Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(13)演習

2021-07-04 | 日記
083 共犯と違法性阻却事由
 甲が友人Aと市街地を歩いていたところ、数時間前に甲が電話で侮辱的な言葉を浴びせたばかりの知人Bが鬼の形相で甲らの方に近づいてきた。甲はAに対してBを示しながら、「あの男がさっき財布を盗んでいるのを見てしまった。きっと口封じしようとしているに違いない。なんとかしてくれ」と虚偽の事実を告げた。また、甲は普段から携帯していたナイフをAに渡し、「やられたらナイフを使え」と告げた。甲は、驚いてナイフを返そうとするAを説得すると、自らはその場から逃げ出した。Bは甲を追跡しようとしたが、Aに妨害された。Aはその際、いくら犯罪者とはいえ、いきなり襲いかかってくることはないだろうと考えていた。しかし、BはAが事情を知って甲をかばっているものと誤解し、いきなりAの襟首をつかんで引きずり回し、手拳で顔面を数回殴打した。Aは、自己の生命・身体を防衛する意思で、Bを殺害することもやむなしと決意し、上記ナイフを用いてBの左胸部等を数回刺して殺害した。
 なお、甲がいきなりAに襲いかかることを予見しており、Aの防衛行為によりBが殺害されることを望んでいた。
(1)過剰防衛の刑の減免根拠につき責任減少説に立つと、甲の罪責をどうなるか。
(2)過剰防衛の刑の減免根拠につき違法減少説(または違法・責任減少説)に立つと、甲の罪責はどうなるか。


 正犯と共犯の関係は、一般に次のように説明されています。正犯は犯罪の構成要件を実現する行為であり、共犯はそれ以外の行為によって構成要件の実現に関与することであり、教唆・幇助に限って処罰される。構成要件の実現への関与の方法は異なりますが、構成要件の実現(結果の発生)に対して因果的な作用を及ぼして、結果を惹起している点では共通しています(因果的共犯論または惹起説)。したがって、正犯が成立していないのに、共犯が成立するということはありません。共犯は、正犯が実行している場合に成立するだけです(共犯は正犯の実行に従属する:実行従属性)。さらに、共犯は、正犯が犯罪の構成要件に該当し、違法である場合に限り成立すると解されています(共犯は正犯の構成要件該当性と違法性に従属する:要素従属性:制限従属形式)。
 設問の事案では、甲がAを欺いて、Bに傷害を行わせ、死亡させています。Aの行為は、殺害してもやむを得ないとの認識に基づいて行われているので、殺人罪の構成要件に該当します。ただし、Bの急迫不正の侵害に対して大なっているので、過剰防衛にあたります。刑の減免の根拠について責任減少説に立つと、責任が減少するからです。違法性は減少しません。厳密に言うと、Aの行為は殺人罪の構成要件に該当する違法であるが、責任が減少する行為です。あるいは、過剰防衛の刑の減免の根拠について、違法・責任減少説に立つと、Aの行為は殺人罪の構成要件に該当する、違法性が減少し、また責任も減少する行為です。いずれの立場に立とうとも、Aには殺人罪が成立します(正犯)。
 では、甲にはどのような犯罪が成立するでしょうか。甲はAはをそそのかして、Aに何を行わせようとしていたでしょうか。甲はAにBを攻撃させて、Bを殺害することを望んでいました。Aは殺人罪の責任が減少する行為(責任減少説)または違法性・責任が減少する行為(違法・責任減少説)を行っていますが、甲はAに殺人罪を行わせようとしていました。しかも、甲はBがAに襲いかかってくることを予見し(不正の侵害の予見り)、それに乗じてAがBに反撃することを期待していました(積極的加害意思あり)。Aは正当防衛状況にありましたが、甲にはそれは認められません。そうすると、甲がAに行わせようとした殺人罪の違法性も責任も減少しません。
 この問題をAの正犯と甲の教唆犯の関係において捉えると、甲はAを唆して殺人罪を実行させる意思で、Aに殺人罪の過剰防衛(責任減少または違法・責任減少)を実行させたと整理できます。正犯Aは殺人罪が、教唆犯・甲にはその教唆が成立します。Aには過剰防衛の規定が適用されますが、甲には積極的加害意思があったので、正当防衛状況にはないので、過剰防衛にはあたりません。
 また、この問題をAの過剰防衛を利用した殺人罪の間接正犯として捉えることもできます。つまり、Aが正当防衛状況においてBに侵害を加える防衛行為を利用した間接的な犯罪です。このように捉えた場合、Aの行為が過剰防衛ではなく、正当防衛にあたるなら、殺人罪の構成要件に該当しますが、違法性が阻却されます。甲は積極的加害意思があったので、違法性阻却の効果は及びません。


