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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

まぁ、いいのはいいんだけどね

2007-12-02 00:40:25 | ファンタジー(異世界)
さて、号外入れて週2が基本だと意気込みだけはあるんだけどの第925回は、

タイトル:煌夜祭
著者:多崎礼
出版社:中央公論新社 C★NOVELS(初版:H18)

であります。

今年の1月に相棒が読んでいて大絶賛しているもので、当時図書館になかったので読めなかったんだけど、ちょいと話題に出たので検索してみると……。
あるじゃん。
ってなわけで、借りてみました。

ストーリーは、

『ある廃墟にひとりの仮面を被った者が訪れた。そこにはすでにおなじように仮面を被った先客がいた。
十八諸島の世界を巡り、各地で話を集め、語り伝えていくことを生業とする語り部たる証拠の仮面をつけたふたりは、語り部が集まり、冬至の夜に語り明かす煌夜祭のために、ここに集っていた。
先客はトーテンコフと名乗り、もうひとりはナイティンゲイルと名乗った。

そして若い者からと言う習いに従い、ナイティンゲイルのほうから、ある貧しい語り部と魔物との物語を始めた。
語り終えたあと、いくつかの言葉を交わし、今度はトーテンコフが十八諸島のうち、ゼント島とヤジー島との関係の中で活躍した少女の物語を語った。

たったふたりだけの煌夜祭は、こうして始まり、次第にふたりの語る物語は十八諸島に渡る謎に迫っていく。』

ん~、毒舌に定評のある相棒が手放しで褒めるだけあって、物語の作りはいい。
体裁はいちおう短編連作か。
語り部が語る物語、と言う体裁で最初にふたりの出会いが入っているので、それを踏襲して、語り終わると同時に、ふたりの場面に戻る。

で、作りの部分だけど、最初にナイティンゲイルが語った話や、トーテンコフが語った話は、ほんとうにただ漂泊の語り部が稼ぐために語るような、そんな物語に見える。
見えるのだが、それぞれが語っていく物語と、ふたりの会話の中にこの作品の全容のために散りばめられた伏線が、ごくごく自然に配されている。
また、語られる物語の数が増えるに従って、当然情報量が多くなるわけで、そういうところがトーテンコフとナイティンゲイルのふたりの正体などの隠れた部分の想像を掻き立ててくれるし、あれがこういうところの伏線になっていたのか、とか、感心させられるところは多い。

文章面も及第で、いくつか気になるところはあったものの、読みやすい部類に入るだろう。
名前の付け方が独特で、これは取っつきにくいところがあるだろうが、慣れてくればどういうことではないので、さしてマイナスになることではないだろう。

語り部が語る部分の短編も伏線云々というだけでなく、ありふれたネタもあるものの、そう作品全体のキーとなる魔物と人間の話など、きちんと読ませてくれる作品となっていて、出来が悪いと言うわけではない。
各短編も、そして全編通して高いレベルでまとまっている作品であると言えよう。

うまい、というのはわかるが、著者あとがきに「こんな地味な作品に素敵な絵を~」とあるとおり、地味。
まぁ、地味なのは別にかまわない。
地味だろうが何だろうがおもしろい話はあるもの。

それでも手放しでおもしろい! とは私は言えない。
感性派の私にとって重要な要素が作品の雰囲気に浸れるかどうかなのだが、これはかなりそうした雰囲気に乏しく、ほとんど作品に入っていけなかった。

作品はいいし、話もおもしろいほうだとは思うし、作り方はうまいが、私の場合、浸れないのはマイナス。
まぁ、逆に浸れれば少々構成がいまいちだろうがおもしろく読めてしまうんだから、これは完全に個人の趣味の問題ではあるんだけどね。

と言うわけで、趣味の問題を除けば相棒の言うとおり、いい作品だとは思うので、総評としては良品。
個人的には崖っぷちの良品だけど(笑)


☆クロスレビュー!☆
この記事はLINNが書いたものです。
SENの書いた同書のレビューはこちら

いままででいちばん……

2007-11-11 16:38:41 | ファンタジー(異世界)
さて、やっと読んだなぁって前も使った気がするの第919回は、

タイトル:狼と香辛料5
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'07)

であります。

……そういえば、ラノベが続いてるんだ。
とは言え、相変わらず買ってから読み始めるのが遅いし、せっかく読んだので記事にはせんと。

では、早速ストーリーをば。

『ホロの故郷を探し、そこへ向かう旅を続ける行商人のロレンスと賢狼ホロは、テレオの村を出立し、ホロの伝承が残ると言う町レノスを訪れた。
材木と毛皮で有名なレノスでは、市壁の外に商人が群がり、テントを張って日々を過ごしている、と言う普段とは違う光景が目に出来た。

そんな普段とは異なる光景に、商人として金儲けの匂いを感じて、何があったのか好奇心を抑えられないでいた。
原因は、教会が例年の北の大遠征を行わないことを発端とする、毛皮の取引に関することだった。

そこへ、宿泊した宿屋で出会ったエーブという商人から商談を持ちかけられる。
成功すればかなりの利益。さらに、念願の町商人となるために必須の建物まで手に入る、と言うものだった。
その条件に、ホロを質草に出すと言う条件があったものの、情報収集の結果とホロの協力からその商談に乗ることとになる。

