読書案内「喜びは悲しみのあとに」上原 隆(2)
一生懸命生きて
悲しみのあとに喜びは訪れるのか。
努力が報われる日が訪れることを願いながら読んだ。
復讐のマウンド
近鉄小野(当時28歳)はある日突然、戦力外と通告された。
球団代表の言葉は冷たかった。
「近鉄球団はまったく君を必要としていない」。
ドラフト一位で近鉄に入団した。
入団3年目に14勝をあげ、
その後毎年11勝、10勝、12勝と二けた勝利をあげ続け入団6年目12勝をあげ、
近鉄を優勝に導く。
だが、左腕速球派投手栄光の花道もここまでだった。
日本シリーズを前にして肘を痛めた小野は、手術後の一年を棒に振った。
2年目に復帰し12勝の好成績を残した。
「復活」と誰もが期待した次の年、今度は肩を痛めてしまう。
再度の手術と2年間のリハビリに耐え、
小野の故障は回復した。
すでに、入団から10年が過ぎ、来年こそ活躍するぞ。
そう思っていたときの突然の戦力外通告だった。
野球以外に生きるすべを知らない小野は、
プライドを捨て、過去を捨ててテスト生で、西武に入団した。
だが、彼を襲った試練の波はふたたび彼を襲う……。
「なんとしても俺を見捨てた近鉄に一泡ふかしたい。
そのための今日の近鉄戦は復讐のマウンドだ」。
思いとは裏腹に、勝利の女神は彼に微笑まない。
夢を追いかけ、どれだけ努力をしたら報われるのだろう。
人生における大きな賭けだ。栄光の美酒に酔い、
テスト生や二軍落ちしてもくじけなかった彼を、妻も支えた。
喜びはやっぱり悲しみのあとに思いもかけないプレゼント彼に送った。
近鉄を追われて5年後、彼に救いの手を伸ばした球団がいた……
(読書案内№104)
(2017.8.28記) (つづく)