084 共犯の錯誤
 以下の(1)~(5)にける甲の罪責について論じなさい。
(1)甲は、乙に対して、A宅に侵入して現金を盗んでくるようにそそのかしたところ、乙は現金を見つけることができず、かわりに貴金属を盗んだ。
(2)甲は、乙に対して、Aを射殺するようそそのかしたところ、乙は路上でAに向けて発砲したものの弾丸はAには全くあたらず、たまたま通りかかったBに命中してBが死亡した。
(3)甲は、乙に対して、Aを傷害するようそそのかしたところ、乙はAに襲いかかった。その際、Aが強く抵抗したため、それに激昂した乙は、Aが死亡してもかまわないと思いながら殴打を継続した。その結果、Aは死亡した。
(4)甲と乙は、Aに傷害を加えることを共謀し、2人でAに襲いかかった。その際、Aが強く抵抗したため、これに激昂した甲は、Aが死亡してもかまわないと思いながら殴打を継続した。これらの暴行によりAは死亡した。
(5)医師である甲は、患者Aを殺害しようとして、事情を知らない看護師・乙に対して、致死薬の入った注射器を渡してAに注射するよう命じた。乙は途中で注射器に致死薬が入っていることにきづき、甲の意図を察知したが、そのままAに注射した。Aは死亡した。


