雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

紅茶の中に落ちた秋

2019-09-28 06:00:00 | 季節の香り

紅茶の中に落ちた秋

   風がそよぐ
    雑木林のこずえを揺らし
  きれいに刈り込まれた下草の間を通り抜けて
  ヴェランダの明るい日差しの中に
  還ってきた

  小さな木製の古いテーブルの上に置かれた
  テイーカップ
  紅く色付いたわくらば一枚
  風と一緒に還ってきて
  淡いべにいろの紅茶の中に落ちた

  予期せぬ出来事に
  秋の風のさざ波に揺られ
  紅茶の海に落ちた秋色の遠い昔の思い出が
  カップの中に浮かんでくる

  父よ 母よ 姉よ 兄よ
  逝きて還らぬ大切な私のなつかしい人たちよ
  秋の気配の降りてくる林の中のヴェランダで
  今日は一日
  黄昏がやわらかい光の帯をたたみ
  夜のとばりが林をつつむまで
  思い出の船に乗って語りつくそう
  私たちが歩んてきた「道」のことについて……

  
  

   (2019.9.27記)        (季節の香り№32)

  

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読書案内「OPA! オーパ!」 開高健著 ② 巨獣の集団墓地のようにみえた

2019-09-23 14:55:39 | 読書案内

  読書案内「OPA!  オーパ!」開高健著 
       ② 巨獣の集団墓地のようにみえた

   
 ジャングルを野焼きしている光景を目撃した。
 道路のためか、畑をつくるためか、
 おそらく大半は牧場をつくるために、
 ジャングルが火で剥がされたか、
 剥がされつつあるさなか、いずれかの光景を見た。
 燃えつきたか、燃えつつあるかだった。
 燃えつきたところでは黒焦げになってたったり、
 たおれたりしている無数の木の散乱が巨獣の集団墓地のように見えた。
 燃えつつあるところではその巨獣たちが黄昏のなかで足を踏み鳴らしつつ
 声もなく叫喚しあっているようにみえた。 
       

                第5章 「河を渡って木立の中へ」 より

 (朝日新聞2019.9.15付)
  この光景を、「森の中に直径50㍍ほどの『黒い穴』が開いたようだった」と、記事は、自然破壊の状況を伝える。乾季には落雷などによる森林火災もあるが、「焼畑農業」による森林破壊もある。農地を広げ、牧場を作り、金の採掘のために開発を続ける。自然の回復力を大幅に上回る。これは、開発ではなく、破壊だ。

 (OPA! オーパ! より 高村 昇撮影)

  40数年前アマゾンを訪れ、開高健に同行したカメラマン・高橋昇はアマゾンの自然破壊をフイルムに焼き付け、開高健は「巨獣の集団墓地」と書き、アマゾンの危機を訴えた。
 しかし、アマゾンの自然危機状況は40数年前よりも、さらに悪化しているようだ。
 今年1月から8月までの焼失面積は、九州より広くすでに昨年1年分を超えているという。
 密林を切り開き、倒した樹々は密売され、放火で開かれた「巨獣の集団墓場」は、牧場と化していく。
 持続可能でない開発はやがて自滅への道をたどっていく。
 これは最早一国の問題ではなく、
 「地球温暖化」という危機的状況と捉え、
 国際的な支援が必要な時期が到来していることを物語っている。
 

 さて、再び「オーパ!」に戻ろう。
 開高健は、焼け野原となった森林をみて「巨獣の集団墓地」と表現した。
 「広大な面積が火と、焔と、煙にみたされ、誰一人として監視する人もない」ことに驚き、こうした違法な開発が、「自然に対して過剰なのか、調和なのか、(略)災厄の前兆としての業火なのか」、それとも生きるための浄火なのか、私、開高健はわからないと、アマゾンを旅する彼は、異邦人として立場を堅持する。

 だが、確かなことは、「とらえようのない不安と憂鬱」に浸された。と、読者に問題を投げかける。

 自然破壊を繰り返す。
「業火」なのか、生きていくための「浄火」なのか。
 アマゾンに生きる彼らにとって、二者択一を迫るような単純な問題ではない。
 まして、部外者の異邦人が結論を急ぐべきではないと開高健は言っているのだと思う。

 大真面目でアマゾンの問題を書いたかと思えば、一転して二メートルもあるオオミミズの薀蓄(うんちく)話に花を咲かせ、二〇〇メートルもある巨大アナコンダ(水棲の大蛇)をやっけるのに、機関銃の弾丸五〇〇発を消費したというような与太(ホラ)話などを披露して読者を飽きさせない。

 少年の心に火をつける。
「ÔPA!  オーパ!」は、少年の心を持った男たちにとっては、釣りはやらなくても
必読の写真と紀行文の楽しめる本だ。


    ブックデーター: ①で紹介したように集英社版豪華装丁初版本は2800円だが、
             同じ出版社から文庫本も出ている。
            今年は開高健没後30年。来年は生誕90年だ。
            開高健を改めて読むのもいいですね。
            「開高健のパリ」(2000円) 「
青い月曜日」(860円) 
            「オーパ、オーパ!!」は続編としてアラスカ編、モンゴル編など数編がある。
            「ベトナム戦記」「輝ける闇」などがお薦めです。
            

      (2019.9.23記)                                   (読書案内№144)

 

 

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読書案内「オーバ!」 開高 健 ① 大アマゾン川の釣りに挑む

2019-09-19 06:00:00 | 読書案内

 読書案内「オーパ!」 文・開高健 写真・高橋昇
  中年オヤジの開高健が少年の心をもって大アマゾン川の釣りに挑む 
 集英社 1978(昭和53)年12月 第4版刊。大型のしっかりした作りの本だ。41年前の発刊なのに定価も2800円と安い本ではないのに、初版から1か月足らずで4版発行だから、その人気のほどが想像できる。現在は集英社文庫にもなっているのでお勧めの一冊です。この本の魅力はどこにあるのか。              

 
   OPAオーパ!
   
