性たちはそれぞれの人生に向かってステップアップしていく。

いやぁ、おもしろい話はストーリー解説の筆も進みやすいねぇ(笑)

単純に、おもしろかった。
一気に読んでしまったし~(笑)
女性らしさを武器に男たちだけでなく、同盟内部も引っかき回す佳南子やターゲットにされる明日香、頼られ女を最後まで演じつつもなりふり構わない一面を見せる真理。
タイプは違うながらも、どこかやはり根っこはおなじ女性らしい姿がきっちりと描かれている。
それがまた、笑ってはいかんなぁ、と思いつつもどうしても笑えてしまったり……(^^;

また、女性だけではなく、男性側の書きぶりも見事。
著者はモデルや銀座ホステス、商社OLなど、様々な職を転々としているが、そうした経験が活かされているのだろう。
佳南子が捨てきれない亭主関白然とした男や、今時の傷つくのが怖くてすぐに手を切ってしまう20代の男性像などを用い、そうした男に振り回されつつも、幸福をつかみ取ろうとする3人の女性たちには等身大の魅力が十二分に感じられる。

ストーリー的には、そうした3人の主人公を軸に、男性関係だけでなく、友情も描いたもので、展開としては定番。
とは言え、定番でなければちょいと泥沼で救いがない気がするので、これはこれで仕方がないか。
安心して読めるし、奇を衒いすぎてそれまでを台無しにするよりはいいやな。

ただ、難点は登場人物の書き分け。
まだ3人のうち、誰かが相手の男と一緒にいるなどの場合、相手からいまそこにいるのが誰なのかがわかるのだが、3人一緒になると、かなりわかりにくい。
いったい誰が喋っているのか、読み返さないといけないところは減点対象。

こうしたところが解消されていれば、文句なしに優なのだが……。
総評、良品。

カテゴリ順が……

2006-09-02 15:29:12 | 恋愛小説
さて、まずいことになってきたなの第641回は、

タイトル:失恋
著者:鷺沢萠
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:H16 単行本:H12)

であります。

長編読もうと思いつつもまだまだ短編集だったり(爆)
4編の短編が収録されたもので、4編なので各編ごとに。

「欲望」
学生時代からのバイトから映画評論家の肩書きを得るようになった悠介は、その学生時代からの「友人」である黎子を助手席に乗せて走っていた。
30代半ばになっても何くれと頼りにしてくれる黎子だったが、学生時代に仲のよかった水島という男と結婚し、別れていた。

その水島と言う男は、バブル期の黄金時代に証券会社で働くサラリーマンだったが、黎子との短い結婚生活のときから薬物をやっていたりとかなり危ないことをしていた。
そして、その水島が失踪する。

水島と言う男が繰り広げるバブルという時代に翻弄された人生を中心に、悠介と黎子の「友人」関係を精緻に描いた逸品。
こうした男性と女性の微妙な友情を描いたものは、それなりにありふれたものかもしれないが、悠介の視点から描かれた本作は、男性から見ても十二分にぐっと引きつけてくれるだけの魅力がある。
タイトルにあり、また作中に登場する「欲望」という単語を巡る悠介の思いなども、個人的にはかなりすとんと落ちてくれるものがあり、私の感性にはとても合っている。

また、ラストの悠介が一抹の淋しさをもって笑うシーンなど、余韻も素晴らしい。
ただ、タイトルどおり、失恋をテーマにした短編のひとつだが、失恋と言う単語から受けるイメージとはやや異なる印象。

「安い涙」
クリスマスが近い冬の日、得意客との待ち合わせの場所へ急ぐ幸代は、その景色や浮かれた雰囲気など、気持ちがささくれ立ってしまい、電車で行くほうが早く、待たせないとわかっていながら、得意客にそんな不機嫌な顔を見せるわけにはいかないと考え、タクシーを選ぶ。