(1)乙に住居侵入罪、甲にその教唆が成立することは明らかです。問題は、次の点です。甲は乙に現金の窃盗を教唆したところ、乙が貴金属の窃盗を実行しました。現金と貴金属は形状と材質が異なりますが、窃盗罪の客体である財物という点では共通しています。したがって、財物の窃取を教唆して、財物の窃取を実行させているので、乙には窃盗罪の正犯が、甲にはその教唆犯が成立します。
(2)乙はAを射殺しようとして、Bを死亡させました。これは具体的事実の錯誤(方法の錯誤)の問題です。法定的符合説(構成要件的符合説)に基づいて、乙はAという人を殺そうとして、Bという人を殺しているので、人を殺したことについて規範違反が認められ、A殺人の故意にみならず、B殺人の故意が認められます。Aには殺人未遂罪が、Bには殺人既遂罪が成立します。
 甲は乙に対してA殺害を教唆したところ、A殺人未遂とB殺人既遂を実行させました。これも具体的事実の錯誤(方法の錯誤)の問題ですが、それを共犯に応用する必要があります。甲は乙に対して、Aを殺害する教唆の故意に基づいて、A殺人未遂とB殺人既遂を実行させました。法定的符合説(構成要件的符合説)を応用して、教唆類型の重なるA殺人未遂罪とB殺人既遂罪の教唆が成立します。
(3)乙はAに襲いかかり(暴行)、抵抗されたため殺意に基づいて暴行を継続し、死亡させています。暴行罪と殺人罪が成立するように見えますが、同じの場所・時間において行っているので、包括して殺人罪1罪が成立します。
 甲は乙に対してA傷害を教唆しましたが、乙に殺人を行わせたことになります。これは、抽象的事実の錯誤の問題です。法定的符合説(構成要件的符合説)を共犯に応用します。甲は乙に対して、A傷害の教唆の故意に基づいて、A殺人の実行させたことになります。傷害罪と殺人罪の教唆類型の重なる傷害罪の範囲で故意が認められ、傷害罪の教唆の故意で死亡結果を発生させたので、傷害致死罪の教唆が成立します。
(4)甲・乙は当初はAを傷害する共通の意思で行為を開始しましたが、甲が途中から殺意を抱きました。これは正犯・共犯の問題ではなく、共同正犯の問題です。共同正犯をめぐっては、共同正犯を故意犯の共同正犯に限定する「犯罪共同説」と、過失犯の共同正犯をも認める「行為共同説」が対立しています。では、共犯者には犯罪の故意はあるが、その内容が異なる場合はどうなるでしょうか。甲は殺人の故意で、乙は傷害の故意でAに暴行を加え死亡させました。行為共同説からは、甲の殺人罪と乙の傷害致死罪の共同正犯を認めます。犯罪共同説からは、甲・乙の傷害致死罪の共同正犯を認めたうえで(この立場を「部分的犯罪共同説」といいます)、甲には殺意があるので(甲の暴行とAの死亡の因果関係があることが前提)、甲には殺人罪の単独正犯の成立が認められます。
(5)医師・甲は、事情を知らない看護師・乙を利用して、患者・Aを殺害するために、致死薬の入った注射器を乙に渡した。このまま乙が気づかずに、Aに注射して死亡させれば、甲にA殺人罪の間接正犯が成立します。しかし、乙が注射器に致死薬が入っていることに気づき、Aが死亡することを認識しながら注射し、死亡させました。この乙の行為は殺人罪にあたります。しかも、乙は甲の意図を察知して、Aを殺害することを決意しました。つまり、乙は甲にそそのかされて殺人罪を実行したことになります。
 この問題は、次のように整理することができます。甲は乙を利用してA殺人を間接的に実行するつもりであったが、乙に殺人を決意させて実行させた。つまり、甲は殺人の正犯の故意で、殺人の教唆を実行した。乙は殺人罪の正犯です。甲はどうなるでしょうか。殺人罪と殺人教唆罪の構成要件の重なる範囲の殺人教唆罪が成立します。
*間接正犯の実行の着手時期を利用者・甲の行為を基準に判断するか、それとも被利用者・乙の行為を基準に判断するか。利用者の行為を基準にすると、甲が乙に注射器を渡した時点で殺人罪の実行の着手が認められ、殺人未遂罪が成立します。これに対して被利用者の行為を基準にすると、乙は注射する前に甲の意図に気づいたので、甲の殺人の実行の着手は認められません(殺人予備罪にとどまります)。


085 共謀(合意)の射程
(1)金策に窮した甲と乙は、1人暮らしで出張中のA宅に侵入して金品を窃取することについて共謀し、その計画に従って甲が単独でA宅に侵入した。ところが、たまたま体調不良で出張を中止したAが在宅していたため、甲はAから直接奪った方が早いと考えて、Aに暴行を加え、反抗を抑圧して金員を奪取して逃走した。甲と乙の罪責について論じなさい。
(2)金策に窮した甲と乙は、A宅に侵入して金品を窃取することについて共謀し、その計画に従って甲が単独でA宅に向かったところ、複数の防犯カメラが設置されていたことから甲は侵入を諦めた。しかし、甲は、このまま手ぶらで代えることはできないと考えて周囲を探し、防犯対策の手薄なB宅を発見したため、甲はB宅に侵入し、金品を窃取した。なお。共謀の段階では、甲と乙は専らA宅における犯行の準備を行っており、A宅に侵入できないときは、犯行を断念することについて合意していた。甲と乙の罪責について論じなさい。