そんな商売に勤しむ中、ホロはいつもの調子でロレンスを手玉に取って楽しんでいたが、この商談を機にひとつの提案をした。』

えー……、最初の印象はまず、いままで読んだ5冊の中で、いちばんおもしろくない、と言うこと。
なーんかね、微妙に……と言うより、ロレンスとホロの関係と、このシリーズの特徴でもある商売の話とがきちんと重なってない、って感じが強いんだよね。

もちろん、ストーリー上、絡み合っていない、と言うわけではない。
でも、ロレンスとホロの関係を描く比率がやや多めで、商売部分のロジックがそうしたふたりの関係を描く部分でうまく消化されずに、脇に残ったままで進んでいった、と言う感じ。
4巻では、ふたりの関係と商売の話がきちんとハマってて、登場するキャラとの調和もうまい具合に取れててよかったのにねぇ。

あと、そのふたりの関係の部分も4巻でけっこう大団円(大はつかないかもしれないけど)で終わって、5巻でいきなりこれかい、ってとこもある。
ネタとしてはちらほら見える話ではあるので、ありだと思うし、そういうふたりの関係……ロレンスやホロの心の動きと言うところではしっかりと書いているから、理解できないわけではない。
……ないが、そういう伏線を入れた話とかを、1クッション置いてから語られたほうがストーリーの流れがより自然になったのではないかと思う。
まぁ、これは私が書いたら流れが悪くなりそうだから、そうする、と言う感じだけど。
(読んでないひとには意味不明だけど、ここは核心の話なのではっきりとは書けないのよ~(笑))

ストーリーはこんな感じかなぁ。
文章は……以前から気にしていた部分の改善点なし。
と言うか、今回は悪化してる。
無意味に回りくどいのはいつものことだけど、表現の変なところがちらほらあるから余計に流れは悪いし、読みにくい。

なんか、1巻からこっち、だんだんよくなってきて、4巻はかなりいい出来だと思ったのに今回は悪いところばっかりが目につく。
なので、いままでは△、△、○、○とよさげな評価で来たけれど、今回の総評は、落第。
次……に期待しようかね。

それにしても、いいところがないと記事の内容が薄いな、私……(爆)



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長かった~、……図書館の予約待ちが(笑)

2007-11-04 00:16:50 | ファンタジー(異世界)
さて、読んでたんだけど1巻ごとには書けなかったのよねの第917回は、

タイトル:空ノ鐘の響く惑星で5~12(完結)
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'04~'06)

であります。

1~3までを個別記事で、4をおしゃべりでネタにした人気シリーズ、通称「空鐘」です。
5巻からこっち、図書館の予約を入れながら5ヶ月。
ようやく全巻読破したので記事に出来る~(笑)

と言うわけで、4巻で次兄、レージクとの王位を巡る内乱を収めることが出来たフェリオ。
その次に待っているのは……と言うことで、5巻からのストーリーは、

『レージクとの戦いに勝利し、すぐ上の兄であるブラドーが王位を継承。歴史的に何度も戦火を交えてきたタートムの不穏な動きに備えていたフェリオのもとへ、今度は長年良好な関係を築いてきたフォルナム神殿が、その宗主であるジラーハから派遣されたカシナート・クーガたちによって占拠されてしまう。
神殿内部の問題に太刀打ちできないアルセイフに、ついにタートムが進撃を開始してくる。

神殿開放にタートムとの戦争、実はタートムとジラーハの密約によって成されたふたつの難題……その対応に苦慮するフェリオたちに、今度はフォルナム神殿の異変の報が届く。
得体の知れない兵がフォルナム神殿の御柱ピラーから現れ、さらに輝石セレナイトの生産が止まってしまった。

驚くべき事態の裏には西の大国ラトロアの影があった。「大地の輝石」のためにフォルナム神殿とアルセイフを攻略しようとしていたジラーハ側は、タートムとの密約を破棄、ラトロアと対抗するため、アルセイフと手を組むことになった。
激戦の末、タートムを退け、フォルナム神殿の開放も一応成ったが、その際、リセリナを追ってきたイリスたち来訪者ビジターによって、ジラーハとの交渉などに尽力してくれた幼馴染みのウルクの記憶を奪われてしまう。

失望と後悔を憶えながらラトロアへの対策のため、ジラーハを訪れようとしたフェリオたちの前に、ついにラトロアの者が姿を現す。
来訪者たちとおなじリングを使うラトロアの暗殺者たち。ラトロアとはいったいどういう国なのか。
ジラーハで行われた神姫との会談、ジラーハの御柱から現れた不気味な兵……対ラトロアをどうするべきか、ジラーハを中心とした対策を思案する中、そのラトロアから思いがけない使者が訪れた。

民主主義を採るラトロアの中にも、ジラーハとの戦争を望まない非戦派の者たちがおり、その者が、交流もなく、実情がほとんどわからないジラーハのことを議員たちに知らしめるために、ラトロアへジラーハの使者を要請するためだった。
記憶を取り戻したウルクは、そのことを聞いてラトロアへ行くことを決意する。
フェリオもウルクを守るために、使者の一員としてラトロア行きを決意。

