090共犯と過剰防衛(共同正犯と違法性阻却)(最二決平成4・6・5刑集46巻4号245頁)
【事案の内容】
Xは、飲食店に勤務する友人と電話で話をしていたところ、店長Aから「長電話はだめだ」と言われ、一方的に切られた。Xは、それに腹を立て、再度電話したところ、Aから友人への取り次ぎを拒否された。Xは、これに憤慨し、Yとタクシーに乗って、Yに包丁を持たせて、一緒にAの店に向かった。Xは、タクシーの中で、「おれは顔が知られているから、お前が先に行ってくれ。けんかになったらお前をほうってはおかない」と言った。このときXは、Aを殺害することになってもやむを得ないと考えていた。「やられたらナイフを使え」とYに指示し説得した。到着後、XはYを店の出入口付近に行かせ、離れたところで待機していた。Yは、「Aとは面識がないから、いきなり暴力を振るわれることもないだろう」と考え、Xの指示を待っていた。すると、Aが店から出てきて、YをXと間違え、いきなり首をつかんで、引きずりまわし、殴り返すなどした。Yは、頼みとするXの加勢も得られないまま、路上に倒された。Yは、自己の生命・身体を防衛する意思で、とっさに包丁を取り出して、「Aを殺害してもやむを得ない」と決意し、Aの左腹部を数回刺し、死亡させた。
第1審(東京地判平成元・7・13)は、XとYは、Aの店に向かうタクシー内で未必の故意による殺人罪の共謀を行ない、YがAを殺害したと認定した。Yの行為は、殺人罪の構成要件に該当する。そして、X・Yは、Aに対して積極的加害意思をもって現場に臨んだので、AによるYへの暴行には急迫性はなく、YがAに行った反撃は、防衛行為にはあたらない。それゆえ、X・Yには正当防衛はもちろん、過剰防衛も成立しない。X・Yには殺人罪の共同正犯が成立する。このように判断した。
これに対して、控訴審は次のように判断した。Xは、タクシーの車内において、Aが侵害を加えてくることを予期し、Aを殺害する意思があった。従って、Xには積極的加害医師があったので、AがYに行った暴行はXにとっては急迫不正の侵害ではない。これに対して、YがAを殺害する意思を生じたのは、Aから突然暴行を受け、それに反撃することを決意した時点であり、その時点においてXとの間にA殺害の共謀が成立したといえる。Aが暴行を加えた時点では、YはAに危害を加える意思はなかったので、Aの暴行はYにとっては急迫不正の侵害にあたるが。ただし、Yの反撃は防衛の程度を超えた過剰なものであった。以上から、X・Yの行為は殺人罪の構成要件に該当し、YはAの急迫不正の侵害に対して防衛の程度を越えた行為を行なったので、過剰防衛(刑36②)が成立する。Xは、Aの侵害を予期し、積極的加害意思もあったので、過剰防衛は成立しない。
【裁判所の判断】
共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれその要件を満たすかどうかを検討して決するべきであって、共同正犯者の1人について過剰防衛が成立したとしても、その結果当然に他の共同正犯者についても過剰防衛が成立することになるものではない。
Xは、Aの攻撃を予期し、その機会を利用してYをして包丁でAに反撃を加えさせようとしていたものであるから、積極的な加害の意思で侵害に臨んだものであるから、AのYに対する暴行は、積極的な加害の意思がなかったYにとって急迫不正の侵害であるとしても、Xにとっては急迫性を欠くものであって、Yについて過剰防衛の成立を認め、Xについてこれを認めなかった原判断は、正当として是認することができる。
【解説】
急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、犯罪の構成要件に該当しても、その違法性が阻却され、処罰されない。ただし、防衛の程度を超えた場合は過剰防衛として、その刑を減軽または免除することができる。判例は、侵害が予期されていても、そのことをもって急迫性が否定されるわけではないが、その機会に積極的に害を加える意思があった場合には、急迫性が否定されると解している。
X・Yの共同正犯者のうち、Xに積極的加害意思があり、Yにはなかった場合、不正の侵害の急迫性はYとの関係において否定されるのか。つまり、急迫性は客観的に判断されるのではなく、積極的加害意思の有無との相対的な関係において決まるのか。本判例では、Xはタクシー内でAを殺害する意思があったが、YはAから暴行を受けた時に殺害することを決意したので、XとYのA殺害の共謀はYがAを殺害する意思を生じたときであり、Xには積極的加害意思があったので、Aの侵害は急迫でなかったが、Yには急迫なものであったと認定した。
XとYは、殺人罪の構成要件に該当する(殺人罪の共同正犯)。
Yには刑法36②の過剰防衛の規定が適用されるが、Xには適用されない。
共同正犯は、構成要件該当性のレベルの議論であり、違法性阻却は個別的に判断される。
以上の判断は、共同正犯の間だけでなく、正犯と共犯の間においても妥当する。XがYにAのところに行かせたが、AがYに突然襲い掛かってきたため、Yは自己の身を守るために、やむを得ずAを殺害した場合、Aの侵害はYにとっては急迫であったため、Yには殺人罪の過剰防衛が成立するが、XはAがYに襲いかかってくることを事前に知り、Yが防衛のための行為を行ない、それによってAが害を受けることを期待していた場合、Xには積極的加害意思があることになるので、Xとの関係においてはAの侵害には急迫性はないので、殺人罪の教唆に対して過剰防衛の規定は適用されない。
091共犯と錯誤(1)(最三判昭和25・7・11刑集4巻7号1261頁)
【事実の概要】 Xは、Yに対して、Aが金銭を持っていることなどを話し、住居侵入と窃盗を行うようそそのかした。それを聞いたYは、Aに対して強盗を行うことを決意し、Zら3人と共に、日本刀やバールなどを携えてA宅に侵入したが、母屋に入ることができず、いったん断念した。しかし、更に同人等は犯意を継続し、Aの隣家であるB電気商会に押し入ることを謀議し、決行することとした。Yは、B宅付近で見張りをし、Zら3人は、それに侵入し、就寝中のCを脅迫して金銭を強取した。
原審広島高岡山支部は、YとZら3人に、A宅への住居侵入罪とは別に、B宅への住居侵入罪と強盗罪の共同正犯の成立を認めた。Xには、住居侵入罪と窃盗罪の教唆の成立を認め、両罪は刑法54条後段の牽連犯の関係に立つものとした(広島高岡山支部昭和24・10・27)。
これに対して、Xとその弁護人は、XがYに教唆したのは、「A宅への侵入とそこでの窃盗」であるから、YらのA宅への侵入について教唆は成立するが、母屋での窃盗の実行は着手されていないので、窃盗罪は未遂でさえなく、窃盗罪の教唆が成立する余地はない。またB宅への侵入と窃盗を教唆していないので、その教唆の故意は認められない。このように主張し、窃盗罪の教唆の成立を認めた原審には違法があるとした。
【裁判所の判断】 犯罪の故意あると認定するには、犯人が認識した事実と、現に発生した事実とが、具体的に一致(符合)することを必ずしも要するものではなく、右両者が、犯罪の類型(定型)として規定している範囲(構成要件の範囲)において一致(符合)することで足りると解すべきであるから、Yら4人に成立すると判断されたB電気商会への住居侵入罪と強盗罪の共同正犯が、被告人Xの教唆に基づいてなされた(因果関係がある)ものと認められる限り、Xは住居侵入罪と窃盗罪の教唆犯としての責任を負うべきことは当然である。
Xの本件教唆に基づいて、Yらの犯行が行なわれたと言い得るか否か、換言すればXの教唆とYらの犯行との間に因果関係が認められるか否かという点について検討すると、原判決中に「更に同人等は犯意を継続し」とあることからすれば、原判決は、被告人Xの教唆とYらの行為との間に因果関係ある旨を判示する趣旨と解すべきように思われるが、……Yの供述記録によれば、……諦めて帰りかけたが、右3人は、吾々はゴットン師であるから、ただでは帰れないと言い出し、隣のラヂオ屋に入って行ったので自分は外で待っていた旨の記載があり、これによればYのB方における犯行は、被告人Xの教唆に基づいたものというよりは、むしろYは一旦右教唆に基づく犯意は障碍(A宅の母屋に入れなかった)のために放棄し、その後、たまたま共犯者3名が強硬に判示B電気商会に押入ろうと主張したことに動かされて決意を新たにして遂に敢行したものであるという事実が窺われないでもないない。これらを綜合すると、原判決の趣旨が、被告人Xの教唆とYらの犯行との間に因果関係があるものと認定したものであると明確に言いうるか否かは疑問であると言わなければならない。そうすると、原判決は結局、罪となるべき事実を確定せずに、法令を適用し、被告人Xの罪責を認めたといえるので、理由不備の違法あることに帰し、論旨には理由がある(破棄差戻し)。
