雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

読書案内 「真鶴」

2015-06-20 10:00:00 | 読書案内

読書案内「真鶴」川上弘美著 文芸春秋2006.10 第一刷

 

 女性作家の小説はあまり読まない。神経の細やかさと、感情の襞(ひだ)を分け入るような表現に男の私はなかなかついていけない。(例外として、山崎豊子の著作「沈まぬ太陽」や「運命の人」などはスケールが大きく、面白く感じた)。川上弘美の小説も初めてだが、なかなか読み進めることが出来なかった。ストーリー性に乏しい小説は苦手だ。

 12前に、突然夫が失踪してしまう。

日記に残された「真鶴」という言葉に惹かれ、東京と真鶴を何度か往復する主人公・京。

真鶴に何があるのか。夫の失踪の原因が発見できるのか。夫は真鶴にいるのか。

実母と夫・礼との間の一人娘・百(もも)との3人暮らしであるが、家族のある青茲との不倫関係もある。

 真鶴行には、不可解な女『ついてくる女』が登場する。突然現れ、突然に姿を消す。

これは京のもう一人の自分なのか、分身なのか、説明はない。

幻覚と幻聴なのか、京の精神が病んでいるのか。一切の判断は読者にゆだねられている。

 不倫相手の青茲との関係も満たされてはいるが、失踪した夫・礼への未練があるのだろう。

未練というより、京を捨てて失踪した夫への断ちがたい情念の炎か。

 

 失踪した夫は、京に殺されたのではないか。私にもこうした妄想が湧いてくる。

先の見えない物語に終始惑わされつつ最終章を迎えてしまった。

釈然としないまま、私の心に残ったものは、女の理解しがたい情念の世界だ。

それは、石川さゆりが情感こめて歌う「天城越え」(作詞・吉岡治)の現実と情念の世界が混然と一体化するような、理解しがたい世界だ。

……誰かに盗られる くらいなら 

  あなたを殺して いいですか

 ……ふたりで居たって 寒いけど

   嘘でもだかれりゃ あたたかい

 この小説にとって、私はよい読者ではない。主人公・京の心の動きを理解することなくペンを置くことになる。

評価☆☆☆ (同じ装丁で文春文庫でも発刊) (2015.6.19記)

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映画「おかあさんの木」

2015-06-16 22:30:00 | 映画

映画「おかあさんの木」

監督・脚本 磯村一路  主演・鈴木京香

 映画のキャッチコピー 

 おかあさんは、「おかえり」といえたのでしょうか。子供たちは、「ただいま」といえたのでしょうか。

 

 七人の子どもたちの代わりに、七本の桐の木が残った。

ファーストシーンは、成長した桐の老木をアップでとらえやがて俯瞰(ふかん)する寒々とした風景から始まる。

これから始まる物語を象徴するような風景だ。

映画の前半は、夫と7人の子どもたちとの、つましくも温かい家庭の風景が続く。

貧しいが一つ屋根の下で深いきずなで結ばれた家族の日常が描かれる。

 突然の夫の病死から、「おかあさん」の肩には7人の子どもたちの子育てが重くのしかかる。

ここまでは原作にはない。映画は、どこにでもあった戦前の家庭のつつましさを描くことにより、

これから起きる戦争の悲劇をより悲しい現実として対比させ、

7本の桐の木にまつわる「おかあさんの木」の悲劇を一層際立たせるのに成功している。

 

  脚本では、原作にないものを描くことにより、観客に「おかあさん」の悲しみを分かりやすく訴えている。

 

「あの木を切ってはならん」冒頭、語り部として登場する奈良岡朋子に言わせることにより、

観客はこれから始まる物語に想いを馳せる。出征のシーンが何度か出て来るがこれも原作にはない。

圧巻は出征する五郎の足に縋り付き、

「死んではいけない。必ず生きて帰ってこい」と泣く母に、憲兵の長靴が「非国民!!」と罵り母の背中を蹴るシーンだ。

原作にはないシーンが多々あるが、原作を損なうものではない。

 一切の余分なものを切り捨て、「おかあさんと木」に焦点を当てた原作も味わい深い。

「おかえり」「ただいま」といえるあたりまえの日常がいかに尊く大切なことかを、

映画も児童文学の物語も、私たちに訴えている。     (2015.6.16記)

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読書案内「おかあさんの木」

2015-06-11 22:28:45 | 読書案内

読書案内「おかあさんの木」    

    大川悦生著 戦争と平和のものがたり 第2巻収録 ポプラ社2015.3第一刷

 

 発表から45年余りたった今、戦後70年を迎え「おかあさんの木」がブレイクしている。

作者は98年没。良い作品は時を経て、時代を超えていつまでも輝き、読む人の心を捉える。

 

 昭和12 (1937) 年、日中戦争が勃発、戦火は瞬く間に世界に広がり、太平洋戦争に発展した。

 この暗い時代に生きた「母」の物語を、民話形式で語っていく。

 7人の息子たちは次々に兵隊にとられ、

「母」の切ない思いは、出征のたびに息子たちの無事を祈り、桐の木を植えていきます。

桐の木はそれぞれに息子たちの名前が付けられました。

一郎、二郎、三郎……。毎朝、息子たちの木に向かって「母」は、

お前たちも「戦地でげんきかいな、ひきょぅなまねはせんと、おくにのために、てがらをたてておくれや」

と祈る毎日だった。

 

