つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

(」・ω・)」う~♪(/・ω・)/にゃぁ~♪

2012-05-26 17:44:55 | ファンタジー(現世界)
さて、脳内リフレインしていますの第1017回は、

タイトル:這いよれ! ニャル子さん
著者:逢空万太
出版社:ソフトバンククリエイティブ GA文庫(初版:'09)

であります。

アニメのほうは人気あるみたいですね~。
ネット配信されているので私も見ていますが、アニメはおもしろいです。

なので、最近定番化しつつある「アニメを見る」→「原作を読む」の流れに沿って読んでみました。
さて、原作はどんなものやら……。

ストーリーは、

『八坂真尋は逃げていた。暗い夜道をただひたすらに。
なぜ逃げているのか、なぜ追われているのか、追っているのは何者なのか、さっぱりわからないがとにかく逃げていた。
助けを求めてみても、住宅街だと言うのに真尋の声に反応する者はいない。

そして道を誤ったのか、袋小路に辿り着いてしまい、追っ手の姿を見て愕然とする。
人型はしている。しかし、その背には蝙蝠のような羽を持ち、頭には突起がついていてとても人間には見えない。
進退窮まったそのとき、場違いなほど緊張感のない声とともに真尋に救いの手が差し伸べられた。
右手一本で追っ手の化け物を倒してしまったのは銀髪を靡かせたひとりの少女。人間に見えるその少女は奇妙な自己紹介をしてきた。
曰く「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、ニャルラトホテプです」……と。

とりあえず、家に帰った真尋は、ついてきた少女――ニャルラトホテプに事情を聞こうとするのだが、ニャルラトホテプは駄菓子にテレビに大忙し。
……話をするために電光石火のフォーク刺しでニャルラトホテプに話をする体勢を整えさせた真尋は、ふとニャルラトホテプと言う名に心当たりがあることを思い出す。
それはクトゥルー神話。アメリカの小説家ラブクラフトに端を発し、他の小説家を巻き込んで発展した小説群の中でもかなり高位に位置する邪神の名前だったからだ。
そんな邪神の名前を冠するニャルラトホテプがなぜ自分のところへ? と言う疑問はもっともで、ニャルラトホテプは真尋が狙われている事情を話し始める。

曰く、地球が宇宙連合の中で保護惑星に当たること、自分が宇宙人であること、とある犯罪組織が地球でなにやら大きな取引をするらしいこと、その中に奴隷貿易も含まれていること、そしてその奴隷貿易の対象となっているのが真尋であることなどなど――。
俄には信じがたいが、先ほど化け物に襲われて、それをニャルラトホテプに助けられたのは事実。
どうやらニャルラトホテプは真尋の護衛と違法取引の組織壊滅の仕事を任されているようだし、真尋にあんな化け物と戦う術なんて持ち合わせていない。

而して、放火で拠点をなくしたニャルラトホテプは、真尋の家にご厄介になりつつ、真尋の護衛をすることになったのだが……。』

う~ん、アニメがかなりテンポよくギャグやアクションを盛り込んで、おもしろく作ってくれているので、どんな破天荒な内容になっているかと思えば、意外と淡々と進んでいってるなぁ、ってのが第一印象。
まぁ、ボケ役のニャルラトホテプ、通称ニャル子とツッコミ役の真尋のコンビはそれなりにいい漫才をしてくれるので、コメディとしてはまぁまぁでしょうか。

ストーリーの流れは、初手でニャル子が真尋を助けてから、真尋の家に居候することになったり、真尋の学校に転校してきたり、護衛と称して同人誌やゲームを買い漁りに行ったりと、ニャル子の趣味丸出し――ここで地球のエンターテイメントは宇宙でもかなりの人気を誇る、と言う設定が加わる――の買い物に付き合わされたりしつつ、時折襲撃してくる化け物を撃退。
それは取引が行われる場所が出現するまでの時間稼ぎで、その場所が出現するときになってからはニャル子は真尋を連れて件の組織壊滅のために動くことになる、という感じ。

ストーリー自体の流れは悪くありません。
適度な漫才に、適度なアクション――一応邪神とされているので、とても正義の味方とは思えないようなニャル子の残虐な攻撃方法など、見所もそれなりにあると思います。
要所要所にパロディも入っていて、わかる人には笑える要素にもなっています。
ただ、設定はご都合主義満載です。
たとえばニャル子たち宇宙人が使う宇宙CQCと言う格闘術。ニャル子は格闘術らしく近接戦闘にバールをメインに用いて戦うのですが、物語終盤に出てくる敵方のクトゥグアは同じ宇宙CQCを名乗りながらも炎のレーザー使う遠距離戦だったりと、何でもありです。
まぁ、作中でも「そういう設定です」と押し切る場面があったりするので、ご都合主義もここまで来るといっそ潔くて気持ちがいいくらいです。

キャラの設定はニャル子を始めとする宇宙人はクトゥルー神話のそれに沿った設定に、アレンジを加えて作られています。
まぁ、キャラ立ちは……しているほうだと言っていいでしょうか。個性はしっかりしていますし。
常識人でツッコミ役の真尋にも邪神=ニャル子さえ恐れさせるフォーク刺しと言う特殊攻撃があったりと、漫才的な意味ではバランスが取れています。
もっとも、キャラにもご都合主義の影響があるので、どうしてもキャラ立ちがはっきりしているとは言えないのが残念なところではあるのですが……。

さて、そういうわけで総評ですが、すごいおもしろい、と言うほどではなく、何事も適度におもしろい、と言う程度に収まっているので、及第というところでしょうか。
アニメのテンポが原作のほうにもあれば、コメディとしてはおもしろいとは思うのですが、案外淡々と進んでいってるほうなので、こういうところに落ち着いてしまいます。
設定もご都合主義満載ですし、客観的に見て小説としてのクオリティはさほど高いとは言えません。
まぁ、ニャル子と真尋の漫才はおもしろいところもありますし、落第にするほど悪い作品ではありませんので、こんなものでしょう。


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へぇ、こんなのも描けるんだ

2012-05-20 16:07:37 | マンガ(少年漫画)
さて、マンガが続くねぇの第1016回は、

タイトル:高杉さん家のおべんとう(1~5巻:以下続刊)
著者:柳原望
出版社:メディアファクトリー MFコミックス(初版:'10~)

LaLaDXを読んでいたときに、この人の作品はずっと読んでた。
けど、はっきり言って、いまいちパッとしない作品が多い印象で、1巻帯にある「一清&千沙姫シリーズ」って名前は聞いたことがあるから、LaLaDXで読んだことはあるんだろうけど、キャラも内容もまったく思い出せない。
なので単行本も買うこともなかったのだけど……。

本屋で1巻の試し読みができて、ぱらぱらっと3話くらいかなぁ、読んでみたところ、なかなかよい雰囲気を感じたのでとりあえず、出てある5冊、買ってみたんだけど……。

さて、ストーリーは、

『高杉温巳は困っていた。いろいろな意味で。
大学の地理学で博士号を取ったのはいいけれど、研究機関、大学教員の公募に落ちまくり、不況のおかげで就職もままならず。
両親が遺してくれたマンションのおかげで住むところには困らないけれど、非常勤講師などをやりながら何とか生活している三十路の31歳。

その温巳の目下の困難は、亡くなった叔母の美哉の娘である久留里の親代わり(正確には未成年後見人)になってほしい、というものだった。
美哉の遺言で、温巳が指名されていたと言うことだったのだが、久留里はこの春中学生になったばかりの12歳の少女。
はっきり言って無理だと思いつつも、弁護士に示された美哉の生命保険などから得られる養育費にぐらりと来るところへ、強引に久留里と引き合わされることに。

なし崩し的に「家族」とされてしまった温巳。
だが、困ったことはそれだけではなかった。叔母の美哉は、温巳が高校3年生のとき、美哉を迎えに行った両親が事故死してしまったことに責任を感じて温巳のもとを去っていった経緯があったのだ。
それが何の因果か、久留里を引き取ることになってしまって、どう接していいのかさっぱり。

とりあえず、家に連れて帰ったのはいいけれど、「家族」になるなんてどうすればいいのかわからない。ネットで検索してみてもネガティブな話題ばかりが眼について、結局諦めてご就寝。
翌朝、起きてから久留里のことを思い出した温巳は急いでキッチンへ向かうと、そこには朝ご飯を作っている久留里の姿。
おまけに貧乏だからと言うことで、久留里はお弁当まで作ってくれていた。

しかしながらお弁当と言っても文字通り蓋を開けてみればきんぴらごぼう1品のみ。
入り浸っている大学のゼミで同級生の香山や特別研究員の小坂にからかわれながらも、先日きんぴらごぼうは作れると、美哉に習ったと泣いていた久留里を思い出して、その特別な思いに気付く温巳。

それから数日、高杉家では保護者として成すべきこととして、ひとつのルールが決まった。
仕事をしている温巳は朝起きて、朝ご飯とお弁当を、久留里は晩ご飯を作る、と言うもの。
そうしておべんとうを通じて、温巳と久留里は一歩ずつ「家族」への道を歩いて行くことになる。』

うん、やっぱり第一印象って大事だねぇ。
1巻をぱらぱらっと読んで、いいと思って買ったものだけど、当たりだった。

てか、タイトルにも書いたけど、この人、こんないい雰囲気を持った作品を描けるんだなぁ、と正直感心したよ。
LaLaDX時代のを知っているだけに、余計に感心度合いが強かったねぇ。
まぁ、白泉社から離れて花ゆめのレーベルに合わせたものを描かなくていい、ってのもあるのかもしれないけど。

さて、ストーリーだけど、基本、1話完結の短編連作形式のお話。
タイトルにあるように、キーワードは「おべんとう」
おべんとうに入る1品を主体に、温巳と久留里の心の交流を描くのがメイン。
とは言っても、場所やネタは様々。温巳が入り浸っているゼミでの香山や小坂と言った面々とのやりとりや、温巳の就職問題、中学校へ通う久留里の日常や友達問題、はたまた温巳のフィールドワークに久留里やその友達がついていったりと、いろんなところでいろんなおべんとうの品や郷土料理などが披露されている。
また、テーマとなる1品には必ずレシピがついていて、これも感心させられる。レシピは温巳が美哉に作ってもらっていたころのものから、特別研究員の小坂の地元北海道のものだったり、舞台となっている名古屋特有のものだったりと、多種多様。
毎回テーマとなる1品を考えるのも苦労するだろうに、レシピまで入っているのにも感心。

帯に「ハートフルラブコメディ」とあるように、ほんとうにハートフルな雰囲気満載で読んでいてほんわかした気分になれるのがいい。
ラブコメディ部分は、人の機微にまったく気付かない残念男温巳に対する小坂と、「家族」の枠を越えてちょっと淡い恋心を温巳に抱く久留里のふたり。
しかし……、小坂は5巻時点で29歳と同じく5巻時点で34歳の温巳とは釣り合うが、久留里、君はまだ中学生だ。5巻時点で中学3年生になって卒業とは言え、温巳はもう34歳。いいのか、久留里!? 相手は19も年上のもうおっさんだぞ!(笑)
まぁ、温巳も温巳で小坂を逃せば、もうこのまま一生独身まっしぐらな気がしないでもないのだが……(笑)

さて、キャラのほうに移るとして、主人公の温巳。典型的な学者バカで人の機微にはこれっぽっちも気付かない残念三十路男(笑)
何とか久留里の保護者として奮闘しつつも、たいてい空回り気味なのがおもしろい。
また、あとがき曰く、いい加減就職しないと困ると言う理由で、1巻最後でゼミの助教授にしてもらったこれまた残念男(笑)
小坂さん、こんな男のどこがいいんですか? と聞きたいが、まぁ、そこはあばたもえくぼと言うことで(笑)

で、ヒロインの久留里。この子はとても個性的。
無口であまり感情を表に出さないけれど、時折見せる笑顔がとてもかわいい女のコ。
人付き合いが苦手で、当初は友達すらいなかったけれど、香山の娘のなつ希など、徐々に友達も増えていったりと、こちらは順調に成長中。
趣味は倹約。特売、底値、割引などに目がないとても中学生とは思えない渋い趣味で、温巳がときどき倹約を無視して買い物をすることに腹を立てることも。
喋り方も独特で、これも久留里のチャームポイントのひとつとなっていると言っていいでしょう。

あとは脇役の強引ぐマイウェイで温巳の同級生で准教授の香山、特別研究員の小坂、キノコ狩りで仲良くなった香山の娘で久留里のクラスメイトのなつ希など、適度に場をかき乱したり、コメディに仕立ててくれたりと、雰囲気を壊さない程度にいいキャラが揃っていて読んでいて楽しい。

5巻の帯で「マンガ大賞2012」ノミネート作品とあって、正直そういうのを見ると逆に引いてしまうタチなんだけど、これはコメディとしても楽しめるし、雰囲気も楽しめるとあって個人的にはかなりオススメなマンガだね。
基本1話完結の話なので、手軽にも読めるし、ゆっくりながらも「家族」となっていく温巳と久留里のストーリーも、穏やかな雰囲気と相俟ってじれったさを感じることもない。
総じて、オススメしやすい良品と言えるだろうね。
まだ5巻までしか出ていないので、お財布にも大ダメージを与えるほどではないので、読んだことのない方はハートフルな雰囲気を満喫してほしい、そんな作品だね。


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すいません、好きなんです(笑)

2012-05-19 16:47:55 | マンガ(少年漫画)
 さて、少年漫画か少女漫画か、悩んでしまったけどレーベルから少年漫画にしましたの第1015回は、

タイトル:くちびるためいきさくらいろ(全2巻)
著者:森永みるく
出版社:双葉社 アクションコミックスハイ(初版:'12)

であります。

注意:当作品は百合です。同性愛作品に免疫がない方、嫌悪感を抱く方は読まずに引き返すことをオススメします。

注意書きも書いたことだしっと……。
本作は、前にも1回出ています。同じ題名で一迅社から'06に短編集として出たものの再版……と言うことだと思ったいたのですが、全2巻?
再版にしては2巻に分けるような分量なんてあったっけなぁ? と思いつつも悲しいかな、好きなんです、森永さんの作品(笑)

やわらかい絵柄が好きで、18禁描いてたころからずっと買っていたし、そのときから百合をちょくちょく描いていたのは知っていたのですが、百合だろうが何だろうが抵抗がないので、迷わず購入。
2巻に分けた理由はなんなのかと思いつつも読んでみました。

さて、ストーリーは、

『奈々は目覚めの悪い夢を見てしまった。
中学時代の夢――幼馴染みで、いちばん仲のよかった友達の瞳。子供のころからずっと一緒で、高校も同じところへ通うことを信じて疑わなかったのに、瞳は内緒で他校を受験し、奈々とは同じ高校には行けない……そんな事実を知らされたときの夢。