【解説】 この事案には、2つの論点がある。1つは、共犯における錯誤の問題である。もう1つは、共犯と正犯の因果関係の問題である。まず、共犯における錯誤の問題について。錯誤には2つの類型がある。1つは事実の錯誤、もう1つは違法性の錯誤である。事実の錯誤は、具体的事実の錯誤(錯誤が同一の構成要件の範囲内で生じている場合)と抽象的事実の錯誤(錯誤が異なる構成要件にまたがる場合)の2つの場合に分けられる。このような錯誤は、生じた結果に対して故意を阻却するか。通説・判例は、事実の錯誤のいずれの場合においても、行為者が認識した事実と現に発生した事実との間に構成要件の重なり合いがある場合、その部分について故意の成立を認める(法定的符合説・構成要件的符合説)。つまり、行為者が認識した犯罪が該当する構成要件と現に発生した犯罪が該当する構成要件とが重なっている、包摂される場合には、その重なっている部分の犯罪について故意の成立を認める。
この法定的符合説は、正犯・共犯における事実の錯誤にも適用される。例えば、XがYに窃盗を教唆したところ、Yが強盗を行なった場合、窃盗罪の教唆と強盗罪の教唆とでは、「窃盗罪の教唆」の範囲内で構成要件(または教唆類型)の重なり合いが認められるので、Xには窃盗罪の教唆が成立する。
もっとも、この結論は、Xの教唆とYの犯行との間に因果関係があることを前提としている。つまり、XがYに窃盗を教唆したから、Yが「強盗」を実行することを決意し、それを敢行したことを前提としている。本件の事案では、XがYに「A宅の住居侵入と窃盗」を教唆したところ、Yがそれを受けて、Zら3人と「A宅の住居侵入と強盗」を行なうことを共謀し、A宅の屋内に侵入したが、母屋への侵入を「いったん断念し」た。この時点で、YらにはAへの住居侵入罪が成立する。窃盗については、実行の着手が認められないので、その点は不可罰である。Xにはその住居侵入罪の教唆が成立するだけである。その後、Yらは、「更に(同人等は)犯意を継続し、Aの隣家であるB電気商会に押入ることを謀議し、決行することとした」。Yは同家付近で見張りをし、Zら3人は屋内に侵入して、就寝中のCを脅迫して、金品を強取した。つまり、Xが行なったYへのA宅の住居侵入・窃盗の教唆とY・Zらが行なったA宅への侵入だけでなく、B宅への侵入と強盗との間に因果関係がある。XはA宅侵入・窃盗を教唆し、YらはB宅侵入・強盗を実行しているので、Xから見れば「方法の錯誤」があるが、Xによって形成されたYらの犯意は継続しているので、Xの教唆とYらの犯行には因果関係がある。Yらの犯意が継続していることが、両者の間の因果関係の存在を根拠づけている。
Xは、YにA宅侵入・窃盗を教唆したところ、YらはA宅侵入・強盗を決意し、その実行をZら3人と共謀し、A宅侵入にとどまった。その後、B宅侵入・強盗を行なっている。このB宅侵入・強盗は、Xの教唆によるというよりは、YらがA宅母屋侵入を断念した後、Zらが強硬に犯行を主張したために、「決意を新たにして遂に敢行したものである」。「決意を新たにする」とは、Xの教唆によって形成された犯意とは別の犯意を形成したと理解することもできる。もしそうであるならば、Xの教唆とYらの犯行の因果関係を否定することもでききる。錯誤論の問題を検討するまでもなく、YらはXの教唆とは無関係にB宅侵入・強盗を行なったということである。
しかし、Xの教唆→Yの犯行の意思→Zらとの共謀→Y・Zらとの犯行の意思連絡→Yの犯行の意思の放棄。但し、Zらの犯行の意思の継続→ZらによるYへの強硬な説得という因果経過を見ると、Yの新たな決意とは、Zらよって形成された犯行の意思、つまりXの教唆によって形成された当初の犯行の意思であるといえる。従って、Xの教唆とYらの犯行の因果関係は否定されない。
092共犯と錯誤(2)(最一決昭和54・4・13刑集33巻3号179頁)
【事実の概要】
店を経営するX、Yら7名は、巡査Aが店舗に強硬に立ち入り検査したことに憤慨し、Aに暴行、傷害を加える旨順次共謀した。X、Yらは、派出所前において罵声・怒号を浴びせたところ、Aがそれに応答したのに対して、Yが激昂し、携帯していた小刀で未必の殺意をもってAを刺し、出血死させた。
第1審神戸地裁は、Xら7名の行為は、「殺人罪の共同正犯に該当する」が、Yを除く6名は、殺意はなく、暴行ないし傷害の意思で共謀したものであるから、38条2項により、殺人罪で処断することはできず、それよる軽い「傷害致死罪の共同正犯の刑で処断する」と判示した。原審大阪高裁も、この判断を維持した。
Xらは、殺人の故意のないY以外の6名に対して、「殺人罪の共同正犯が成立する」と判断したのは疑問であり、暴行罪または傷害罪が成立するにとどまると主張して上告した。つまり、7名に殺人罪の共同正犯成立するが、殺意のないXら6名には、傷害致死罪の共同正犯の刑で処断するというのは誤りであり、Xら6名には傷害致死罪の共同正犯が成立するので、傷害致死罪の刑で処断するというのが正しいと主張した。
【裁判所の判断】
殺人罪と傷害致死罪は、殺意の有無という主観的な面に差異があるだけで、その余の犯罪構成要件要素はいずれも同一であるから、暴行・傷害を共謀した被告人Xら7名のうちYだけが、Aに対して未必の殺意をもって殺人罪を犯した本件において、殺意のなかった被告人Xら6名については、(客観的に行なわれた)殺人罪の共同正犯と(主観的に行なおうとした)傷害罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害罪の共同正犯が成立し、そこから死亡結果を発生させたので、傷害致死罪の共同正犯が成立するものと解すべきである。……もし犯罪としては重い殺人罪の共同正犯が成立し、刑のみを(暴行罪ないし傷害罪の結果的加重犯である)傷害致死罪の共同正犯の刑で処断するにとどめるならば、それは誤りといわなければならない。
【解説】
共同正犯者間において、殺人(重い罪)の故意があった者と暴行・傷害(軽い罪)の故意しかなかった者がおり、被害者Aが死亡した場合、暴行・傷害の故意しかない者は、どのように処理されるのかが争点であった。過去の判例は、軽い罪の限度で故意が認められれきた。その場合、重い罪の共同正犯の成立が認められた上で、科刑については、軽い罪の故意を認め、軽い罪の共同正犯の刑が科されるのか、それとも最初から軽い罪の共同正犯の成立が認められるのかかは、不明であった。原審は、この問題に関して、Xら6名に対しては、殺人罪の共同正犯が成立するが、科刑のみ傷害致死罪の刑で処断するという判断を示したが、本決定は、傷害致死罪の共同正犯が成立すると判断した。暴行・傷害の故意が認められ、基本犯としては傷害罪が成立し、そこから加重結果である致死が生じているので、傷害致死罪の共同正犯が成立するということである。
Xら6人は、主観的には暴行・傷害を実行する意思で、客観的に死亡結果を発生させているが、刑法38条2項によれば、軽い罪の暴行・傷害の故意しかなかった者を重い致死結果につき責任を認めることはできない。従って、殺人罪の共同正犯の成立を認めることhできない。ただし、傷害罪と殺人罪の2つの構成要件のうち、傷害罪の犯意で構成要件の重なりを認め、傷害罪の成立を認め、そこから致死結果が発生したとと認定し、傷害致死罪の共同正犯の成立を認めることができる(法定的符合説・構成要件的符合説)。
この判断は、軽い罪の故意しかなかった者の処断については問題ないが、重い罪の故意があった者についての判断方法については、いまだ明らかではない。つまり、本件では、殺人の故意のあったYの処断方法については明らかにはされていない。
共同正犯は、故意犯の共同正犯に限ると解するならば(犯罪共同説)、Yの殺人既遂罪とXらの傷害致死罪の共同正犯を認めることはありえなが(これを完全犯罪強度失説という)、YはXらと傷害致死罪の共同正犯が成立し、それに加えて殺意がったので殺人既遂罪の「単独正犯」が成立し、傷害致死罪の共同正犯と殺人既遂罪の単独正犯は観念的競合の関係に立ち(刑54)、重い刑を定めた殺人罪で処断されると解することもできる(これを部分的犯罪共同説という)。
これに対して、共同正犯は故意犯の共同正犯に限られず、過失犯の共同正犯、結果的加重犯の共同正犯もありうると解するならば(行為共同説)、故意犯と過失犯の共同正犯、故意犯と結果的加重犯の共同正犯もありうるので、端的にYの殺人既遂罪とXらの傷害致死罪の共同正犯の成立が認められる。
本件では、殺意のあったYは上告していないので、明らかではないが、傷害致死罪の共同正犯と殺人既遂罪の単独正犯の観念的競合が認められるのか、それとも端的に殺人既遂罪の共同正犯が認められるのかは明らかではない。この問題について判例は、後のシャクティ事件で、部分的犯罪共同説に立つことが示された。
判例番号006シャクティ事件(最二決平成17・7・4刑集59巻6号403頁)
X・YはAの保護責任者であるが、Xは殺人の故意で、Yは遺棄の故意で、Aを放置して死亡させた。