一議員が独断で行ったこの訪問はいったい事態をどう動かすのか。
政治と、御柱を制御し、不気味な兵を送り込み、輝石の生産を止めた「死の神霊アービタ・スピリット」とを巡るフェリオたちの戦いは、ラトロアとジラーハだけではない世界を巻き込む事態へと発展していく。』

……概ね、こんな感じだった……と思う……(爆)
すいません、やっぱり5ヶ月も経つとだいぶ記憶が怪しかったり……。
つーか、8冊のストーリーをこれだけにしようってのが間違いだよな、ゼッタイ。
ともあれ、大きくは、
・フォルナム神殿とジラーハの対立
・タートム(裏にジラーハ)との戦争
・ラトロアでの「死の神霊」を巡る戦い
がストーリーの柱でしょう。

こうした大きな物語の流れの中で、フェリオと巡るヒロインふたり、ウルクとリセリナの関係や、来訪者たちの分裂、アルセイフ国王ブラドーの成長などなど、様々な人間模様が描かれている。

で、評価と言うか、感想というか。
人気シリーズで、Amazonの評価も高いだけあって、しっかりとした物語だと思う。
政治や戦争などのマクロな話と、それぞれの役割に応じたキャラの行動や心の動きなどのミクロな部分が両方ともきちんと描かれている。
文庫のレーベルはライトノベルだけど、ライトノベルの枠に入れるのがもったいないくらい、長編SFファンタジーとしてはかなり高いレベルの作品と言えるでしょう。

まぁ、ミクロな部分の話、特に各キャラの色恋に関してはなんか取って付けたような感じだったり、予定調和であっさりとくっついたりと、けっこう扱いが安易。
フェリオ、ウルク、リセリナの三角関係をラストまで引っ張っているから、余計にそんな感じに見えるんだろうとは思うけど。

あと、ラストの盛り上がりが……やっぱりいまいち……(笑)
3巻くらいから政治向きの話が入り乱れて、戦争あり、暗躍ありと盛り上がっていたので、12巻の平坦さがちょっと残念。
それから、エピローグのあたりも、とりあえず全員の後日談をやっつけで書いてみた、って感じのところがあったり、やや冗長気味に感じるところがあったりするのもマイナス。

まぁ、これは最後の12巻だけの話ではあるので、全12巻として見た場合の評価に大きく影響するか、と言われれば、そういうわけじゃないんだけど。

キャラは最初のころ、フェリオのキャラがどうかと思ったことはあったけど、概ね全員キャラは立っている。
一部、イリスとか書き込みが足りないように思えるキャラもいないわけではないが、これだけたくさんのキャラを出して、ほとんどをきちんと描けているのだから、ひとり、ふたりくらい少々気になるのがいるのは仕方がない……かな。
つか、何人いるんだ、この話……主人公のフェリオ、ウルク、リセリナにウィスタル、ライナスティ、ディアメルは1巻から出張ってるし、神殿側はコウ司教、カシナート、神姫、来訪者はイリス、パンプキン、カトル、バニッシュ、シア、ムスカ、でラトロア側にハーミット……は仲間になるけど、敵としてはメビウス、シズヤ以下、暗殺者や議員あたりがメインキャラだから……20人くらいはいんのか……。

う~む、やはりイリスがいまいちなのは目をつぶろう。
12巻の長丁場とは言え、これだけよくもまぁキャラ出して立たせてるのはすごいとは思うし。

ただ、真面目人間が多いのでキャラ的におもしろみのあるのが少ないけど。
まぁだから独特の言い回しと妙な姿、さらには男気のある行動などが真面目人間たちの中で一際目立っているから、パンプキンは人気があるんだろうけど。
実際、私もこのキャラは好き。つーか、12巻に至ってはフェリオよりもパンプキンのほうがかっこいいのはどうかと思うぞ(笑)
あとはライナスティだろうなぁ。
飄々としたお調子者で相方の女騎士ディアメルに怒られてばっかりだけど、剣の腕は最強のパンプキンと渡り合えるほどだし、そのくせ、錠前外しが出来てヴァイオリンまで弾き、絵心もあるという得体の知れなさが個性的でよろし。

……なんか、書いてて褒めてんのか、けなしてんのか、わかんなくなってきた……(爆)
と、ともあれ、ライトノベルらしからぬ重厚な物語で12巻分、決して損をさせない作品と言えるでしょう。
文章も相変わらず、過不足なく読みやすいしね。

と言うわけで、全12巻、気になるところがないわけではないけれど、総評としては文句なし、良品。
長いからちょっと……なんて躊躇する必要はないでしょう。



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巨○兵と言ってはいけない

2007-04-29 20:00:37 | ファンタジー(異世界)
さて、他のレーベルはあんまり期待していないんだけどの第880回は、

タイトル:少女は巨人と踊る マテリアルナイト
著者:雨木シュウスケ
出版社:富士見書房 富士見ファンタジア文庫(初版:H15)

であります。

どうも、電撃文庫以外のラノベに手を出す確率が減っているこのごろ。
まぁ、それもやはりレーベルとして電撃文庫のレベルが高い、と言うことではあるし、実際、最近はそんなに×が出る電撃の作品は少ない。
逆に他のがねぇ……。

