落合順平 作品集

現代小説の部屋。

忠治が愛した4人の女 (86)   第六章 天保の大飢饉 ③

2016-11-12 17:07:02 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (86)
  第六章 天保の大飢饉 ③



 「どうにも弥七のやろうの弱みは見つからねぇ。
 小細工はあきらめた。
 どうでぇ親分。こうなりゃ真正面から、敵の懐へ飛び込んでみますかい?」


 円蔵は一度だけ、弥七と会ったことが有る。
面倒見のよい、温厚そうな親分だった。
伊三郎と忠治が争っていることを知っていても、下手に出て挨拶に行けば
邪険にしないだろうと考えた。



 「真正面から挨拶に行く?。なんでぇ。いってぇどういう考えだ、円蔵」



 「国定一家に名前を変えて、はや1年。
 挨拶が遅くなりやしたが、よろしくお願いしますと仁義をきるんです」


 「だが弥七は、痩せても枯れても、伊三郎一家の代貸だ。
 正面から行って、素直に俺の仁義を受けてくれるかな・・・
 そのあたりの読みはどうなんでぇ」



 「子分をひとりも連れず、忠治親分がたったひとりで挨拶に行くんでさぁ。
 ひとりで来たとなると、弥七も力ずくには出られねぇ」


 「なるほど。敵意がねぇところを最初に見せるわけか。
 で、弥七には何を頼みこんでくるんだ?。
 おめえのことだ。ただ仁義だけを切って、帰って来るわけじゃねぇだろう」



 「さすが親分。よく分かっていますねぇ。
 あいさつ代わりに、とりあえず10両の包みを持ってってください。
 そいつを渡したあと、今年の祇園祭で賭場を開くための場所をくださいと、
 願い出るんです」



 「ほう。敵の縄張りの中で国定一家の賭場を開こうというのかい。
 面白れぇ。じゃ早速、弥七のところへ挨拶に行くか」


 「へぇ。俺も世良田村の入り口まで、いっしょに行きやす」



 おめえじゃ用心棒にならないが、まぁ居ないよりはましかと、忠治が笑う。
10両の包みを懐へ入れ、忠治が表へ出る。
若い衆から話を聞いた文蔵が、血相を変えてあとから2人を追ってきた。



 「親分!。酔狂にも限度ってものがありやす。
 円蔵。おめえもおめえだ。なんて無謀な策を親分に押し付けるんだ。
 何か有ったらいったいどうするつもりだ。
 ひとりで敵の弥七一家に乗り込むなんぞ、むざむざ死に行くようなものです。
 どうしても行くというのなら、俺もあとを着いて行きやす!」



 気持ちは嬉しいが、おめえは目立ちすぎるから駄目だと、忠治が笑う。
「じゃ、鬼のような形相をしている円蔵はいいんですか!」文蔵が青筋を立てて怒る。
「わかった。わかった。2人とも着いてくるのは、世良田村の入り口までだぞ」
それなら文句はねぇだろうと、ふたたび忠治が笑う。



 境宿から世良田村まで、例幣使街道を一直線に2里あまり。
一面の田圃の先に、こんもりとした森が見えてくる。
ここまでくると前方に、世良田村のさいしょの集落がひろがる。


 「ここまでだ。あとは俺ひとりであいさつに行って来る」


 忠治が円蔵と文蔵を振りかえる。



 「文蔵。子分たちを百姓に扮装させたのは、良い思い付きだ。
 だがよ。昼日中から、脇差や槍を持った百姓は、このあたりにゃ絶対居ねぇ。
 気持ちは嬉しいが、弥七一家を刺激したくねぇ。
 みんなには、鎮守の森あたりで昼寝でもしているように言っておけ。
 心配すんな。弥七とサシで、男同士の話をしてくるだけだ。
 じゃぁな2人とも。ちょっくら行ってくるぜ」


(87)へつづく


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2 コメント

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若さと度胸・・ (屋根裏人のワイコマです)
2016-11-12 19:30:09
若さはとかく若気の至りで少々軽くなりがち
そして敵の懐に・・一人で乗り込むとは
格別な度胸も・・この若さから
大活躍
まだ女性が活躍しないので・・当分続きますね
ゴルフも そろそろ賞金額が取り沙汰されて
日本の一流が・・楽しみですね
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-11-13 17:02:29
本日は、朝7時からキュウリ採り。
5時間働き、午後からはゴルフの鑑賞三昧。
女子、男子と続けて観て、これから小説の更新です。
松山の異次元の凄さにあらためて脱帽。
ただし。男子プロの場合、ボールの飛距離が凄すぎて
まったく参考にはなりません。
凄さに呆れて、ただただ茫然とするばかりです(笑)
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