Xに不作為による殺人罪(の単独正犯)が成立し、殺意のないYらとの間では(不作為による)保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯が成立する(部分的犯罪共同説を採用したと一般的に解されている)。
093共犯と身分(1)(最三判昭和42・3・7刑集21巻2号417頁)
【事案の概要】
XとYは、外国にいるZが営利目的で麻薬を輸入しようとしていることを知りながら、その依頼を受けて、麻薬を輸入した。
第1審神戸地裁の事実認定は、次の通りである。Xは、Zとの関係や前歴から、Zが営利目的を持ちながら麻薬を輸入しようとしていることを知っていた。Yは、Zが麻薬輸入の意図(売却の意図)を持っていることを了知しながら、Zに協力した。従って、XとYには、麻薬を輸入することによって、少なくとも(自分自身ではなく)第三者であるZが財産上の利益を得ることを認識していた。神戸地裁は、営利目的麻薬輸入罪における営利目的とは、自己が財産上の利益を得る目的(自己利得目的)だけでなく、第三者であるZに財産上の利益を得させる目的(他者利得目的)も含まれ、XとYにはZに財産上の利益を得させる目的(他者利得目的)があったと認定して、麻薬取締法64条2項の「営利目的麻薬輸入罪の共同正犯」が成立すると判断した。
Xのみ控訴したが、大阪高裁は、Xの控訴を棄却する判断を言い渡して、X、Y、Zは営利目的麻薬輸入罪の(共謀)共同正犯が成立すると判断した。
これに対して、Xが上告した。営利目的麻薬輸入罪の「営利目的」とは、麻薬を輸入して自己が財産上の利益を得る目的(自己利得目的)だけでなく、他人に財産上の利益を得させる目的(他者利得目的)であり、XはZに自己利得目的があることを知っていただけで、他者利得目的はなかったと主張した。
【裁判所の判断】
麻薬取締法12条1項の規定に違反して、麻薬輸入の行為を行なった場合、営利目的を持っている者には、同法64条2項の営利目的麻薬輸入罪が成立し、営利目的を持たない者には、同条1項の(単純)麻薬輸入罪が成立する。営利目的麻薬輸入罪における「営利目的」とは、自己が財産上の利益を得るだけでなく、第三者に得させることを含む。このような利益目的という犯人の特殊事情がある場合には、営利目的麻薬輸入罪が成立する。この目的の有無によって刑の軽重に差が生ずるので、その目的は刑法65条2項にいう「身分」であるといえる。
第1審判決は、Xが、Zに営利目的があったことを知っていただけで、自ら営利目的を持っていなかったが、それにもかかわらず営利目的を認めた。Xは自ら営利の目的を持っていなかったのであるから、その解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすものであり、これを破棄しなければ、著しく正義に反するものと認められる。
Zには営利目的があり、XはZが営利目的を持っていることを知っていたが、自らは営利目的を持っていなかった。このようなXに対して営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立するというのはで妥当ではない。営利目的のないXには、刑法65条2項を適用して、「通常の刑」が定められた単純麻薬輸入罪の共同正犯にとどまると解すべきである。
【解説】
第1審神戸地裁は、営利目的麻薬輸入材の営利目的は、刑法65条2項にいう身分ではないと解釈した。そもそも刑法65条の身分とは、犯人の職業、社会的地位、性別、国籍などを指すだけで、営利目的麻薬輸入罪の営利目的はそれにあたらない。それはいわゆる主観的違法要素でしかない。このように理解することによって、X・YがZに営利目的があることを知っていたので、3者に営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立すると認めた。その論理は、次のようなものである。
例えば、ウェイターXが客Aを殺害する意図でAが飲むコーヒーに毒を入れた。同じウェイターYはXの意図を知っていた。Y自身はAに恨みはなかったないが、Xの依頼を受けて、そのコーヒーをAのテーブルまで運んだ。Aはそれを飲み死亡した。この場合、XとYに殺人罪の共同正犯が成立する。この論理を本件に適用すると、Zは営利目的で麻薬を輸入する意図(営利目的麻薬輸入の故意)を持っていた。XとYは自身には営利目的はなかったが、Zに営利目的があることを知っていた。そして、X・YはZの依頼を受けて、麻薬を輸入した。X、Y、Zには、営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立する。神戸地裁とそれを維持した大阪高裁の判断はシンプルである。
しかし、最高裁の判断は、異なる。最高裁は、営利目的麻薬輸入罪における営利目的は、それがない単純麻薬輸入罪の刑を加重する要素、すなわち刑法65条2項の加重的身分と解している。このように理解すると、営利目的を持つ者と持たない者が共同して麻薬を輸入した場合、目的を持つ者には営利目的麻薬輸入罪が、持たない者には「通常の刑」が科される単純麻薬輸入罪が成立し、両者は共同正犯になる。
営利目的麻薬輸入罪における営利目的とは、自己または第三者に財産上の利益を得させる目的(超過的内心傾向)であり、麻薬輸入後にそのような利得行為を行なって、その結果を発生させる目的である。それは、麻薬輸入の行為の違法性と非難可能性を高め、その刑を加重する要素である。Zにはその目的があったが、XとYにはなかった。従って、X、Y、Zが、外形的に同じ麻薬輸入行為を行なっても、その行為の構成要件該当性は異なる。営利目的の有無によって該当する構成要件が異なるので、営利目的のないXとYの行為が、営利目的麻薬輸入罪の構成要件に該当し、Zと共同正犯になると判断した神戸地裁は、この点についての解釈を誤ったといえる。
なお、営利目的があることによって刑が加重される犯罪類型は他にもある。営利目的略取・誘拐罪がそれである。
094共犯と身分(2)(最三判昭和32・11・19刑集11巻12号3073頁)
【事案の概要】
Zは、村への寄付金を受領・保管する業務にあたっていたが、被告人XとYは、Zと共謀して、Z保管の寄付金約23万円の中から、約8万円を飲食代金として支出した。
第1審水戸地裁十浦支部は、被告人X・Yに刑法253条の業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、原審東京高裁もこれを認め、控訴を棄却した。弁護人が上告した。
なお、Zは分離審判され、業務上横領罪の共同正犯の成立が認められたものと推測される。
【裁判所の判断】
寄付金の受け取りと管理の業務に従事していたのはZであって、XとYにはその事実は認められない。従って、XとYには、刑法65条1項を適用して、Zとの間で業務上横領罪の共同正犯が成立すると認定し、そのうえで、刑法65条2項を適用して、通常の刑である刑法252条1項の単純横領罪の刑を適用すべきである。原判決を破棄し、XとYに業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、科刑の点について、単純横領罪の法定刑で処断すべきである。
【解説】
犯罪のなかには、特定の職業や社会的地位、性別、国籍を持つ者が行なった場合にだけ、犯罪として処罰されるものや、それを理由に刑が加重または減軽されるものがある。このような職業や社会的地位のことを「身分」といい、その身分があることによって、はじめて犯罪を構成するものを「構成的身分犯」または「真正身分犯」といい、その身分を持つ者(身分者)が行なったことで刑が加重・減軽されるものを「加重的身分犯・減軽的身分犯」(両者を併せて加減的身分犯)または「不真正身分犯」という。
このような身分犯に身分を持たない者(非身分者)が関与した場合に、どのような犯罪が成立するか。刑法65条1項・2項はこのような場合についての規定である。ただし、その規定の理解の仕方と適用方法については、様々な理解がある。刑法65条1項はどのような事案に適用され、同2項はどのような事案に適用されるのか。そして、両規定は、どのような関係にあるのか。この問題について、本件の最高裁の判断が示されて以降、近年の通説・判例の理解が変化しているので、それを対比させながら理解する必要がある。
本判決は、刑法65条1項については、身分犯と共犯の問題(共同正犯・共犯が成立する罪名の問題)に一般的に適用される規定であり、同2項については、そのうちの非身分者に科される刑の問題(「通常の刑」を定めた罪の法定刑で処断する問題)に個別的に適用される規定であると解している。つまり、身分者と非身分者が共同して身分犯を実行した者には、身分者と非身分者の両方に刑法65条1項が適用されて、「身分犯の共同正犯」が成立し、非身分者について、身分の有無によって刑の軽重がある場合には、非身分者には刑法65条2項を適用して、「通常の刑」を定めた罪の法定刑で処断され、非身分者について、身分の有無によって刑の軽重がない場合には、身分者と同じ犯罪の共同正犯が成立するという理解である。これに対して、現在では、刑法65条1項は、構成的身分犯に関する共犯の問題、2項は、加減的身分犯に関する共犯の問題に適用されると解されている。従って、現在の通説・判例の解釈からこの事案を扱うなたば、本件の判例とは異なった結論が出される。
