Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(第02回)練習問題(第24問B)

2020-10-06 | 日記
 第24問B 監禁罪
 甲は、自動車を乗り逃げしてしまおうと考え、自動車販売店で、従業員に「ちょっと試乗していたい。」と言ったところ、従業員は、1人で試乗してくるよう勧め、試乗ルートの指示をし、ガソリンの残量をわずかにしておいたナンバープレート付きの試乗車のキーを渡した。甲は、指示どおりのルートを走り出したものの、すぐにルートから外れ、強姦(強制性交)する目的で好みの女性がいないかを探し始めた。甲はA駅付近で顔見知りの乙女を見つけたので、「ドライブがてら家まで送りましょう。」と言って、乙女を自動車に乗せた。走っているうちに、乙女は自宅へ帰る道と違うことに気づき、身の危険を感じたので「降ろして。」と頼んだが、甲はそれを無視してそのまま走り続けた。途中、ガソリンの警告灯が点灯したので、甲は給油のためにガソリンスタンドに寄り、ガソリンを入れてもらおうとした。乙女は、甲が給油を頼んでいるすきを見て逃げ出そうとしたが、ハイヒールを履いていたためつまずいてしまい、後退してきたタンクローリーにはねられて死亡した。甲は、それを見て気が動転してしまい、代金を支払わずにそのまま自動車で逃走し、その後、山林にこの自動車を乗り捨てた。甲の罪責を論ぜよ。

 論点
(1)詐欺罪と窃盗罪の区別(財産犯のところで学習します)
(2)監禁罪の保護法益
(3)監禁罪と致死の因果関係の成否
(4)ガソリン代の未払い(財産犯のところで学習します)
(5)自動車の投棄(財産犯が成立した後の行為の性質)

(1)甲が試乗を偽って自動車を乗り逃げした行為について
1 甲が試乗を偽って自動車に乗った行為は、窃盗にあたるか、詐欺罪にあたるか。
2 窃盗とは、財物の占有者の意思に反して、その占有を自己または第三者に移転させることである。
 詐欺とは、財物の占有者を欺いて、錯誤に陥れて、その財物を交付させて、その占有を自己または第三者に移転させることである。
3 甲は乗り逃げする意思を秘して、従業員に「試乗」すると偽って、自動車のキーを交付させた。これによって、自動車のキーを支配領域に移転させたといえる。これにより詐欺罪が成立すると思われる。
4 では、その後、自動車を乗り、指示ルートから離れて走行した行為は、どのように評価されるか。甲は自動車のキーを欺いて交付させた後、自らがそのキーを用いて自動車を指示ルートから外れて運転し、自動車販売店が所有する自動車を自己の支配下に移転させたといえる。それは、窃盗にあたると解することもできるが、甲は従業員を欺いて自動車のキーを交付させたことによって、キーの占有だけでなく、自動車の占有をも甲に移転させたと評価することができるので、自動車のキーとは別に自動車自体に対する窃盗罪の成立を認める必要はないであろう。自動車のキーと自動車に対する1個の詐欺罪が成立するにとどまる。
5 従って、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。

(2)性交目的で乙女を自動車に乗せた行為について
1 甲は、性交目的を秘して、乙を自動車に乗せて走行した。この行為は監禁にあたるか。
2 監禁とは、被害者を一定の場所から脱出することを困難にして、その行動の自由を制約する行為である。
3 甲は乙を自動車の助手席などの一定の場所に入れ、自動車を走行し、そこから容易に脱出できない状況にした。従って、監禁罪が成立するように思われる。しかし、乙は帰り道と違うことに気が付くまでは、ドライブのつもりであり、移動の自由が制約されている認識はなかった。このような場合でも、監禁罪が成立するのか。
4 監禁罪の保護法益である行動の自由は、その主体が自由に行動したいと思うときに、自由に行動できる自由を意味する。そうすると、その制約を受けている認識があり、現実に自由の侵害の侵害を認識している場合けでなく、その認識がない場合であっても監禁罪が成立すると考えられる。乙は、甲に欺かれた自動車に同乗し、移動の自由を制限されたのであり、甲が強姦の目的を持っていることを知っていたならば、自動車に同条しなかったことが合理的に認められるので、行動の自由の侵害があったといえる。
5 従って、乙が自動車に同乗した時点から、すでに監禁罪(刑法220条)が成立していたといえる。

