君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
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『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 十三話「愛が呼ぶほうへ」

2012-12-21 02:56:39 | 『君がいる幸せ』Artemisia編二章 心の中は
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー キースの警護をしていたが今は教育ステーションに在学中 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット シャングリラのキャプテン 今はジョミーの専属

   『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 十三話「愛が呼ぶほうへ」

  ミュウの母船 Shangri-La
 ソルジャーズのジョミーをシドの乗る医療用シャトルへ担ぎ込んだブルーは必死に止血しながらシャトルを母船シャングリラへ跳ばした。
 シャングリラは東宙域の外にいたが、シャトルの出現場所で交差するように小さな船を迎え入れた。
 ジョミーはすぐさま医療セクションへ運び込まれる。
「助けてくれ。僕が悪いんだ。僕が彼を望んだから!だから…」
 医療セクションのドアがブルーの目の前で閉まる
「どうか。連れていくなら…僕にして…」
 閉じたドア取り付き、叫んだ。
「運命よ。どうか…お願いだ…彼を助けて…」
 そして、僕らにこうして生まれてきた意味を教えてくれないか。
 僕らは出会ったんだ。
 あのどうしようもない場所で、僕は生まれ、彼を見つけた。
 僕はまだ生まれたばかりで、物を考えるとかそういった事すら上手く出来ずにいた。
 僕にわかるのは、僕が生まれてはいけない事だけ…。
 でもそれすらどういう事なのかわかっていなかった。
 ただここに居てはいけない。
 彼を僕がまた作っちゃいけない。
 彼をもう望んではいけない。
 それだけだった。
 でも僕は何故そう思うのかも、わかっていなかった。
 苛立ちがつのるばかりの中、僕は移植されたミュウ因子の発動がみられる特殊な事例となった。
 あれは、ミュウ因子に自分の遺伝子が抗っていたその動きだった。
 僕は僕の中の異物のミュウ因子を壊した。
 それと同時に僕はタイプブルーとなった。
 生きるとか死ぬとか殺されるとか、壊すとかそういった言葉すらまだ知らない頃。
「タイプブルーは最初からタイプブルーとして生まれ、その運命が僕らを導くんだ」
 これは後にソルジャー・シンが僕らに言った言葉。
 僕はそのまま何もわからずに、破壊を繰り返した。
 何をどうしているのかすら、知らず、ただその力に飲み込まれていた。
「だめだよ」
 小さな子供が僕に近づいてきた。
 その子供は僕を抱きしめた。
 僕らは培養ポッドに居たはずなのに、僕らはそれを壊した。
 その子供は僕を抱きしめた。
 僕と同じような小さな子供。
 冷たくない…。
 暖かい…?
 僕はそれまで培養ポッドから出た事が無かった。
 体温と同じ温度になっているPFCは冷たくなかったが、同じように温度調節されているはずのガラスは何故か冷たかった。
 だから僕はその外にある物はすべて冷たいのだと思っていた。
 暖かいんだ…。
 僕は僕に抱きついて泣いているその子供を、その子と同じように抱きしめた。
 近くに生きている者の居ない世界で僕らは出会った。
 僕の身体に異変が起こった。
 急に苦しみだした僕を見て、その子は僕にキスをした。
 身体が少し楽になった。
 そして、瞬間に知識が流れ込んでくる。
 その子の過去も僕にはわかった。
 彼はここ惑星ノアより遠く離れた星で生まれた。
 彼が生まれた時、彼のいるユニバーサルセンターで事故が起こった。
 その為、沢山の子供たちがそこで死んだ。
 彼は運よく生き残った。
 そこに目をつけは科学者が彼をここへ運び込んだ。
 それはまだ生まれて間もない頃、それから三年、かれは実験サンプルとして生きていた。
 彼からの情報はそこまでだったけれど、何一つ無かった僕にはそれで全てだった。
 身体の組織破壊が始まった僕を駆け付けた職員がまたポッドに戻した。
 僕はそれで生き延びた。
 それから何年かして僕はポッドから出された。
 僕はデータ的には一番高い数値を出すクローンだった。
 僕の前にまたあの時の子供が現れた。
 彼も僕と同じクローンとして扱われていた。
「彼は何なのだろう?」
 そうして僕は彼を欲するようになった。
 そして僕は彼に力を分け与え、彼をタイプブルーにした。
 僕たちはまだ小さな子供だったけれど、一緒にいれば何も怖くなかった。
 そんな小さな僕の満足の所為で、僕は彼を「ジョミー」にした。
 それが楽しくて嬉しかった。
 僕の願いが彼を作り、その運命の波に投げ込んだんだ。
 やがて、僕たちは僕たちの本体の「ソルジャー・ブルー」と「ソルジャー・シン」に出会う。
 僕たちには現存するタイプブルーを全員暗殺する指令をうけていた。
 ジョミーは僕たちがミュウの許に来た本当の理由を知らないのに僕たちを惑星メサイアから遠ざけた。
 それで僕はソルジャー・シンを最初に始末してしまおうと思った。
 僕の思いのままに操ってやろうと思ったんだ。
 それは楽しいだろうと…でも、僕は何故か気が変わったんだ。
 その訳を僕は僕の本体に会って気がついた。
 僕のDNAは彼を殺せないんだ。
 愛しているから…。

 そして、今僕は両方を選び、最愛を失うのか?

