Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(13)択一

2021-07-04 | 日記
Nо.056 共同正犯と正当防衛
 次の文章は、「相手方の侵害に対し、複数人が共同して防衛行為としてに暴行に及び、相手方からの侵害が終了した後に、なおも一部の者が暴行を続けた」という事案における防衛行為および過剰防衛の成否に関する見解である。この見解に対する後記アからオまでの論評のうち、明らかに誤っているものの組合せとして正しいものは、後記1から5まのうちどれか。
【見解】
 「上記事案において、後の暴行を加えていない者について正当防衛の成否を検討するにあたっては、侵害が現に行われている時点(侵害現在時)と侵害が終了した時点(侵害終了後)に分けて考察するのが相当である。複数人によって行われた侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には、侵害終了後については、後の暴行を加えていない者が、侵害現在時における防衛行為として暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、侵害終了時において、新たに暴行を行うにつき共謀が成立したかどうかを検討すべきる。つまり、侵害終了後において新たな暴行の共謀の成立が認められるときにはじめて、侵害現在時における暴行(この時点においては正当防衛の要件を充たしている)と侵害終了後の新たな暴行を一連の暴行として全体として考察し、防衛行為としての相当性(過剰防衛か否か)を検討すべきである。」
【論評】
ア この見解によれば、本事案において、侵害終了後の行為について共謀があったとされる者については、侵害現在時における反撃行為が正当防衛と評価されるのであれば、過剰防衛が成立することになる。
→本件の事案とは、「相手方Aの急迫不正の侵害に対し、複数人X・Y・Zが共同して防衛行為としてに暴行に及び、相手方Aからの侵害が終了した後に、なおも一部の者X・Yが暴行を続けた。ただし、Yは暴行を続けなかった」という事案です(少し加筆しています)。
 この事案では、X・Yが急迫不正の侵害の終了後も暴行を継続しています。これはいわゆる量的過剰防衛の事案です。暴行罪または傷害罪の構成要件に該当し違法で有責な行為を行っていますが、正当防衛状況において行い、防衛の量的程度を超えているので、過剰防衛の規定が適用されます。では、Zはどうなるのでしょうか。
は侵害終了後の暴行には加わっていません。彼にも過剰防衛になるのでしょうか。X・Yは、Zは、侵害終了の暴行について共謀して継続していると思われますが、Zは侵害終了の暴行についてX・Yと共謀してませんし、行ってもいません。そうすると、アの論評は、侵害終了後に共謀したX・Yに過剰防衛が成立し、共謀しなかったZについては過剰防衛にはあたりません。離脱を論ずるまでもなく、正当防衛が成立します。
 アの論評は、見解に関する論評として間違っていません。
イ この見解は、共同正犯の成否の問題と、過剰防衛の成否の問題とを分けて検討しているとみることができる。
→共同正犯とは、共同実行の意思に基づいて、犯罪を共同実行することです。侵害現在時において、X・Y・Zは、Aの急迫不正の侵害に対して共同して暴行を行う意思に基づいて、それを実行しています。暴行罪の構成要件該当行為を共同して実行していますが、急迫不正の侵害に対して行っているので、この時点では違法性が阻却されます。共同正犯は、構成要件該当性のレベルにおいて問題になります。その後の侵害終了時において暴行を継続することを共謀した場合、防衛行為が継続し、暴行罪の共同正犯が継続することにすることになりますが、そのことをもって過剰防衛が成立するわけではありません。暴行を共同して防衛行為の相当性を超えた場合には、過剰防衛になります。したがって、侵害終了後に暴行を継続することを共謀したことは暴行の共同正犯の問題であり、それとは別に防衛行為の相当性を超えたかどうかが問題になります。
 イの論評は、見解に関する論評として間違っていません。
ウ この見解は、甲と乙とが暴行の故意で共同して被害者に暴行を加え、乙が強度の暴行を行ったっため被害者に重傷を負わせた場合、暴行を共同したことにより傷害結果に心理的因果性を与えた甲が傷害罪の共同正犯とされることと矛盾する。
→例えば、甲と乙とが被害者に対して共同して暴行を加え、乙が強度の暴行を行ったっため被害者が重傷を負った場合、甲・乙には傷害罪の共同世犯が成立します。それに異論はないと思います。甲は強度の暴行を行っていませんが、甲が乙が共同したことによって、乙に心理的な影響を与え、それによって乙の暴行を強化したので、甲・乙ともに傷害罪の共同正犯が成立します。そのことと、見解の内容は別の問題です。見解が想定しているのは、X・Y・Zの暴行が終了した後でも、X・Yが暴行を共謀し継続し、Zがそれに関わらなかった事案だからです。侵害が終了した後、ZがX・Yと暴行を共謀していなければ、それ以降の心理的な因果性が生じません。甲に傷害罪の共同正犯が成立することと、Zに暴行罪の過剰防衛が成立しないことは矛盾しません。
 ウの論評は、見解に関する論評としては間違っています。