とは言え、たまには読まないといけないだろう、ってことで……でも3週間ぶりの富士見ファンタジアであります。
第15回ファンタジア小説大賞佳作受賞作の本書はいかに。

『レンドラント大統領の孫娘レアナ・バーミリオンは、自らの忠実な執事の目をかいくぐり、整えておいた旅装に身を包み、旅に出た。
それは、大統領である祖父に届いた一通の封書の内容を知ってしまったからだった。

符術を使う符道士の端くれながら、首都ウォレントの外に出たことなど数えるくらいしかなかったが、それでも自らの忌まわしい過去のために、封書から知った出来事を無視することは出来なかったのだ。

とは言え、あまり計画性のないまま飛び出してしまったレアナの旅の途中、世界に偏在し、丸々1世紀分の歴史が失われたレスフォール時代に建造されたと言う巨人石で起きた不思議な現象を目にする。
封書の事件の手がかりを求め、その場所へ向かったレアナは、そこでリィエンシーから逃げてきたというテリードという青年、シィナという少女に出会う。

レアナは、誰も手の届かない場所へ行く、と言うふたりに、無視できない事件の影を見、追いついてきた執事のイェンとともに同行することにする。
逃げるふたりを追ってくる敵、シィナが見せる能力……レスフォール時代に産み落とされた遺産を巡り、レアナは小さいながらも自らの力で過去と、そして目の前の現実に立ち向かう。』

最初の印象は、佳作と言いながらも全体的にアクションシーンやストーリー展開に勢いのある、なかなか出来のいいデビュー作だ、と言うこと。
ストーリーは、主人公のレアナがリィエンシーという国で起きた事件を知ったことから、それを何とかしようと旅に出て、それを執事であり、レスフォール時代に産み出された生体兵器ドラグ・ヘッドであるイェンとともに解決する、アクションファンタジー。
展開も、テリード、シィナと出会ったことでともに追われることになる序盤からアクションシーン中心に進むが、このアクションシーンのテンポがよく、読み手を飽きさせないだけの勢いがある。
また、レスフォール時代の遺産であるドラグ・ヘッド、マシン・ドライブと言った兵器のこともテンポを阻害しない程度に語られており、ストーリーの流れの中で説明がつくようになっている。

キャラも、大統領の孫娘という特権的な地位にいながらも、リィエンシーでの事件を見過ごせないレアナの動機や過去と言ったところもきちんと語られ、比較的納得がいくものになっている。
この作品のキーとなるシィナのキャラも、レアナとの関係の中で変わっていく姿が比較的うまく描かれており、ラストの説得力にもそれなりにうまくつなげている。

ストーリー、キャラともに総じて評価の高い出来になっている作品。
……とは言えるが、手放しで褒められるところばかりではない。

まず、説明不足があげられる。
特に序盤。もちろん、語れないネタというものはあるが、そういったところを考慮しても、説明不足は顕著。序盤の展開は、読者置いてけぼり。
中盤以降は、徐々にストーリーの核心に触れられてくるが、それでも説明不足と感じる部分は多々ある。
だから、キャラの心情や関係、心の変化などはあくまで「比較的」うまく描いている、と言う評価しか出来ない。

また、文章も説明不足に加えて、表現不足のところもあって、繋がりが悪いところがある。
全体的な勢いは十二分にあるからまだいいが、それでも僅かなりとも勢いを殺してしまう欠点ではある。

まぁそれでも、今後の続編をきちんと描けるだけの世界観を持ちながら、きちんと1冊でまとめているし、全体的なアクションファンタジーとしてのおもしろさは備わっている。
多少の欠点はあるものの、デビュー作でこれだけ書ければ十分だろう。
佳作、と言うのも納得できる作品と言える。
勢いのあるアクションファンタジーを読みたいひとには十分オススメ。

総評は……細かいところを言えば、いろいろある(レアナの動機をせっかく過去話できちんと説明しているのに「気質だから」って余計なのを入れんなよ、とか)のだけど、ラノベ点、デビュー作、続編での成長への期待を込めて、良品と言うことにしておこう。
個人的には、序盤の置いてけぼり感はかなりいただけないが、中盤以降はちゃんとおもしろく読めたしね。

なんちゃって産業革命

2007-04-28 23:59:59 | ファンタジー(異世界)
さて、表紙ではなくレーベル買いな第879回は、

タイトル:ユーフォリ・テクニカ 王立技術院物語
著者:定金伸治
出版社:中央公論新社 C★NOVELS(初版:H18)

であります。

お初の作家さんです。
同じレーベルの『煌夜祭』がかなりのメガヒットだったので、もう一冊C★NOVELS拾っとくかってことで買ってきました。
十九世紀イギリスに似た国を舞台にした、長編ファンタジーです。



その娘は、宮殿内を逃げ回っていた。
手には薄い封筒があり、「履歴書在中」とだけ書かれている。
最後の難関、玄関ホール前の衛兵二人を突破し、彼女は里敦の町に飛び出した……憧れの工学技術者になるために。

『水気』の研究者ネルは、助手のユウと共に叡理国の帝都、里敦に到着した。
水気研究の成果を認められて、王立技術院の客員講師として招聘されたのである。
東洋人故に、周囲からの風当たりが強いことは当然予測できたが、当代最高の施設で研究ができることを考えれば、断る理由はなかった。

当然と言えば当然ながら、ネルの研究室を希望する学生は0だった。
工学研究では数が物を言う。豊富な労働力がなければ、研究も一向に進まない。
時間が解決してくれるだろうと楽観的な意見を口にした時、ネルの前に一人の娘が現れ、技官として雇って欲しいとまくし立てた。

彼女の名はエルフェール……その正体は叡理国の王女――!