だが、そのタクシーでも東京に不慣れな運転手に苛々しながら、年下の恋人である中瀬との出来事を思い起こす。

両親の死をきっかけに東京に出て、ただひたすらに働いてきた幸代が抱くものや、中瀬との関係の中で知るその心にある事実などがうまく描かれている。
特筆すべきはラストかな。
道に不慣れな運転手との最後のやりとりから、すっと上を向いて歩き出す幸代の姿がとても印象的な良品。

「記憶」
帰宅してすぐに聞いた留守電のメッセージに、樹子はすぐさま踵を返し、車に乗り込んでメッセージを残した相手、政人のアパートへ車を走らせる。
付き合っている、とも言えず、他におなじような女を何人も作っているのがわかっている相手だと言うことに落ち込みそうになる自分を何とかしながら。

他に女がいたりとろくでもないはずの男と、ずるずると関係を続ける大学院生の樹子を主人公に、僅かながらでもその関係に区切りをつけるまでを描いた作品。
樹子の持つこれまでの背景から来る心の動きなどがしっかりと描かれており、政人の機械オンチという設定もうまく使っている。
良品。

「遅刻」
女性ふたり連れで訪れたある店で、信吾は勢津子に出会い、それから勢津子と信吾は毎週のように逢っていた。
少なからずお互いに好意を持っているはずだったが、あるとき、時間にうるさい勢津子がそわそわと腕時計を確認しているのを見る。

この短編集中、最も短い物語だが、キャオルイラという酒の名前をうまく使った小品。
ラストの台詞から信吾の、バーテンとしての笑顔の裏の思いを想像すると楽しい(笑)

……なんか、たった4編なのに長いなぁ……(笑)
タイトルにあるように失恋をテーマにしたもので、数ある恋愛小説の中では、さして目新しいものではないだろう。

とは言うものの、雰囲気、余韻などもよく、読み進めるのにまったくつっかえることがない流れ、文章とも相俟って、どの作品も良品と言えるだけのものがある。
まぁ、かなり感性的な部分で合うところがあったのは確かなのだが。

なので個人的にはとにかくオススメ。
さて、次も漁ってこよって……って、小説全般のカテゴリの数が増えてきたな。
その前にファンタジーとか読まんとあかん……(笑)

耽美と書いてホラーと読む

2006-08-26 15:46:47 | 恋愛小説
さて、カバーの紹介文書いたの誰だよの第634回は、

タイトル:夢ごころ
著者:連城三紀彦
出版社:角川書店 角川文庫

であります。

えー、またもや例の如く短編集であります。
第一話から第十二話とする12の短編が収録されている。

「第一話 忘れ草」
ふらりと出て行ってしまい、8年ぶりに戻ってきた夫に対して妻が手紙をしたためると言う体裁で語られる物語。
8年間の中で出て行った夫が京都で別の女と暮らしていることなどを描きつつ、戻ってきた夫との決着を描いている。
ラストのほうで語られる妻の思いや事実など、ぞっとさせられるものがあり、淡々とした中にも強い情念を感じさせる良品。

「第二話 陰火」
新婚旅行に向かう列車の中で新郎の康之の思い出と、それに引きずられる康之の姿を描いている。
ラグビー部のただの先輩だった安原との関係と、結婚という形で裏切った康之に対する安原の情念を、はっきりとは書いていないが十二分に感じさせる話であろう。

「第三話 露ばかりの」
年下の葉二と言う男と付き合っている妙子が、葉二に別の若い女が出来たことを察し、ある方法で去っていく葉二に自分と言うものを刻みつけていく話。
聞き分けのいい妙子と、ラストに至ってその思惑が具現化した際の静かだが重すぎる妙子の情念がけっこう怖い。
だが、そのぶん、作品の雰囲気は十二分にあり、良品のひとつ。

「第四話 春は花の下に」
教師への贈り物を相談するために集まった32人の小学生が学校の納屋の火災で全員焼死した事件の唯一の生き残りである千鶴子が、幸福な家庭の中でそこへ引き寄せられていく姿を描いた話。
無邪気な子供の残酷さや、火災の事実から毎年春になるとその場所へ足を運んでしまう千鶴子の複雑な思いがしっかりと描かれている。
ラストを読んで、なおもその後の想像がついて、そっちも怖かったりして(笑)
これは個人的にかなりの逸品。

