雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

読書紹介 「光あれ」(4) 馳星周著

2011-10-25 20:38:30 | 読書案内

 「光あれ」

 木綿子(事故死した昌也の妻)、小学一年の娘と暮らす。

徹の愛娘・美咲小学2年。

徹の妻・真理、そして、大阪で暮す愛子。

錯綜する人間模様。

 木綿子との関係も、先の見えない袋小路であり、娘との二人暮らしの中に隙間風のように入り込んでしまった徹。

 『砂を噛むような日々』の中で、

徹と真理の関係は最悪の事態を迎える。

木綿子の自殺が発端となり、木綿子との情事が露見し、

真理に一方的に離婚を強いられる徹。

 

 『あんなに好きやったのに、なんでこうなるんやろ』

真理はひとり言のように言い、

徹は「本当にすまない」と言葉少なにいえば、

『謝らないでよ。なんで謝ってばかりなんや。どうして別れへんとか、

離婚なんか絶対せえへんって言わんのや』。

 真理の目から涙があふれる。

砂を噛むような日々が続き、徹は愛娘に「ごめんな、美咲」と声をかけ、

追われるように家を出る。

 希望も意欲もなくした徹。

昔の女・愛子に会い、「一緒に暮らそう」と愛子は昔と変わらず優しい。

しかし、心に空いた大きな穴は埋まらない。

 

帰りたい。

家族のもとに帰りたい。

真理に電話をかける。

いつまでもなり続ける呼び出し音。

徹は待ち続ける……。

  作者は死んだように息づいている原発の町で、生き、もがき、

  それでも、この街にしか生き場所を見つけられない報われない登場人物に

  「光あれ」とあくまでも優しい。

                                    (終り)

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読書紹介「光あれ」 (3) 「花かえ」馳星周著 

2011-10-20 21:05:48 | 読書案内

 

花かえ」

 徹は20代半ばになっていた。

勤める会社も倒産のうわさが流れ、徹は収入の多い「原発」に職換えしようかと思っている。

 久々に街角で見かけた昌也は、

 スーツにネクタイをしめ、卑屈なほど腰を低くして、接待者を送り出す。

 徹と愛子の関係はまだ続いている、しかし……。

雪もとけ春の息吹が感じられ、「花換え祭り」が近づいている。

徹は毎年この「花かえ」の祭りを愛子と二人で行っていた。

だが、今年は三か月前に知り合った信用組合に勤める真理と行くことにした。

『思いあう男女が「花を換えましょう」と言いながら桜の枝を交換する。それが花換え祭りの由来だった』

 

 「おれはクズや。愛子に嘘ばっかし付くろくでなしや。花換え祭りに行きたくなくても、

愛子と寝たくて会いにきた。しょうもない男や。もう、おれのことなんか忘れろ」。

大声でわめき、走り去る徹。

 これが徹の精一杯の誠意なのか。

そうではあるまい。

自分勝手な我ままで飽きた女を捨てる無責任な男。

 未練を断ち切るように大阪に行く愛子。

 

 『真理となら、前を向いて人生を歩んでいけるような気がする。

(真理と一緒なら)この空虚な感情から逃れることができるだろう』と徹は思う。

半ば強引な運びで、徹は真理と結婚する。

職を換え原電の警備員として働く徹。

 果たして、徹の未来に灯りがともるのか……。

             次回は連作短編の最後「光あれ」を記載します。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読書紹介「光あれ」 (2) 「チェリノブイリ」「ふっかつのじゅもん」 馳星周著

