落合順平 作品集

現代小説の部屋。

忠治が愛した4人の女 (87)   第六章 天保の大飢饉 ④

2016-11-13 17:08:18 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (87)
  第六章 天保の大飢饉 ④



 国定忠治が来たと知り、弥七一家の若い衆が色めき立つ。
しかし。たったひとりで来たと分かると、弥七親分がわざわざ玄関へやってきた。
忠治がしきたり通りの仁義をきると、目を細めたまま仁義を受けた。
 

 「まさか。おまえさん自ら挨拶に来るとは驚きだ。
 しかも、たったひとりで俺ンところへ乗り込んでくるとは、いい度胸だ」


 
 「弥七親分さんの噂はかねてから聞いておりやす。
 もうちっと早くに挨拶に参(めえ)りたかったんでごぜえますが、うちとしても
 色々とゴタゴタがありまして、挨拶が遅れてしめえやした。
 まだ右も左もわからねぇ駆け出し者(もん)ですが、以後、よろしくお願いいたしやす」



 「なぁに。こっちこそ、おめえさんの噂はたっぷり聞いている。
 若いわりに顔がひろい。
 襲名披露で集まって来た親分衆たちの顔を見て、驚かされた。
 大前田の要吉親分は、よほどのことがないと腰をあげないと、評判のお方だ。
 その親分がわざわざ出向いてくるとは、おめえもよほどの大物だ。
 それに、力ずくで縄張りをひろげねぇのも気に入った。
 女に壺を振らせるなんざ、とてもじゃねぇが、俺たちじゃ考えもつかねぇ。
 俺もおめえさんに、いちど会いたいと思っていた」



 「お褒めの言葉、ありがとうございやす」


 「で、今日はなんでぇ?。
 わざわざ挨拶するためだけに、敵地に乗り込んで来たわけじゃあるめぇ?」


 「察しのいいことで」ニヤリと忠治が笑う。



 「世良田の祇園祭の賭場に、ウチも加えてほしいでさぁ。
 世良田の祇園祭と言えば、関東中の親分さんが集まると、もっぱらの評判です。
 是非とも国定一家を、その仲間にくわえておくんなせぇ」


 「そうさなぁ。俺としちゃ、おまえさんを参加させてやってもかまわねぇ。
 だがウチの親分が、なんと言うかのう」



 「祇園祭の盆割りは、弥七親分が仕切っているんじゃねぇんですかい?」


 「俺が全部、仕切っちゃいるが・・・」


 「弥七親分。お願えしゃす!」深々と忠治が頭をさげる。



 「忠治一家の前身は、境をおさめていた百々一家。
 境の宿にも祇園祭があり、盆割りは長いこと、百々一家が仕切ってきやした。
 しかし今じゃ境の宿の半分を、伊三郎一家に取られてしまいました。
 せめて世良田の祇園祭りに参加して、むかしの百々一家が、
 いまだに健在だということを親分衆に、見せてやりたんでさぁ」



 「しかしなぁ・・・」弥七親分が、渋い顔を見せる。
ここが駆け引きの頃合いだと読んで、忠治がふところの金に手を伸ばす。



 「挨拶代わりと言っちゃなんですが、これをお納め下せぇ」
忠治がふところから、10両の包みを取り出す。



 「まぁ・・しょうがねぇか。すこし、考えておこうじゃねぇか。
 忠治。これを縁に、たびたび世良田へ遊びに来い。
 ここにゃ江戸幕府ゆかりの長楽寺や、家康を祀る東照宮も有る。
 江戸が見たけりゃ、世良田へおいでと唄われているくらいだからな。
 なんなら子分どもに案内させてやってもいいぜ。
 祇園祭は6月だ。
 せいぜい楽しみに、待っているんだな」



 弥七が上機嫌で、忠治を送り出す。
(10両と言えば大金だ。だが、ポンと差し出す事で、人の心は変わる。
博徒はなにかと物入りだ。10両で人の気持ちが買えるのなら、安い出費だ)



 手ごたえはあった。
ニヤリと笑った忠治が、弥七一家をあとにする。



(88)へつづく

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2 コメント

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昔は・・ (屋根裏人のワイコマです)
2016-11-14 09:56:29
やはり若い国定忠次・・度胸もあるが
人に魅了させる人柄もあったんでしょうね
目上の人に、可愛がられる何かを持っていた
私らも昔ゴルフに凝った頃はそれなりに
90前後の成績(大したスコアではないが)
で200くらい飛ばしてフェアウェイを
キープして喜んでいましたが当時から
道具やボールの性能がものすごく上達して
今や私も70近くなってもたまにまぐれで
200近く飛びますと・・びっくりです
でもプロのボールとは桁違いで
一度岡本綾子さんが穂高カントリーで
プレイした時のボールの音がすごかった
女子プロでもすごかったことを思い出し
ました
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-11-14 16:59:59
16日は、プライベートのゴルフです。
同伴はカミさんを入れて、女性が3人。
両手に花どころか、持て余すほどの花盛り。
女性がいっぱいで他の人たちが見ればうらやましいでしょうが、
男ひとりも辛いものです。
ティグランドが常にひとり。
女3人は会話に夢中で、ボールの行方もろくに見ないで、
ドライバーの音だけ聞いて、「ナイス・ショット!」。
こんなメンバーとゴルフです(笑)

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