君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 十五話「ジュピター」

2012-12-29 01:50:58 | 『君がいる幸せ』Artemisia編二章 心の中は
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー ノアの副首相に就任 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット 今はジョミーの専属

   『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」十五話「ジュピター」

  太陽系 木星の衛星都市メティス
 空港に着いたキースはここにミュウの船が無い事を確認をする。
 月が長引いているのだろうと思いつつビルレストへ向かった。
 ビルレストの玄関に着いたキースは二階の自分の部屋に人影を見た気がした。
 キースは二階へ急ぐ。
 開いたままのドアから中に入ると、それを見計らったように声がした。
「ここから見る火星は大きくて、手で掴めそうだ…」
 その声の主は大きな窓も前に立ち、手を火星に向けるジョミーだった。
「それを言うなら地球にも届きそうなんじゃないか?」
 振り返らないジョミーにキースはそう声をかけた。
「火星と双子星みたいな…あの赤い地球には僕は興味が無い…」
 少し寂しそうに答えた。
 キースはジョミーの横に立ち、同じようにドームの外の星を眺めた。
「そうか。月はどうだった?お前がここに居るのは、成功したという事なのか?」
「ううん。彼を取り戻せてはいない。だけど…ブルーが月に残ると言って…シャトルを黄昏の海に置いてきた。僕はゼルでここまで来た」
 言いながらキースをチラリと見るジョミー。
「あの磁気嵐の…シャトルでは…」
「大丈夫だ。少し離れれば影響はないから、静止衛星みたいになってる。月でフィシスが言ったんだ。ブルーが迎えるのが相応しいって、多分…もうすぐ戻ってくる」
「……」
「フィシスを月のブルーに会わせる事も出来たし、彼もブルーだけの方が戻って来やすいだろうからね」
 とジョミーは笑った。
「ブルーとは何もなかったのか?」
「ん…あれ以来、忙しくて僕とブルーは会っていなかったから…。今回会った時に、無謀だったって殴られた…。読みが甘かったのじゃなくて、そこまで読んでいたからクローンでは無い事を皆に伏せていたのじゃないか?とも言われた」
「何もせず、殴られたのか?」
「シドが一発、返した…」
「……」
「ブルーの苛立ちもわかる…人を利用し欺く…そんな事に僕は慣れ過ぎてしまったのかもしれない…」
「ジョミー。俺はあの時、将軍の前でお前たち二人を見た時思ったんだが、あのジョミーとお前はあんなに似ていたか?本当にクローンでは無いのか?と思える程だった。どこかで繋がりがあるんじゃないか?」
「…んー、遺伝子がどこかで繋がっているかもしれないね…でも、彼のデータが全て消失してしまっているので追えなかんだ。どこか別の方法でないとわからないかもしれない」
「……」
「あの子は自分の本当の名前すら知らないんだ」
「そうか…ならお前が名付け親になってやればいいんじゃないか?」
「ジョミーじゃない名前をねぇ…思いつかないな…」
「そう言えば、お前、ネーミングセンス無かったな…」
「あはは…。今度はシャトルじゃないし…トォニィに頼むかな」
 と、二人は小さく笑った。
「あの時、僕と彼とが入れ替わった時、年齢差が出来てしまっている僕たちは見分けが付かない状態じゃないといけなかった。二人が似ているように見えたのは、気が付かれないようにしながら、お互いが「魅惑」の力を使っていたから…だから、彼はより「ソルジャー・シン」らしく。僕は彼らしくしていたんだ」
「そうだったのか…」
 キースは感心したように呟いた。
「でも、キース」
 ジョミーがクスクスと笑い出す。
「ん…?なんだ?どうした?」
「君は本当はわかっていたんじゃないか?」
「俺は将軍の前でお前に上手く殺されるのと、シャトルに部下を待機させるしか聞いていなかったからな。入れ替わっているのは…気がつかなかった」
「ジョミー。お前は、そのソルジャー服が一番似合っているな」
 とジョミーがキースの口調を真似をして言った。
「……」
 真似されたキースは、それがどうした?と言いたそうな顔をしながらも、少し照れていた。
「僕、本人にだと言わない感じの台詞だよね」
「…な、なんだ…今更、言って欲しいのか?」
「言って欲しいかな」
「改めて、言えと言われると…言い難いな」
「ジョミー、お前はお前で良いんだ。もね…何故、あんな事を言ったの?」
「あの時は、俺を殺せるのはお前だけだ。と話したばかりだったからかもしれないが、本当に死ぬかもしれないとも思った。だから、言いたくて言えなかった事を伝えないと後悔すると思ったのだろう。それと、もしかしたら…」
「もしかしたら…僕じゃないって思ってたかもしれない?」
 ジョミーが言葉を継ぐ
「ああ、お前の言うように、無意識に本人を目の前にしたら言えない事がすらすらと出てしまったのは…そういう事だったのかもしれないな…」
「じゃあ、僕も本人に言えない事は他の誰かに言わないといけないんだね」
「ジョミー。俺は同じ実験体は居たが、もう何も残っていないぞ」
「ふーん」
「?」
「残ってたら、そっちに言っていいんだ」
「そうではない。俺はお前にも言った。だから、言いたいなら俺に言え」
 呆れたような顔を隠さずキースは言った。
 回りくどい言い方が好きではない自分がジョミーの話にはこうして付き合ってしまう。それは、それをお互いが楽しんでいるからだった。
「そうだよね。言いたい事があるなら本人に伝えないと伝わらないよね」
「そうだ」
「では、キース。僕に言いたい事は?」
 何となくこう切り返してくる事がわかっていたキースはそれをそのまま返した。
「言いたい事なら、言った。ソルジャー服が似合う事も、進む事を拒み悩むお前もそのままで良いと。それと、俺がもうお前と離れて居たくない事も俺は言った。今度はお前の番だ」
 きっと今ジョミーが一番聞きたいだろうと思っている言葉を並べて、言葉で逃げれないようにしたキースはジョミーの返事を待った。
「つ、強くなったね…」
「待たされ過ぎれば腹も括るさ」
「…ご…」
「謝るなよ」
 ごめん。と言いかけた言葉を遮りキースが言った。
「俺が聞きたいのは謝罪じゃない。お前が、今、俺に伝えたい言葉だけだ」
「君に言いたい事かぁ…。やっぱり、謝ってしまうのが一番簡単なんだけど…それじゃ、納得しないって感じだね」
「いや、それでもいい。小さな一つ一つにまで、何に謝ったのかをはっきりさせてくれればな」
「それは…ちょっと…」
「では、言ってくれ」
「…ま…待っていてくれてありがとう」
「待つと言ったからな」
「でも、君は僕が僕でいられる場所を作ってくれている。それにはやはり感謝するべきなんだろうなと思うんだ」
「……」
「僕はこの戦いで思ったんだ。何度も言うようだけど…どんな大義名分があろうと人は殺し合ってはいけなんだと…。僕は何千、何万という人を殺している。いや、将軍を被害者とするなら…もっとかもしれない」
「それ…は…」
 俺も同じだから、と言おうとしたキースを「いいんだ」とジョミーが制した。
「それをね。僕は前は誰かの所為にしようとしていたんだ。ブルーに導かれミュウになって、長として戦争を起こし、ミュウを地球まで連れて来た。そうだな…誰かの為にした事だと、はっきり言うとミュウの為だな。そうやって僕自身の罪から逃れようとしていた。そして、僕はその戦いの中でもう一つの自分の運命を知った。人智を超えた力をマザーの意のままに…地球の為に使って死ぬ事。僕はそれをすごく簡単に受け入れた。それで人々や仲間を死なせた事を償えるのなら…。全てから…開放されると…楽になれると喜びすら感じてた…。有り余る力を得て、それの最高の使いどころを用意されていたんだから、力に押しつぶされて普通に生きているように見せているだけの僕だったから…嬉しかったんだ」
 キースは不安定な状態のジョミーをこのビルレストで間近に見ている。
 自分にはここでの生活は自分の療養の為と、彼を監視するのが目的だった。そんな、二年間をジョミーは一番楽しい時間だったと言った。
「ジョミー」
 俺を好きになればいいと言ったあの言葉も、彼を自分に縛るだけが目的の言葉だったのかもしれない。
 だが、それでも、俺は…。
「そう、ミュウの長としての死に様ならね…。メギド探しもメサイア襲撃もノアを救う事も、ソルジャー・シンなら当然の事。地球再生なんていうその重すぎる運命から逃れる術を探す事も、許されなかった。でも、僕自身、ジョミーはこう思ったんだ。近い将来死ぬのだと、それがわかってそれに抗う事が出来ないなら、そう、僕は自分の命の終わり方まで他人に任せてしまったんだと。ここまで誰かの為に、何かの為に生きてそして死ぬのなら…。僕はもう僕で生きるという生き方がわからなくなってしまった。だから何処か投げやりで、人の愛し方もわからないくせに、だけどそれなのに、人の愛を欲しがっていた。矛盾を抱えて、ただ愛を得て生きたいと願うだけで、その方法がわからないま、僕は死んだんだ」
 地球再生に向かう前の「行きたくない」はジョミーが本心で言った言葉だったのは知っていた。それを俺は戻って来いとも言わずに見送った。
 ただ待っていると言っただけだ。
 行けと背中を押しただけだ…。
 抗えない大きな力に流されて、それでも、懸命に生きていた。
「俺は待つ事しか出来なかった」
 小さくキースが呟いた。
「そして、ブルーの願いで僕は生きたいと思った。その思いだけで僕は戻って来た。…本当にどこまでも用意周到なんだから…」
 ここまで言うとジョミーは身体の向きを変えて、窓を背にした。

