雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

北海道 旭川いじめ凍死事件 ②

2022-09-29 06:30:00 | ニュースの声

北海道 旭川いじめ凍死事件 ②
  旭川中二いじめ 第三者委員会による最終報告書について
      
最終報告書に触れる前に、①で示した概要のもう少し詳しい事件の内容を
      お知らせします。

   
   2021年2月⒔日夕刻、母親が外出した際に家を出ていって行方不明になった。
   家を出る直前に爽彩(さあや)さんは複数の友人にLINEでメッセージを送っていた。
   『今日死のうと思う 今まで怖くてさ 何もできなかった ごめんね』
   メッセージを受けた友人の一人が、警察に通報し、母親は娘の疾走を知ることになる。
   北海道旭川市の2月は寒く当夜の気温は零下17度にもなり、
   外出時の服装が薄着だっことから安否が気遣われていた。
   失踪から19日が経ち一向に行方はわからず、その痕跡さえつかめず捜査は手詰まりとなり、
   旭川警察は3月4日、公開捜査に踏み切った。
   母親は懸賞金まで掛けて、一人娘の爽彩の無事を祈った。
   悲報が母親の元に届いたのは、3月23日の午後2時半。
   失踪から38日が経っていた。
        旭川の春は遅い。積雪の多い町は雪が解けずに根雪となって残る。
        それでも遅い春の兆しは、積もった雪を徐々に溶かしていく。
        やがて春が訪れれば、公園は雪解けを待っていた子どもたちの遊び場になっていく。
                             解けた雪の下から爽彩さんの体の一部分が姿を現したのを
        公園近くの住民が発見した。
        爽彩さんは凍り付いたままもの言わぬ遺体となっていた。

      「安置所で遺体を見たら、間違いなくあの子だったんです。
    娘は凍っていました。私は何度も娘に謝りました」 後日、取材に応じた母親の言葉である。

   2019年4月、爽彩さんは北海道旭川市立の中学校に入学。
   大人になる過程でくぐる門は、
   たくさんの夢と少しの不安を抱えた少年少女たちの学び舎であるはずだった。
   だが、爽彩さんへのいじめは入学間もない4月から始まった。
   爽彩さんの顔は日を追うごとに暗くなり、顔つきが変わり、笑顔が消えてしまった。
   異常な様子に母親は何度も、「娘はいじめられているのではないか」と相談した。
   4月に1回、5月に2回、6月に1回の担任への相談は、母親の心配とは裏腹に
   とても真剣に考え、対処しているとは思えない言葉が返ってくる。

   「あの子たちおバカだから、いじめなどないですよ」
   「今日は彼氏とデートなので、相談は明日でもいいですか」(親族の話)
   「いじめありますよね?調べてください」との母親の電話に、
   早い時にはその日の午後や次の日に担任から連絡がくる。
   「本当に仲のいい友達です。親友です」
   母親の心配とは、具体的な根拠も説明せずに、熱意のない言葉が担任から帰ってくる。

   報道によれば、いじめは徐々にエスカレートしていったようです。
   母親が担任に相談した時点で、適切な対応をしていれば、
   爽彩さんは、命を落とさずに済んだと思われ、
   学校、教育委員会等の無責任な対応に激しい憤りを覚えます。

   6月15日に爽彩さんは、公園に呼び出され、
   自慰行為を数人のグループが見ているところで強要される。
   グループのいじめはさらにエスカレートしていき、自尊心を壊された爽彩さんは、
   更なる犯罪行為と思える様ないじめに遭い、自殺未遂を計ることになる。
   「死ぬ気もねぇのに死ぬとか言うなよ」
   と爽彩さんを煽ります。
   爽彩さんは10人近くに囲まれ孤立無援の状況の中、4㍍の高さの土手を降りて、
   川へ飛び込み、警察の出動となりました。
   地元の情報誌「メディアあさひかわ」はこの事件を次のように報道しています。
   自身の不適切な写真や動画を男子生徒によってSNSに拡散されたことを知った女子生徒が
   精神的に追い詰められ、橋から飛び降りて自殺未遂を図った。  

   この事件後、爽彩さんは一連のいじめによるPTSDで苦しみ、2021年2月13日失踪し、
   3月23日凍り付いた変わり果てた姿で発見された。
   これが〈いじめ凍死事件〉の概要です。
   凄惨ないじめの内容にまで触れた報道もありましたが、
   爽彩さんが受けた心の傷を思うと、私にはこれ以上の詳細を書くことはできませんでした。

