Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(04)練習問題(第27問A、第28問A、第29問A)

2020-10-19 | 日記
 第27問A 占有の意義、窃盗罪の保護法益
 Xは、Mデパートの6階エスカレーターわき付近において、貴金属の入った小さな紙袋を発見した。その紙袋は、Aがその場所から同店地下1階の食料品売場にエスカレーターで移動した際に同所のベンチに置き忘れたものであった。Xは、これを自分のものにするつもりで持ち去った。なお、付近には手荷物らしき物もなく、当該紙袋だけがベンチに放置された状態にあったが、Aは当該紙袋を置き忘れた場所を明確に記憶しており、約10分後には置き忘れた場所に戻って来た。また、ベンチの近くに居合わせたBが当該紙袋の存在に気づいており、持ち主が取りに来るのを予期してこれを注視していた。その後、Xが当該貴金属を自宅に持ち帰り保管していたところ、Xの息子Yがこれを発見し、Xの物だと思って、これを無断で持ち出した。 XおよびYの罪責を論じなさい。
 論点 (1)Xが貴金属の入った紙袋を持ち去った行為
    (2)Yが貴金属を無断で持ち出した行為

 答案構成
(1)Xが貴金属の入った紙袋を持ち去った行為
1問題提起(〇〇は××罪にあたるか、それとも△△罪にあたるか)
 Xの行為は窃盗罪にあたるか、それとも占有離脱物にあたるか。

2概念・要件の説明(〇〇罪とは、△△罪とは、どのような犯罪か)
 窃盗罪とは、財物に対する他人の占有をその意思に反して侵害し、その財物を自己・第三者に移転する行為をいう。占有離脱物横領罪とは、他人の占有を離れた財物を領得する行為をいう。。
 財物の占有とは、財物に対する事実上の支配であり、その支配の有無は、財物の形状、大小、軽重によって判断する必要がある。財物が財物が他人の占有下にあれば窃盗罪が、それがなければ占有離脱物横領罪が成立する。財物の占有の有無が両罪を区別する基準となる。

3事実の認定(被告人Xはいかなる行為を行ったか)
 XはMデパートの6階エスカレーターわき付近において、ベンチの上に置かれた貴金属の入った小さな紙袋を発見し、それを持ち去った。この紙袋はAが占有していたか。それともその占有を離脱していたか。

4概念・要件の事実への当てはめ(被告人Xの行為の評価と法的意味の判断)
 Aが置き忘れた紙袋はデパート6回のエスカレーター脇のベンチの上にあり、そこには持ち主らしき人物はいなかった。それゆえ、その紙袋は誰かによって支配されているようには見えない。従って、その紙袋は持ち主の占有から離れた物、占有離脱物であるといえそうである。
 しか、持ち主のAは、エスカレーターで地下1階の食料品売り場に移動した後、6階のエスカレーター脇に紙袋を置き忘れたことを思い出し、10分後には戻ってきた。また、その間、置き忘れた場所を正確に記憶していた。さらに、ベンチの近くにいたBは持ち主が戻って来ることを予期しながら、注視していた。
 このように、紙袋がベンチの上に置かれていたこと、Aが置き忘れた場所を覚えており、10分後に戻ってきたこと、Bがそれを注視していたことなどの事実関係を踏まえると、Aは紙袋をベンチの上に置き忘れ、そこから離れたとはいえ、それに対する事実上の支配はなおも継続していたと評価することができるのではないだろうか。Aが紙袋を置き忘れ、それを思い出した間に時間的・場所的に近接な関係があったこと、さらに第3者Bから見ればAが置き忘れた紙袋を取りに戻ること認識させる外観があったこと踏まえると、紙袋に対するAの占有は以前として継続していたいえる。そうすると、従って、それを持ち去ったXの行為は、紙袋に対するAの占有を侵害し、それを自己の支配領域に移転させた行為であるといえる。

5結論 従って、Xには窃盗罪(刑235条)が成立する(ある解答例では、貴金属の入った紙袋に対するAの占有は否定されているため、窃盗罪は成立せず、占有離脱物横領罪の成立が肯定されている)。

(2)Yが貴金属を無断で持ち出した行為
1問題提起 Yの行為は窃盗罪にあたるが、親族相盗例が適用し、その刑を免除できるか。

2概念・要件の説明
 親族相盗例(刑法244条)とは、親族間の窃盗罪などについては、「法は家庭に入らず」の考えをもとに、行為者の親族であるという一身的特性を理由に刑事政策的に刑罰を科すのを控える制度である。親族関係は、行為者者と財物の占有者だけでなく、その所有者の間にあることが必要である。

3事実の認定
 YはXが保管していた紙袋の貴金属を持ち出した。これはYの貴金属に対する占有を侵害し、それを自己の支配領域に移転しているので、窃盗罪にあたる。

4概念・要件の事実への当てはめ
 XはYの父であり、窃盗の行為者Yと貴金属の占有者Xとの間に親族関係が認められるが、親族相盗例を適用するためには、その所有者Aとの間においても親族関係があることが必要である。YとAの間にそのような関係はないので、親族相盗例を適用することはできない。
 また、Yは貴金属が「Xの物だ」、つまりXが占有する貴金属がXの所有物であると錯誤していたが、たとえそのような錯誤があっても、Yは「Xの物」、つまり他人の財物であることを認識していたので、この錯誤は窃盗罪の故意の成否に影響を及ぼさない。

5結論 従って、Yには窃盗罪(刑法235条)が成立する。
(3)結論 Xには窃盗罪罪(刑法235条)が成立する。Yには窃盗罪は成立する(刑法235条)。

 第28問A 不法領得の意思
 甲は、A社で金庫の管理を任されていたが、その中の金銭等を使うには上司乙の許可が必要だった。ある日、甲は乙にひどく怒られたため、腹いせに金庫内の小切手を隠して乙を困らせてやろうと思って、金庫から50万円の小切手を取り出した。しかし、騒ぎになるのをおそれ、すぐに金庫に返した。その後甲は、乙から、翌日までに金庫から30万円をB社の銀行口座に振り込むよう言われ、金庫から金を持ち出した。しかし、銀行へ行く途中、未納の携帯電話料金を今日振り込まないと電話が止められてしまうことに気づいた。そこで甲は、日ごろから「金ならいつでも貸してやる。」と丙が言っていたのを思い出し、自分には十分な持ち金も預金もないが、帰ったら丙から借りて振り込めばよいと考えて、持ち出した金の一部を使用して未納料金を支払った。帰宅後、甲は丙に金を借り、翌日B社の銀行口座に30万円を振り込んだ。
 甲の罪責を論じなさい。

 論点
(1)甲が禁錮から50万円の小切手を取り出し、それをすぐに金庫の返した行為
(2)甲がB社の銀行口座に振り込む予定の金銭で携帯電話料金を支払った行為

答案構成
(1)甲が禁錮から50万円の小切手を取り出し、それをすぐに金庫の返した行為
1問題提起
 甲の行為は窃盗罪にあたるか、それとも業務上横領罪にあたるか。
2概念・制度の説明
 窃盗罪とは財物に対する他人の占有を侵害して、それを自己または第三者の支配領に移転する行為である。業務上横領罪は、業務として他人の財物を占有する者が、それを領得する行為である。甲は会社の金庫の管理を任されていた。その金庫の中の小切手は甲が占有しているのか。それともその使用の許可を判断する上司乙が占有しているのか。
3事実の認定とその評価①(財物の占有)
 甲は会社の金庫を保管することを任されていたので、金庫は甲によって占有されている。しかし、その中の小切手の使用は、上司乙の許可が必要であった。このようにあり、甲と乙の間に上司・部下の関係があり、金庫の小切手の使用権限が乙にある場合、小切手の占有は乙にあり、甲は補助者でしかない。このような場合、金庫の小切手を持ち出す行為は、乙の占有を侵害しているといえる。
4事実の認定とその評価②(不法領得の意思)
 甲は金庫から小切手を持ち出した。それは、乙を困らせる目的から行われている。また、甲はすぐにそれを金庫に戻している。それは、騒ぎになるのをおそれたからである。小切手の短期間の持ち出しであっても、乙の占有を侵害していると言える以上、窃盗罪の窃取にあたるが、甲がその行為を不法領得の意思に基づいて行なったといえるか。
 不法領得の意思とは、権利者を排除し、その経済的用法に従って使用・処分する意思をいう。甲は乙を困らせる目的には、小切手の占有者乙を排除する意思が認められるが、経済的用法に従った利用意思とはいえない。従って、甲には不法領得の意思は認められない。
5結論
 従って、甲には窃盗罪は成立しない。


(2)甲がB社の銀行口座に振り込む予定の金銭で自分の携帯電話料金を支払った行為
1問題提起
 甲がB社の銀行口座に振り込む予定の金銭で携帯電話料金を支払った行為は、業務上横領罪にあたるか。
2概念・制度の説明
 業務上横領罪とは、他人の物を保管することを業務とする者がそれを領得する行為である。窃盗罪と同様に不法領得の意思に基づいて行われることを要する。
3事実の認定
 甲は乙からB社の銀行口座に金銭を振り込むよう依頼されて、30万円を占有し、それを自分の携帯電料金の支払いにあてた。ただし、その日のうちに丙から30万円借り、翌日にB社の銀行口座に振り込んだ。
4事実への要件の当てはめ
 甲は乙から預かった金銭を自己の携帯電話料金として消費したので、それを領得したといえる。しかし、甲は丙から金銭を借りて、翌日にBの口座に振り込んでいるので、一時的な流用でしかなく、このような場合にまで不法領得の意思を認めるべきか。金銭の経済的用法に従った利用意思は認められても、権利者である乙を排除する意思があったといえるか。甲には丙から借りて補てんする意思があったことは確かであるが、丙はいつでも貸してやると言っていただけで、それが確実であった、保障されていたとはまではいえない。このような不法領得の意思がなかったとすることは妥当ではない。
5結論
 従って、甲には業務上横領罪(刑法253条)が成立する。


(3)結論
 以上により、甲には業務上横領罪が成立する。

 第29問A 窃盗の既遂時期、事後強盗罪、強盗致傷罪
 Aは万引き目的で甲スーパーへ買い物客を装い立ち入った。そして、同スーパー内で買い物かごに商品数点をいれ、レジを通ることなくレジの外側に持ち出し、カウンター上に置いて、同店備え付けのビニール袋に商品を移そうとしたところ、同店の店員乙に取り押さえられそうになったので、逮捕を免れる目的で、Aは乙の手を振りほどき、商品をその場に置いたまま逃走した。乙はその拍子に転倒して加療1週間の傷害を負った。後から追いかけてきた店員丙が更にAを追跡し、約30分後、同スーパーから約1キロメートル離れた路上で取り押さえようとしたところ、Aは逮捕を免れるために、手拳で丙の顔面等を数回殴打し、負傷させ たうえ、逃走した。Aの罪責を論ぜよ。
 論点(1)万引き目的に基づくスーパーへの立ち入りと建造物侵入罪
(2)スーパーでの万引き=窃盗の既遂時期
(3)万引き後に逮捕を免れるために店員乙の手を振りほどき、転倒させ、加療1週間の生涯を負わせた
(4)万引きから30分経過し、スーパーから1キロメートル離れた場所で店員丙に暴行を加えた
 答案構成 (1)Aが万引き目的からスーパーに立ち入った行為
1Aが万引き目的からスーパーに立ち入った行為は建造物侵入罪にあたるか。
2建造物侵入罪とは、人の看守する建造物に、建物の管理責任者の意思に反して立ち入る行為である。
3Aは万引き目的からスーパーに立ち入った。
4スーパーには、客対応や営業の円滑化のために店長や従業員がいるので、人の看守する建造物にあたる。Aは万引き目的に基づいてスーパーに立ち入っている。それは管理権者の意思に反するか。
 一般にスーパーの管理権者は、そこへに立ち入る行為に対して一般的・包括的に許可している。確かに万引き目的の立ち入りには問題があるが、管理権者が貼り紙などをしてそのような立ち入りを明示的に拒否してはいない。そうすると、Aの立ち入りは侵入にはあたらないようにも思われる。
 しかし、万引き目的での立ち入る行為にまで管理権者が同意しているとはいえない。管理権者がそのような立ち入りを拒否することは合理的に推測できるので、Aの立ち入りは侵入にあたるといえる。
5従って、Aには建造物侵入罪(刑法130条)が成立する。
(2)Aが万引きした商品をレジの外に持ち出した行為
1Aが万引きした商品をレジの外に持ち出した行為は、窃盗の既遂にあたるか。
2窃盗罪とは、他人の財物を窃取する行為である。それは財物に対する他人の占有を侵害し、それを自己または第三者の支配領域に移転することをいう。
3Aは万引きした商品をレジの外に持ち出し、カウンターに置いたまま逃走している。
4窃盗罪の既遂時期は、財物の形状、大小、軽重に応じて個別に判断しなければならないが、Aが万引きしたのはスーパーの商品であり、買物かごに入る程度の小さなものである。このような小さな財物であるが、その占有の移転時期は、商品を手にしたり、買物かごに入れた時点ではなく、レジで代金を払わずに、カウンターに移動した時点であると考えられる。客が商品を持って、カウンターにいる場合、それはすでに代金を支払い終えていると理解される。そこにAがいる場合、Aは万引きして商品を手にしているのではなくか、代金を支払って購入したとしかうかがえない。従って、本件の事案での窃盗の既遂時期は、Aがレジを通過せずに、その外に出た時点であると思われる。
 そうすると、Aがレジを通過せずに外に出た時点で商品の占有は移転し、窃盗罪は既遂に達している。
5従って、Aには窃盗既遂罪(刑法235条)が成立する。
(3)Aが店員乙の手を振りほどいて、加療1週間の傷害を負わせた行為
1Aが窃盗既遂後に店員乙の手を振りほどいて、加療1週間の傷害を負わせた。事後強盗罪が成立するか。
2事後強盗罪とは、窃盗が、財物を得てこれを取り返されるのを防ぎ、逮捕を免れ、または罪跡を隠滅するために、暴行または脅迫を加える行為であり、それによってすでに成立している窃盗既遂罪は強盗罪として扱われることになる。この暴行・脅迫は、強盗罪(刑法236条)の手段行為と同様に被害者の反抗を抑圧する程度のものであることを要する。
3Aは窃盗既遂後に店員乙による逮捕を免れるために、その手を振りほどき、加療1週間の傷害を負わせた。
4Aは乙の逮捕を免れる目的があったので、刑法238条所定の目的にあたる。では、乙の手を振りほどく行為は、被害者の反抗を抑圧する程度であったといえるか。
 Aには逮捕を免れる目的があったが、手を振りほどくという行為は乙の反抗を抑圧するほどのものではなかったので、それは事後強盗罪の「暴行」にはあたらない。とはいえ、加療1週間の傷害を負わせているので、傷害罪(刑法204条)が成立する。
 Aには逮捕を免れる目的があり、手を振りほどいて、加療1週間の傷害を負わせている。手を振りほどく行為それ自体に強度はなくても、他の要因と相まって加療1週間の傷害を負わせたことから、事後強盗罪の暴行にあたり、そこから傷害が発生している。
5従って、傷害罪(刑法204条)が成立し、すでに成立している窃盗罪は強盗罪として扱われ、そこから傷害が発生しているので、強盗致傷罪(刑法240条前段)が成立する。
(4)Aが万引きから30分後、スーパーから1キロメートル離れた場所で店員丙に暴行を加えた行為
1Aが丙の顔面を手拳で殴打し、負傷させた行為は、事後強盗罪にあたるか。
2事後強盗罪とは、上記(2)2で説明した行為である。
3Aは窃盗後、逮捕を免れるため、店員丙の顔面を殴打し負傷させているので、(事後)強盗致傷罪にあたると思われるが、Aはその行為を万引きから30分後に、スーパーから1キロ離れた場所で行っている。
4事後強盗罪の暴行は、窃盗が逮捕を免れる目的から窃盗の被害者に対して行う行為であるが、それが強盗罪として扱われるためには、窃盗の機会継続中に行われていなければならない。それは窃盗と暴行の時間的・場所的近接性を踏まえて判断される。Aは万引きから30分後にスーパーから1キロメートル離れた場所で暴行を行っているので、窃盗の機会継続性は認めがたいようにも思われるが、店員丙が窃盗犯Aを追跡していたので、依然としてAの窃盗は終息しておらず、その機会継続中であるといえる。そして、その暴行から傷害が発生している。
5従って、Aには強盗致傷罪が成立する
(5)結論  Aには乙への強盗致傷罪(刑240)と丙への強盗致傷罪(刑240)が成立する。両罪は併合罪になる(刑45)。