判例の理解に従って検討すると、本件で争点となったのは、村長Xと助役Yが寄付金の管理業務に従事していたか否かである。管理業務に従事していたのであれば、業務者・身分者であるので、業務上横領罪の行為主体(単純横領罪の刑を加重する的身分者)ということになる。従事していなかったのであれば、単純横領罪の行為主体にとどまる。村のための寄付金の受領と管理の業務に従事していたのはZであり、XとYは、その業務に従事していなかったのであるから、非業務者・非身分者には、刑法65条1項を適用してZと業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、さらに同2項を適用して、単純横領罪の刑で処断することになる。これに対して、近年の理解に従って検討すると、X・Yには刑法65条2項を適用して、単純横領罪の共同正犯の成立を認めることになる。
なお、余談であるが、各論的論点の補足をしておく。
本件の判例も、近年の通説も、それぞれの立場には、単純横領罪と業務上横領罪が、基本類型と身分による加重類型の関係にあるとの理解がある。つまり、業務者・身分者ではない者は、基本類型の単純横領罪の行為主体という理解がある。しかし、単純横領罪の規定によれば、その行為は「自己の占有する他人の物の横領」なので、単純横領罪の行為主体は、「他人の物を占有している者」でなければならない。しかも、物の所有者・占有者の委託を受けずに物を占有した場合の遺失物横領罪と区別するために、単純横領罪の行為主体は、物の所有者・占有者からの委託を受けて物を占有している者であると解されている(それゆえ単純横領罪は「委託物横領罪」と呼ばれることがある)。本件のXとYが業務上横領罪の行為主体ではないことは明らかであっても、単純横領罪の行為主体であると認識されたことの根拠は明らかではない。XとYは、業務外において、誰から委託を受けて、寄付金の保管をしたのかという点についての説明はない(おそらく、ZがX・Yのところに寄付金の一部を持って行って、共同保管し、その後、一緒になって飲食谷として支出して、横領したと認定されたのではないかと想像される)。
かりに、Zとの共同保管の事実がなければ、その寄付金の一部は、XとYにとっては、委託を受けずに占有している物ということになる。そうすると、XとYは委託物横領罪ではなく、遺失物横領罪の共同正犯でしかない。ただし、このような法適用は、遺失物横領罪、単純横領罪、業務上横領罪の3罪について、遺失物横領罪(非委託物横領罪)が横領罪の基本類型であり、その加重類型が単純横領罪(委託関係を加重的身分とする委託物横領罪)、そのまた加重類型が業務上横領罪(業務者であることが加重的身分である業務上委託物横領罪)と理解しなければならない(各論で詳説する)。
095共犯と身分(3)(大阪高判昭和62・7・17判時1253号141頁)
【事実の概要】
被告人Xは店舗内で商品を窃取した後、警備員Aに呼び止められ、窃盗罪の現行犯として逮捕されそうになった。それを免れるために、Y・Zと意思を通じて、Aに暴行を加え、傷害を負わせた。X、Y、Zは、(事後)強盗罪致傷罪で起訴された。
原審神戸地裁は、Xによる単独の窃盗罪が既遂に達した後で、Y・Zと共謀して暴行を加えたと事実関係を認定したうえで、Y・Zは窃盗罪の共同正犯ではないから、事後強盗罪の行為主体にもなりえないとして、Xら3名について強盗致傷罪の共同正犯の成立を認めるのは妥当ではないとして、Xについて強盗致傷罪の成立を認め、Y・Zにはその致傷部分について共同正犯が成立するとして、傷害罪の共同正犯の成立を認めた。Xが量刑不当を理由に控訴した。Y・Zは控訴しなかった(傷害罪の共同正犯の成立が確定)。
【裁判所の判断】
Xの窃盗後、Y・Zがその事実を知った上で、Xと共謀して被害者に暴行を加えて傷害を負わせた場合、窃盗犯という身分を持たないY・Zについても、刑法65条1項を適用して、事後強盗致傷罪が成立すると解すべきである。この場合、非身分者には、刑法65条2項を適用して、傷害罪の共同正犯の成立を主張するものがあるが、事後強盗罪は、窃盗犯という身分者が暴行・脅迫を行なった場合に暴行・脅迫の刑を加重する加重的身分犯・不真正身分犯ではなく、窃盗犯という身分者が、刑法238条所定の目的に基づいて、暴行・脅迫を行なった場合に、その暴行・脅迫を「強盗罪」として処罰する構成的身分犯・真正身分犯であると解すべきである。従って、事後強盗罪の構成要件的行為である暴行・脅迫に非身分者が関与した場合、非身分者に対して、刑法65条1項を適用して、構成的身分犯の共同正犯の成立を認め、事後強盗罪の全体に刑法60条を適用し、共同正犯が成立すると解すべきである。原判決は、本件の行為のうち、傷害罪の範囲にしか刑法60条を適用しなかったが、それは刑法65条、60条の法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。
ただし、Y・Zは控訴していない。Y・Zには、傷害罪の共同正犯が成立し、それが確定している。控訴したのはXだけで、その罪責は(事後)強盗致傷罪の共同正犯であることに変わりはない。原判決の法令解釈適用の誤りは、Xに対するこの判決に影響を及ぼすようなものとはいえない。
かりに、検察官がY・Zに対する原審の判断に関して控訴していたならば、この二人には強盗致傷罪の共同正犯の成立が認められたと思われる。
【解説】
身分犯には、構成的身分犯と加減的身分犯の二種類があるが、この二つを区別する基準は何か。
構成的身分犯は、一定の身分を有する者が行なったときに、その行為が初めて犯罪として処罰されるというものである。例えば、収賄罪がその典型である。職務に関連して、他者から利益を受け取っても、それが国家法益に対して侵害性を帯び、収賄罪として処罰されるのは、その行為者が公務員である場合に限られる。公務員でない者が公務員による収賄罪に関与した場合、刑法65条1項を適用され、収賄罪の共同正犯・共犯が成立する。これに対して、加減的身分犯は、行為者に一定の身分が備わっていることによって、それがない場合に比べて、その違法性や有責性に軽重が生じ、その結果、科される刑に軽重が生ずるものをいう。例えば、保護責任者遺棄罪がその典型である。保護責任のない者が保護責任者による遺棄に関与した場合、刑法65条2項を適用され、単純遺棄罪の共同正犯・共犯が成立する。構成的身分犯・真正身分犯と加減的身分犯・不真正身分犯を区別する基準が明確であれば、刑法65条1項・2項の適用は問題にならないが、その基準が不明確であれば、65条1項を適用するのか、2項を適用するのか、いずれなのかを明らかではない。
事後強盗罪は、どのような性質の犯罪であるか。刑法238条の「窃盗が」という規定は、収賄罪の「公務員が」の規定と同様、身分犯であると解釈することができる。ただし、それが構成的身分なのか、加減的身分なのかは、明らかではない。事後強盗罪の構成要件的行為は、条文上、暴行・脅迫であり、それが238条所定の目的で行なわれたときに、事後強盗罪の構成要件に該当する(目的犯)。ただし、この暴行・脅迫は、それ自体として犯罪である。それを窃盗犯という身分を持つ者が行なった場合に、(事後)強盗罪の刑が科されるということは、事後強盗罪は暴行・脅迫を窃盗という身分によって加重した類型であると理解することができる。そうすると、事後強盗罪は、窃盗という身分による暴行・脅迫罪の加重類型であり、窃盗犯という身分は、暴行・脅迫の加重的身分である。このように理解するのが、事後強盗罪=加重的身分犯説・不真正身分犯説である。
これに対して、本件では事後強盗罪は構成的身分犯・真正身分犯であると解されている。事後強盗罪は、窃盗犯という身分者が暴行・脅迫を行なった場合に成立するが、それは窃盗犯という身分によって暴行・脅迫の刑が加重される加重的身分犯・不真正身分犯ではない。暴行・脅迫は一般に人身犯に分類されているが、窃盗犯という身分を持つ者が、刑法238条所定の目的に基づいて、この暴行・脅迫を行なった場合に、この暴行・脅迫が強盗罪の性質を持ち、財産犯として初めて処罰されるのである。従って、事後強盗罪は構成的身分犯・真正身分犯である。事後強盗罪は、基本的に財産犯であり、窃盗犯という身分は、人身犯としての暴行・脅迫の違法性や有責性を加重する身分ではなく、人身犯としての暴行・脅迫を財産犯として構成する身分である。
これに対して、事後強盗罪を身分犯ではなく、窃盗と暴行・脅迫の結合犯の一種と捉える学説もある。身分とは、行為者に備わっている自然的・社会的属性であり、窃盗犯であることは、身分ではないと理解しているからである。この立場からは、暴行に関与したY・Zについては、Xが単独で行なった窃盗を承継するか否かの「承継的共同正犯」の問題として扱われる。
