忠治が愛した4人の女 (44)
第三章 ふたたびの旅 ⑫

翌朝。忠治が目を覚ましたとき、布団の中におとらの姿はなかった。
飯盛り女の朝は早い。宿場町の朝も、また早い。
この時代。旅人が1日に歩いた距離は、「男は10里、女は9里」。
東海道の場合。日本橋を朝4時に出発した旅人が、1日目を終えるのが戸塚宿。
日本橋から戸塚宿までは、10里半(42㎞)。
ひとつ手前の保土ヶ谷宿までなら、8里と9町(33㎞)。
「東海道中膝栗毛」に登場した弥次・喜多さんの旅の1泊目も、この戸塚の宿。
女好きの弥次さん喜多さんは宿ごとに、飯盛り女たちから誘惑される。
必死の思いで断る方法を思案するが、飯盛り女の執拗な勧誘に、
なぜか2人が翻弄されていく。
飯盛り女の相場は、200文から400文(4000円~8000円)
一泊2食付きの旅籠の場合、泊まり賃は、160文から200文(3200円~4000円)。
泊まるたびに飯盛り女たちと遊んでいたら、道中半ばで旅費が破たんしてしまう。
旅籠の夕食は、一汁三菜。
ご飯、汁、香の物の他に、焼き魚もしくは煮魚、平椀に野菜の煮物がつく。
朝食はごく簡単なもので、魚はつかない。
贅沢を廃している。旅籠の食事は、どこも同じようにつつましい。
「どうだった、忠治。たんまり楽しめたか?」
文蔵が顔を出したのは、五つの鐘(午前8時)が鳴った直後。
時の鐘は、最初に捨て鐘として3つ鳴る。
その後にそろぞれ刻限の数の鐘が打たれる。江戸時代の刻限は、12刻。
したがって今と異なり、終日のことを、「二六時中(2×6=12)」と言っていた。
明け六ッ(日の出)から、暮れ六ッ(日没)が時間の基準になる。
日の出から日没までを6等分したものが、その季節の1刻にあたる。
つまり。季節ごとに一刻の長さが異なる。
「おとらという色白の女だったが、愛嬌が有って一晩中、面白かった」
「そうか。満足できたんなら上首尾だ。
そろそろ帰(けぇ)るか。兄貴や親分にばれねぇうちに引き上げようや」
ふらりと文蔵と2人で表に出る。
表で水まきをしているおとらの背中と、ばったりと行きあう。
上州の街道は乾ききっている。ちょっとした風でもすぐに砂埃が立つ。
「おう。またな」と忠治が、おとらの尻をパチンと叩く。
くねりと身体をひねったおとらが、「あら。誰かと思えば、国定忠治のにせものさん!」
と嬉しそうにまた、ケラケラと笑い出す。
「お兄さん。今度来るときは、もっと上手な嘘を用意してきてね」
「おう、世話んなったな。
近じかまた遊びに来るから、首を長くしてまってろよ。
あと1尺おおきくなったら今度こそ、俺は本物の国定忠治だからな」
「呆れた。まだそんなこと言ってんの!。
ホントに往生際が悪い男だね、あんたって男も
でもさ。あんたのそういうとこが、あたしは大好きさ!。
だってさ。あんたはもう、あたしの中では、本物の国定忠治だもの。
うっふっふ」
水まきの手を止めたおとらが、嬉しそうに忠治を見つめる。
「まいったなぁ、だからよ。
俺が本物の国定忠治だって、昨夜から何度も言ってるだろうが!」
「はいはい。よ~くわかりました。にせものの忠治さん。
また来てね。他の女にちょっかい出したら、ほんものの忠治に言い付けるからね。
わかっているんでしょうね。そのくらいのことは・・・」
おとらが形の良いくちびるから、真っ赤な舌をぺろりと出す。
後年。忠治が捕われの身となり、江戸送りのため木崎の宿を通り過ぎていくとき、
年老いたひとりの飯盛り女が、忠治に差し入れしたという記録が残っている。
(45)へつづく
おとなの「上毛かるた」更新中です
第三章 ふたたびの旅 ⑫

翌朝。忠治が目を覚ましたとき、布団の中におとらの姿はなかった。
飯盛り女の朝は早い。宿場町の朝も、また早い。
この時代。旅人が1日に歩いた距離は、「男は10里、女は9里」。