 君が死を選ぶ必要はどこにも無いんだ。
 もし、その必要があるとすれば、その道を進ませてしまった僕が全ての罰を受けるべきだ。
 作られた「ジョミー」君が何でもかまわない。
 僕の傍に居て欲しい。
 僕には君が必要なんだ。
 失いたくない。
 そうさ、僕を生かす事が出来るのは君だけ。
 僕を殺す事が出来るのも君だけだ。
 愛している。

「愛しているんだ!」



  東部宙域 近くに何も無い虚空

 ジョミーが青く光ることも無く、ただそこにいた。
 呼吸する為の空気を作ることも煩わしく、呼吸や心拍を最低に下げ眠るように漂っていた。
 あの子が生まれたのは、僕の所為。
 あの子が死を選んだもの、僕の所為。
 どこを読み間違えたなんて、もう…どうでもいい。
 もう僕には後悔しか浮かばない。
 ただあの子が死に連れ去られないその為なら、僕は何だってする。
 神になれと言われたら、神にだってなろう。
 悪魔になれと言われたら、悪魔にだってなろう。
 だけど、僕には何一つ出来ない。
(もう十分に幸せでした。全てを知ってるアナタに守られて、人を愛する事、誰かを、何かを守って戦った)
「ダメだ」
(そして、僕は人として生きる喜びを知りました)
「許さない」
(もう…十分です…)
「なら…何故…泣くんだ。ジョミー」
(幸せだったから…です)
 怖くないのか?
 もう二度と、愛する人に会えなくなるのは怖くないのか?
 これは罰なのか?
 ああ、そうか…逝くのは簡単なのかもしれない…。
 僕は地球再生で一度死んだ。
 あの道は、避けられないものだった。
 そう言って全てを諦めていた。
 そうして、僕は逝った。
 皆を残して、何も言わずに、それが優しさだと僕は思っていた。
 そう、僕は間違えた…。
「生きるのを諦めるな」と言ったのはブルー。
 でも、ソルジャー・ブルー。

 生きるのはこんなに辛いんです。

 前だけを見て進むと決めたのに…。
 貴方にそう誓ったのに…。
 捨ててしまえた命。
 それよりも重い…。
 生き続けるという事。
 ジョミー。
 君の幸せはそんなに短くないよ。
 もっと、ずっと長く続くはずだ。
 ブルー。
 彼を支えて、取り戻して…。
 それが、君の生きる意味だと言うのなら。

 小さい白い光だけになったジョミー。
 何かが来る。遠くから青い矢が…まっすぐに僕に向かってくる。
 ああ、あれはブルーの心。
 シュンという小さな音と共に、小さな光を通り抜けた青い矢。
 ゆっくりと音も無く小さな光が浮かぶようにジョミーに戻ってゆく。
「助かったのか…良かった」
 ジョミーの胸には青い矢が刺さり背中まで貫通していた。
 頬を伝った涙が矢羽に落ちると、青い矢は静かに消えていった。

 ゆっくりと宇宙(そら)を進むジョミーの前に練習艦アルビオンが現れた。
 それに誰が乗っているのかは視るまでもなかった。
 宇宙服を着て命綱をつけたキースがゆっくりと近づいてきた。
 キースはジョミーを捕まえた。
 そして、笑って言った。
「戻ったか」
「ええ」
「泣いたか?」
「いいえ…」
「お前が泣く時は傍に居ると言った。俺はそれを守れて居ないな…」
「悲しくて泣いたのではないから…嬉しかったから…」
「そうか…彼が持ち直したと知ったんだな」
 二人はアルビオンのハッチへと向かった。
 キースは気密室へ入るが、ジョミーはそれに続かなかった。
「僕はこのままシャングリラへ行きます」
 そう言うだろうと予想していたかのようにキースはジョミーの腕を掴んで言った。
「ダメだ。俺はお前と居る」
「キース。何故来た。君はこんな所へ来てちゃいけないはずだ。もう行ってくれ」
「時間が無いと言うなら、これをお前の力で跳ばせばいい。俺はどこにも行かない」
「キース」
 この会話はきっと堂々巡りになる。
 ジョミーは諦めるのではなく、彼と居る事を認めた。
「それで、この船は何処へ向かうの?ペセトラ?」
「ああ、最初はな」
「最初?」
「このまま、ノアへ戻る」
「……」
 自分の腕を掴んだままそう言うキース。
「このままだ」
「このままですか?」
「ああ」
「僕はもう大丈夫だから、離して…」
「嫌だ。離しはしない」
「そんな…でも…キース…それは…」
 困る。と続けたジョミーを引き寄せ抱きしめた。
「俺が…離したくないんだ…。お前が俺の傍に居て欲しいんじゃない。俺が傍に居たいんだ。もう…」
「キース」
「もう、離れないでくれ。もうお前の死にそうな姿は見たくないんだ」
 ゆっくりと巻き取られてゆく命綱に引っ張られるように、二人はアルビオンの気密室へと入っていった。
 そして、ゆっくりと閉まるハッチの小さくなってゆく宇宙を二人で見つめた。

「僕達は…もう…どうしようもないですねぇ…」
「ああ、だけど…行くとこまで、行ける所まで…二人で一緒に行こう」

 

 
  続く








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