高校生活も二ヶ月が経ち、中高大と一貫校の桜海女子に慣れてきたころ。――それでも一緒に通えないと知ったあのときから瞳とはメールも電話すらもしない日々。
そんなある日のこと、コンビニへ買い物へ出かけた奈々は、その帰りに偶然部活帰りだと言う瞳に出会う。
髪も短くなって、友達とも仲良く高校生活を過ごしているように見える瞳。
そんな姿に複雑な思いを抱く奈々の心を知ってか知らずか、瞳は奈々との約束があると言い出して強引に奈々の家に行くことになってしまう。

奈々の家では中学時代と変わらずに接してくる瞳。制服がかわいいからと言う理由で桜海女子を奈々に薦め、制服姿を一番最初に見せてと約束した中学時代のことを持ち出して、仕方なく奈々は制服姿を瞳に見せることになるのだが、「似合っている」――そんな瞳の一言で裏切られた瞳への思いが溢れ出す奈々。
けれど、瞳には瞳の理由があった。それは奈々への思い――友達ではなくなった感情のために、奈々から距離を置くことにしたのだった。

それでも、奈々は瞳が離れていってしまうことがイヤだった。
そんな思いを吐露する奈々に口づけをする瞳――このままでは友達ではいられない。そう告げる瞳に、中学時代の出来事やいま思う瞳への思いが奈々の脳裏をよぎり――
奈々は、瞳と「友達」でなくなることを決意する。』

短編集ですが、全2巻の中心を成す奈々と瞳の物語の第1話のあらすじだけ、書いてみました。
と言うか、一迅社から出た短編集のときは、このふたりの物語は2話で終わっていたのですが、続いていたのですね。
これ以外は一迅社時代の短編集の内容の再録となっています。

まず、奈々と瞳のストーリーですが、晴れて恋人同士となったふたりが思いを深めていく中、突然瞳に外国への転校の話が持ち上がって、それに抗議するために瞳は奈々とともに家出をして――と言う内容。
最終的には大団円なのですが、各話がどうもやっつけ仕事に見えてしまうのが残念なところ。
大団円のラストも拍子抜けしてしまうオチなので、一迅社のときの2話で余韻を残したまま、終わってくれていたほうがマシだったような印象を受けます。

で、他の短編ですが、個人的にはこちらの短編のほうが雰囲気も余韻もあって好みです。
舞台は基本的に桜海女子高校です。

『天国に一番近い夏』――桜海女子に彷徨う幽霊の加藤なつかと、桜海女子OGで養護教諭として働いていて、なつかとは学生時代保健室で仲良くなった小松先生との触れ合いを描いた作品。オチもくすっと笑えて、百合成分は薄めなほうですが、いい余韻を持つ小品。

『キスと恋と王子様』――奈々の友達で演劇部所属の安倍と、演劇部の顔だけど内実は天然系ボケキャラの橘のふたりの物語。役としてキスをしたと誤解して悩む安倍の心情が細やかに描かれている小品。

『いつかのこのこい。』――入学当初に水城から手ひどい言い方をされてしまった鈴木と、それでも何故か水城に心惹かれてしまう恋愛感情を疑似恋愛だと思い込む鈴木の恋の苦しさを描いた小品。

『くちびるにチェリー』――吹奏楽部の演奏を聴いて絵里に恋をしたちはるが、自分の恋心を抑えて絵里の親友として過ごす中での心情を細やかに描いた小品。この作品も心地よい余韻のある好みの短編。

『ホントのキモチ。』――文芸部で古風な恋愛小説を書いている野坂と、それを読んで野坂の人となりに恋してしまった後輩の遠藤のラブコメディ。この短編集の中ではコメディ要素の強い作品で、森永さんらしいコメディ作品。

最後の『ホントのキモチ。』以外は上記に書いたように、雰囲気、余韻ともにあって恋愛ものとしてはいい作品に仕上がっています。
でも、百合ですが……。

個人的には好きなマンガ家さんですし、オススメしたいところなのですが、いかんせんジャンルがジャンルだけにオススメしきれません。
メインとなる奈々と瞳のストーリーがいまいち残念なところがあるのも、百合に抵抗がない人にもオススメしにくいところです。
短編のほうはいい作品が多いので、前の一迅社時代の短編集で終わってくれたほうがオススメしやすかったですね。
もっとも、一迅社時代のはもう古本でしか手に入らないので、新刊ならこちらを買うしか手はないのですが……。(マイナーな百合姫コミックスなので、古本屋でも手に入るかどうかは疑問ですが)

と言うわけで総評ですが、まずジャンルから拒否反応を示す方がいらっしゃるであろうこと、メインとなる奈々、瞳のストーリーがいまいちなことから当然ながら良品とは言えないでしょう。
さりとて短編にはいい作品があるので落第にするのも忍びない。
なので、中間を取って及第というところに落ち着くでしょう。
まぁ、マイナーなジャンルなので、いくら良品並みの評価ができても、読み手限定になってしまうので、良品の評価はできないのではありますが……。


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うん、いいね

2012-05-06 15:47:25 | ファンタジー(現世界)
さて、記事がラノベに偏ってる気がしないでもないの第1014回は、

タイトル:バカとテストと召喚獣
著者:井上堅二
出版社:エンターブレイン ファミ通文庫(初版:'07)

であります。

これも確かアニメ化されていたような気がするけど、アニメは見てません。
まぁ、単に一期を見逃して、二期から見ようなんてことをする気が起きなかっただけだったんだけど(笑)

さて、第8回えんため大賞編集部特別賞受賞作という本作だけど、ファミ通文庫ということで多大な期待はしてません。

ストーリーは、

『吉井明久は文月学園二年生になって振り分けられる振り分け試験で手応えを感じていた。
振り分け試験の途中、学園二位の姫路瑞希が体調不良で倒れてしまう、なんてハプニングもあったものの、新学期となる春には意気揚々と登校していた。

そして運命のクラス発表――一斉にクラス分けが発表されることがなく、教師が生徒にひとりひとりに手渡すと言う形で行われるクラス分けで明久が受け取った封筒に書かれていたクラスは――Fクラス。
Aクラスから成績順で振り分けられ、その最底辺に位置するFクラスだった。
つまり、明久は、「バカ」の烙印を押されたわけだった。

もっと試験はできたはずだったのにと思いつつも、Fクラスに向かう途中、やけにばかでかい教室の前を通る明久。
黒板代わりのばかでかいプラズマディスプレイにノートパソコン、個人用のエアコン、冷蔵庫にリクライニングシート――Aクラスの教室だった。
そんなAクラスの豪華設備を横目にFクラスへ向かった明久は、Fクラスの設備のひどさに愕然とする。
椅子もなく、床に座布団、机は卓袱台。しかもどれもボロボロで、直してもらおうにも担任は自前で直すようにと言う始末。

とりあえず、設備の最悪さは後回しにしてこれから1年同じクラスとして過ごす面々の自己紹介が行われ――そこへ遅刻して入ってきたのは姫路瑞希。学園二位の実力を誇る彼女がなぜ最低クラスのFクラスに?
理由は簡単。振り分け試験での途中退場は問答無用で0点扱いで、振り分け試験で体調不良になって倒れてしまった瑞希は、結局試験を最後まで受けられずにFクラスに配属されてしまったのだ。

さすがに学園二位の美少女の瑞希をこんな座布団、卓袱台だけのひどいクラスで一年間過ごさせるのは忍びない。
幸いなことに、文月学園には特殊なルールがあった。
「試召戦争」――試験召喚戦争の略称であるそれによって、クラスごとに召喚獣をもって戦い、勝利すればクラスを入れ替えることができる。
つまり、瑞希をAクラスの設備で授業を受けさせることができるのだ。