【事案の内容】
Xは、飲食店に勤務する友人と電話で話をしていたところ、店長Aから「長電話はだめだ」と言われ、一方的に切られた。Xは、それに腹を立て、再度電話したところ、Aから友人への取り次ぎを拒否された。Xは、これに憤慨し、Yとタクシーに乗って、Yに包丁を持たせて、一緒にAの店に向かった。Xは、タクシーの中で、「おれは顔が知られているから、お前が先に行ってくれ。けんかになったらお前をほうってはおかない」と言った。このときXは、Aを殺害することになってもやむを得ないと考えていた。「やられたらナイフを使え」とYに指示し説得した。到着後、XはYを店の出入口付近に行かせ、離れたところで待機していた。Yは、「Aとは面識がないから、いきなり暴力を振るわれることもないだろう」と考え、Xの指示を待っていた。すると、Aが店から出てきて、YをXと間違え、いきなり首をつかんで、引きずりまわし、殴り返すなどした。Yは、頼みとするXの加勢も得られないまま、路上に倒された。Yは、自己の生命・身体を防衛する意思で、とっさに包丁を取り出して、「Aを殺害してもやむを得ない」と決意し、Aの左腹部を数回刺し、死亡させた。
第1審(東京地判平成元・7・13)は、XとYは、Aの店に向かうタクシー内で未必の故意による殺人罪の共謀を行ない、YがAを殺害したと認定した。Yの行為は、殺人罪の構成要件に該当する。そして、X・Yは、Aに対して積極的加害意思をもって現場に臨んだので、AによるYへの暴行には急迫性はなく、YがAに行った反撃は、防衛行為にはあたらない。それゆえ、X・Yには正当防衛はもちろん、過剰防衛も成立しない。X・Yには殺人罪の共同正犯が成立する。このように判断した。
これに対して、控訴審は次のように判断した。Xは、タクシーの車内において、Aが侵害を加えてくることを予期し、Aを殺害する意思があった。従って、Xには積極的加害医師があったので、AがYに行った暴行はXにとっては急迫不正の侵害ではない。これに対して、YがAを殺害する意思を生じたのは、Aから突然暴行を受け、それに反撃することを決意した時点であり、その時点においてXとの間にA殺害の共謀が成立したといえる。Aが暴行を加えた時点では、YはAに危害を加える意思はなかったので、Aの暴行はYにとっては急迫不正の侵害にあたるが。ただし、Yの反撃は防衛の程度を超えた過剰なものであった。以上から、X・Yの行為は殺人罪の構成要件に該当し、YはAの急迫不正の侵害に対して防衛の程度を越えた行為を行なったので、過剰防衛(刑36②)が成立する。Xは、Aの侵害を予期し、積極的加害意思もあったので、過剰防衛は成立しない。
【裁判所の判断】
共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれその要件を満たすかどうかを検討して決するべきであって、共同正犯者の1人について過剰防衛が成立したとしても、その結果当然に他の共同正犯者についても過剰防衛が成立することになるものではない。
Xは、Aの攻撃を予期し、その機会を利用してYをして包丁でAに反撃を加えさせようとしていたものであるから、積極的な加害の意思で侵害に臨んだものであるから、AのYに対する暴行は、積極的な加害の意思がなかったYにとって急迫不正の侵害であるとしても、Xにとっては急迫性を欠くものであって、Yについて過剰防衛の成立を認め、Xについてこれを認めなかった原判断は、正当として是認することができる。
【解説】
急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、犯罪の構成要件に該当しても、その違法性が阻却され、処罰されない。ただし、防衛の程度を超えた場合は過剰防衛として、その刑を減軽または免除することができる。判例は、侵害が予期されていても、そのことをもって急迫性が否定されるわけではないが、その機会に積極的に害を加える意思があった場合には、急迫性が否定されると解している。
X・Yの共同正犯者のうち、Xに積極的加害意思があり、Yにはなかった場合、不正の侵害の急迫性はYとの関係において否定されるのか。つまり、急迫性は客観的に判断されるのではなく、積極的加害意思の有無との相対的な関係において決まるのか。本判例では、Xはタクシー内でAを殺害する意思があったが、YはAから暴行を受けた時に殺害することを決意したので、XとYのA殺害の共謀はYがAを殺害する意思を生じたときであり、Xには積極的加害意思があったので、Aの侵害は急迫でなかったが、Yには急迫なものであったと認定した。
XとYは、殺人罪の構成要件に該当する(殺人罪の共同正犯)。
Yには刑法36②の過剰防衛の規定が適用されるが、Xには適用されない。
共同正犯は、構成要件該当性のレベルの議論であり、違法性阻却は個別的に判断される。
以上の判断は、共同正犯の間だけでなく、正犯と共犯の間においても妥当する。XがYにAのところに行かせたが、AがYに突然襲い掛かってきたため、Yは自己の身を守るために、やむを得ずAを殺害した場合、Aの侵害はYにとっては急迫であったため、Yには殺人罪の過剰防衛が成立するが、XはAがYに襲いかかってくることを事前に知り、Yが防衛のための行為を行ない、それによってAが害を受けることを期待していた場合、Xには積極的加害意思があることになるので、Xとの関係においてはAの侵害には急迫性はないので、殺人罪の教唆に対して過剰防衛の規定は適用されない。
091共犯と錯誤(1)(最三判昭和25・7・11刑集4巻7号1261頁)
【事実の概要】 Xは、Yに対して、Aが金銭を持っていることなどを話し、住居侵入と窃盗を行うようそそのかした。それを聞いたYは、Aに対して強盗を行うことを決意し、Zら3人と共に、日本刀やバールなどを携えてA宅に侵入したが、母屋に入ることができず、いったん断念した。しかし、更に同人等は犯意を継続し、Aの隣家であるB電気商会に押し入ることを謀議し、決行することとした。Yは、B宅付近で見張りをし、Zら3人は、それに侵入し、就寝中のCを脅迫して金銭を強取した。
原審広島高岡山支部は、YとZら3人に、A宅への住居侵入罪とは別に、B宅への住居侵入罪と強盗罪の共同正犯の成立を認めた。Xには、住居侵入罪と窃盗罪の教唆の成立を認め、両罪は刑法54条後段の牽連犯の関係に立つものとした(広島高岡山支部昭和24・10・27)。
これに対して、Xとその弁護人は、XがYに教唆したのは、「A宅への侵入とそこでの窃盗」であるから、YらのA宅への侵入について教唆は成立するが、母屋での窃盗の実行は着手されていないので、窃盗罪は未遂でさえなく、窃盗罪の教唆が成立する余地はない。またB宅への侵入と窃盗を教唆していないので、その教唆の故意は認められない。このように主張し、窃盗罪の教唆の成立を認めた原審には違法があるとした。
【裁判所の判断】 犯罪の故意あると認定するには、犯人が認識した事実と、現に発生した事実とが、具体的に一致(符合)することを必ずしも要するものではなく、右両者が、犯罪の類型(定型)として規定している範囲(構成要件の範囲)において一致(符合)することで足りると解すべきであるから、Yら4人に成立すると判断されたB電気商会への住居侵入罪と強盗罪の共同正犯が、被告人Xの教唆に基づいてなされた(因果関係がある)ものと認められる限り、Xは住居侵入罪と窃盗罪の教唆犯としての責任を負うべきことは当然である。
Xの本件教唆に基づいて、Yらの犯行が行なわれたと言い得るか否か、換言すればXの教唆とYらの犯行との間に因果関係が認められるか否かという点について検討すると、原判決中に「更に同人等は犯意を継続し」とあることからすれば、原判決は、被告人Xの教唆とYらの行為との間に因果関係ある旨を判示する趣旨と解すべきように思われるが、……Yの供述記録によれば、……諦めて帰りかけたが、右3人は、吾々はゴットン師であるから、ただでは帰れないと言い出し、隣のラヂオ屋に入って行ったので自分は外で待っていた旨の記載があり、これによればYのB方における犯行は、被告人Xの教唆に基づいたものというよりは、むしろYは一旦右教唆に基づく犯意は障碍(A宅の母屋に入れなかった)のために放棄し、その後、たまたま共犯者3名が強硬に判示B電気商会に押入ろうと主張したことに動かされて決意を新たにして遂に敢行したものであるという事実が窺われないでもないない。これらを綜合すると、原判決の趣旨が、被告人Xの教唆とYらの犯行との間に因果関係があるものと認定したものであると明確に言いうるか否かは疑問であると言わなければならない。そうすると、原判決は結局、罪となるべき事実を確定せずに、法令を適用し、被告人Xの罪責を認めたといえるので、理由不備の違法あることに帰し、論旨には理由がある(破棄差戻し)。