   何事であれ、ブラジルでは驚いたり、感嘆したりするとき、
   「オーパ!」という。

   わめき声、笑い声、叫び声のひしめくさなかで古風な銅鑼がガンガンと鳴り、
   「蛍の光」をマイクから流しつつ、われらが白塗り三〇〇〇トンの「ロボ・ダル
   マダ」号は埠頭をギシギシと身ぶるいして静かに離れ、沖へ向かった。
                      
                       ※ 第一章 神の小さな土地 冒頭


  「ロボ・ダルマダ」号とは、「無敵艦隊のオオカミ」という意味だ。
  カトリック国のブラジルでは船の名前に、
  「聖者」とか「聖女」「聖地」の名前を付けるそうなのだが、
  なかには「ヴィクトリア・レジア」(オオオニハス)とかいう名前もある。

  開高健おじさんの乗った船は
 「無敵艦隊のオオカミ」という勇ましい冒険者にふさわしい名前を付け
  
(もっともマラリアなどとひねくれた名前を付けた船もある)、
 出航の銅鑼をガンガン鳴らし「蛍の光」を流して、
 アマゾンの奥深く目指して、未知のたびに向けて舵を切る。

  なんとにぎやかで、血沸き肉躍る旅の初めの描写ではないか。
  ピラーニァ(と現地では発音するらしい)がひしめき合うところで釣り上げた魚は
  次のような哀れな姿になり、人間が食することなどできない。

   

  ピラーニァについては次のような記述もあり、
 アマゾンの計り知れない未知の姿をイメージすることができる。
 

 かねてから予感したとおり、ものの5分もたたないうちにイワシはピラーニァに齧(かじ)られてボロボロになる。つけかえるとまた5分もしないうちにボロボロになる。あたりいちめんどこまでいってもピラーニァばかりで、まるで剃刀のギッシリとつまったなかをイワシをころがしてあるいているようなものである。それでも白くゆらめく炎暑の中をかれこれ一時間か一時間半、何度イワシをつけかえてもおなじことである。

 
 
 こうした話が数多く語られ、読者は紙面の文字を追いながら、大アマゾンの未知なる世界の冒険に引きずり込まれていく。しゃれた話があり、思わずニンマリするような下ネタ話も旅の清涼剤として随所で語られる。何しろ男だけのアマゾン紀行なのだ。下ネタ話はメンバーの緊張を解きほぐす清涼剤なのだ。右岸にも左岸にも陸地は見えない。ただただ広く長い河が未踏の密林や湿地帯をうねり、「無敵艦隊のオオカミ」号は抱えきれない期待を担って、凪のように、鏡のように滑らかなアマゾンを目的地に向かって進んでいく。
 

 本の中で紹介される話は気楽に読める話だが、実は開高健の用意周到な準備のたまものなのだ。
 単に思い付きで書いた話ではなく、自然描写や魚の生態などについても、さりげなく描写されている
 が、その裏には作者の周到な準備と人を飽きさせない文章の才能がある。
  

 例えばピラルク(現地ではピラルクー)という魚について、次のような完璧な描写がある。
 アマゾン本流とその支流に生息し、非常に成長の早い魚だ。最大は身長が五メートルになり、体重は二〇〇キロに達する。全世界の淡水魚中、最大の魚だとされている。頭は胴にくらべて小さいが鎧のように硬くて皺がより、上から見るとちょっとワニに似ている。胴全体をこれまた鎧のような硬い鱗が蔽っている。この鱗の白い部分で漁師はピラルクーを刺す銛を磨き、大工は家具を磨き、美容師は女の爪を磨く。
  


 完璧なピラリクーの紹介でであり、読者はこの魚のイメージをたちどころに描くことができる。だが、描写はこれで終わらない。この後、原稿用紙約四枚に渡りピラルクーの薀蓄(うんちく)がが語られ、
下ネタ話に発展し、最後はこの魚の人気に「絶滅」してしまうのではないかと心配する。完璧な文章表現である。
 

 
  一時間、幸せになりたかったら
  酒を飲みなさい

 
  三日間、幸せになりたかったら
  結婚しなさい

  八日間、幸せになりたかったら
  豚を殺して食べなさい

  永遠に、幸せになりたかったら
  釣りを覚えなさい

         中国古諺?
 

 

 「釣り」は面白い、釣り師・開高健が二度にわたり紹介している諺だ。出典不明といいながら、二度も紹介する釣師であるが、この「OPA!オーバ!」は、たんなる釣りキチの話ではない。
釣りの話が主体になるが、アマゾンの冒険譚であり、釣り賛歌、自然賛歌であり、文明の波がひしひしと押し寄せるアマゾンの未開の地を舞台に広がる
 自然崩壊に警鐘を鳴らす書でもある。
 単なる紀行文学に終わらせないところが、芥川賞作家の開高健であり、伊達に受賞したのではないことをその文章が示しているし、全体の流れもとても良く、再読者が多いのもうなずける。
 是非、読んでほしい本の一冊だ。
                                       (つづく)
     (2019.9.18記)                                        (読書案内№143)

  

 

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