   死亡した経緯について、
   市の第三者委員会がおよそ1年4ヵ月にわたって調査してきました。
   20日に公表された調査の最終報告書は、2022年4月に出された中間報告と変わらず、
   新たな展開は認められず、6項目を「いじめ」と認定するにとどめている。
   最終報告書に新たに盛り込まれたのは、学校や教育委員会の対応についての見解だけでした。
   

   遺族はこの最終報告書を不服として、再調査を求める事項を発表している。
   〈1〉いじめ防止対策推進法第2条に基ずく、爽彩さんにたいする「いじめ」に関する調査検証。
   〈2〉「いじめ」と自死との関連性の調査検証。
   〈3〉「いじめ」に対する学校及び教育委員会の対応に関する調査検証。
    等を要求しています。
                        (つづく
)
   
    (ニュースの声№18)            (2022.9.28記)


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北海道 旭川いじめ凍死事件 ①

2022-09-22 06:30:00 | ニュースの声

北海道 旭川いじめ凍死事件 ①
  
 旭川市の公園で昨年、中学2年の女子生徒が凍死した問題で、
  生徒へのいじめや、
  学校の対応などを調べた第三者委員会が設置主体の市教委に最終報告書を提出した。
  
旭川市教委は17日、第三者委員会の最終報告書の概要版を20日に公表する方針を決めた。
  黒蕨真一教育長が同日午前の市議会本会議で説明す、
  市教委と第三者委の記者会見は同日以降に行う予定。
  18日の記者会見で公表の予定だったが、文言の修正などに時間を要しているとして、
  20日の市議会で教育長の説明後、
  今津寛介市長が再調査のため市長直属の第三者委を設置する方針を表明する予定である。
  
   事件の始まりから3年以上も過ぎているのに、随分のんびりした話である。
  今の第三者委員会の構成員は、一回目委員会の構成員に事件関係者がいたために再編成された
  委員会だ。しかも、二回目のメンバーにも問題があり、一部入れ替えになった経緯がある。
  また、約束の期日に報告書ができず、発表の延期迄している。
       そして、20日第三者委員会から報告書が発表になった。
  要旨であるが報告書をよんで、
  やっぱり問題ありの報告書で遺族が再調査を希望しても仕方のない内容だ。

  旭川今津寛介市長は、この報告書に関して市議会本会議で、
  「議会の真相解明には更なる検証の必要性を感じ、遺族の思いに応えるべく、真相を明らかにする」
  と述べ、市長直属の再調査を行うと答弁している。

  今回は、このいじめ凍死事件をよく知らない人のために、
  以下に概要を述べ、次回から報告書の内容について私の思うところを述べようと思います。

  
 事件の概要
     事件は3年5カ月前にさかのぼる。
    中学2年女子生徒は、2019年4月北海道旭川市立北西中学校入学。
    まもなく同校の男女生徒によるいじめが始まった。
    とても陰湿で耐えられないような性的な内容を含む集団のいじめが続いた。
    いじめはエスカレートしていく。
    
2019年6月22日、女生徒はいじめグループ(十数名の男女生徒)囲まれ、
    自殺を教唆するような、「死ぬ気もないくせに…」などと煽(あお)り言葉を浴びせられ、
    孤立無援の中で、「死ぬから画像を消して」とウッペツ川に飛び込み警察が出動する。

     いじめ事件が公になる概要です。
    だが、いじめグループの事情聴取では、
             「母親の虐待が原因で飛び込み自殺未遂をした」と説明する。
               聴取された全員が同様な説明をしたとなれば、
          この説明は単なる嘘というよりは、悪質な口裏合わせであり、
    深堀すれば、関係児童の大人が説明内容を教唆したのではないかと疑いたくなってくる。
    この説明が嘘というよりは、
    悪質な捏造であることは警察の被害者のLINEの復元ではっきりして、
    いじめの実態が判明してくる。
                               (つづく)
   (ニュースの声№17)      (2022.9.21記)

 

 

 

 

 


    
   

   