【解説】 この事案には、2つの論点がある。1つは、共犯における錯誤の問題である。もう1つは、共犯と正犯の因果関係の問題である。まず、共犯における錯誤の問題について。錯誤には2つの類型がある。1つは事実の錯誤、もう1つは違法性の錯誤である。事実の錯誤は、具体的事実の錯誤(錯誤が同一の構成要件の範囲内で生じている場合)と抽象的事実の錯誤(錯誤が異なる構成要件にまたがる場合)の2つの場合に分けられる。このような錯誤は、生じた結果に対して故意を阻却するか。通説・判例は、事実の錯誤のいずれの場合においても、行為者が認識した事実と現に発生した事実との間に構成要件の重なり合いがある場合、その部分について故意の成立を認める(法定的符合説・構成要件的符合説)。つまり、行為者が認識した犯罪が該当する構成要件と現に発生した犯罪が該当する構成要件とが重なっている、包摂される場合には、その重なっている部分の犯罪について故意の成立を認める。
この法定的符合説は、正犯・共犯における事実の錯誤にも適用される。例えば、XがYに窃盗を教唆したところ、Yが強盗を行なった場合、窃盗罪の教唆と強盗罪の教唆とでは、「窃盗罪の教唆」の範囲内で構成要件(または教唆類型)の重なり合いが認められるので、Xには窃盗罪の教唆が成立する。
もっとも、この結論は、Xの教唆とYの犯行との間に因果関係があることを前提としている。つまり、XがYに窃盗を教唆したから、Yが「強盗」を実行することを決意し、それを敢行したことを前提としている。本件の事案では、XがYに「A宅の住居侵入と窃盗」を教唆したところ、Yがそれを受けて、Zら3人と「A宅の住居侵入と強盗」を行なうことを共謀し、A宅の屋内に侵入したが、母屋への侵入を「いったん断念し」た。この時点で、YらにはAへの住居侵入罪が成立する。窃盗については、実行の着手が認められないので、その点は不可罰である。Xにはその住居侵入罪の教唆が成立するだけである。その後、Yらは、「更に(同人等は)犯意を継続し、Aの隣家であるB電気商会に押入ることを謀議し、決行することとした」。Yは同家付近で見張りをし、Zら3人は屋内に侵入して、就寝中のCを脅迫して、金品を強取した。つまり、Xが行なったYへのA宅の住居侵入・窃盗の教唆とY・Zらが行なったA宅への侵入だけでなく、B宅への侵入と強盗との間に因果関係がある。XはA宅侵入・窃盗を教唆し、YらはB宅侵入・強盗を実行しているので、Xから見れば「方法の錯誤」があるが、Xによって形成されたYらの犯意は継続しているので、Xの教唆とYらの犯行には因果関係がある。Yらの犯意が継続していることが、両者の間の因果関係の存在を根拠づけている。
Xは、YにA宅侵入・窃盗を教唆したところ、YらはA宅侵入・強盗を決意し、その実行をZら3人と共謀し、A宅侵入にとどまった。その後、B宅侵入・強盗を行なっている。このB宅侵入・強盗は、Xの教唆によるというよりは、YらがA宅母屋侵入を断念した後、Zらが強硬に犯行を主張したために、「決意を新たにして遂に敢行したものである」。「決意を新たにする」とは、Xの教唆によって形成された犯意とは別の犯意を形成したと理解することもできる。もしそうであるならば、Xの教唆とYらの犯行の因果関係を否定することもでききる。錯誤論の問題を検討するまでもなく、YらはXの教唆とは無関係にB宅侵入・強盗を行なったということである。
しかし、Xの教唆→Yの犯行の意思→Zらとの共謀→Y・Zらとの犯行の意思連絡→Yの犯行の意思の放棄。但し、Zらの犯行の意思の継続→ZらによるYへの強硬な説得という因果経過を見ると、Yの新たな決意とは、Zらよって形成された犯行の意思、つまりXの教唆によって形成された当初の犯行の意思であるといえる。従って、Xの教唆とYらの犯行の因果関係は否定されない。
092共犯と錯誤(2)(最一決昭和54・4・13刑集33巻3号179頁)
【事実の概要】
店を経営するX、Yら7名は、巡査Aが店舗に強硬に立ち入り検査したことに憤慨し、Aに暴行、傷害を加える旨順次共謀した。X、Yらは、派出所前において罵声・怒号を浴びせたところ、Aがそれに応答したのに対して、Yが激昂し、携帯していた小刀で未必の殺意をもってAを刺し、出血死させた。
第1審神戸地裁は、Xら7名の行為は、「殺人罪の共同正犯に該当する」が、Yを除く6名は、殺意はなく、暴行ないし傷害の意思で共謀したものであるから、38条2項により、殺人罪で処断することはできず、それよる軽い「傷害致死罪の共同正犯の刑で処断する」と判示した。原審大阪高裁も、この判断を維持した。
Xらは、殺人の故意のないY以外の6名に対して、「殺人罪の共同正犯が成立する」と判断したのは疑問であり、暴行罪または傷害罪が成立するにとどまると主張して上告した。つまり、7名に殺人罪の共同正犯成立するが、殺意のないXら6名には、傷害致死罪の共同正犯の刑で処断するというのは誤りであり、Xら6名には傷害致死罪の共同正犯が成立するので、傷害致死罪の刑で処断するというのが正しいと主張した。
【裁判所の判断】
殺人罪と傷害致死罪は、殺意の有無という主観的な面に差異があるだけで、その余の犯罪構成要件要素はいずれも同一であるから、暴行・傷害を共謀した被告人Xら7名のうちYだけが、Aに対して未必の殺意をもって殺人罪を犯した本件において、殺意のなかった被告人Xら6名については、(客観的に行なわれた)殺人罪の共同正犯と(主観的に行なおうとした)傷害罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で軽い傷害罪の共同正犯が成立し、そこから死亡結果を発生させたので、傷害致死罪の共同正犯が成立するものと解すべきである。……もし犯罪としては重い殺人罪の共同正犯が成立し、刑のみを(暴行罪ないし傷害罪の結果的加重犯である)傷害致死罪の共同正犯の刑で処断するにとどめるならば、それは誤りといわなければならない。
【解説】
共同正犯者間において、殺人(重い罪)の故意があった者と暴行・傷害(軽い罪)の故意しかなかった者がおり、被害者Aが死亡した場合、暴行・傷害の故意しかない者は、どのように処理されるのかが争点であった。過去の判例は、軽い罪の限度で故意が認められれきた。その場合、重い罪の共同正犯の成立が認められた上で、科刑については、軽い罪の故意を認め、軽い罪の共同正犯の刑が科されるのか、それとも最初から軽い罪の共同正犯の成立が認められるのかかは、不明であった。原審は、この問題に関して、Xら6名に対しては、殺人罪の共同正犯が成立するが、科刑のみ傷害致死罪の刑で処断するという判断を示したが、本決定は、傷害致死罪の共同正犯が成立すると判断した。暴行・傷害の故意が認められ、基本犯としては傷害罪が成立し、そこから加重結果である致死が生じているので、傷害致死罪の共同正犯が成立するということである。
Xら6人は、主観的には暴行・傷害を実行する意思で、客観的に死亡結果を発生させているが、刑法38条2項によれば、軽い罪の暴行・傷害の故意しかなかった者を重い致死結果につき責任を認めることはできない。従って、殺人罪の共同正犯の成立を認めることhできない。ただし、傷害罪と殺人罪の2つの構成要件のうち、傷害罪の犯意で構成要件の重なりを認め、傷害罪の成立を認め、そこから致死結果が発生したとと認定し、傷害致死罪の共同正犯の成立を認めることができる(法定的符合説・構成要件的符合説)。
この判断は、軽い罪の故意しかなかった者の処断については問題ないが、重い罪の故意があった者についての判断方法については、いまだ明らかではない。つまり、本件では、殺人の故意のあったYの処断方法については明らかにはされていない。
共同正犯は、故意犯の共同正犯に限ると解するならば(犯罪共同説)、Yの殺人既遂罪とXらの傷害致死罪の共同正犯を認めることはありえなが(これを完全犯罪強度失説という)、YはXらと傷害致死罪の共同正犯が成立し、それに加えて殺意がったので殺人既遂罪の「単独正犯」が成立し、傷害致死罪の共同正犯と殺人既遂罪の単独正犯は観念的競合の関係に立ち(刑54)、重い刑を定めた殺人罪で処断されると解することもできる(これを部分的犯罪共同説という)。
これに対して、共同正犯は故意犯の共同正犯に限られず、過失犯の共同正犯、結果的加重犯の共同正犯もありうると解するならば(行為共同説)、故意犯と過失犯の共同正犯、故意犯と結果的加重犯の共同正犯もありうるので、端的にYの殺人既遂罪とXらの傷害致死罪の共同正犯の成立が認められる。
本件では、殺意のあったYは上告していないので、明らかではないが、傷害致死罪の共同正犯と殺人既遂罪の単独正犯の観念的競合が認められるのか、それとも端的に殺人既遂罪の共同正犯が認められるのかは明らかではない。この問題について判例は、後のシャクティ事件で、部分的犯罪共同説に立つことが示された。
判例番号006シャクティ事件(最二決平成17・7・4刑集59巻6号403頁)
X・YはAの保護責任者であるが、Xは殺人の故意で、Yは遺棄の故意で、Aを放置して死亡させた。
Xに不作為による殺人罪(の単独正犯)が成立し、殺意のないYらとの間では(不作為による)保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯が成立する(部分的犯罪共同説を採用したと一般的に解されている)。