「第五話 ゆめの裏に」
生死の境を彷徨う姉とその夫の愛するが故に歪んでしまった愛情を妹の久美子の視点で描いた話。

「第六話 鬼」
ある画家が別れた妻とのつながりに執着するあまり、嬰児誘拐まで犯してしまう話で、それを画商の視点から描いたもの。

「第七話 熱き嘘」
不倫の相手である女性からの手紙を中心に、兄夫婦のもとで暮らす井川慎一と不倫相手の女性、そして義姉の持つ義弟へとではない愛情を描いたもの。
脇役だったはずの義姉の姿に気付いたラストの描写がおもしろい。
いまいちな中でもまだマシな話かな。

「第八話 黒く赤く」
行きずりに出会った女と夢のような関係を持った男の、その女と出会ったがために破滅していく姿を描いたもの。

「第九話 紅の舌」
これも第八話と似たような話だが、こちらのほうが巧妙。
ある小さな工場の従業員である男のもとへ、同僚の妻から夫がろくでもない女に引っかかっていると言う相談を受けたことが始まりで、そこから同僚、妻と姿が二転三転し、ラストに事実があかされる。
二転三転するがラストはすっきりと落ちている。

「第十話 化鳥」
福祉施設で暮らす老女が、ひとりの少女の事故死をきっかけに自らの周囲で起きた様々な死を手紙の体裁を取って語る話。

「第十一話 性」
妻のある男を奪い、結婚した文江と文筆家の竣三が、前の妻である秋子の影に苛まれる話で、愛憎と狂気をうまく描いている。
良品のひとつ。

「第十二話 その終焉に」
ある男が少年時代に年の離れた姉の家がある地域での、ある男との短い出会いを描いたもの。
この短編集の中ではもの悲しさや切なさを感じさせる綺麗な作品。

ん~、初めて読んだひとで、しかも男性作家だからどうかと思ったが、いくつかを除いて良品と言える作品があり、雰囲気も十二分に出ているし、総じてラストの余韻もしっかりと感じられる。
情念を描くものが多いが、しっかりとそれも描かれていて、読み応えはある。

このところ、落第ばかりが目立っていてどうよと思っていたのだが、久々に、しかも男性作家でいい作品に出会ったかな。
ただ、これを女性が読んだときにどう見るかなぁ、とは思うけど。

やっぱダメだわ

2006-08-20 17:22:17 | 恋愛小説
さて、この文庫はあんまり手を出さないほうがいいなの第628回は、

タイトル:グッバイ・チョコレート・ヘヴン
著者:荒木スミシ
出版社:幻冬舎 幻冬舎文庫

であります。

国民的なアイドル、イオナの妹のヒロミはアメリカン・スクールに通う13歳の少女だった。
イオナはいつからかブラウン管から姿を消し、雑誌の取材などはデジタル合成されたものが使われていると新聞やネットで語られていた。

そんなイオナのファンである少年が、そうした出来事をきっかけにヒロミを誘拐する。
誘拐したヒロミのビデオと声明文を送った少年ヒューイ。
ヒロミをデューイと呼ぶ少年の声明文は、イオナの知名度などと絡んで現実社会のみならず、ネット社会でも様々な論議を巻き起こす。

無責任に煽る者、犯罪行為を糾弾する者、その声明に共感する者などなど。
しかし現実ではヒューイとデューイに警察の手が伸び、誘拐劇はいつの間にかネット社会での共感者を巻き込んだ逃避行へと変わっていく。

出版は平成13年だが、現代らしい小説、と言えるだろうねぇ。
ネットでのチャットやBBSなどの使い方、そこに書き込まれる内容などは特にそうだろう。
また、キャラも主人公のヒロミや、声明文で自分の思いを語るヒューイという少年が持つ心の動き、思いなども、おそらくはとても現代的な若者にとっては、かなり共感できる部分があるのではないかと思う。
現実に立ち向かうと言うのが概ね一般的だが、この物語では逃げることを主眼にしているのもいままであまり読んだことがない話だし、現代らしさを感じさせる。
まぁ、ラストはそれなりにきっちりとヒロミで締めてくれてはいるが。

