老いをみつめる ②
記憶力が衰えてくる。だからいつの間にかメモを取る習慣が身についてくる。
歩くスピードがずいぶん遅くなってきた。
一歩一歩老いの坂道を下っていく。
老いて死を迎える。そんな歌を集めてみました。
心よりはるかにはやき身の老いに追いつけぬままひとつ歳とる
…………… (武蔵野市)野口由梨 朝日歌壇2015.5.4
今年も誕生日が来て、ひとつ歳をとった。
若いつもりでいても無意識のうちに歳をとったことを感じるときがある。
心は若いと思っていても、肉体の衰えを感じるこの頃だ。
老いの狭間から寂しさと諦観が忍び寄ってくる。
忘れられぬ思い出があり忘れたき想い出もある生きて九十年
…………… (南魚沼市)五十嵐とみ 朝日歌壇2015.6.8
90年、良く生きてきたと思う。楽しいことも、悲しいことも、
許せないと思ったことも今となっては永い人生の一こまとして浮かんで泡沫のように消えていく。
得るものよりも失うものの方が多くなった年齢になったが、
それでもまだ、数々のしがらみを捨てきれずに今日を生きている。
手を握りしめて生まれて手の力ゆるめて終わる人の一生
……… (福島市)美原凍子 朝日歌壇2015.9.25
このシワの多い手でどれだけ幸せをつかむことができただろうか。
このてのひらで人のぬくもりをどれだけ感じとることができただろうか。
温かく包み込むてのひらであり、時には心を閉ざす手のひらにもなった。
今はもう、全てのものから解放され天空へ飛び立つ悟りの手のひらになる。
産声を上げ、握りしめた小さな手の中につつんできた希望という名の拳を、
「さようなら」という代わりに開く
本当は死にたくないと言うべきを忘れないでとささやき逝った
……… (栃木県)岡田智子 朝日歌壇2016.01.04
あともう少し生きたい。
心を通じ合った人へ、
長年連れ添った伴侶へ、
「ありがとう」というだけのほんのわずかな時間をください。
でも、出てきたささやきは、
「さようなら」の代わりに「忘れないで」という小さな希望だった。
知らぬ間に誰か消え去る日常に慣らされて行く老人ホーム
……… (筑紫野市)二宮正博 朝日歌壇2016.07.25
「死」がありふれた日常になっていく老人ホーム。
細やかな感性を持っていたのに、歳をとるということは残酷なことだ。
感性の襞(ひだ)を削り落とし、「死」という非日常の出来事まで、
「肉体の消滅」という無味乾燥の情景に置き換えてしまう。
老人にホームの「死」は肉体の消滅と同時に、生きてきた人の痕跡まですべて消し去ってしまうのだ。
(人生を謳う) (2018.5.25記)
※ 関連ブログ
2018.1.14 ブログ 老いをみつめる ①