トラブルメーカーの王女様と、女性の扱いが苦手な講師のラブコメです。
エルフェールは登場前からネルにベタ惚れ、ネルはネルで一途に研究に打ち込むエルフェールに次第に惹かれていく、と展開は王道まっしぐら。
十九世紀イギリスをモチーフにした国が舞台だけに女性への差別は激しく、そういった偏見を持たないネルの元には自然と女性が寄ってきて、エルフェールのイライラはつのるばかり……。

ベタだ……とてつもなくベタだ。

まー、それだけではお話にならないので、主人公達が取り組む『水気研究』の部分もしっかり描かれています。
飽くまで架空の学問なので、読んでて首を傾げる部分もありますが、説明は結構しっかりしている方。
研究テーマが『花火』というのも、このメンバーの雰囲気に合っており、科学ファンタジーとして面白く読めました。

後はやはり、ヒロインのエルフェールでしょうか。
一般常識が欠落している猪突猛進娘、という形容がぴったり当てはまるキャラで、凄まじいボケと有り余る情熱で、最後まで話を引っ張ってくれます。
彼女を見る時のネルの視点が、まんま若いOLを教育する上司だったりするのが、作者の歳と趣味を感じさせて微妙に引きますが……まぁ、異世界でのオフィス・ラブ物と考えれば問題はないでしょう。(そうか?)

最初から最後まで、非常~に素直な作品です。ヒネリとか毒が苦手な人にはオススメ。
ちと奇跡を安売りし過ぎている嫌いはありますが、主人公達が研究の成果である花火を打ち上げるシーンは結構好きです。

ようやくこれから

2007-04-17 22:30:21 | ファンタジー(異世界)
さて、このあたりが起承転結の起が終わったところかなの第868回は、

タイトル:空ノ鐘の響く惑星で3
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H16)

であります。

ほぼ2週間ぶりに登場の本作の第3巻であります。
少し古い……と言っても3年前だけど、それでも図書館の蔵書検索で見てみると、たいてい借りられていないのでうれしいかぎり。
とりあえず、2巻まで読んで読める作品だと確認できたので、全巻読むつもりだから、こうしてさくさく借りられるのはいいね。

さて、ではこの3巻のストーリーは。

『国王、皇太子の突然の死によって政局は荒れていた。第二王子レージクの策謀に、危機を感じたフェリオと外務卿のラシアンは、ラシアンの領であるローム領へと逃げることとなってしまう。

だが、フェリオは逃げたと見せかけて王都に戻ってきていた。
王宮を掌握しつつあるレージクに対抗するために、捕らわれた政務卿ダスティア、そして敬愛するウィスタル・ベヘタシオンを助け出すために。

気心の知れた王宮騎士団の騎士ふたりとウルクとともに、小さな教会を拠点として王宮に忍び込む算段をするフェリオたち。
しかし、放蕩王子と悪名高かったレージクに、王都に戻っていることを知らせ、罠を張られてしまう。
それを知らず、忍び込んだフェリオは、同行したふたりの騎士とともに絶体絶命の危機に陥る。』

ストーリーの基本線は、2巻の政変の続き。
王都に戻ってきたフェリオたちがレージクと対抗するための行動を中心に描いており、これはこれでアクション要素がいままでよりも強く、勢いが感じられる。
また、政変の話で隠れがちだったウィータ神殿側の思惑や、カシナート司教の策謀なども語られており、なんかほんとうに3冊で起承転結の「起」をやったな、って感じ。

1巻2巻とも、まじめなストーリー展開で、レベルも高く、いい作品だとは思うが、物足りなさが残るところがあった。
だが、3巻に至ってこれまで語られていたストーリーが大きく動き出す気配が出てきて、俄然続きが気になり始めたり。
全12巻だから、この辺りからストーリーが動き始めておもしろくなってくるのは、うまく構成してるんだろうねぇ。

ただ、3巻まで読まないといけない、ってのはちょっと……。
1巻2巻にもっとインパクトがあれば、初手から読者をぐっと引きつけられるとは思うのだが……まぁ、いまさらだからしょうがない。
少なくとも、3冊目を読んでダメになるより、おもしろくなり始めてるんだから、よしとすっか。

以上、ストーリー評価でした。

……あ、いや、別にキャラとか文章とかのことが書けないわけじゃないのよ。
ただ、1巻で唯一ふらつき気味だったフェリオのキャラが2巻でしっかりしてきて、ここに来て確実に固まったので、さして言うべき欠点もないのよね。
文章は文章で相変わらず平易で読みやすいし。
なんかこう、ストーリー的なところを語ってしまうと、あとはとても欠点の少ない著者だし、なんか2巻でこのあたりの評価は固まってしまった感があるんだよね。

