星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

fortune cookies(18)

2009-04-18 21:45:17 | fortune cookies
「宴会に遅れてやってきたのはわざとじゃなくて、それは全くの偶然だったらしいの。本当に仕事が遅くなって遅れてしまったって。でも私の姿をもしかしたら垣間見れるかもしれないって思うと、どうしても宴会には行かなくちゃって、それでタクシーと飛ばしてきたと。そしてロビーに飛び込んで急いで場所を聞いたら、名札が目に入ったと。それは間違いなく同じ苗字だった。その時にこの子がって思って咄嗟に体の特徴を確認したって。目の中の黒い点とか、口や鼻や耳の形、特徴のある爪の形、そしたら間違いなくこれは自分の子供だろうと思ったって。」
 私はその場面を想像して、何とも言えない気分になった。その美沙子姉さんの母親と言う人が、その瞬間どんな気持ちでいたのかが、分かるような気もしたし分からない気もした。
「そういうのって分かるのかな。何十年も会ってなくて、子供の頃に別れて大きくなって会っても、自分の子供だって分かるのかなあ。」
 
私は子供っぽいことを聞いてしまった。よくテレビなんかで何十年ぶりの親子再会とかのシーンをしていると、あれは分かるものなのかなあと常々思っていたのだ。それに何十年離れ離れの他人も同然だった人と、再開した瞬間にああしてひしと抱き会えるものなのだろうかと思ったりするのだ。
「多分あの人は分かったんだと思うわ。宴会をやっている間も、ずっとずっと幼い頃の私の姿を思い出していたって。生まれたばかりの頃の私の顔の特徴や、耳の形とか爪の形が自分にそっくりだと思ったとこを思い出したって。だから間違いなくこれは自分の子供だって思ったって。」
 
美沙子姉さんはずっと目線をテーブルに落としたまましばらくそこで沈黙した。じっと動かずに一点を見ていた。姉さんがあまりにも長い間微動だにしなかったので、私は姉さんの顔を覗き込んだ。
「姉ちゃん大丈夫?」
 美沙子姉さんの眼に、うっすらと涙が浮かんでいた。涙は頬を伝って降りてはこなかったけれど、もし瞬きをしたらそれは止めどなく流れてしまいそうだった。 
「私はね、本当は、ずっとずっと、自分を産んだ母親という人に、私を置き去りにしたことを後悔していると言ってほしかったのよ。私はそのことを、どうして私を置いて家を出て行ってしまったんだろうってそのことを、ずっとずっと考えて生きてきたの。だから、ただその一言を言ってもらえたら、私はそれまでの人生を、ずっとそのことばかりを考えていた人生を、無駄でなかったと思えたと思うのよ。」
 
私は美沙子姉さんを直視することができなかった。美沙子姉さんの言いたいことは私にも分かるような気がした。美沙子姉さんの人生は、それは私の人生も同じことが言えると思うのだけれど、最初から大きな穴があいていたのだ。母親の不在という、大きな穴が。私達は無意識に、その大きな空洞を、時には何かで埋めようとしたり、なぜ穴が空いているのだろうととめどなく考えたり、また時にはその穴をまるで無いと思おうとしたりしてきたのだ。でも、間違いなくそこに大きな空洞はあって、それは何をしても埋まらないものだということも薄々分かっているのだ。
「でもね、その手紙をもらった後でその人と二人だけで会ったんだけどね、そういうことは何も言ってくれなかった。ただ、どれだけ自分の結婚生活が悲惨で、結婚相手がひどい人で、そして舅や姑に嫌なことをされたかってことだけ。そして自分が再婚してどれだけましな人生になったかって。そういうことを延々と話す訳よ。」
 
私は何と言っていいか分からなかった。大きな穴をなんとか埋めようと、ずっと模索してきた美沙子姉さんのそれまでの人生は、実の母親に会ったということで、いっそうかき乱れてしまったのではないかと思った。


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あおば

2009-04-18 08:55:38 | つぶやき
おはよう。
少し曇っているけれど、数時間前とはうって変って爽やかな朝です。

外に出たら、こんなに気持ちがいいのだからたまには朝早く歩いてみるといいんだなと思いましたが、よく考えたら私は通勤で毎朝結構歩いているのでした。

自分の努力でどうにかなるのか、それとももっと先天的なことなのかとか、考えると分からなくなってきてます。そもそもこうやってぐるぐると考えることがよくないのかもしれません。

これからの季節のように。明るく、開放的に、なれればいい。
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