そのことを悪友の雄二に持ちかけたところ、雄二も試召戦争でAクラスに戦いを挑むことを考えている様子。
Fクラスの面々も設備の格差に不満たらたらで現状を打破したい思いは強かった。
そうして、各々の利害が一致した明久たちFクラスの面々は、Aクラスに試召戦争を挑むべく、戦いに身を投じていくのだった。』

いやぁ、期待していなかったのですが、この作品、勢いがあっていいですね(笑)
こんなに勢いのあるラノベは9Sシリーズ以来、久々ではないでしょうか。9Sシリーズには劣りますが……。
個人的には、こういう勢いのある作品は好きなので、楽しく読ませてもらいました。

とは言え、個人的にはいいのですが、客観的に見てどうかと言うとアラがやはりあります。
まず世界観の甘さが挙げられるでしょうか。
現世界をベースとした学園物ですが、よくもまぁここまで頭のいい生徒と悪い生徒が同じ学校にいられるのが不思議でなりません。
試験校と言うことですが、それ以外に何の説明もないため、明久たちFクラスの生徒がよく進級できたものだとこれまた不思議でなりません。
また、試召戦争ですが、設定自体は試験の点数がHPと戦闘力の代わりになって、それを召喚獣同士を戦わせることで勝敗を決める、と言うもので試験の点数の善し悪しがもろに戦闘に影響する、と言う一風変わったもので、これはこれでおもしろい設定でしょう。
他にも試召戦争には諸々のルールがありますが、これも戦争での戦術を構築する上での重要な要因になっていて、うまく使って物語を盛り上げてくれています。
ですが、なぜ明久たち生徒が召喚獣を召喚できるのか、そのための世界観の説明がすっぽり抜けているのは難点です。
そういうところが気になる人は、世界観の甘さに眉をひそめることになってしまうでしょう。

ストーリーは、勢いがあるのでテンポよく進んでいきます。
Fクラス代表の雄二の戦略で、いきなりAクラスではなく、段階的に上のクラスを攻略し、最終的にAクラスに戦いを挑む、と言う流れで進んでいきますが、適度にラブコメの要素も入っていて、ラノベとしての要素はきちんと押さえてあります。
キャラもメインキャラの個性はしっかりしているほうなので、好感触。
章の区切りに簡単なテスト問題がキャラの視点で回答されているところがありますが、こうしたところでも明久や他のキャラのバカさ加減が強調されていて、おもしろいです。
文章のほうも、明久の一人称で進み、途中他の誰かの視点が入ると言うこともなく、一貫して明久の一人称で進んでいくのもブレがなく、好印象です。

意外といい印象が多い本作ですが、上記に書いたように世界観の曖昧さは致命的です。
特に、分析型の読み手にとっては世界観だけでなく、他にもアラが目立つでしょうから、この手のタイプの読み手さんにははっきり言ってオススメできません。
逆に、感性派の読み手で、細かいことに拘らずにいられて、勢いや雰囲気を楽しめる方にとっては、勢いのある本作は単純に楽しめる作品と言えるでしょう。
ラブコメ要素を期待する人にも、明久をいじめて楽しんでいる島田美波や小学校の頃から明久を知っている姫路瑞希ともども、明久は惚れられているらしいので、ラブコメ展開にも期待が持てるでしょう。(美波は好きだからいじめる、と言う男性小学生レベルのようですが(笑))

……あれ? あんまり悪いこと書いてない気がしますが、これだけは言えます。
何も考えるな、勢いに任せて読み進め!(爆)
これができない分析型の人は手を出さないほうがいいでしょう。世界観や設定の甘さに突っ込みどころ満載だと思いますので。

と言うわけで、個人的にはオススメの○をつけてあげたいところですが、そうは言っていられないところがあるのでラノベ点を加えて及第と言ったところにしておきましょうか。
いや、ホント、個人的には楽しめたのですけどねぇ。客観的に見ると読み手を選ぶと言う点が致命的です。


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またですか……

2012-05-05 16:14:10 | 小説全般
さて、ようやく2巻でありますの第1013回は、

タイトル:祝もものき事務所2
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C☆NOVELSファンタジア(初版:'11)

であります。

けっこう読んでも記事にしない小説が多々あります。
何の感慨もなかったり、感性が拒否反応を起こして途中で読むのを断念したりと理由は様々ですが……。

そんな中、茅田さんの作品は比較的安心して読める話が多いのですが、この2巻はどうなっていることやら……。

ストーリーは、

『事務所に訪れたのは宿根と名乗った人物だった。事務所所長の百之喜太朗は厄介ごとが嫌いな面倒くさがり。どんな依頼なのかと思っていたが、宿根の依頼は拍子抜けするほどのことだった。
依頼内容は、とあるビルのカフェで出くわした人物の安否の確認をしてほしい、と言うものだった。

宿根が言うには、とあるビルのカフェで遅い昼食を摂っていたとき、そこに居合わせた客で、同じビルの山根コーポレーションに勤めている小林という人物のことで、そのとき、その小林と言う人物は糖尿病の発作で倒れてしまったのだ。
騒然とする店内で、当初は宿根も何もできないでいたが、カフェには医療関係者が居合わせていたらしく、小林にインシュリンを投与しようとしていた。
だが、宿根には過去に猫の糖尿病で得た知識があり、その医療関係者が投与しようとしていたインシュリンの量が半端ではなかったのだ。

高血糖ではすぐ死なないが、低血糖では死ぬ。そのことを知っていた宿根は小林が倒れた原因が低血糖であると判断し、血糖値を下げるインシュリンではなく加糖するべきだと判断して、グルコースを飲ませたのだった。
その後、小林は救急車で運ばれてしまい、安否はわからずじまい。
本当に自分のした処置は正しかったのか、そのことで悩んでしまった宿根は、百之喜も恐れる大家の越後屋銀子の紹介で事務所を訪れたと言うのだ。

どんな厄介な依頼かと思いきや、案外簡単そうな相談だったので依頼を受けた百之喜は、秘書の凰華とともに小林が勤めている会社に向かったのだが、そこには該当する人物がいない。
仕方なく件の事件が起きたカフェで聞き込みをしていると、倒れた当の小林が現れた。――のだが、彼は小林ではなく、樺林慎であり、山根ではなく、周コーポレーションに勤めている会社員だった。

そしてそこから事態は泥沼の様相を呈してくる……。』

読んでいてまず思ったのは、また親族ネタですか……、ってとこでしょうか。
1巻も相続絡みの親族ネタでしたが、今回はそれに輪をかけて複雑な親族、人間関係が絡んだ遺産相続にまつわる話でした。

ストーリーは、宿根の依頼を受けていろいろと調査をするうちに、徐々に明らかになってくる離婚、再婚などを巡って発生する遺産相続問題に樺林が巻き込まれ、最初の事件であるインシュリン投与事件に端を発する樺林の殺人未遂などを絡めて、誰が樺林を殺そうとしているのか、が解き明かされていく、と言う内容。
相変わらず、何でもないことや他愛ない出来事から事件を大きくしていく手腕は見事ですが、今回はキャラがとてもたくさん出てきて、しかも離婚、再婚で親族関係や遺産相続問題が絡んでいて、人間関係がとてもややこしいです。
はっきり言ってさっくりと一読した限りでは、相関関係を想像するがかなり難しいくらいです。
……と言うか、この人間関係の複雑さには辟易しました。