(1)共謀共同正犯論によれば、複数の者が犯罪を共謀し、そのうちの数名がその犯罪を実行した場合、共謀にしか関与しなかった者にも共同正犯が成立します。共謀は、犯罪の提案・立案・計画のうえで、実行することを合意していることです。たんに相談しただけでは、共謀にはあたりません。意思の合致=合意が成立していなければなりません。ただし、共謀後に、関与者が異なる意思を抱き、異なる犯罪の実行を思いつき、実際に実行することもあります。共謀は成立しても、「共謀に基づく実行」にあたらない場合もあります。犯罪を実行したが、それが共謀の射程内において行われたものであれば、共謀共同正犯が成立しますが、射程外であれば、共謀に関与した者には共謀共同正犯は成立しません。
 甲は、Aに対して住居侵入と強盗罪が成立します。乙はA住居侵入罪を共謀したので、その点については共同正犯が成立しますが、強盗は共謀していませんでした。したがって、甲が行った強盗は、乙の共謀の射程外です。ただし、甲は窃盗を共謀していたので、主観的には窃盗を共謀し、客観的には強盗を実行したとして、窃盗罪の範囲で共謀共同正犯の成立が認められます。ただし、甲・乙によって共謀された窃盗罪と乙が行った強盗について、対象が同じAであること、犯行が予定されたのと同じ日時・機会であること、乙が強盗を行った犯行動機が甲・乙の共謀した窃盗と連続しているなければなりません。「甲と乙が窃盗を共謀した」、「乙が強盗をした」というだけでは共謀の射程内とはいえません。
(2)甲と乙は、A宅への住居侵入と窃盗を共謀しましたが、A宅に侵入できないときは、犯行を断念することについて合意していました。このように共謀した後、甲はB宅に侵入し、窃盗を行った場合、それは甲・乙の共謀の射程外なので、乙には共謀共同正犯は成立しません。それは甲の単独正犯です。


086 共犯と身分(1) 麻薬輸入罪・通貨偽造罪
 甲は、知人の乙から、「麻薬の密輸を手伝ってほしい」との依頼を受け、乙とともにこれを実行した。甲は、乙がこの密輸で莫大な利益を得ることを知っていたが、甲自身は日頃から世話になっている乙に恩義を感じて協力しようと思っただけであり、そこから何らかの利益を得ることは意図していなかった。営利目的を持って麻薬を輸入した場合、営利目的がない場合よりも重く処罰される(麻薬64①②)。甲に営利目的麻薬輸入材の共同世犯は成立するか。
(2)甲は借金返済に繰り死んでいる乙に、自らが所有しているコピー機を利用して偽札を造り、それを使用して返済に充ててはどうかと言い出した。乙は良い考えだとこれを受け入れ、甲とともに甲宅のコピー機で偽の1万円札100枚を作成した。自ら偽札を使う目的は全くなかった甲に、通貨偽造罪(刑148①)の共同正犯は成立するか。またそれはどのような理論構成によるものか。


