雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

「逝きて還らぬ人」を詠う ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……

2018-11-04 08:00:00 | 人生を謳う

「逝きて還らぬ人」を詠う
       ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……
  大切な人が逝ってしまう。
  人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。
  悲しいことではあるけれど、
  人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていく。
      死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる場合もある。
  どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない。
  
  〇 永遠に座る人なき椅子ひとつ隣にありて春夏秋冬                
                                                      
……… (福島市)美原凍子 朝日歌壇2016.04.18 
        花が咲き、花が散り、季節は変わりなく巡って来るがあの人がいつも座っていたお気に入り                    のイスに座るあなたはもういない。二つ並んだ椅子のひとつに座り愛しい人を思う。

 

  〇 天秤は望まぬ方に傾いて救えた命帰らぬ命  
                       
………  (新潟市)佐藤秀一 朝日歌壇2015.03.02
          もし、私が手を差しのべていたら… もし、私が車に載せていたら…
          もし…もし…もし… たくさんの後悔をが私を苦しめる。
          望まない方に天秤が傾いてしまったのが運命だというには、余りにも悲しい…


  
      〇 日常が日常でない日常を孫の遺影と語りて過ごす 
                                                                                                    ……… (川越市)吉川清子 朝日歌壇2016.02.02
    問われれば笑顔で応(こた)う我がいて遺影にひとり泣く我もいて
                                                           
……… (川越市)吉川清子 朝日歌壇2016.04.25
           「出来ることなら私が代わっててやりたかった」。「日常が日常でな」くなってしまったあの日以
                   来、孫の遺影に向かって語りかける日々が続いている。
                       孫を喪った悲しみから、立ち直っていく自分がいて、
                        それでもやっぱり一人になると在りし日の遺影に向かって泣いているもう一人の自分がいる。 

  

  〇 わが父母の眠りし墓地の柵下は沼田場(ぬたば)となれり帰還困難区域
                      ………名取市 志賀令明 朝日歌壇2016.09.05
        あの悪夢のような津波が襲ってきて、父と母を奪われた。あろうことか両親が眠る墓地は津波の                            泥と放射能に汚染された沼田場になってしまた。バリケードに囲まれた帰還困難地域の中にある墓地。
        両親と故郷を奪われた悲しみが5年経った今も忘れられない。
    
      2011年3月11日の東日本大震災から、5年を迎えた人たちの悲しみを選んでみました。
      5年という歳月が、悲しみを癒すにはとても短い時間のように思います。
      「逝きて還らぬ人」の思い出が、遺影の中から湧いてくるような切なく悲しい歌です。

              (2018.11.3記)   (人生を謳う)    

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2 コメント

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古代にも (もののはじめのiina)
2018-11-05 09:09:31
走水海(浦賀水道)を渡るとき海峡の神が大波を起こし船を翻弄したため、ヤマトタケルの后の弟橘比売命が海神の怒りをなだめるため入水しました。
そのとき、弟橘比売命が歌ったのが次です。
    「さねさし 相模さがむの小野に 燃ゆる火の 火中(ほなか)に立ちて 問ひし君はも」

ヤマトタケルが「弟橘姫」の死を悼んで、この地を去ろうとせず「君去らず」と呼ばれ、それが訛って木更津と呼ばれたそうです。

時代を問わず (雨あがりのペイブメント)
2018-11-05 22:08:36
コメントありがとうございます。
時代を問わず、「逝きし人」への悲しみは同じなのですね。人の考え方は、時代に即して変化していきますが、
心の感性はずっと変わりなく、古代から現代まで:継承されているのでしょう。
 神話の中の「地名の成り立ち」には、面白いものがありますね。

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