 一郎の遺骨が帰ってきた。

「おやくにたててうれしゅうございます」気丈な母は、人前で涙ひとつこぼさんかったそうです。

一人になった「母」は一郎の木に取りすがり

「さぞつらかっただろうね。……死にたくなかったろうね」と泣いたそうな。

 

 以来、桐の木に話しかける「母」の言葉がすっかり変わったそうな。

「一郎にいさんみたいに死んだらいけん。てがらなんてたてんでもいい。…生きて帰っておくれや」

「戦争で死なせるために、おまえたちをうんだのではないぞえ。いっしょうけんめい大きくしたのではないぞえ」

 

 8年もの長い戦争が終わり、大勢の人が死んだ。

二郎は南の島で、三郎は船と一緒に海の底に、四郎はガタルカナルで、戦死。

五郎はビルマのジャングルで行方知れず、六郎は沖縄で、七郎は特攻で死んだという。

 

 それでも「母」は、

「ひとりでいいに、……どうぞかえしてくだされや」と桐の木に向かって祈り、帰りを待った。

 

 秋が過ぎて、戦争に負けた年の寒い冬が来ても、誰も帰っては来なかった。

七本の桐の木は見上げるほどに大きくなり、その分「母」は年を取った。

 

 やがて、うれしい結末と、悲しい結末が用意され、物語は終わります。

 評価☆☆☆☆☆ 同タイトルでポプラ社から文庫本も出ています。一読をお勧めします。

次回は映画「おかあさんの木」について述べます。                   (2015.6.11記)

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優しさを残して

2015-06-07 22:30:00 | 翔の哀歌

 優しさを残して

 雨が降れば、田植えの終わった田んぼで、成長期を迎えた早苗たちが、水面(みなも)を渡る風に揺らいで、そよそよとささやく。

朝顔のつるも元気よく支柱に絡まり、天を目指して這い上がる。

梅雨を目前にして、早咲きの紫陽花が咲き始めている。

 

 幕末の出島のオランダ商館付の医師シーボルトは愛妾「お滝」の名にちなんで「オタクサ」と命名したと言われています。

当時ご禁制だった日本の地図を持ち出そうとし、幕府に発覚、国外に追放になったシーボルトは紫陽花を、

優しく可憐な花として「お滝」のイメージにダブらせたのでしょう。

 

 紫陽花の花に隠れてかたつむり

 

 14歳で早世した翔太郎の残した句です。

あの日、眠るように横たわる物言わぬ翔太郎の枕辺に飾られた短冊が、今でも鮮やかによみがえってきます。

どこの紫陽花を詠んだのか誰にもわからないが、心だけは伝わってきます。

 思わず頬を摺り寄せるようにして顔を近づける。

ふんわりとした花が、少し冷たく、湿り気を含んで、頬に触れ、かたつむりが花陰に隠れるようにして這っている姿をとらえる。

ひっそりと息づいているかたつむりに想いを馳せる。

 誰にでも優しかった君の感性は、かたつむりの静かな息遣いを見逃さなかった。

将来の夢を問われ「旅人になりたい」と私に答えた、あの眼鏡の奥のはにかむ様な小さな目がかすかに笑っていた。

その目がかたつむりの「命」をとらえたのだ。

 通学路の途中に、北アルプスの影を映す6月の田圃に、君の生まれ育った安曇野には紫陽花がよく似合う。

 

たくさんの友達を作り、14歳の命を精一杯に咲かせて、逝ってしまった翔太郎。思い出をありがとう。

君と魚釣りをした勤行川の紫陽花ロードも、もうすぐ花の盛りを迎えるよ。          (翔太郎哀歌 №10)  2015.6.7

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サラリーマン川柳

2015-06-03 22:03:33 | つれづれ日記

 サラリーマン川柳

 第一生命保険の、第28回サラリーマン川柳コンクールのベストテンが発表された。

   壁ドンを 妻にやったら 平手打ち

        男はいつまでも少年の茶目っ気を持ち、女は現実的で、「あんた、何馬鹿なことやってんのよ!!」となる。

 

 湧きました 妻よりやさしい 風呂の声

 「あれから40年」の世界です。「あなた、ゴロゴロテレビなんて見てないで、さっさと風呂に入って!!」か。家の中で日に日に強く    なっていく妻の立ち位置。昔のお前はやさしかった。と、言ってしまえばお互い様か。

 

 記念日に 「今日は何の日?」 「燃えるゴミ!!」    

         無頓着な男と、記念日だけは忘れない女ごころに、強烈なカウンターパンチが痛い。

 

 増えていく 暗証番号 減る記憶

 オレオレと アレアレ増える 高齢化

    生きづらい世の中になりました。歳をとることは、悲しいことです。やがて、自分が誰であるかさえ忘れてしまう。

 

あゝ定年 これから妻が 我が上司

    男は哀れな生き物です。女はモンスターです。子どもという小さな悪魔を味方につけて、増殖しモンスターに変身するのです。

 

 

 

 

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