2011-10-15 22:22:35 | 読書案内

 「チェリノブイリ」 

場面は中学時代の昌也と徹に遡る。

思春期の二人にとって家族はうっとうしい存在である。

会話のない家にうんざりしながらも、地域がら原発問題は中学生の二人をも巻き込んでいく。

市会議員で原発推進派の昌也の父は、反対派懐柔工作資金を原電側から受け取っている。

果敢な少年・昌也は親への反感から原発反対集会に参加する。

徹もまた、ある成り行きから、会場に行った。

が、特に原発に興味があったわけではない。

チェリノブイリの原発事故が起こるがそれさえも日にちがたってしまえば、

興味が薄れてしまい、話題に上ることもなくなり、ファミコンゲーム明け暮れてしまう。

 「ふっかつのじゅもん」

 高校生になった徹。17歳、相変わらず先の見えない無気力が続き、ファミコンに明け暮れるる

ふとしたことから、「原発ジプシー」といわれる大越と知り合うが、

大越は胃潰瘍をこじらせ、恋人にも見放され、入院費用にも事欠き、自殺してしまう。

 三十路になるキャパクラの愛子と徹の関係もまた光の見えない、

獣のように互いを求めあうメスとオスの関係であった。

 大越さんはゲームの「じゅもん」を間違えたから「ふっかつ」出来ずに死んでしまったのだと、

泣きながら愛子とのセックスを繰り返す徹。

 暗く、光の見えない生活がどこまで続いていくのか……

  連作短編次は「花かえ」で、20代の徹を紹介する。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読書紹介「光あれ」 (1) 「事故」 馳星周著 

2011-10-09 15:04:20 | 読書案内

 

 福井県敦賀市、原発銀座といわれる若狭湾周辺の寂れていく地方都市に生まれ育った男の10代前半から30代半ばにかけての日常を綴った連作短編集である。

 馳星周という作家の作風からはちょっと傾向の違う小説である。『犯罪は起こらない。犯罪者も出てこない。人は死ぬが殺人ではない。事故死か病死だ。3・11が起こる遥か前、原発の街で暮らす人間を描こうと思い立った』と、作者はそのブログで述べている。

 

発出誌「オール読物」   単行本:文芸春秋2011年8月刊 

   事故…………2009年8月号   

   チェリノブイリ ………  2009年12月号

   ふっかつのじゅもん … 2010年6月号   

    花かえ ……………… 2010年10月号

    光あれ ……………… 2011年3月号

 「事故」 

  スカイラインGT-R、安い車ではない。

その車に乗り込み昌也は、キーをひねりながら助手席に乗った徹に

自慢げにエンジンを回転させる。『玩具を手に入れた子供のような笑みを浮かべて』。

 車は、昌也の唯一の道楽であり、日常のストレスを解消する道具なのだろう。

妻の木綿子の大反対を押し切って無理をして購入した車である

 父親から受け継いだ会社は、破綻寸前で、

やり場のない不安と焦燥に追われるように昌也は車にのめりこんでいく。

 徹の生活環境も先が見えない。

不安と焦燥に包まれながら、美浜の原電で警備員をしている。

 夫婦仲も冷え切っていて、

「こんなの、夫婦やない。家庭やない。同じ屋根の下で、他人同士が暮らしているだけやないの」と、

いつも問題を先延ばしにして逃げてしまう徹に向かって、妻の真理は夫を責める。

 深夜に帰宅した徹に、小学2年の愛娘・美咲は、

「ママと離婚するの」と小さな胸を痛める。

 だが、徹は愛娘・美咲のために、冷え切った妻との関係を改善しようという気を起こすわけでもなく、先の見えない暮らしを惰性で続けている。

 

 そんな中、昌也は自慢のGT-Rで、

カーブを曲がり切れずに自爆し、死んでしまう。

 小説の最期は次のように終わる。

 

 (ふたたび、夜遅く帰宅し、美咲の部屋をのぞいた徹に )

「どなんしたん、パパ」

「なんでもない。ただ、美咲を抱きしめたくなっただけや」

「変なの」

「そうか?」

「離婚せんといて、パパ。お願い」

「うん。わかってってる」

俺は美咲の頭を撫で、頬にキスをした。

 徹の未来を暗示し、かすかに希望の灯りを見せて、小説は終わる。一話完結としても楽しめるが、連作小説として、次は「チェリノブイリ」を紹介します。

                                         (つづく)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする