星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

クリーム色の家(7)

2012-03-24 16:17:45 | クリーム色の家
「切迫早産です。取りあえず安静な生活を心がけて下さい。」
土曜日、2週間ぶりの妊婦健診に行くと、担当の医師はカルテを見ながらそう言った。早産、という言葉に反応して言葉が口を出ないでいると、医師はそのことに気付いたのかやや穏やかな顔になり「しばらく安静な生活をして、それでも早まりそうなら臨月になるまで入院して点滴になりますかね。」
私は生まれてこの方入院をしたことが無かった。大きな怪我もしたことが無い。このままあと数か月穏やかに妊婦生活が送れると思っていた私は事態が急変したことにどうしていいものか途方に暮れてしまった。
「仕事は?デスクワークなんで大丈夫ですか?」
真っ先に仕事のことが気になった。
「とんでもない。安静ですから仕事は当然だめです。お休みしてください。」
「お休み・・・。」
ただでさえ妊婦になったことで色々と迷惑をかけているのに、いきなり休みます、と言うのはいささか気が引けた。上司は割と情が深い人なのでいいよいいよ、と言ってくれるのだろうが、一緒に机を並べている独身のお姉さんのほうの反応を思うと気になった。
「まあお仕事もあるでしょうけれど、子供が無事生まれてくることが今いちばん大事ですから。今生まれてしまってもまだいろいろな機能が完全に出来てませんから。」
「・・・はい・・・。」
「ご主人は、今日は一緒に来てます?」
夫は今日は仕事があると言って出掛けて行った。
「いえ。今日は一人で来ました。」
「そうですか。ご主人にも協力してもらわないと。」

結局、次の週の検診で入院することが決まってしまった。今回の検診はさすがに夫が車で送り迎えをしてくれた。
「入院だって。ご主人にも話をしたいって。」
俺に?、と言いながら夫は診察室に入っていった。担当医は私に話したこととほぼ同じ説明を夫にした。
「わかりました。」
私は何となく、頻繁にお腹が張る感じからおそらく入院と言われるのではないかと予想していたので、やはり、という感じだった。夫は顔つきこそ神妙にしていたが、私に対して何か気遣うようなセリフは特に無かった。私は何となくそのことが淋しくなり、「月曜はタクシーで行くからいいわ。」と口走っていた。月曜日が入院する日だった。
「いいのか。仕事午前中だけ休んで連れてくよ。」
「いいよ。別に大したことじゃないから。」
前回の検診から2週間、夫は特に生活態度が変わったわけでも無かった。私は最低限の家事をし、昼間はほとんど座ったり横になったりしていたが、夫は食事を作ってくれるわけでもなく掃除をしてくれるわけでもなかった。安静にしていればと言っても、普通の家事程度は普通にしてもいいのだと思っているようだった。私がだらだらと家にいるのが鬱陶しく感じているのではないかと思わずにはいられなかった。
もしかしたら私が入院してしまうほうが、好きなことをしていられる、と思っているのだろうか。何時に家に帰ってきてもどこへ行っても、誰も咎める人はいない。そんなことを思っているのではないかと疑ってしまう自分がいた。



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コメント (2)
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