(1)犯罪には誰にでも実行できるものと、一定の「身分」を有している人でなければ実行できないものがあります。殺人罪、窃盗罪、放火罪などは誰が行っても成立しますが、収賄罪などは公務員という身分を有している者がワイロを収受した場合にしか成立しません。また、保護責任者遺棄罪のように要扶助者を保護する責任のある者が遺棄した場合には、その責任のない者の遺棄よりも重く処罰されます。このように身分の有無が犯罪の成否、その刑の加重・減軽に影響するような犯罪を身分犯といいます。
 身分犯には、身分がある者にだけ犯罪が成立する身分犯(真正身分犯=構成的身分犯)と身分によって犯罪の刑に軽重の差が生ずる身分犯(不真正身分犯=加重的または減軽的身分犯)があります。
 このような身分犯に身分のない者が関与した場合どうなるでしょうか。それを定めているのが刑法65条です。その1項は、真正身分犯に身分のない者が関与した場合、身分のない者にも身分犯の共犯(共同正犯、教唆犯、幇助犯)が成立すると規定しています。その2項は、不真正身分犯に身分のない者が関与した場合、身分のない者には「通常の刑」が科されます。「通常の刑とは、身分によって加重・減軽される前の刑のことです。保護責任者の遺棄に保護責任者でない者が関与した場合、保護責任者には保護責任者遺棄座が、保護責任者でない者には関与者は単純遺棄罪の共犯(共同正犯、教唆犯、幇助犯)が成立するだけです。
 では、営利目的麻薬輸入罪における「営利目的」は、身分でしょうか。身分とは、社会的地位、職業、性別、国籍などのように一定の期間継続して備わっている行為者の属性を刺しますが、判例では営利目的も「身分」にあたると解しています。ただし、営利目的がなくても、麻薬輸入をすれば犯罪にあたります。したがって、営利目的は、単純麻薬輸入罪の刑を加重する身分であると解されます。乙には営利目的麻薬輸入罪が、甲には刑法65条2項が適用されて、単純麻薬輸入罪が成立し、それらは共同正犯にあたります。
(2)では、通貨偽造罪における「行使の目的」は、どうでしょうか。これもまた身分にあたります。この行使の目的は、「偽造通貨を行使する目的」であり、それは「通貨を偽造した人自らがそれを行使する目的」(自己行使目的)であると解するならば、行使の目的は通貨偽造罪を構成する身分(真正身分・構成的身分)になります。そうすると、通貨偽造罪は真正身分犯です。この通貨偽造罪に、自分では行使する目的がなかった者が関与した場合、刑法65条1項が適用されて、通貨偽造罪の共同正犯が成立することになります。乙には身分犯である通貨偽造罪が、身分のない乙には刑法65条1項が適用され通貨偽造罪が成立します。両者は共同正犯です。
 これに対して、行使の目的とは、偽造通貨を流通に置く目的であり、自己が行おうが、他者が行おうが、流通過程に置く目的があれば行使の目的にあたると解するならば、行使の目的を身分と捉える必要はありません。ません。そうすると、甲・乙に刑法60条を適用して、通貨偽造罪の共同正犯が成立すると解するだけで足ります。


087 共犯と身分(2) 秘密漏示罪・賭博罪・横領罪
(1)甲は、友人である医師・乙の勤務する病院に芸能人・Aが入院したことをニュースで知った。Aのファンだった甲は、さっそく乙に連絡し、Aの容体などを教えてほしいと依頼したが、当初は医師の守秘義務を理由に教えてもらえなかった。しかし、甲に懇願されたので、乙は、Aが自分の担当する科に入院しており、がんで余命3ヶ月であることなどを話してしまった。甲と乙の罪責について論じなさい。
(2)賭博で生計を立てている甲は、賭博の経験がない乙を誘って、いっしょになって野球賭博に参加した。甲と乙の罪責を論じなさい。
(3)弁護士である甲は、資産家Aの成年後見人として財産の管理を任されていた。甲の友人である会社経営者の乙は、会社の資金繰りに苦しんでいたところ、その事実を知り、甲に「Aの金から1000万円ほど貸してほしい。このままでは死ぬしかない。来別には返済できるから」等と懇願したので、甲は乙の頼みを断り切れず、Aの財産の中から1000万円を乙に渡した。甲と乙の罪責について論じなさい。


