雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

風の行方(16) たった一度の過酷事故

2012-10-14 22:39:05 | 風の行方・原発

人の心と科学(4)  たった一度の過酷事故

 豊かな自然の中で育まれてきた地域社会の「絆」は、

互いが助け合い、支えあうことによって成り立ってきた。

 その「絆」が、原発の「たった一度の過酷事故」で、壊滅してしまった。

 

 貧しかったが、何にも代えがたいその土地に根っこを張った文化があり、

地域共同体が生き生きと活動していた「故郷」というかけがえのない土地を、

放射物質という目に見えず、

音も匂いもしない不気味な「モンスター」が原発周辺の人々を、不安と恐怖で包んだ。

 

 国は福島第一原発から20㌔圏内にある特に放射線量の多い浪江町、双葉町、

大熊町、富岡町の全域を「警戒区域」に指定(平成24年7月31日現在)。

 

 強制退去に町は「無人の町」と化した。

町は荒れ、田畑は雑草が生い茂り、無人の家は風雨にさらされ、痛ましい。

 

 原発事故から1年半が過ぎた現在でも、

16万人を超える福島県民が避難生活を余儀なくされている。

 

 科学や技術の進歩は、失敗を教訓として次の進歩を確保してきた。

こうして、より安全で信頼できる技術が人間の文化の発展を支えてきた。

しかし、どんなに技術が進歩し安全が確保されても、人間はミスを犯す。

「事故は必ず起きる」という認識を私たちは忘れてはいけない。

 

 原発の事故は、その被害が予測できないほど甚大で、広範囲に渡る。

国家が国家として成り立たなくなるような大規模な事故が起きることだって、

十分に予測できる。

 

 チェリノブイリ原発事故では、たった原子炉1基の事故で放射性物質が飛散し、

日本全土の4割に相当する場所に避難命令が出された。

26年経った現在でも半径30㌔は無人地帯になっている。

事故により爆発し石棺で覆われた原子炉は、

放射能が高く、人間の介入を許さず、いまだに廃炉できないでいる。

 

 原発はリスクが大きすぎ、失敗の許されない科学技術である。

人間が制御できないほど危険な要素を内在する科学技術はいらない。

      写真は、黒煙を上げて爆発する福島第一原発3号機(朝日新聞)

  「人の心と科学」は今回で終了します。次回は全町民避難に関連した「仮の町」について書きます。

 

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風の行方(15) 人の心と科学(3)

2012-10-01 22:12:37 | 風の行方・原発

第2部(4)  人の心と科学(3)

「安心という名の社会システムを、根底から覆してしまった」

 「人間の作りだした文明が人間の存在を脅かしてしまう」

3.11が私たちに突きつけた苦難と警鐘。

一年半過ぎた現在でも、絶望や悲しみから立ち直れず、

不安な日々を暮らす人は多い。

特に、原発過酷事故による放射能拡散の汚染は私たちをパニックに陥れた。

目に見えず、無味無臭の放射能の恐怖は、

政府に「安全」というデーターを提示されても、もはや信じることはできない。

 

 「安全神話の崩壊」は、

私たちを安易に信じることの愚かさを教えてくれた。

 

 電源三法交付金によって原発立地自治体の財政は豊かになり、

住民の生活も豊かになっていった。

 

 過疎の地域に設置された原発の電気は、

遠く離れた人口密集地帯である都市部へ供給され、

都市に住む人々は、それを当然の成り行きとして享受してきた。

 (写真:河北新報 福島県双葉郡双葉町・無人の街)

 3.11は私たちが当然として受け止めてきた「安心」という社会のシステムを、

根底から覆してしまった。

 

 自然の持つ脅威に、改めて私たちは、

地震や津波に対する認識がいかに甘かったのかを思い知らされた。

 

 根こそぎさらわれた津波の去った町に立ち、

放射能に追われ、慣れない異郷の地に立って、

「こんなはずではなかった」とつぶやく。

 

 無人の街・双葉町(写真)

 歩道に雑草が生い茂り、地震で倒壊した家屋は手付かずのまま。

「警戒区域」に指定され、

全町民の6971人が異郷の地での避難生活を強いられている。

 

 「希望的に言っても帰還まで10年かかる」。

双葉町長・井戸川氏の悲痛な言葉である。

「希望的……」というところに、先の見えない不安が感じられる。

 

 いったい、私たちはどこで何を間違えてしまったのか。

                                     (つづく)

 

 

 

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