しかし……、やっぱもう年かねぇ(爆)
らしさもわかるし、チャットやBBSの形式をそのまま持ってくる文章形態なども、まぁ個人的には気に入らないが、こうした物語を作る上では有効であろうから目をつぶろう。
でも好きな作品かと言われれば、否。
文章的なところや、様々な場面などが入り乱れ、統一感に欠ける展開など、かなりアラが目立つ部分があるのもマイナス点。

とは言え、10代20代くらいのひとにはオススメかも。
また、逆に現代的な部分と言う意味では、ある程度年齢が行ったひとでも、現代のひとつの側面を見ることが出来るフィクションとしてはいいかもね。

それにしても、なんか前も思ったけど、私にとって幻冬舎文庫は、はずれ比率高っ!(笑)

タイトルには合うけれど

2006-08-19 15:55:33 | 恋愛小説
さて、相変わらず解説はアテにならないの第627回は、

タイトル:アクアリウムの鯨
著者:谷村志穂
出版社:角川書店 角川文庫

であります。

ダニの天敵学を研究している助教授のもとで助手をしている辻伽代子は、いつものようにダニの飼育、観察を行い、それを助教授の仲本へ報告する毎日を送っていた。
そんな毎日を送っていたあるとき、仲本から「ネイチャー・ワールド」と言う雑誌の企画に同行することを頼まれる。

雑誌の編集者と会い、どうするかを決めようと打ち合わせに向かった伽代子は、丸山と言う女性編集者に出会い、結局同行することに決める。
取材場所は瀬戸内海に浮かぶ無人島。
1週間の生態調査を目的としたその旅で出会った動植物、昆虫、魚類、そしてダイバーとして参加した高校生の拓也。

伽代子とおなじように仲本を愛する丸山や、拓也との関わりの中で、不器用で臆病な伽代子は次第に前に進んでいく。

あー、なんかストーリー紹介をするのでさえ、億劫……。
「自然を愛し、動物を、人間を愛するナイーヴでナチュラルな女性を描いた」とは裏表紙の紹介文だが、まぁ、確かに主人公の伽代子はそういう感じのキャラで、偽りはなかろう。
だが、繊細すぎるキャラはいくら心理描写などが十分だろうが、作品の中に没して個性が感じられない。

また、丸山や拓也という伽代子の周囲にいるメインキャラも、伽代子の引き立て役、もしくはストーリー上のパーツでしかなく、影の薄い伽代子に増して影が薄い。
まぁ、薄いキャラの後ろにいるんだから余計薄いのは当然だが。

ただ、作品そのものの雰囲気や描写などについては、タイトルにある「アクアリウム」という単語にふさわしい透明感を備えている。
特に、動物生態学を専攻していたと言うだけあって、無人島での生態調査のところの描写はとても充実しており、さりとて雰囲気を壊すようなことはないところはいい。

……と、いいところがないわけではないが、全体として透明感があるそれがすっきりとしたものではなく、重く単調な感がある。
長編としてはページ数は少ないからいいものの、このままでだらだらと長く続けられたら苦痛以外の何物でもないだろうねぇ。

総評、落第。

ファン限定?

2006-07-14 22:31:54 | 恋愛小説
さて、まともに聞いたことないんだよな、このひとの第591回は、

タイトル:純愛ラプソディ 竹内まりやを聴きながら
著者:真野朋子
出版社:幻冬舎文庫

であります。

たまにはこういうののレビューなんかもいいかなぁ、なんて思って読んでみた。
とは言え、やっぱり長編ではなく、短編集なんだけど。
と言うわけで、各話ごとに。

「ハッピーエンドはお好き?」(曲:純愛ラプソディ)
大手広告代理店の系列子会社で専務をしている岩尾と、その会社が企画したイベントで知り合い、不倫関係にある祥恵は付き合ってから1年半、自らの誕生日を区切りに、岩尾の態度いかんで身の処し方を決めようと決意する。
祥恵の決心とは別のポイントは会社の同僚である3人の友人。好き勝手に言いながらも祥恵への心遣いを見ることが出来る。