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勤務マニュアル

2022-09-17 06:30:00 | ことの葉散歩道

勤務マニュアル
  職場にマニュアルは必要だが、あまりに細かいマニュアルは、融通性を欠き、
  職場の規範をややこしくしてしまい、自発性を奪ってしまう。
  最悪の場合は、マニュアルがなければ何もできなくなってしまう。
  マニュアルは職場で働く人が、気持ちよく働くための指針になような内容でなければならない。
  「防火マニュアル」、「地震などによる避難マニュアル」、「接客マニュアル」、
  「苦情処理マニュアル」等々たくさんの種類がある。
  肝心なことは、誰が作ったマニュアルかということである。
  実行委員会(現場)で作成されたマニュアルは、職場を管轄する上司に提出され、承認を得る。
  作れと行政指導があったから、監査で指摘されたからなど、同業他社のマニュアルをそのまま
  引用したものは、マニュアルのためのマニュアルで、実務に即していない場合が多い。
  マニュアルは実務者の共通認識として、
  働きやすい職場づくりの一環であることを忘れてはいけない。
  最悪の場合は、事務所に保管され実務者がその存在すら知らない場合もある。
  作成したマニュアルは、年に一度実務に合わせ検討し実務との乖離を避けなければならない。
  
   雇用する側が一方的に作成し、上意下達的に雇用者に与えるやり方は好ましくない。
  どうしても、経営する側の要求が強すぎ、実務者に負担かかりすぎる場合が多いからだ。
  前述したように実行委員会を作成し、関係各部の構成メンバーにより検討作成することが望ましい。

   最近、園児置き去り死亡事故を起こしてしまった川崎幼稚園の場合、同業者が作成した送迎時の
  マニュアルをコピーし、一部の職員に配布しただけで、検討会議をしたこともないという。
  また、理事長と園長を兼務していた増田氏は、
  代行運転をした際、
  運転者の業務である車内消毒や忘れ物の有無の確認など行わなかったと報道される。
  経営者だから、マニュアルを守らなくてもいいということでは、
  マニュアルの存在価値がなくなってしまう。
  この幼稚園では、 多くのルールが形骸化し緊張感を欠いた業務が展開されていたのだろう。
  いくつものミスが重なり合って、尊い命が失われてしまった責任は重い。

     西村経産相の「出張随行用マニュアル」
       随行職員が作成した勤務マニュアル。
        大臣は土産購入が多いので荷物持ち要因を置くこと。
        帰路の駅では弁当購入者とサラダ購入者の二手で対応すること。
         (大臣は健康維持のためにジムに通っており、
          できるだけ炭水化物を控えるようにしている)
        お土産店では事務方が代金を立替払いする。
         (大臣が払おうとするが、時間がかかり時間のロスにもなるので立替える)
        保冷剤の購入は必須。(サラダの保冷用)
       等々、箇条書きにすると、これはちょっと問題なんじゃないと思える節もあるが、
       事務方は、大臣の出張目的を円滑にサポートするための業務の一環として、
       作成したのだろう。随行職員の職務は「お土産購入サポート」が目的ではないことを
       記事は伝えて欲しい。
       こうした批判に対し、西村大臣は
         「過度に気を使うことはない」と事務方に伝えた、という。
       
  最後に、城山三郎の小説『官僚たちの夏』から、
  箴言(しんげん)を一つ紹介します。
  ベテラン官僚が若手官僚に言い聞かせる場面。
           《おれたちは国家に雇われている。大臣に雇われているわけではない。》 

     (ことの葉散歩道№48)       (2022.9.16記)       

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ニュースの声(16) 北方領土 ビザなし渡航合意破棄

2022-09-13 06:30:00 | ニュースの声

ニュースの声(16)  北方領土 ビザなし渡航合意破棄
  ロシア、強硬姿勢強める (朝日新聞2022.9.7)

      2022年2月25日 。ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まった日だ。
      世界を暗雲が覆い始め、平和を侵す危険な入口への扉が開いた日だ。
      西側と東側を分断するような危険な壁が作られ、
      単にロシアとウクライナの二国間の問題ではなくなってしまった。
      ウクライナを支援する国としない国、あるいは傍観する国。
      ロシアを支援する国と世界が色分けされてしまうような危険な状態が、出現した。

