追悼八代亜紀② 舟唄 映画「駅STATION」
1979年 舟唄発表、その2年後1981年映画「駅 ステーション」公開。
高倉健が倍賞千恵子の経営する小さな居酒屋で酒を飲むシーン。
「正月も、くにには帰らないのかい?」
訪わずがたりの会話が続き、互いの孤独な人生が浮かんでくる。
戸口の向こうはしんしんと降る雪。
大晦日。
うらぶれた港町の凍れる夜。
カウンターに座る高倉。客は高倉一人。
カウンターの先にあるテレビ。にぎやかな紅白歌合戦が移り、画面には「舟唄」を歌う八代亜紀。
「この歌好なの わたし」と口ずさむ桐子。
「お酒はぬるめの燗がいい/肴はあぶったイカがいい……」
北海道 増毛町の居酒屋「桐子」にふらりと入ってきた男。
流れるように、漂うようにゆらゆら揺れて、孤独な男と女が結ばれる。
一夜(ひとよ)かぎりの情けにすがり、ひとときの胸の灯をともす。
雪のように明日は解けて消えてしまう。
切ない夜だ。
灯りはぼんやり 灯(とも)りゃいい
しみじみ飲めば しみじみと
想い出だけが 行き過ぎる
涙がポロリと こぼれたら
歌いだすのさ 舟唄を (作詞・阿久 悠)
「歌はだれかの心を表現する代弁者だ」、
生前八代亜紀は歌に託する思いをそう表現した。
親しみやすい語り口は、コンサートに集う人を魅了し、
彼女の優しさに触れ、ハスキーボイスに酔いしれた。
あの笑顔と歌声はもう聞くことができない。
涙がポロリとこぼれたら 歌いだすのさ 舟唄を
どこかのうらぶれた居酒屋の片隅で、ままにならない人生の寂しさを
歌に託し、今夜も、寂しい親父たちが唄っているかもしれない。
哀悼 八代亜紀 安らかにご冥福を祈ります
『人生の贈りもの』 歌 八代亜紀 詞 吉元由美
生きてみなくてはわからない
乗り越えられない
痛みはないの
つらいときほど微笑んでいたら
長い夜にも夜明けがくる
(愛の歌でもなく、失恋の歌でもない)
【今日のことば】『高嶺の花』
東京23区内のマンションの平均価格が1億1483万円に達した。
日経平均株価は34年ぶりに史上最高高値を記録した。2日連続の記録更新である。
バブル期絶頂期の1989年12月につけた終値の3万8915円を超えて、3万9233円71銭で取引を終了した。
これは、景気高揚の先駆けになるのか。
いずれにしても、物価高に日常生活を脅かされる庶民にとっては、高嶺の花の物語である。経済の
同時に、富の分配が偏って経済の格差がますます進んでいくのではないかと、
危惧する今日この頃である。
2024年2月26日天声人語氏は次のように庶民の声を代弁する。
多くの人にとって物価は上がれど実入りは増えず、チラシで見る1億円は遠いままだ。
一方で、億ションは売れ続けている。
この状況、やはりいびつである。
(昨日の風 今日の風№140) (2024.02.28記)