「彼の背中」(曲:駅)
ある日の喫茶店で恋人の圭介から、奈津は浮気相手が妊娠したことを聞かされ、別れたくない気持ちを抱えながらも結局別れてしまう。その後、アメリカ留学の際に知り合っていた男と婚約することになり……。

「インディアン・サマー」(曲:本気でオンリーユー(Let's Get Married))
化粧をしているときよりも、落としたときの何もない素の顔のほうが好きな綾香は、撮影の現場で知り合ったアシスタントの赤沼と話すうちに、花という共通の目標を持つ赤沼と意気投合し、次第に関係を深めていく。
あっさりとしたハッピーエンドの話で、短いがさらりと読めるのがよいか。

「さびしいキッチン」(曲:告白)
お見合いパーティで結婚した佳世は、ヘヴィ・メタルが唯一の趣味の夫との生活の中で物足りなさを感じていた。そんなとき以前付き合っていた男から電話があったり、夫の浮気が見え隠れしたりしながらも、都合のいい妻の役を演じ続ける。

「バブルバスの夢」(曲:明日の私)
東京に出て外国人アーティストのコンサートを企画・招聘する会社に勤める美希は、故郷の友人から見れば趣味を仕事にも出来、そうしたアーティストとも会える憧れの存在だが、その実はシャワーしかない格安のワンルームで暮らすアルバイトだった。
親友の加奈子とのやりとりの中で積み重なる嘘と、それが発覚するとき、無邪気に憧れていた加奈子の思いなど、こちらも「ハッピーエンドはお好き?」と同様、友情もの。

「美しき誤解」(曲:けんかをやめて)
共通の趣味から政彦と付き合うようになったあづみだったが、最近は政彦の友人でありひとつ年上の岳史に惹かれていた。友人の彼女として距離を保つ岳史に何とかして近付こうとし、それがかなったときにタイミング悪く、そこを政彦に見られ……。

「思い出には早すぎる」(曲:シングル・アゲイン)
夫の心変わりで離婚することとなった瞳子は、精力的に仕事を続ける中で、今度は夫とは逆の年下の男と付き合うことになる。しかし、結局その男も夫とおなじ家に収まるべきと言う気持ちを滲ませるようになり……。

「そして誰もいなくなった」(曲:今夜はHearty Party)
里奈の家には学生時代の友人であるさやか、景子、貴江、まゆみの4人が集まり、里奈のためのパーティが行われていた。しかし、仕事が忙しい者、結婚して子供がいる者など、泊まっていく予定だった者が次々とそれぞれの事情で帰っていく。

……やっぱり、おもしろい短編はなかなかないねぇ。
タイトルに「純愛」とあるように、総じてどろどろしたところは薄く、どれもあっさりとした話で、まぁたまにはこういうのもいいかな、とは思ったりするけど、でもそれだけかなぁ。
最初はいいけど、2作目、3作目あたりになると、読んでて退屈になってきたし。
見るべきところも大してないし、おもしろい? と聞かれれば、おもしろくない、としか言いようがない。

もっとも、竹内まりやの歌詞が冒頭にあり、その曲や歌詞をしっかりとわかって読めば、より楽しめるのかもしれないが、あいにくと知らない人間にとってはね……。
だからと言って、わざわざ探してまで聞こうとは思わないし。

う~む、やっぱりタイトルの竹内まりやの名前を見たときに、やめとくんだったかも……(笑)

関西風(?)