「だけど、戻った僕は、どう生きたらいいかわからないままだった。もう僕の前には道は無い。本当は僕はとても弱いんだと思い知らされた。立ち上がるのにも人の意思が居るのってわかる?それこそ、呼吸する事すらその意思で命令しているんだよ。僕の心はどんどん冷たくなってゆくのに、身体は生きたい生きたいと願うんだ…。呼吸しろってずっと言われているんだ。そんな僕がちゃんと成長出来るはずがない。焦っても考えても悩んでも…どうしようも無くて…何故そんな状態になってしまうのかもわからない。ジレンマで苦しかったんだ。君が優しくしてくれるのを重く感じた事すらあった。そして、僕は教育ステーションに救いを求めた。学生に戻って何がどう変わるのかは僕にもわからなかった。でも、そこでタイプブルーの力を取り戻し、生徒を守る事になった。大きな力を使うには心の成長が居るんだ。未熟な心では力に振り回される。殺戮を繰り返すだけの化け物になってしまうかもしれない。だけど、僕は心が戻らないまま力を得た」
「……」
「本当に怖かったよ。僕のタイプブルーの力は戦闘のみだったし、オレンジの力は人と人を繋ぐだけだから…。この二つに折り合いをつけるのは難しかったんだ。でも、ステーションの事件で僕は人の中の希望を見た」
「僕は誰かの為でもなく自分の為に、自分のしたい事をやっと見つけたんだ」


「僕は、タイプブルーの力を封印する」




  続く








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