      ロシアはウクライナ侵攻後の3月、欧米とともに日本を「非友好国」に指定。
     北方領土問題を含む日本との平和条約交渉の中断と、ビザなし渡航の停止を決めていた。
     領土問題ばかりでなく、日ロ間の漁業協定の履行停止なども決めていた。
     友好国と非友好国という対立の構図が出来上がり、自国の正当性を主張し、
     対立する国々に対抗措置を計れば、益々溝は深まり、
     解決のための話し合いの場は遠ざかっていく。
     ロシアは孤立を余儀なくされる。

                9月5日、ロシア政府は、北方領土の元島民らによる「ビザなし渡航」についての
    日本との合意を一方的に破棄すると発表。
    停止や中断ではなく、一方的な平和条約交渉の破棄という強硬手段である。

     30年前の1992年4月22日、ロシア人の第一陣を乗せた船が、根室の花咲港に入港してきた。
    二国間の住民同士が、互いに海を渡り交流を深める取り組みは、日本や関係者にとって
    北方領土問題の解決へつなげる大切な試みだった。
    これまでに、およそ1万4000人の元島民等の関係者たちが日本側から、
    ロシア側からおよそ1万人が参加し、ホームステイなど草の根の交流を重ねてきた。
    そうした試みが、侵略戦争の手段として一方的に破棄されてしまうことに、
    プーチン氏の手段を選ばないルールを無視した姿勢が見えてきて怒りを覚える。
    国民のための政治が、戦争の手段に使われてしまう。
    なんと理不尽な行為なのだろう。
    先人たちが、互いに国の代表として築いてきた北方領土への解決への糸口を
    プーチン氏は切ってしまった。

     合意破棄について、岸田首相は6日、事前の連絡もなく、破毀宣言をするロシアに対して、
    「極めて不当なものであり、断じて受け入れられない」と発言しているが、
    空しい言葉の響きしか感じられない。このことに関して、どのような対抗策をとるのか、
    あるいは話し合いのルートを探るのか、発言からはなにも見えてこない。

     
     元島民の平均年齢は86歳を超えて高齢化が進んでいる。
    交流がいつ再開できるのか、そして再び故郷を訪問できるのか住民の不安が広がっている。

     「これで振り出しに戻ってしまうのか」(元島民
 85歳)
     「揺さぶりなのか、本音なのか、ロシアの真意がつかめない政府同士が向きあって
      一日も早く交流を再開して欲しい」 (両親が国後島出身 70歳)

        当事者の声は、私たちの声でもある。

      (ニュースの声№16)      (2022.9.12記)

     

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読書案内「動く壁」 吉村昭著  要人の命を守れ

2022-09-09 06:30:00 | 読書案内

読書案内「動く壁」 吉村昭著 要人の命を守れ

         安倍元首相が暴漢に襲われた。あれからもうすぐ60日が過ぎようとしている。
  2022.7.9付の各社は、激しい口調でこの暴挙を非難した。
  銃弾が打ち砕いたのは民主主義の根幹である。全身の怒りをもって、この凶行を非難する。
                                         (朝日新聞 社説)
  暴力の卑劣さは、何度非難しても避難し足りることはない。(略)
   どんな政治であっても、それをただすのは言論、そして民主主義の手続きである。
                                                                                                                         (天声人語)
    話を聞き、問うための場を、命を奪う場にしたのが、現場で逮捕された41歳の容疑者だ。
   (略)待ち構えていた行動の裏に、どんな暗い熱があったのか。
                                     (天声人語)

  事件の背景がまだ解明されていない発生直後の発信であり、
 論理があまりに飛躍しているのではないか。

 文面にはテロという言葉はないが、内容は「テロ」を想定するような文言が踊っていた。
 文面を読めば、奈良県警発表として、
 「(安倍氏の)政治的信条に恨みはない」
 「特定の(宗教)団体に恨みがあ」
るとも供述していると書いてある。
  しかし、この日の朝日は、興奮気味に紙面を飾っている。
 「安倍氏テロの銃撃にたおれる」という匂いが漂っている。

  日を追うごとに、事件は政治的な要素から離れ、
 政治家と特定宗教団体のつながりが表面化し、

 「要人警護」の不備が紙面をにぎわすようになった。
  事件現場のビデオを見ながら、
 私は安倍氏の後方が、手薄であり、
 まるで丸腰の安倍氏が不用意にも
敵に背中を見せているような陣形だな、と思った。