(1)業務などを通じて他人の秘密を知ることがあります。それを他人に話せば、秘密を漏らしたことになります。その行為が秘密漏示罪(刑134)として処罰されるのは、行為主体が医師や弁護士などの職業に就いている人だけです。したがって、それ以外に人が他人の秘密を漏らしても、刑法上の秘密漏示罪にはあたりません。したがって、医師や弁護士などの秘密漏示罪の行為主体は、秘密漏示罪の構成的身分ということになります。秘密漏示罪は、真正身分犯・構成的身分犯です。
 甲は、友人の医師・乙に患者の情報を話させたので、乙は秘密漏示罪の正犯であり、それを教唆して行わせた甲は秘密漏示罪の教唆犯です。
(2)賭博は犯罪です。初心者が行っても、単純賭博罪として処罰されます(刑185)。常習者が行えば、加重処罰されます(186①)。単純賭博罪と常習賭博罪は、どのような関係にあるかというと、単純賭博罪が賭博罪の基本類型であり、それを常習性という身分によって加重されたものが常習賭博罪であるという、基本類型と加重類型の関係です。
 甲は常習性があるので常習賭博罪が成立します。賭博の常習性がない乙には刑法65条2項が適用され、単純賭博罪が成立し、両者は共同正犯が成立します。
(3)弁護士・甲は、資産家Aの財産を管理しています。業務として他人の財物を保管・管理・占有しています。そのなかから1000万円をAに無断で、乙に貸し与える行為は、業務上横領罪にあたります。
 業務上横領罪(刑253)は、単純横領罪(刑252①)を業務者という身分によって加重した類型です。単純横領罪は、業務以外で他人の財物を占有する者がそれを横領する行為であり、業務上横領罪は、業務として他人の財物を占有する者がそれを横領する行為です。異なるのは業務者が行うか否かですが、他人の財物を占有している者が行う点は共通しています。
 では、他人の財物を占有していない者・乙が、業務として他人の財物を占有している者・甲と共同して、それを横領した場合、他人の財物を占有していない乙には何罪が成立するでしょうか。単純横領罪でしょうか。単純横領罪が成立するのは、業務以外で他人の財物を占有する者が横領した場合だけです。そもそも他人の財物を占有していない甲には横領はできないはずです。ただし、そのような乙が、業務として他人の財物を占有している甲と共同して横領した場合、刑法65条1項が適用されて、単純業務上横領罪の共同正犯が成立すると解することもできます。しかし、業務以外で他人の財物を占有する者が横領した場合が単純横領罪として軽く処罰され、他人の財物を占有していない者が業務上横領罪として重く処罰されてしまいます。それは不均衡だと思います。この不均衡を解消するために、乙には刑法65条1項を適用して「単純横領罪」が成立し、甲には65条2項を適用して「業務上横領罪」が成立すると解する立場もあります。


088 共犯と身分(3) 無免許医業罪・無免許狩猟罪
(1)眼科医である甲は、コンタクトレンズの処方、販売を専門とする自身の経営するクリニックの開設にあたり、医療資格を有していない乙を雇用し、甲自ら乙の指導にあたったところ、半年後には乙が単独でコンタクトレンズ処方に関する業務をひと通りできるまでになった。そこで甲は、乙と相談のうえ、今後は乙が甲の代理になることを取り決め、それ以降、乙が診察や処方等の業務を行うようになった。医師法上、医師でない者は医業をしてはならないとされている(医師17、31)が、医師である甲にも無免許医業罪の共同正犯が成立するか。
(2)狩猟免許を有している甲は、野鳥を飼いたいと乙から相談されたので、鳥の具体的な捕獲方法をアドバイスし、その情報に基づいて乙は野鳥を捕獲した。野鳥は、鳥獣保護法の保護対象動物であり、原則として狩猟免許者以外の捕獲は禁じられている(鳥獣保護8、83①)。狩猟免許保有者である甲にも無免許狩猟罪の幇助犯が成立するか。


(1)医師としての業務を行えるのは医師資格を持つものだけであり、医師資格を持たない者・乙が医師の業務を行えば無免許医業罪にあたります(真正身分犯)。この「医師資格を持たない」というのも身分ですが、それは消極的身分と呼ばれます。この医師資格を持たない身分者・乙が医師である非身分者・甲と共同して無免許医業を行った場合、甲には刑法65条1項が適用されて、無免許医業罪の共同正犯が成立します。
 ただし、「医師資格を持たない」というのを消極的身分と捉える必要は必ずしもありません。身分とは、「~~がある、~~を持っている」という積極的な身分を指すと思われます。医業が、患者の健康を確保する目的から、一定の水準を維持する必要があるため、免許制・許可制が導入されていると解すると、無免許医業罪に医師が関与した場合には、刑法60条を適用して、その共同正犯を認めるだけで足ります。甲は医師免許を持っているので、自己が行っても、無免許医業罪にはあたりませんが、それを乙と共同して、乙の無免許医業に関与した場合には、刑法60条が適用されて、乙の無免許医業罪の共同正犯が成立すると解することもできます。
(2)上記のように考えると、狩猟免許を持たない者が行う無免許狩猟罪に免許保有者が関与した場合についても、刑法60条を適用して、共同正犯の成立を認めればよいでしょう。