となるとあとはどのキャラに萌えられるかしか……(爆)
ウソです。
まじめなSFファンタジーで、「物語」がおもしろい作品なので、私的にはこの作品に萌え要素は感じられません。あしからず(笑)

と言うわけで、総評は言うまでもないとは思うけど、良品。
そろそろラノベ点は考慮しなくてもいいだろうね、ここまで来ると。



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こうゆうほうが好きかも

2007-03-30 20:43:25 | ファンタジー(異世界)
さて、読むべきかなんて言いながらもう読んでしまったの第850回は、

タイトル:空ノ鐘の響く惑星で2
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H16)

であります。

読んでみるかなぁ、と書いたので悩んでたはずなのに、もう読んだんかいっ! ってツッコミはなしで(笑)
しかし、1巻はいまいち勢いに欠けてるところがあったので、2巻はどうなんかなぁ、と期待よりも不安のほうが先だった本書ですが……。
ストーリーは次のとおり。

来訪者ビジターであるリセリナを追ってきた、同じく来訪者である集団によって、フォルナム神殿を訪れていたアルセイフ王国の王と皇太子を殺された惨劇の後。

第四王子で神殿の親善大使であったフェリオは、政治的に有利と進言してきた幼馴染みの女性司祭ウルクとともに王宮へと戻ってきた。
だが、そこでは放蕩者の第二王子レージクと、皇太子の息子であるアーベルトを王位に推す政務卿と軍務卿による争いがあった。

肥沃なアルセイフを狙う北方の大国タートムの侵略の影が忍び寄る中、葬儀などの一連の儀式の途中に事件が起きる。
それによってアルセイフでは大きな政変が勃発する。
そんな中、権力から縁遠いはずのフェリオは、様々な思惑が錯綜する謀略に巻き込まれようとしていた。』

う~む……、なんか私は1巻のような話より、こういう政治向きの物語のほうが好きなのかもしれない。
ストーリーは、とにかく王と皇太子の暗殺に端を発した王位継承のごたごたが描かれている。
構図も対立する二大派閥に、キャスティングボードを握る第三勢力と言ったもので、政治向きと言ってもごちゃごちゃしすぎていないので、話は飲み込みやすい。
また、終盤に至っての話も、第三勢力側のフェリオを絡ませるのに不自然な点はない。
……まぁ、順調な展開なので不自然だったらどうかと思うが。

しかし、珍しいと言うか何というか……ヒロインあるはずのリセリナが最後、エピローグのような短い章でしか出てこない、と言うのはおもしろい。
逆に、1巻では目立たなかったウルクがフェリオの側に付きっきりなので、出張っている。
恋愛要素がまったくないわけではないが、政治向きの話のほうが強くて目立たないのはいいね。
とにかくあざとくヒロインと主人公の絡みを入れてくれるものが多い中、こうしたところは、いかにストーリー重視で書いているかがうかがえて好印象。

キャラも、ややふらつき気味だったフェリオが、政変の中で見据えるべき視点が定まってしっかりしてきた。
ただ、2巻での政治向きの話を担う政務卿などの要人のキャラがいまいち。
平和すぎると腐敗するのが王宮や貴族の常なのに、けっこう国のことを本気で考えているいいひとばっかりで、毒があんまりないからつまんない。(をい(笑))

あとは文章かな。
1巻でも読みやすいと思ったが、2巻でも読みやすさは健在。
変な言い回しや表現はしない。表現に過不足はなく、且つわかりやすい。……など、段落が多いのがちと残念だが、こうした読みやすさ=平易さと言うのは特筆に値するだろう。
誰が読んでもわかりやすく、と言うのはとても難しいものだが、それをある程度達成できているのだからすごい。

総じて、ストーリー、展開、キャラ、文章ともに高レベルの物語と言えるのだが……やっぱまじめすぎて勢いが……。
まぁそれでも、十分読む価値がある作品であることを確認させてくれる2巻だったと言ってもいいだろう。
総評、良品。



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読むべきか読まざるべきか……

2007-03-18 00:47:31 | ファンタジー(異世界)
さて、Amazonのレビューの評価がすごいねの第838回は、

タイトル:空ノ鐘の響く惑星で
著者:渡瀬草一郎
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H15)

であります。

全12巻で完結しているらしいシリーズの第1巻。
なんか、相棒はいい作品を書く作家さん、と言う評価を聞いていたらしいのだが、私はまったく知りませんでした(笑)
とは言え、そういうことを聞いていればやっぱりどんなもんかと期待してしまうもので。
さて、期待通りに行ったのか……ストーリーは次のとおり。

『アルセイフ王国第四王子のフェリオは、第四という遠さや出自から王位に最も遠い王子だった。
そのためもあって、閑職でもあるフォルナム神殿の親善特使として神殿に住んでいた。
暇だが、息苦しい王宮よりも居心地のいい神殿暮らし……そこに神殿の象徴でもある御柱ピラーに人影が映る、と言う噂を聞く。

その真相を確かめようと御柱が安置されている祭殿に世話役の神官エリオットとともに赴いたフェリオは、そこからひとりの少女が現れる場面に遭遇する。
怪我をしているらしい少女を救出したフェリオだったが、少女は意識を取り戻すと人間とは思えない身体能力を発揮して逃亡。