     ----- 〇 ----- 〇 ----- 〇 ----ー 〇 -----

 『動く壁』
   吉村昭の初期の短編のタイトルだ。
   作者35歳のときの60年も前に書かれた小説で、オール読物に掲載された短編。
   小説では食えず、翌年には
   次兄経営の繊維会社に勤務しながらの文学修行の時代に書かれた小説でした
    小説では要人警護を任務とする者(SP)は、命を張って要人の『壁』になることを要求される
    吉村昭はこれを「動く壁」と表現した。
       (1994年フジテレビ放映のドラマ 2021年に再放送)
            日本の要人警護(SP・セキュリテイ・ポリス)について
              創設当時のSPは、要人の前には立たない、目立たないようにする、
              という警護が主流だったようです。
              創設のきっかけは、1975年「三木首相殴打事件」が発生。この事件は、
              佐藤栄作元首相の国民葬会場で、内閣総理大臣の三木武夫氏が右翼団体
              の襲撃を受けた事件で、創設当時の前面に出ない警護スタイルのすきを
              ついて発生した事件といわれている。
               この事件をきっかけに、当時アメリカで実践されていた前面に出て目
              立つ警護をするSS(シークレットサービス)型警護が採用されたと言われて
              います。
  ……わびしい葬儀が営まれていた。会葬者も少なく、
 忌中の簾の中から漏れてくる読経の声も低かった。
 しかし、その路を偶然通る人々は、家の前にただ一基立てられた花輪を目にすると、
 例外なく足をくぎづけにし、花輪を驚いたように凝視し、そしてからいぶかしそうに
 小さな祭壇の灯のまたたく家の中をうかがった。(冒頭から引用)
    
  通りすがりの人々が驚き、いぶかしんだのはこの場末の街のただ一基飾られた花輪の豪華さであり、
 更に送り主の名札に現職総理大臣の名前を見た時だった。
  冒頭から一気に読者を引き込んでいく素晴らしい書き出しだ。
 若い警察官の死と総理大臣との間にどんな関係があるのだろう。
   と、期待に胸躍らせながらページを繰る。

  身辺警護員に任命され、
 彼はブローニングの小型ピストルを支給され総理の身辺警護の任務に就く。
 拳銃の使用は原則、禁止されている。
 拳銃を使用して市民を殺傷してしまう恐れがあるというのが、その理由だ。

襲ってくる者は、必ず凶器を身にひそませているのが常識だ。
それを防ぐ警護員たちに使用できる武器がないとなれば、
筋肉で骨で襲来者のひらめかす刃先を、
弾丸を、防ぎ止めねばならないのだ。
 
総理が私邸や官邸から出るあさから、夜戻るまで緊張の連続の中警護が続けられる。
 
 ひとしきりわびしい葬儀の描写が終わると、
 三日前の夜半に起こった彼の死亡事故に関する記述に移っていく。
   緩いカーブを疾走するオートバイ。不意に前方にタクシーのヘッドライトが見えた。
   若者の運転するオートバイはハンドルを切ったまま、スピードの慣性のまま、歩道に
   乗り上げ横転。歩道を歩いていた男は事故に巻き込まれ、街灯の鉄柱に頭をぶつけて即死した。

 警護という職業で身体に染みついた反射神経が、
 音や光、人の声などに、感応し無意識のうちに体が動いていく。

 オートバイの交通事故に巻き込まれた事故死なのか。
 警護を職業とする警察官の死亡事故として処理するには、あまりにもあっけない事故だ。
 オートバイとタクシーのライトが緩いカーブで交差する。
 なぜ彼がそこにいたのか。
 体に染みついた反射神経がなぜ働かなかったのか。
 疑問を残したまま、彼の死は事故死として処理される。

  小説では警護員たちの私生活まで犠牲にしながら、
  ストレスと戦い要人警護に従事する警護員の姿が描写される。
  再び描写は事故当日の現場に戻る。
  作者は読者を寂寥感で満たすような最後の三行を用意して小説を終る。

  女は、小走りに歩いた。そして、裾をひるがえしながら、道を曲がって去って行った。
  サイレンの音が、また一つきこえてきた。
  ……夜空は、冴え冴えとした満天の星空だった。
 
      (読書案内№186)              (2022.9.8記)    

 

 

 

 

 

 
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