093共犯と身分(1)(最三判昭和42・3・7刑集21巻2号417頁)
【事案の概要】
XとYは、外国にいるZが営利目的で麻薬を輸入しようとしていることを知りながら、その依頼を受けて、麻薬を輸入した。
第1審神戸地裁の事実認定は、次の通りである。Xは、Zとの関係や前歴から、Zが営利目的を持ちながら麻薬を輸入しようとしていることを知っていた。Yは、Zが麻薬輸入の意図(売却の意図)を持っていることを了知しながら、Zに協力した。従って、XとYには、麻薬を輸入することによって、少なくとも(自分自身ではなく)第三者であるZが財産上の利益を得ることを認識していた。神戸地裁は、営利目的麻薬輸入罪における営利目的とは、自己が財産上の利益を得る目的(自己利得目的)だけでなく、第三者であるZに財産上の利益を得させる目的(他者利得目的)も含まれ、XとYにはZに財産上の利益を得させる目的(他者利得目的)があったと認定して、麻薬取締法64条2項の「営利目的麻薬輸入罪の共同正犯」が成立すると判断した。
Xのみ控訴したが、大阪高裁は、Xの控訴を棄却する判断を言い渡して、X、Y、Zは営利目的麻薬輸入罪の(共謀)共同正犯が成立すると判断した。
これに対して、Xが上告した。営利目的麻薬輸入罪の「営利目的」とは、麻薬を輸入して自己が財産上の利益を得る目的(自己利得目的)だけでなく、他人に財産上の利益を得させる目的(他者利得目的)であり、XはZに自己利得目的があることを知っていただけで、他者利得目的はなかったと主張した。
【裁判所の判断】
麻薬取締法12条1項の規定に違反して、麻薬輸入の行為を行なった場合、営利目的を持っている者には、同法64条2項の営利目的麻薬輸入罪が成立し、営利目的を持たない者には、同条1項の(単純)麻薬輸入罪が成立する。営利目的麻薬輸入罪における「営利目的」とは、自己が財産上の利益を得るだけでなく、第三者に得させることを含む。このような利益目的という犯人の特殊事情がある場合には、営利目的麻薬輸入罪が成立する。この目的の有無によって刑の軽重に差が生ずるので、その目的は刑法65条2項にいう「身分」であるといえる。
第1審判決は、Xが、Zに営利目的があったことを知っていただけで、自ら営利目的を持っていなかったが、それにもかかわらず営利目的を認めた。Xは自ら営利の目的を持っていなかったのであるから、その解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすものであり、これを破棄しなければ、著しく正義に反するものと認められる。
Zには営利目的があり、XはZが営利目的を持っていることを知っていたが、自らは営利目的を持っていなかった。このようなXに対して営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立するというのはで妥当ではない。営利目的のないXには、刑法65条2項を適用して、「通常の刑」が定められた単純麻薬輸入罪の共同正犯にとどまると解すべきである。
【解説】
第1審神戸地裁は、営利目的麻薬輸入材の営利目的は、刑法65条2項にいう身分ではないと解釈した。そもそも刑法65条の身分とは、犯人の職業、社会的地位、性別、国籍などを指すだけで、営利目的麻薬輸入罪の営利目的はそれにあたらない。それはいわゆる主観的違法要素でしかない。このように理解することによって、X・YがZに営利目的があることを知っていたので、3者に営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立すると認めた。その論理は、次のようなものである。
例えば、ウェイターXが客Aを殺害する意図でAが飲むコーヒーに毒を入れた。同じウェイターYはXの意図を知っていた。Y自身はAに恨みはなかったないが、Xの依頼を受けて、そのコーヒーをAのテーブルまで運んだ。Aはそれを飲み死亡した。この場合、XとYに殺人罪の共同正犯が成立する。この論理を本件に適用すると、Zは営利目的で麻薬を輸入する意図(営利目的麻薬輸入の故意)を持っていた。XとYは自身には営利目的はなかったが、Zに営利目的があることを知っていた。そして、X・YはZの依頼を受けて、麻薬を輸入した。X、Y、Zには、営利目的麻薬輸入罪の共同正犯が成立する。神戸地裁とそれを維持した大阪高裁の判断はシンプルである。
しかし、最高裁の判断は、異なる。最高裁は、営利目的麻薬輸入罪における営利目的は、それがない単純麻薬輸入罪の刑を加重する要素、すなわち刑法65条2項の加重的身分と解している。このように理解すると、営利目的を持つ者と持たない者が共同して麻薬を輸入した場合、目的を持つ者には営利目的麻薬輸入罪が、持たない者には「通常の刑」が科される単純麻薬輸入罪が成立し、両者は共同正犯になる。
営利目的麻薬輸入罪における営利目的とは、自己または第三者に財産上の利益を得させる目的(超過的内心傾向)であり、麻薬輸入後にそのような利得行為を行なって、その結果を発生させる目的である。それは、麻薬輸入の行為の違法性と非難可能性を高め、その刑を加重する要素である。Zにはその目的があったが、XとYにはなかった。従って、X、Y、Zが、外形的に同じ麻薬輸入行為を行なっても、その行為の構成要件該当性は異なる。営利目的の有無によって該当する構成要件が異なるので、営利目的のないXとYの行為が、営利目的麻薬輸入罪の構成要件に該当し、Zと共同正犯になると判断した神戸地裁は、この点についての解釈を誤ったといえる。
なお、営利目的があることによって刑が加重される犯罪類型は他にもある。営利目的略取・誘拐罪がそれである。
094共犯と身分(2)(最三判昭和32・11・19刑集11巻12号3073頁)
【事案の概要】
Zは、村への寄付金を受領・保管する業務にあたっていたが、被告人XとYは、Zと共謀して、Z保管の寄付金約23万円の中から、約8万円を飲食代金として支出した。
第1審水戸地裁十浦支部は、被告人X・Yに刑法253条の業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、原審東京高裁もこれを認め、控訴を棄却した。弁護人が上告した。
なお、Zは分離審判され、業務上横領罪の共同正犯の成立が認められたものと推測される。
【裁判所の判断】
寄付金の受け取りと管理の業務に従事していたのはZであって、XとYにはその事実は認められない。従って、XとYには、刑法65条1項を適用して、Zとの間で業務上横領罪の共同正犯が成立すると認定し、そのうえで、刑法65条2項を適用して、通常の刑である刑法252条1項の単純横領罪の刑を適用すべきである。原判決を破棄し、XとYに業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、科刑の点について、単純横領罪の法定刑で処断すべきである。
【解説】
犯罪のなかには、特定の職業や社会的地位、性別、国籍を持つ者が行なった場合にだけ、犯罪として処罰されるものや、それを理由に刑が加重または減軽されるものがある。このような職業や社会的地位のことを「身分」といい、その身分があることによって、はじめて犯罪を構成するものを「構成的身分犯」または「真正身分犯」といい、その身分を持つ者(身分者)が行なったことで刑が加重・減軽されるものを「加重的身分犯・減軽的身分犯」(両者を併せて加減的身分犯)または「不真正身分犯」という。
このような身分犯に身分を持たない者(非身分者)が関与した場合に、どのような犯罪が成立するか。刑法65条1項・2項はこのような場合についての規定である。ただし、その規定の理解の仕方と適用方法については、様々な理解がある。刑法65条1項はどのような事案に適用され、同2項はどのような事案に適用されるのか。そして、両規定は、どのような関係にあるのか。この問題について、本件の最高裁の判断が示されて以降、近年の通説・判例の理解が変化しているので、それを対比させながら理解する必要がある。
本判決は、刑法65条1項については、身分犯と共犯の問題(共同正犯・共犯が成立する罪名の問題)に一般的に適用される規定であり、同2項については、そのうちの非身分者に科される刑の問題(「通常の刑」を定めた罪の法定刑で処断する問題)に個別的に適用される規定であると解している。つまり、身分者と非身分者が共同して身分犯を実行した者には、身分者と非身分者の両方に刑法65条1項が適用されて、「身分犯の共同正犯」が成立し、非身分者について、身分の有無によって刑の軽重がある場合には、非身分者には刑法65条2項を適用して、「通常の刑」を定めた罪の法定刑で処断され、非身分者について、身分の有無によって刑の軽重がない場合には、身分者と同じ犯罪の共同正犯が成立するという理解である。これに対して、現在では、刑法65条1項は、構成的身分犯に関する共犯の問題、2項は、加減的身分犯に関する共犯の問題に適用されると解されている。従って、現在の通説・判例の解釈からこの事案を扱うなたば、本件の判例とは異なった結論が出される。