(3)乙女がタンクローリーに轢かれて死亡した点について
1 乙は監禁の被害を認識し、自動車から外に出て、タンクローリーに轢かれて死亡した。乙の死亡と因果関係があるのはタンクローリーの運転者の運転行為か、それとも甲の監禁行為か。
2 タンクローリーの運転者の行為と因果関係があるならば、その者に過失運転致死罪が成立するだけである。しかし、乙が死亡したのは、ハイヒールでつまずいた本人の過失行為に起因すると考えられるならば、過失運転致死罪の成立が否定される可能性がある。
3 しかも、乙がハイヒールをはいてつまずいたのは、乙が監禁された自動車から逃げ出すためであった。甲の監禁行為がなかったならば、乙が逃げ出そうとすることはなく、またタンクローリーに轢かれて死亡することもなかった。そうすると、甲の監禁行為がなかったならば、乙の死亡は発生しなかったであろう。従って、甲の監禁行為と乙の死亡結果との間には条件関係があるといえる。
4 では、甲の行為と乙の死との間に因果関係があるといえるか。乙の死は監禁行為それ自体から生じたものではなく、タンクローリーに轢かれたからであるが、乙が死亡したのは甲の監禁と時間的・場所的に近接しており、また監禁状態から逃げ出した乙の行動は、甲の監禁行為から生ずる行為であり、甲の監禁行為に随伴する行動であるといえる。そうすると、乙の死は甲の監禁から生じたと判断でき、甲の監禁行為と乙の死亡結果の因果関係を認めることができる。
5 従って、甲には監禁致死罪(刑法221条)が成立する。

(4)甲がガソリン代の支払わなかった行為について
1 甲はガソリンスタンドに対してガソリン代を払わなかった。この行為は利益詐欺罪や窃盗罪にあたるか。
2 利益詐欺罪とは、相手を欺いて債務の免除の意思を表示させ、それに相当する利益を得る行為である。
3 甲はガソリン代金の支払を免れるためにガソリンスタンドの従業員を欺いたか。甲はそのような行為を行ってはいない。従って、利益詐欺罪の手段行為である欺く行為があったと認めることはできない。
4 では、窃盗にあたるか。甲はガソリン代金を支払っていないだけであり、他人が占有する財物を窃取した事実はない。したがって、窃盗罪にもあたらない。
5 甲の行為は、ガソリン代の未払いでしかなく、それは民法上の債務不履行)にとどまり、犯罪にはあたらない。

(5)甲が自動車を投棄した行為について
1 甲が他人の自動車を投棄した行為は、器物損壊罪にあたるか。
2 自動車販売店の従業員を欺いて、自動車を詐取した後、それを処分した場合に、それが器物損壊罪にあたることがある。
3 しかし、財物詐欺罪の後に行われた器物損壊を詐欺罪とは別に処罰する必要があるのか。
4 刑法理論では、そのような行為を不可罰的事後行為ないし共罰的事後行為として、詐欺罪とは別に処罰することを控えている。なぜなら、詐欺罪も器物損壊罪も財産犯の一種であり、また詐欺罪によって財物を騙取した後、その証拠を隠滅するために、損壊・投棄するなどの行為が行われることがあり、そのような器物損壊行為は先行する詐欺罪の法定型の枠内において併せて処罰するだけで足りると解されるからである。このように考えるならば、自動車の投棄は、詐欺罪の成立後に行われた不可罰な行為ないし詐欺罪と共に処罰される行為として扱われ、詐欺罪の法定刑の範囲内において共に処罰することで足りる。
5 従って、あらためて犯罪として処罰する必要はない。

(6)結論
 以上から、甲には財物詐欺罪と監禁致死罪が成立し、それらは併合罪の関係に立つ。