東海道の場合。日本橋を朝4時に出発した旅人が、1日目を終えるのが戸塚宿。
日本橋から戸塚宿までは、10里半(42㎞)。
ひとつ手前の保土ヶ谷宿までなら、8里と9町(33㎞)。
「東海道中膝栗毛」に登場した弥次・喜多さんの旅の1泊目も、この戸塚の宿。
女好きの弥次さん喜多さんは宿ごとに、飯盛り女たちから誘惑される。
必死の思いで断る方法を思案するが、飯盛り女の執拗な勧誘に、
なぜか2人が翻弄されていく。
飯盛り女の相場は、200文から400文(4000円~8000円)
一泊2食付きの旅籠の場合、泊まり賃は、160文から200文(3200円~4000円)。
泊まるたびに飯盛り女たちと遊んでいたら、道中半ばで旅費が破たんしてしまう。
旅籠の夕食は、一汁三菜。
ご飯、汁、香の物の他に、焼き魚もしくは煮魚、平椀に野菜の煮物がつく。
朝食はごく簡単なもので、魚はつかない。
贅沢を廃している。旅籠の食事は、どこも同じようにつつましい。
「どうだった、忠治。たんまり楽しめたか?」
文蔵が顔を出したのは、五つの鐘(午前8時)が鳴った直後。
時の鐘は、最初に捨て鐘として3つ鳴る。
その後にそろぞれ刻限の数の鐘が打たれる。江戸時代の刻限は、12刻。
したがって今と異なり、終日のことを、「二六時中(2×6=12)」と言っていた。
明け六ッ(日の出)から、暮れ六ッ(日没)が時間の基準になる。
日の出から日没までを6等分したものが、その季節の1刻にあたる。
つまり。季節ごとに一刻の長さが異なる。
「おとらという色白の女だったが、愛嬌が有って一晩中、面白かった」
「そうか。満足できたんなら上首尾だ。
そろそろ帰(けぇ)るか。兄貴や親分にばれねぇうちに引き上げようや」
ふらりと文蔵と2人で表に出る。
表で水まきをしているおとらの背中と、ばったりと行きあう。
上州の街道は乾ききっている。ちょっとした風でもすぐに砂埃が立つ。
「おう。またな」と忠治が、おとらの尻をパチンと叩く。
くねりと身体をひねったおとらが、「あら。誰かと思えば、国定忠治のにせものさん!」
と嬉しそうにまた、ケラケラと笑い出す。
「お兄さん。今度来るときは、もっと上手な嘘を用意してきてね」
「おう、世話んなったな。
近じかまた遊びに来るから、首を長くしてまってろよ。
あと1尺おおきくなったら今度こそ、俺は本物の国定忠治だからな」
「呆れた。まだそんなこと言ってんの!。
ホントに往生際が悪い男だね、あんたって男も
でもさ。あんたのそういうとこが、あたしは大好きさ!。
だってさ。あんたはもう、あたしの中では、本物の国定忠治だもの。
うっふっふ」
水まきの手を止めたおとらが、嬉しそうに忠治を見つめる。
「まいったなぁ、だからよ。
俺が本物の国定忠治だって、昨夜から何度も言ってるだろうが!」
「はいはい。よ~くわかりました。にせものの忠治さん。
また来てね。他の女にちょっかい出したら、ほんものの忠治に言い付けるからね。
わかっているんでしょうね。そのくらいのことは・・・」
おとらが形の良いくちびるから、真っ赤な舌をぺろりと出す。
後年。忠治が捕われの身となり、江戸送りのため木崎の宿を通り過ぎていくとき、
年老いたひとりの飯盛り女が、忠治に差し入れしたという記録が残っている。
(45)へつづく
おとなの「上毛かるた」更新中です
いずれ年季が明けると・・余りそんな
話は聴かれませんが・・明るくよく笑う
そんな女性は、モテモテですね
今日は朝から雨が降ったり止んだり
群馬は沼田あたりでは大きな被害が
出ていたんですね。ご用心ですね
週末から月曜にかけて、朝早くから仕事と
ゴルフに追われました。
忙しくなると、更新をさぼる癖がついております。
これではいかんと、一念発起して、
朝からの更新にいどんでおります・・・