「光あれ」
木綿子(事故死した昌也の妻)、小学一年の娘と暮らす。
徹の愛娘・美咲小学2年。
徹の妻・真理、そして、大阪で暮す愛子。
錯綜する人間模様。
木綿子との関係も、先の見えない袋小路であり、娘との二人暮らしの中に隙間風のように入り込んでしまった徹。
『砂を噛むような日々』の中で、
徹と真理の関係は最悪の事態を迎える。
木綿子の自殺が発端となり、木綿子との情事が露見し、
真理に一方的に離婚を強いられる徹。
『あんなに好きやったのに、なんでこうなるんやろ』
真理はひとり言のように言い、
徹は「本当にすまない」と言葉少なにいえば、
『謝らないでよ。なんで謝ってばかりなんや。どうして別れへんとか、
離婚なんか絶対せえへんって言わんのや』。
真理の目から涙があふれる。
砂を噛むような日々が続き、徹は愛娘に「ごめんな、美咲」と声をかけ、
追われるように家を出る。
希望も意欲もなくした徹。
昔の女・愛子に会い、「一緒に暮らそう」と愛子は昔と変わらず優しい。
しかし、心に空いた大きな穴は埋まらない。
帰りたい。
家族のもとに帰りたい。
真理に電話をかける。
いつまでもなり続ける呼び出し音。
徹は待ち続ける……。
作者は死んだように息づいている原発の町で、生き、もがき、
それでも、この街にしか生き場所を見つけられない報われない登場人物に
「光あれ」とあくまでも優しい。
(終り)