2006-07-07 20:10:43 | 恋愛小説
さて、うどんとかのダシはやっぱり透き通ってないとねの第584回は、

タイトル:夜離れ
著者:乃南アサ
出版社:幻冬舎文庫

であります。

何はともあれ、やっぱり初めて読むひとのはこれを選んでしまうのね。
6編の短編が収録された短編集で、例によって各編ごとに。

「4℃の恋」
意識不明ですでに死期を間近にした祖父が入院する病院に勤める看護師の晶世は、勘がいいとされる同僚の看護婦に、祖父はあと2日くらいだろうと告げられる。
だが、晶世はその死の訪れを忌々しく思っていた。傍若無人に家族をかき回してくれた祖父に対する愛情などない晶世と、母、弟。そして晶世は3日後に新たな恋人との婚約を確保すべく旅行に、憂いなく出立するために、母も、弟も似た理由で死んだ祖父の死を、いかにごまかすを考える。

「祝辞」
婚約し、結婚式を待つばかりの摩美の親友の朋子は、摩美の婚約者の敦行に引き合わされた後、突然失語症にかかってしまう。自慢の親友である朋子に、かいがいしく世話を焼く摩美と、声が出せないこと以外は変わらない朋子。
しかし、朋子の友人や敦行の友人たちと行った旅行で朋子は突然失語症が回復する。摩美などよりも自分を選べ、と敦行に迫ったときに。
そして結婚式の祝辞。そこで朋子はスピーチをする。

「青い夜の底で」
学生時代に友人に誘われていったアイドルのコンサートで私の生活は一変する。コンサート会場で、そしてそのあとの出入り口での出来事で、アイドルである彼が私のことを愛していることを確信する。
それからはただひたすらに彼のために帰りを待ち、疲れて寝てしまった彼に私がいることを示す手紙を書く。そんな日々が続くが、そのうち彼は翳りが見え始めた芸能界で返り咲くために様々な女性と浮き名を流していく。それでも、私はただひたすらに彼を愛しているのだが……。

「髪」
艶やかでまっすぐな髪が自慢の芙沙子は、とにかくその髪をいかに美しく見せることに腐心する女性だった。そんな芙沙子がおなじ会社の男性の小宮山を狙っていた。しかし天然パーマでおしゃれにまったく気を遣わなかった梢子の変貌で、芙沙子の目論見は脆くも崩れ去ってしまう。
ストレートパーマや化粧で自分よりも美しく装うことを知った梢子に芙沙子は嫉妬し、憎悪する。そしてそのときは会社の同僚たちと行ったスキー旅行で形となる。

「枕香」
我が儘を言い、ちょっとしたケンカとそのあとの仲直りの刺激から恋人の晋平とよく言い合いになる恭子は、晋平の家に泊まるときにはいつも彼の匂いのする枕を奪い取っていた。
しかし、いつの間にか仕事だと言って逢えない日が続くようになり、時間も関係ないと晋平のもとへ走った雨の夜に、こんな時間に危ないという理由で晋平に襲われそうになる意地悪をされる。しかし、そのときに恭子は晋平の手にある決意をする。

「夜離れ」
不景気で大学卒業を控えても就職口が見つからない比佐子は、就職までのつなぎとホステスのアルバイトを始めるが、これが性に合ったのか、平凡だが堅実な人生……結婚し、妻となり、子供を育てる生活を考えていたはずがそうではなくなっていた。
しかし決意し、ホステスをやめて就職し、そこで出会った三好と付き合い始め、ずっと考えていた堅実な人生に向かって進んでいると思っていたが……。

どちらかと言えば、オススメできる作品ではないだろうか。
裏表紙には「私だけの幸せに目が眩んだ女たちの嫉妬、軽蔑、焦燥、憎悪云々」とあり、確かに主人公の女性のそう言った面を細やかに描いている。
展開も、ラストはどういうオチをつけてくれるのだろうと期待させられるものがあり、読み進めたくなるところは魅力。
文章も描写は丁寧だし、難しいところはなく、読みやすい。

ただ、なんかこういうのを読み慣れてきたのか、なんかあっさりしたラストで物足りない。
サスペンスとあったので、もっとどろどろしたのを期待していたのだが、そう言う雰囲気に乏しかったのは残念。
恋愛中毒」くらい、とまでは言わないけれど、もっと、ぞっとさせてくれるような感じがあればよかったんだけどねぇ。
まぁ、短編だから仕方がないのかな。