それを追ったフェリオは、少女を助けるための一悶着を起こしながら少女……リセリナを通じて、彼女がこの世界とは異なる世界から数百年に一度程度の頻度で訪れる訪問者ビジターであることを知る。
そしてリセリナの出現によって、フェリオの人生は大きく変わろうとしていた』

全12巻と言うことを知らずに、新刊としてこれを手にしていれば、またプロローグに1巻費やしたか、と思って放り投げていた可能性大。
続き物だろうと何だろうと、いちおうのオチ、と言うものをつけてほしい、ってのがあるので、やっぱりこういうのはねぇ……。

ただ、そういう見方や好みのことを別にすれば、これはとてもまじめなSFファンタジーと言えるだろう。
ストーリーは完全にプロローグの段階で、しかもオチなしなので、評しにくいところではあるのだが、神殿にまつわる謀略や、降って湧いた王位への可能性、御柱が産出する輝石セレナイトの謎、リセリナを中心とする別世界との関係などなど、今後の物語を期待させる要素は多く、こうした様々な伏線やネタを、どのように処理し、完結させてくれるのか、気になるところではある。
そう言う意味では、導入編としての魅力は十分に備わっていると言えよう。

キャラは、フェリオが自らの目的を決めかねているところがあるので仕方がない部分はあるのだが、ややキャラとしてしっかりと立っていないところが見受けられる。
ヒロインのリセリナや、もうひとりのヒロインである幼馴染みのウルク、フェリオの剣の師匠でもあるウィスタルなど、他のメインキャラ、脇キャラがしっかりしているので、余計にフェリオのふらつきが目についてしまう。
だが、キャラの難点と言えばそれくらいだし、ライトノベルにしてはキャラ設定のあざとさが感じられず、この辺りでもまじめにストーリーで読ませようとするところが見受けられて印象はよい。

文章は、上記フェリオのキャラがふらついている関係で、違和感があるところがあるが、わかりにくい表現も少なく、SFテイストが感じられる作品ながら文章は比較的平易なほうなので読みやすさもある。
やや変わった言い回しや単語を使ったりしているところが見受けられるが、これはさして気にするほどのものではないだろう。
分量も適度で、軽くなりすぎず、重くなりすぎずと言ったところ。

客観的に見れば、キャラとかそういう別の意味で物語が保っている傾向が強いライトノベルにあって、きちんとストーリーで読ませてくれる、と言う期待をさせてくれる作品で、確かに高い評価を得ているのも納得できる。
ただ、まじめすぎて勢いに欠ける部分が感じられるので、すぐに続きが読みたい! と言うところまでいかないのは残念。

続き、どうしようかなぁ。
Amazonとかの評価はいいし、まじめな話になりそうだし、それに何より全12巻で完結しているところが、いつまで続くんだ? ってことを気にしなくていいから手にしやすかったりするしなぁ。
まぁでも、悪い……どころか、いいほうだし、とりあえずお初のひとはなるべく2冊以上読んで評価を決めようとしているから、読んでみるかな。

あぁ、そうだ、総評書いてない。
好みもあるけど、いろいろと評価できる面が多いし、ラノベ点も入れて、さらに今後の期待も込めて、総評、良品。



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お久しぶ~り~ね♪

2007-03-10 23:02:25 | ファンタジー(異世界)
さて、ラノベではないファンタジーは久しぶり……のはずの第830回は、

タイトル:お散歩宮 お昼寝宮
著者:谷山浩子
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H4)

であります。

昔、本屋でバイトをしていたとき、コバルト文庫の棚あたりで名前は見かけてたんだけど、確か読んだことはなかった作家さん。
……シンガーソングライターでもあったっけ、このひと。
さて、そんな著者の本作品は、主人公の少女ネムコの異世界での出来事を描いたファンタジーメルヘン。
ストーリーは、


憧れのサカモトくんに借りた本……けれど、これっぽっちも面白くなくて、「おもしろくない」と愚痴ってばかりのとき、不意に玄関のチャイムが鳴った。
玄関を開けてみると、そこには薄緑色の髪と目、白い肌の少年が。
何も言わずに走り去っていく少年を追って公園へ行くと、少年はジャングルジムから地面を抜けて下へ下へ。

それを追っていったネムコは、白と緑の色彩しかない世界へと下り立つ。
不思議な世界へ迷い込んだネムコは、ソブと言う男性と出会い、追いかけてきた少年を求め、少年がいるであろうお散歩宮へソブとともに向かう。
しかし、お散歩宮へ到着したネムコとソブは、お散歩宮があるはずの場所に、宮がないことに愕然とする。

お散歩宮は、そこへ現れた真っ赤なマントを羽織った赤い男、トトポに奪われてしまっていた。
ネムコはソブの頼みで、お散歩宮を取り戻すため、トトポを追って自らの夢を渡り歩いていく。


本作は短編連作の形式で、少年を追って時間盆地と言う異世界にやってきたネムコが奪われたお散歩宮を取り戻すまでを描いた作品で、取り戻すために、ネムコが自らの夢を渡り歩き、夢の出来事を乗り越えていく姿が描かれている。
構成としては、時間盆地に来てお散歩宮が奪われるまでと、夢を渡り歩く部分、解決部分の3つで、ストーリーとしては素直だが、ファンタジーメルヘンと呼ぶにふさわしい雰囲気も十分感じられてよい。