判例の理解に従って検討すると、本件で争点となったのは、村長Xと助役Yが寄付金の管理業務に従事していたか否かである。管理業務に従事していたのであれば、業務者・身分者であるので、業務上横領罪の行為主体(単純横領罪の刑を加重する的身分者)ということになる。従事していなかったのであれば、単純横領罪の行為主体にとどまる。村のための寄付金の受領と管理の業務に従事していたのはZであり、XとYは、その業務に従事していなかったのであるから、非業務者・非身分者には、刑法65条1項を適用してZと業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、さらに同2項を適用して、単純横領罪の刑で処断することになる。これに対して、近年の理解に従って検討すると、X・Yには刑法65条2項を適用して、単純横領罪の共同正犯の成立を認めることになる。
なお、余談であるが、各論的論点の補足をしておく。
本件の判例も、近年の通説も、それぞれの立場には、単純横領罪と業務上横領罪が、基本類型と身分による加重類型の関係にあるとの理解がある。つまり、業務者・身分者ではない者は、基本類型の単純横領罪の行為主体という理解がある。しかし、単純横領罪の規定によれば、その行為は「自己の占有する他人の物の横領」なので、単純横領罪の行為主体は、「他人の物を占有している者」でなければならない。しかも、物の所有者・占有者の委託を受けずに物を占有した場合の遺失物横領罪と区別するために、単純横領罪の行為主体は、物の所有者・占有者からの委託を受けて物を占有している者であると解されている(それゆえ単純横領罪は「委託物横領罪」と呼ばれることがある)。本件のXとYが業務上横領罪の行為主体ではないことは明らかであっても、単純横領罪の行為主体であると認識されたことの根拠は明らかではない。XとYは、業務外において、誰から委託を受けて、寄付金の保管をしたのかという点についての説明はない(おそらく、ZがX・Yのところに寄付金の一部を持って行って、共同保管し、その後、一緒になって飲食谷として支出して、横領したと認定されたのではないかと想像される)。
かりに、Zとの共同保管の事実がなければ、その寄付金の一部は、XとYにとっては、委託を受けずに占有している物ということになる。そうすると、XとYは委託物横領罪ではなく、遺失物横領罪の共同正犯でしかない。ただし、このような法適用は、遺失物横領罪、単純横領罪、業務上横領罪の3罪について、遺失物横領罪(非委託物横領罪)が横領罪の基本類型であり、その加重類型が単純横領罪(委託関係を加重的身分とする委託物横領罪)、そのまた加重類型が業務上横領罪(業務者であることが加重的身分である業務上委託物横領罪)と理解しなければならない(各論で詳説する)。
095共犯と身分(3)(大阪高判昭和62・7・17判時1253号141頁)
【事実の概要】
被告人Xは店舗内で商品を窃取した後、警備員Aに呼び止められ、窃盗罪の現行犯として逮捕されそうになった。それを免れるために、Y・Zと意思を通じて、Aに暴行を加え、傷害を負わせた。X、Y、Zは、(事後)強盗罪致傷罪で起訴された。
原審神戸地裁は、Xによる単独の窃盗罪が既遂に達した後で、Y・Zと共謀して暴行を加えたと事実関係を認定したうえで、Y・Zは窃盗罪の共同正犯ではないから、事後強盗罪の行為主体にもなりえないとして、Xら3名について強盗致傷罪の共同正犯の成立を認めるのは妥当ではないとして、Xについて強盗致傷罪の成立を認め、Y・Zにはその致傷部分について共同正犯が成立するとして、傷害罪の共同正犯の成立を認めた。Xが量刑不当を理由に控訴した。Y・Zは控訴しなかった(傷害罪の共同正犯の成立が確定)。
【裁判所の判断】
Xの窃盗後、Y・Zがその事実を知った上で、Xと共謀して被害者に暴行を加えて傷害を負わせた場合、窃盗犯という身分を持たないY・Zについても、刑法65条1項を適用して、事後強盗致傷罪が成立すると解すべきである。この場合、非身分者には、刑法65条2項を適用して、傷害罪の共同正犯の成立を主張するものがあるが、事後強盗罪は、窃盗犯という身分者が暴行・脅迫を行なった場合に暴行・脅迫の刑を加重する加重的身分犯・不真正身分犯ではなく、窃盗犯という身分者が、刑法238条所定の目的に基づいて、暴行・脅迫を行なった場合に、その暴行・脅迫を「強盗罪」として処罰する構成的身分犯・真正身分犯であると解すべきである。従って、事後強盗罪の構成要件的行為である暴行・脅迫に非身分者が関与した場合、非身分者に対して、刑法65条1項を適用して、構成的身分犯の共同正犯の成立を認め、事後強盗罪の全体に刑法60条を適用し、共同正犯が成立すると解すべきである。原判決は、本件の行為のうち、傷害罪の範囲にしか刑法60条を適用しなかったが、それは刑法65条、60条の法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。
ただし、Y・Zは控訴していない。Y・Zには、傷害罪の共同正犯が成立し、それが確定している。控訴したのはXだけで、その罪責は(事後)強盗致傷罪の共同正犯であることに変わりはない。原判決の法令解釈適用の誤りは、Xに対するこの判決に影響を及ぼすようなものとはいえない。
かりに、検察官がY・Zに対する原審の判断に関して控訴していたならば、この二人には強盗致傷罪の共同正犯の成立が認められたと思われる。
【解説】
身分犯には、構成的身分犯と加減的身分犯の二種類があるが、この二つを区別する基準は何か。
構成的身分犯は、一定の身分を有する者が行なったときに、その行為が初めて犯罪として処罰されるというものである。例えば、収賄罪がその典型である。職務に関連して、他者から利益を受け取っても、それが国家法益に対して侵害性を帯び、収賄罪として処罰されるのは、その行為者が公務員である場合に限られる。公務員でない者が公務員による収賄罪に関与した場合、刑法65条1項を適用され、収賄罪の共同正犯・共犯が成立する。これに対して、加減的身分犯は、行為者に一定の身分が備わっていることによって、それがない場合に比べて、その違法性や有責性に軽重が生じ、その結果、科される刑に軽重が生ずるものをいう。例えば、保護責任者遺棄罪がその典型である。保護責任のない者が保護責任者による遺棄に関与した場合、刑法65条2項を適用され、単純遺棄罪の共同正犯・共犯が成立する。構成的身分犯・真正身分犯と加減的身分犯・不真正身分犯を区別する基準が明確であれば、刑法65条1項・2項の適用は問題にならないが、その基準が不明確であれば、65条1項を適用するのか、2項を適用するのか、いずれなのかを明らかではない。
事後強盗罪は、どのような性質の犯罪であるか。刑法238条の「窃盗が」という規定は、収賄罪の「公務員が」の規定と同様、身分犯であると解釈することができる。ただし、それが構成的身分なのか、加減的身分なのかは、明らかではない。事後強盗罪の構成要件的行為は、条文上、暴行・脅迫であり、それが238条所定の目的で行なわれたときに、事後強盗罪の構成要件に該当する(目的犯)。ただし、この暴行・脅迫は、それ自体として犯罪である。それを窃盗犯という身分を持つ者が行なった場合に、(事後)強盗罪の刑が科されるということは、事後強盗罪は暴行・脅迫を窃盗という身分によって加重した類型であると理解することができる。そうすると、事後強盗罪は、窃盗という身分による暴行・脅迫罪の加重類型であり、窃盗犯という身分は、暴行・脅迫の加重的身分である。このように理解するのが、事後強盗罪=加重的身分犯説・不真正身分犯説である。
これに対して、本件では事後強盗罪は構成的身分犯・真正身分犯であると解されている。事後強盗罪は、窃盗犯という身分者が暴行・脅迫を行なった場合に成立するが、それは窃盗犯という身分によって暴行・脅迫の刑が加重される加重的身分犯・不真正身分犯ではない。暴行・脅迫は一般に人身犯に分類されているが、窃盗犯という身分を持つ者が、刑法238条所定の目的に基づいて、この暴行・脅迫を行なった場合に、この暴行・脅迫が強盗罪の性質を持ち、財産犯として初めて処罰されるのである。従って、事後強盗罪は構成的身分犯・真正身分犯である。事後強盗罪は、基本的に財産犯であり、窃盗犯という身分は、人身犯としての暴行・脅迫の違法性や有責性を加重する身分ではなく、人身犯としての暴行・脅迫を財産犯として構成する身分である。
これに対して、事後強盗罪を身分犯ではなく、窃盗と暴行・脅迫の結合犯の一種と捉える学説もある。身分とは、行為者に備わっている自然的・社会的属性であり、窃盗犯であることは、身分ではないと理解しているからである。この立場からは、暴行に関与したY・Zについては、Xが単独で行なった窃盗を承継するか否かの「承継的共同正犯」の問題として扱われる。