キャラも主人公の百之喜や凰華は変わらずですが、これまた相変わらず非常識人といろんな意味で強い女性を描くのは茅田さんらしいところでしょう。
特に女性キャラ。昔、スニーカー文庫で出ていたころの「桐原家の人々」シリーズのあとがきで、著者本人が「強い女性が好き」と語っていましたが、芯の強い女性キャラがこれでもかと言うくらい出てきます。
この辺りは著者の趣味でしょうか。……と言うか、億単位の遺産相続をそれがどうしたってくらいに剛胆に構えられる人物はそうそういないと思うのですが、当たり前のように出てきます。
まぁ、非常識を書かせれば天下一品の著者ですから、逆に言えばこうした強い女性たちも非常識の範疇に入るのかもしれませんが……。

ともあれ、人間関係のややこしさを除けば、上記のとおり、小さな出来事から事態を大きくしていく著者らしい展開で、ファンにとっては楽しめる作品ではないでしょうか。
もっとも連続して親族ネタで攻めてくるのはいかがなものかと言う気はしないでもありませんが……。
あと、前作よりも人間関係がややこしすぎて、著者の魅力である何も考えずに読める、と言うのが阻害されているところもマイナスでしょうか。
でもまぁ、まだ2巻。今後はどんな事件を扱うことになるのか、期待はしたいところです。

と言うわけで、総評としては及第と言ったところでしょうね。
個人的に茅田さんの作品は好きだけど、「デルフィニア戦記」のように手放しでオススメできるような作品ではないけど、さして落第にするようなひどい話でもないので、こういうところに落ち着いてしまいますね。


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うん

2012-04-29 14:37:28 | ファンタジー(現世界)
さて、やっと借りられたの第1012回は、

タイトル:神様のメモ帳
著者:杉井光
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:'07)

であります。

これもアニメになってたね。とりあえず、ネット配信されてたので見てはいたのだけど……正直さしておもしろいとは思ってなかった。
けっこう気に入ってみてたりすると、OPやEDも自然と頭に入ってきたりするんだけど、これはもうさっぱり覚えてないし(笑)

さておき、あらすじはアニメで知ってるんだけど、ストーリーは紹介しとかないとね。

『藤島鳴海は10月に転校してきてから1ヶ月、特にクラスに馴染むこともなく、ひとりで過ごしていて、それを普通だと思っていた。
それが破られたのはある日のこと。IT選択授業がある日で、部員がひとりもいないと言う理由で入ったパソコン部に行けなくなって、屋上の階段棟の上で時間を潰していたときだった。
パソコン部と同じくひとりしかいない園芸部員の篠崎彩夏に見つかり、弱小部同士助け合おうなんて彩夏の言葉に押されて園芸部員として活動させられることになったからだった。
おまけに彩夏がバイトをしているラーメン店はなまるに連れて行かれ、そこで堂々とニートを主張する高校の先輩テツに、ミリタリーマニアの少佐、ヒモをしているというヒロに出会う。ついでに何故か流されるままにニート探偵を名乗る少女アリスにも出会ってしまう。

そんなわけのわからない状況のとき、アリスのところへ依頼者が訪れる。四代目を呼ばれた青年は、四代目が縄張りにしている界隈で行われている薬物売買の原因究明に協力してほしい、というものだった。

たったひとりで過ごしていた日常が変わった日から数日、鳴海は彩夏とともに園芸部をやっていた。これまたあの日のように彩夏に流されるまま、はなまるを訪れ、テツ先輩たちと再会し、ついでにアリスへの出前を頼まれ――何だか日常が変わってしまったような気がするそんな折り、所在不明だった、おなじニートで彩夏の兄であるトシが久しぶりに姿を見せたことをアリスから教えられ、彩夏が心配しているからと事務所にしているアパートを追い出される。
トシを連れてテツたちのいる場所へ向かった鳴海は、またもや場に流されるままゲーセン行きに付き合わされることに。ゲーセンで遊んでいた鳴海たちだったが、抜け出してしまったトシをつい追いかけてしまった鳴海は、トシと会話をし、トシがエンジェル・フィックスと言う薬をやっていることを知らされる。

それからはなまるへ行く頻度が高くなってきて、いろいろあったある日のこと、彩夏が学校の屋上から身を投げ、植物状態になってしまう。
その出来事があってからしばらく学校にも行けなかった鳴海だったが、とあることをきっかけに、彩夏の自殺未遂の真相を知るためにアリスに依頼することになる――』

いろいろ、とはいろいろなのです(笑)
それをあらすじに書いちゃうとあらすじの量が膨大になってしまうので、こんなあらすじになってしまいました、とさ。

それはそれとして……(いいんです、あらすじ書くの苦手なのはわかってます(泣))、ストーリーだけど、クラスにも馴染む気がなく、それを日常としていた主人公の鳴海が、彩夏に連れられていった先であるはなまるで出会ったテツを始めとするニートたち、そしてニート探偵と名乗るアリスと出会って変わっていく日常の中、新種のドラッグであるエンジェル・フィックスの真相究明と彩夏の自殺未遂の真相を語る、と言うもの。
ラノベに分類される小説にしては雰囲気がやや重めで、軽く読むと言うタイプのものではないのは珍しい。
で、ストーリー自体の評価だけど、よく作られていると言う印象。
鳴海が彩夏やテツたち、アリスなどとの出会いと仲間として認知される前半と、そしてトシとの出会いと彩夏の自殺未遂から動き出すエンジェル・フィックスと彩夏の自殺未遂の真相を描く後半と、流れもいいし、エンジェル・フィックスと彩夏の関係もうまく絡められているし、ストーリー展開に破綻はない。

キャラも、安易に女のコキャラを出して萌えに走るのではなく、テツたちや四代目を始めとして女性キャラよりも男性キャラのほうが多いのも珍しい。
これは別に悪い意味ではなく、安易さを求めていないと言う意味では好印象。
また、各キャラについてだけど、天才的なハッカーの能力で情報を収集し、探偵を務めるアリスや、個性も特徴も役割もしっかりしているテツたちニート陣など、それぞれキャラ立ちしていてブレはない。
主人公の鳴海についても、鳴海の一人称でストーリーが進むため、心理描写も適度。
キャラについては文句のつけるところはないと言っていいだろう。

文章面でもかなり好印象。
上記のとおり、鳴海の一人称で語られるわけだけど、一人称の視点からブレることも逸脱することもなく、また他のラノベによくある他のキャラ視点に唐突に移転したりすることもなく、一貫している。
文章の作法も、ラノベにしては――と言うより、ラノベが作法を無視しまくっていると言うべきなのだが――しっかりしている。
若干気になるところがないわけではないが、これだけきちんとした作法で書けて、表現力があるのだから、些事と言うべきであろう。

客観的に見た場合、悪いところがほとんど見当たらないので、ラノベ点を考慮するまでもなく良品、と言えるだろう。
ラノベという枠に括らなくてもいいくらい、小説としてのクオリティの高い作品。
……なんだけど、あくまで客観的に見た場合には良品、なんだよねぇ……。
いい作品だと思うし、安易な萌えに走っていないところも好印象だったりはするし、アニメ化されるくらい人気が出るのもわからないでもないんだけど、あくまで個人的には、だけどあまりおもしろい、とは思わなかった。
いい作品なのはわかるよ、うん、ホントに。……ホントだよ?
でも私個人としては別段……なわけで、続きを読みたい気にさせるだけの魅力には欠けた作品なのですよ。
だから、続きは読まないでしょう。どうせアニメで2、3巻くらいまでの話はだいたいわかってるし、アニメ自体大しておもしろいとも思わなかったし。
まぁでも、いい作品なのでオススメはする。おもしろくなかったのは私の主観なのでね。


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絵は似せるもんじゃないか!?

2012-04-28 14:36:28 | SF(国内)
さて、そんなふうに思うわけですよの第1011回は、

タイトル:ミニスカ宇宙海賊パイレーツ
著者:笹本佑一
出版社:朝日新聞出版 ASHAHI NOVELS(初版:'08)

であります。

タイトルは……アニメのほうのお話です(笑)
だいたいアニメ化するに当たっては、多少なりとも原作のイラストと似せて絵を作るものだと思いますが、アニメの「モーレツ宇宙海賊」のほうの絵を、本書のイラストの違うこと違うこと。
原作知ってて、アニメを見た人は絵柄の違いにかなり戸惑うんじゃないかぁ、と思うわけですよ。

それはさておき、「エリアルシリーズ」で一世を風靡した(と思う)笹本氏の新シリーズですが、アニメ先行で見てだいたいのあらすじは知ってはいるのですが……。
ストーリーは、

『白凰女学院高等部1年加藤茉莉香、ヨット部所属。ついでにレトロな喫茶店「ランプ館」でウェイトレスのバイトもこなす元気印の高校生。
ヨット部でのシミュレーターを終えて、他の部員たちより先に学校を出た茉莉香はランプ館でのバイトに精を出していた。
そこに現れた一組の男女。母の知り合いだというふたりは、茉莉香に突然、宇宙海賊の船長にならないかと持ちかけてくる。

わけもわからずその場はしらばっくれた茉莉香はバイトを終えて帰宅。夕食の支度をしていた母の梨理香にランプ館での出来事を話していると、家に来訪者が訪れる。
その来訪者はランプ館で出会った男女で、女性のほうはミーサ、男性のほうはケインと名乗った。
夕食をともにしながら、梨理香とふたりきりだと思っていたら実は父親は数日前に死んだことなど、事情を聞いた茉莉香は正式に「合法の宇宙海賊」である海賊船弁天丸の船長就任要請を受ける。

合法の宇宙海賊――茉莉香たちが暮らす海明星が宗主星との独立戦争の最中、弱体な戦力を補うために時の政府が発行した私掠船免状を持つ宇宙海賊のことだった。
独立戦争そのものは1世紀以上も前のこと。歴史の教科書にすら載っているような時代の話だが、免状そのものは有効なまま。
そしてその免状の更新には、船長の直系の継嗣でなければならないため、茉莉香に白羽の矢が立ったのだった。

とは言え、いきなり宇宙海賊の船長なんて……と返事を保留した茉莉香だったが、そこへ新任の教師として赴任してきたケイン、おなじく新たな保険医として赴任したミーサと再会することになる。ついでにケインはヨット部の顧問にもなっていた。
おまけに編入生として分校からやってきたチアキ・クリハラと言う女生徒までいて、しかもヨット部へ入部。
作為的な匂いがぷんぷんする中、ケインが星間航行の免許を持っていると言うことでヨット部は夏休みの合宿を兼ねて、所有する帆船型の宇宙船オデットⅡ世号で宇宙に出ることに。

単なる女子校のヨット部による練習航海。しかし、中継ステーション係留時からハッキングが行われ、練習航海中も不穏な気配が流れる。
そんな中、茉莉香の取った行動とは? そして茉莉香は宇宙海賊になるのか?』

なんて書いてますが、プロローグで茉莉香が宇宙海賊やってるシーンがあるので、宇宙海賊にはなるんですけどね(笑)

さておき、アニメを見ていたからだろうとは思いますが、絵ってやっぱり偉大ですね。
プロローグはいいんですが、第一章の最初から読むのをやめようかと思いました(笑)
と言うか、この手のSF経験値の低い私には、横文字の単語は意味わかんないし、茉莉香がヨット部のシミュレーターで大気圏突入のシミュレーションを行っているところ、オデットⅡ世号でのトラブルや航海など、ある程度のSFとか、飛行機とか、そういうのの知識がないと、まったく情景が思い浮かびません。
かろうじて読めたのは、アニメでこのシーンはああいう絵だった、と言うのが頼りになったわけで、そうでないとSF経験値の低い方にはかなりつらいのではないかと思います。
特にスペースオペラと銘打っておきながら、内容はラノベに近いので、ラノベ感覚で手を出すとホントにつらいと思います。

ストーリーは、宇宙海賊とは言っても宇宙海賊の仕事をしているのはプロローグだけ。あとは茉莉香が船長になる決断をするまでのヨット部での練習航海での出来事が中心です。
ストーリー展開はまぁまぁです。大きな破綻があるわけでもなく、そつなく進んでいきます。
武装も何もないオデットⅡ世号を襲う謎の宇宙船との電子戦が主となってストーリーは進み、茉莉香の発案でこれを退ける、と言うのが大筋の流れですが、どうやらこれが契機となって茉莉香は船長になる決意をするわけですが……。
決意に至るまでの茉莉香の心理描写が乏しいので、まったく説得力に欠けます。
まぁ、いろいろと想像することで楽しんでください、と言うことなのかもしれませんが、想像するのにすら心理描写に乏しいので、これもかなりきついのではないかと思います。

文章は最近のラノベ作家とはさすがに違って作法を心得ていますが、キャラの演じ分けがうまくないので、頻繁に話し言葉がいったい誰が喋っているのか、と言うのがわかりにくいことがあります。
キャラが多数出てきて……と言うのならわかりますが、当直でブリッジに詰めている茉莉香とチアキのふたりの会話ですら、どっちの台詞なのかがわかんないときが出てくるのはどうかと思いますね。
喋り言葉に特徴をつけるなり、地の文でフォローするなりして、きちんとわかるように書いてもらいたいものです。
典型的な「著者には想像できて書いてるけど、読んでるほうには伝わらない文章」です。

キャラもいまいちです。
アニメを見ていたので、その分脳内補正が効いてくれてキャラが立っているように見えてしまいますが、ホントのところはかなり微妙な線でしょう。
主人公の茉莉香からして、謎の宇宙船との電子戦に対して発案して撃退するなど、普通の女子高生にはどう足掻いても無理っぽそうなことを一晩で計画してしまったりと、遺伝という言葉で片付けるには無理があろうかと思います。
まぁ、宇宙海賊の船長になろう、って言うんだからこれくらいのことはできてくれないと困る、と言う意図はわかりますが、説得力を持たせてくれなければ評価にはマイナスにしかなりません。
主人公の茉莉香がこれなのだから、他のキャラに至っては推して知るべしでしょう。
SF経験値が低い、と言うのを差っ引いても、アニメを見てなかったらさっぱりな作品です。

と言うわけで、軽く読めそうなスペースオペラ……と言いたいところですが、悪いところばかり目立ってしまっているので、総評は落第です。
アニメのほうは絵があってわかりやすいので、おもしろかったのですが、よくアニメ化されたようなぁ、ってくらいです。
SF経験値の高い方にはいいかもしれませんが、それ以外の人にはまずオススメしません。

あ、そうそう、ひとつだけいいことがありました。
アニメを見ていたので、喋り言葉がちゃんと各キャラの声優さんの声で脳内再現してくれました(笑)
これは楽しかったなぁ(笑)
いや、別にそれだけですけど……。


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ア行に戻ってきました(笑)

2012-04-22 19:12:17 | ファンタジー(異世界)
さて、図書館の書棚もぐるりと1回回りましたの第1010回は、

タイトル:花守の竜の叙情詩リリカ
著者:淡路帆希
出版社:富士見書房 ファンタジア文庫(初版:'09)

であります。

ラノベだと電撃以外あまり食指が伸びないのですが、図書館の本棚に置いてあったので手を取ってみた。
ファンタジア文庫と言うと、ラノベの黎明期にはいろいろといい作品があったんだけど、最近はとんと目立つ作品が見当たらないので、ほんとうにいつ以来だろうって感じだけど……。

さて、ストーリーは、

『カロルという島の小国オクトス――エパティークは家族やその側近、神官たちとともに地下の霊廟にいた。
オクトスの父王エルンストの葬儀のためだった。慣例に則って行われる葬儀は、しかし粗野な物音に中断させられる。
対立していた隣国エッセウーナの兵士に襲われたのだ。王の死は国民にすら知らされていなかったはずなのに、エッセウーナはこのときを狙って襲ってきたのだった。
恐怖に駆られる中、何故かエパティークだけは命を取られず、連れ去られてしまう。

一方、オクトスを陥落させたエッセウーナでは、オクトスを陥落させた祝宴の中、テオバルトは祝宴を抜け出して中庭にいた。
そこへテオバルトを慕うかわいい妹姫のロザリーが現れ、無邪気に話しかけてくる。
それに応対していると、オクトス陥落の立役者である第一王子のラダーが現れ、テオバルトにオクトスに伝わる銀竜の伝説の話を持ち出してくる。

千年の昔、オクトスが敵の島国に襲撃されたとき、少年王だったオクトスの姉姫がオクトスを守るために聖峰スブリマレから身を投げ、銀竜となってオクトスを救ったと言う伝説を。
捕らえられたと言うオクトスのエパティーク、銀竜の伝説――ラダーの真意に気付いたテオバルトだったが、身分の低い母親から産まれ、その母も今は亡く、何の後ろ盾もないテオバルトに、第一王子で嗣子であるラダーに逆らう術はなかった。

かくしてテオバルトは奴隷商に身をやつし、エパティークとともに銀竜を呼び出すという夢物語のような旅へと旅立つことになった。』

うわー……、すごいふつうでまともなファンタジーだ(笑)

ストーリーは、銀竜を呼び出すために旅をするテオバルトとエパティークが当初は反目し合いながらも、途中買われてきたエレンという少女との触れ合いも通じて、エパティークがオクトスでの実情を知り、変わっていく過程を中心に、テオバルトと和解し、互いに心惹かれ合っていく、と言うありがちなファンタジー。
ストーリー自体に目を瞠るようなネタや展開はなく、エパティークの心の変化がさほど長くない旅では早すぎるきらいがあるものの、気になるところはそれくらいだろうか。
同じことがテオバルトにも言えるのだが……。
他にも、カロルという島がどの程度の大きさの島なのか、と言った基本情報がすっぽり抜けていて、世界観が掴みにくいと言う難点がある。
いいところとしては、伝承されている詩を効果的に使って、エパティークとテオバルトが惹かれ合う姿や、銀竜の伝説を語っていると言うところだろうか。

文章も基本はエパティークとテオバルトの視点から交互に描かれており、文章の作法も問題なく、ラノベとしてはかなりまっとうな部類に入る。
たまに主人公ふたりとは違う視点で描かれる場面があるので、きちんとふたりの視点だけで書いてほしかったと言う面はあるものの、そこまでひどいわけではないのでここはまだ許容範囲内だろう。

あとはキャラだが、上記のようにエパティーク、テオバルトともに心の変化が性急なのがキャラをブレさせる一因となっている。
テオバルトも実際は妹姫のロザリーをかなり可愛がっているのだが、当初はそんなところがしっかりと描かれていないので、銀竜召喚が成功した暁にラダーに望んだ条件なども唐突に見えてくる。
エパティークにも王女としての矜持や、それを見直し、変わっていく過程が表現不足の感があって、やはりキャラのブレが見え隠れする。
ありがちとは言え、ストーリー全体としては悪くないだけに、キャラがこれなのは残念ではある。

と言うわけで総評だけど、キャラのことに目をつむれば、ファンタジーの王道のひとつなので割合安心して読める作品とは言えるだろう。
いまのところ3巻まで出ているとは言っても、この1冊でとりあえずの完結を見ているので、2巻以降を読むかどうかの判断もしやすい。
いいところ、悪いところ、双方ともにあってやはり及第と言ったところになるだろうか。
ファンタジア文庫であまり期待していなかったぶんだけ、好印象ではあるのだけど、さすがに良品とは言い難いので、こういう結果に落ち着くのが妥当なところだろう。
ネタバレになるので言えないのだけど、個人的には2巻以降、エパティークとテオバルトふたりの関係をどう展開してくれるのか、興味はあるので読むとは思うけど……。

それにしてもAmazonでの評価は高いものの、新品がすでに2巻以外手に入らないってのも何だかなぁって感じだね。
まぁ、ストーリーもキャラも王道で、ツンデレとかキャラに萌えるような作品でもなく、アクションが充実しているわけでもないので、悪くない話ながらもあんまり人気は出なかったんだろうなぁ、とは思うけど。


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意外だったのは……

2012-04-21 18:23:31 | 小説全般
さて、いつの間にやらここまで来てたんだなぁの第1009回は、

タイトル:幸せのかたち
著者:松村比呂美
出版社:双葉社 双葉文庫(初版:'06)

であります。

著者は携帯小説出身らしいです。
携帯小説と言うと、どうしてもあの狭いディスプレイで読むことを考えて、書いていくものだろうから、いろいろと偏見があったりなかったり……^^;
なので、はっきり言ってまったく期待はしていなかったのですが……。

ストーリーは、

『買い物からの帰り道、紗江子は中学時代のクラスメイトだった美幸に声をかけられた。
クラスメイトと言っても卒業前に転校して、半年くらいしか一緒にいなかった美幸をすぐには思い出せなかったが、地味でおとなしかった当時とは打って変わって美幸は積極的に紗江子に話しかけ、住んでいると言うマンションに向かう。
そこで見つけた自分の顔が3Dで映し出されるクリスタル――薄気味悪さを覚え、美幸と電話番号の交換はしたものの、二度と会うことはないだろうとマンションを後にする。

一方、紗江子の昔ながらの友人の香織は、紗江子と共同経営で開いたリサイクルショップで暇をもてあましていた。
共同経営と言ってもすでに紗江子は手を引いていてひとり。その原因は香織が持ち込まれた品を言い値で買い取ってしまうからだった。
高値で買い取ってくれると評判になり、売り手は来るが買い手がなく、立ちゆかなくなっていたのだ。
結局、リサイクルショップは失敗、紗江子とも喧嘩別れしたままで味気ない生活を送っていた。

そんな紗江子と香織に転機が訪れる。
紗江子には夫の浮気疑惑、香織には夫の浮気による浮気相手の産まれたばかりの子供、と言う出来事だった。
紗江子はそのことから耳を背けるように、美幸が提案した輸入雑貨の店を出すと言う計画に飛びつき、香織は働いていたころの先輩の様子から育児は無理だと思っていたし、夫の浮気で離婚なんて惨めだと思って動けずにいた。
美幸は美幸で紗江子との輸入雑貨の店をオープンすることに満足していた。

三者三様、それぞれの出来事と思惑が入り乱れる中、紗江子は意外な事実を知ることになる……。』

まず、文章のことですが……。
偏見その1(笑)
どうしても携帯というもので見せる場合には、文章的な制約があって軽い文章を想像していたのですが、いやはや、まともでした。
と言うか、ラノベの文章の乱れっぷりを見ていると、かなりこちらのほうがマシでした。
表現に難はないし、文章の作法も乱れることなく、そつなく書いていて、期待していなかったぶんだけ意外な好感触でした。

ストーリーは、タイトルどおり紗江子、香織、美幸の3人の「幸せのかたち」を描いたもの。
美幸と出会ったことで起きる紗江子の夫の浮気騒動や、それを仕組んだ美幸。
また、美幸のほうも実際は早くに結婚していて子供もいたが、それに伴う苦労、そして夫の両親を含めての交通事故による家族の死、地味でおとなしかった中学時代に出会った紗江子への憧憬と執着……。
そうしたものが過去話とも絡んでしっかりと描かれていて好感が持てます。
ただ、物語の軸が紗江子と美幸にやや重点が置かれているせいか、香織の存在が蚊帳の外と言ったふうに見えるのが残念ですが、夫の浮気相手が生んだ赤ん坊と接し、名前もつけてやったりしているうちに、その子を育てるように思えるようになる下りには無理がありません。
3人の女性が選んだ「幸せのかたち」――タイトルのとおり、それぞれの幸せが何であったのかがしっかりと描かれています。

これまた期待していなかったぶんだけ、ストーリーも好感触です。
でも紹介文にある「人生の岐路に直面した三人の女性の姿を描く、ミステリアスな物語」のミステリアスってどういう意味なんでしょうね(笑)
「人生の岐路に~」という下りはわかりますが、この作品のどこにミステリアスな部分があるのか教えてほしいくらいです。
あえて挙げるとすれば、美幸の仕組んだ紗江子の夫の浮気騒動くらいでしょうか。
でもそれは美幸が持つ紗江子への憧憬と執着という面を描くためのもので、ミステリアスと呼ぶほどのものではないでしょう。
この言葉が持つ印象からストーリーを期待すると、はっきり期待外れになってしまうので注意しましょう。

と言うわけで総評ですが、期待していなかったぶんだけ好印象が多く、文章もストーリーもそつなくこなしてくれている本書ですが……。
及第以上良品未満――悪くはないんだけど、そこまでオススメできるほどの雰囲気があるわけでも勢いがあるわけでも秀逸な点があるわけでもないので、こういったところに落ち着いてしまうでしょう。
決してハズレではないので、手に取ってみてもいいとは思いますが、強いてオススメできる点がないのでこういう総評に落ち着いてしまいます。


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う~ん、こんなもんか……

2012-04-15 14:45:42 | 恋愛小説
さて、第1008回は、

タイトル:雨恋
著者:松尾由美
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'07)

であります。

相方が読んでいましたね、この人(笑)
読み返してみると、なかなかミステリとしてはそれなりの評価をしているようですが、本書はミステリではなく恋愛小説。
紹介文には「驚愕の事実」とか、「名手が描く、奇跡のラブ・ストーリー」とか、煽りまくってくれているけれど、どうなることやら……。

ストーリーは、

『沼田渉は、些細なことでアパートの隣人との関係が険悪になったことで、引っ越したいと考えていた。
そこへ降って沸いたのが叔母の寿美子がロサンゼルスへ異動になったために、住んでいたマンションと管理と2匹の子猫の世話を兼ねて住んでみないかという話だった。
結局、その話を承諾し、叔母のマンションに引っ越してきた渉だったが、そこにいたのは2匹の子猫だけではなかった。

ある日、マンションに帰ってきて家事をしていると、リビングのほうから話し声が聞こえた。自分以外は誰もいないはずの部屋で聞こえる声に薄気味悪さを抑えながら入っていくと、はっきりと声が聞こえる。
声の主は小田切千波。このマンションで自殺したとされるOLだったのだが、千波の話では自殺ではなく、誰かに殺されたと言うのだ。
実際、自殺しようとして遺書も書き、青酸化合物も手に入れた千波だったが、青酸化合物を飲むために開けたシャンパンのコルクが天井につり下げられた扇風機に引っかかったことがきっかけで自殺を取りやめたのだが、どうやらそこに居合わせた誰か――犯人に――扇風機に引っかかったコルクを取ろうとして椅子から転げ落ち、気絶した千波に青酸化合物の入ったシャンパンを飲ませて殺害した、らしい。

犯人が誰なのか知りたいのか、未練があるのか、死んでから千波は幽霊としてマンションに現れるようになっていた。
渉としてはこんな幽霊がいては精神衛生上よろしくない。単なるオーディオメーカーの営業に過ぎない渉に何ができるかはわからないものの、千波からの情報を得て、渉は犯人捜しに協力することになるのだが……』

ミステリ風味の恋愛小説もどき――。
第一の感想はそんなところでしょうか。

ストーリーは、犯人捜しに協力することになった渉が、いろいろと情報を得て犯人である可能性のある人物に会ったり、話をしたりして、千波の他殺を証明しようとする中、千波はと言うとひとつひとつ可能性をつぶして納得していく過程で、声だけだった姿が足だけ見えるようになり、ひとつ納得していくと今度は下半身、上半身と姿を取り戻し、それに渉は不気味さと居心地の悪さを感じつつも千波に惹かれていく、というもの。
犯人捜しの手法は、ミステリっぽいものですが、あくまで「っぽい」だけで「驚愕の事実」というほどのトリックがあるわけではない。
恋愛小説部分も、どこが「奇跡のラブ・ストーリー」なのか教えてもらいたいくらい、淡々と進んでいく。
文体が渉の一人称なので、その心の動きはしっかり描かれてはいるものの、さして感慨を覚えるような展開はない。
まぁ、相手が幽霊なので、恋愛小説としてのオチは定番なので、そこに切なさを感じるかもしれないけれど、私にはまったくそういった感慨は感じられなかった。
ミステリとしても恋愛小説としてもなんか中途半端で、消化不良を起こしてしまいそうな感じかなぁ。

ストーリー展開としては無理はない。
「驚愕の事実」はないにしても、犯人捜しから解決に至るまでの流れはスムーズで破綻はないし、納得できる内容にはなっている。
文章も渉の一人称の範囲を逸脱することなく、視点がぶれることもないので読みやすいほうでしょう。
雨の日にしか現れることができない千波を、最初は薄気味悪く、また姿が見えるようになってからの不気味さから、千波に惹かれていく展開も、うまく描いているほうでしょう。
共感できるかどうかは別として。

ただし、作品としてはよくまとまったものだとは言えるけど、恋愛小説と言うほど甘さや人間関係のドロドロした部分もなければ、雰囲気も感じられない。
解説ではいろいろといい点を挙げてはいるものの、はっきり言ってそこまで褒めるような内容になっているのか疑問……。
唯一、あぁ、そうね、って思えるのは「雨恋」が「雨乞い」でもある、と言うところくらいだろうか。
千波は雨の日にしか出てくることができないのだから。

なので、総評としてはかなり微妙なライン……。
客観的に見て、ストーリー展開とかには難がないものの、個人的には雰囲気も余韻もなく、おもしろみに欠ける作品と言ったところだから、及第にするべきか、落第にするべきかが悩ましいところ。
まぁ、あえて判断するとすれば、紹介文のまずさから、落第と言ったところかな。
ホント、いったい何をもって「驚愕の事実」だとか「奇跡のラブ・ストーリー」なのか、書いた人間の顔が見てみたいくらいの内容なので、紹介文にだまされて読むとバカを見る、と言うところでマイナスをつけておきましょう。


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