また、ネムコの夢である荒唐無稽で様々な世界は、奪われたお散歩宮を取り戻すと言う一本のストーリーの他に、いろんな深読みが出来たり、想像力を刺激させられたりする要素に満ちており、夢の章をじっくりと読んであれこれ想像できるところは、なかなかおもしろい。

ただラストの部分が、やや尻切れトンボ気味なのは残念。
なんか、もうひとつ、オチをつけてくれないといけないのが残ってんじゃないの? ってところがあったりするので。
あと、こういう話に求めてはいけないのかもしれないが、終盤の盛り上がりがいまいちなのも、ラストの物足りなさとともにマイナス。

それと、これは個人的な趣味の話ではあるのだが、ですます調の文体はちょっと……。
もともとサンリオから出版された作品なので、こうしたところは仕方がない部分なのかもしれないし、作品の雰囲気を醸し出す要因のひとつでもあろうから、悪いとは言わないけど……やっぱ嫌いなんだよね、このタイプの文体。

まぁ、とは言っても総評としては、個人的な趣味の問題を含めたとしても、さすがに落第ってとこまではいかない。
よいところ、いまいちなところ、ともにあるので、やはり及第と言ったところか。
こうしたメルヘンの世界観に浸れるひとは、手に取ってみるのも悪くないかもしれない、とは思うけど。

「ついで」の確率

2007-03-03 18:40:35 | ファンタジー(異世界)
さて、3巻まで読んでるからねの第823回は、

タイトル:狼と香辛料4
著者:支倉凍砂
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H19)

であります。

ちゃんとラノベ以外もと思いつつも記事にしてしまうラノベ。
まぁ、ちょうど「9S <ナインエス>」シリーズの残りを買いに本屋に立ち寄ったら、ちょうど新刊で出ていたので、ちょうどいいからと「ついで」に買っておいた作品なんだけど。

さて、デビューのときから比較的評価のよかった……と思っていたら1巻はけっこうぼろくそ言ってるなぁ(笑)
……今後の精進次第、ってことだったけど、3巻はおもしろく読めたし、巻が進むごとによくなっているので食指は動く、と。
では、この4巻はと言うと……。

「狼神ホロの故郷ヨイツを探すため、北を目指す行商人ロレンス。異教徒の町クメルスンで得た情報をもとに、二人は田舎の村テレオにやってくる。
テレオの協会にいる司祭は、異教の神々の話だけを専門に集める修道士の居場所を知っているという。しかし、教会を訪れたロレンスとホロを出迎えたのは、無愛想な少女エルサだった。
さらにそこで、ロレンスたちは村存続の危機に巻き込まれてしまう。二人はヨイツへの手がかりをつかみ、無事に村を出立できるのか……。
話題の異色ファンタジー、第12回電撃小説大賞<銀賞>受賞作第4弾。」

なんか、この4巻、いままででいちばん構成がいい。
前半は、テレオでのヨイツへの手がかり探しとロレンス、ホロのけっこう甘々な展開で、中盤からテレオを襲う危機とそれに起因するふたりの危機、そしてそれを解決するラストと、流れはとてもすんなりとしていて、張られた伏線の用い方もさりげなく、オチもうまく、ストーリーはきっちりとまとまっている。

クライマックスも、ホロの狼としてではなく、もともと豊作を祈願されていた神としての派手さのない力を用いながらも、しっかりと盛り上げており、派手さのない素朴なキャラや雰囲気を壊さず、いい感じに作ってある。
また、メインのゲストキャラであるエルサとエヴァンのふたりの物語が、ロレンスとホロの関係にうまく調和して語られているところも好印象。
ストーリー展開、雰囲気ともに順調な進化の跡が見える秀作と言っていいだろう。

……が、やはりこの著者、文章というものをもっと考えて書いてもらいたい。
分量や情景描写など、基本的なところはきちんと押さえているのでそこはいいのだが、ことあるごとにかなり回りくどい言い回しを使いすぎる。
通常、文章を追って想像力が情景やキャラの動きを頭に展開するものだと思うが、そのストーリー展開では本来来るはずのない意味不明の言い回しが多い。
それはもちろん、読んでいけばきちんと説明されるものではあり、ストーリー展開上、隠さなければならないことや、ロレンスの商人としての駆け引きなど、必要な場面というものはあるのだが、そうでない場面でのこうした言い回しは、想像上の情景などをばっさりと断ち切ってしまう場合が往々にしてある。
効果的に使うところ、ストーリーの流れを重視するところなど、考えてから書いてもらいたいもの。

もっとも、こうした欠点はある意味、苦言に近い、かな。
ここまでしっかりと書いているのだから、ここさえ気にならないようになれば、ただの良品に「文句なし」がつくだろうからね。
まぁでも、欠点らしい欠点はここだけなので、総評としては当然、良品。

しかし……、なんかふと「ついで」に手を伸ばした作品のほうがおもしろかったりすることってけっこうあるような気がするなぁ。
マーフィーの法則みたいなもんかしらん?(笑)



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