エ この見解によれば、本事案において、当初の防衛行為の後、なおも暴行を続けた一部の者について過剰防衛が成立することはない。
→見解によると、最初に正当防衛を行い、侵害終了後になおも暴行を共謀し続けた者については、過剰防衛が成立します。侵害終了後に暴行を継続することを共謀しなかった者については、その時点で正当防衛が成立するだけです。
 エの論評は、見解に関する論評としては間違っています。
オ この見解は、侵害終了後の行為について新たな共謀の成立が認められた場合であっても、侵害現在時における行為と終了後の行為とを全体として考察して防衛行為の相当性を検討する点で、過剰防衛の刑の減免根拠を責任減少に求める見解と親和的である。
→事例のような量的過剰防衛の事案に関しては、侵害の終了前後において分けて、侵害終了前の行為について正当防衛を認め、終了後には「急迫不正の侵害」の要件が満たされないので、せいぜい誤想防衛でしかなく、過剰防衛は問題になりえないと解する立場もありえます。その立場からは、侵害終了後に新たな暴行を共謀した場合には誤想防衛も問題にならないかもしれません。見解は、侵害終了後に新たな暴行を共謀した場合でも、侵害現在時における正当防衛と侵害終了後における暴行を全体として考察し、防衛行為の相当性を判断します。オの論評は見解を正しく理解しています。防衛行為の相当性の程度を超え、過剰防衛になっても、刑が減免される可能性がありますが、それは侵害現在時において行われた暴行は防衛行為として違法性が減少するだけでなく、緊急行為として暴行をを行ったことも責任が減少するからです。その意味では責任減少説と親和性があるというのはその通りです。
 オの論評は、見解に関する論評として間違っていません。
(1)アイ (2)アオ (3)イウ (4)ウエ (5)エオ →(4)ウエ)
Nо.057 共同正犯と過剰防衛
 学生A、BおよびCは、次の【見解】について後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から④までの(  )内に入る発言として正しいものを後記【発言】から選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【見解】
 共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれ要件を満たすかどうかを検討して決すべきであって、共同正犯者の1人について過剰防衛が成立したとしても、その結果、当然に他の共同正犯者についても過剰防衛が成立することになるものではない。
→X・YがAによる暴行に対して防衛行為を行い、重傷を負わせた場合、X・Yがそれぞれ正当防衛の要件を充たしているならば、正当防衛が成立し、また防衛の程度を超えていれば過剰防衛になります。
 まず、Aの暴行が急迫不正の侵害にあたるものでなければなりません。XがAの侵害を予期し、それに乗じて侵害を加える意思があった場合(積極的加害意思がある場合)、Aの侵害は不正の侵害であっても、急迫性は否定されます。Xには正当防衛はもちろん、過剰防衛も問題にはなりません。これに対して、YはAの侵害を予期していなかった場合、正当防衛が成立する余地があります。
 このように、2人以上の者によって防衛行為として行われた行為が正当防衛にあたるか、あるいは過剰防衛にあたるかを判断するにあたっては、共同正犯者の各人につきそれぞれ要件を満たすかどうかを検討して決しなければなりません。共同正犯者の1人について正当防衛や過剰防衛が成立したとしても、他の共同正犯者についても、その法的効果が当然に及ぶものではありません。そうすると、共同正犯者3人のうち、1人に正当防衛が否定され、他の2人に過剰防衛が成立するということもあります。さらに、過剰防衛が成立する2人のうち、違法性の減少も責任の減少も個別的に判断することになります。
 この【見解】は、共同正犯を構成要件該当性のレベルで位置づけ、その違法性の阻却の可否は共同正犯者ごとに個別的に検討するという立場に立っています。いわゆる違法の相対性という考えに基づいています。


【会話】
学生A この見解を考えるについては、共同正犯者は他の共同正犯者の行為の違法、責任の程度の影響を受けるかどうかという点と、過剰防衛は違法性減少事由か、責任減少事由かという点が判断のポイントとなるね。
→Aの発言は、少し分かりにくいです。「共同正犯者は他の共同正犯者の行為の違法、責任の程度の影響を受けるかどうか」については、【見解】によれば、違法性も責任も個別的に判断されるので、影響を受けないという考えになります。また、過剰防衛の刑の減免理由としては、違法性減少か、それとも責任減少かという二者択一的な議論をしていますが、刑の減免は、その2つの点において検討されるというのが判例だと思います。


学生B 私は、共同正犯者間では、( ① )と考える。そうすると、過剰防衛の法的性質を責任減少事由と考えても、違法減少事由と考えても、この見解を採ることができない。
→Bはこの【見解】をとれないと言っています。つまり、共同正犯は、関与者の行為を構成要件該当性のレベルで捉えるだけでなく、違法性・責任のレベルにおいて捉え、その全ての要件において共通していなければならないということになります。(①)には(ウ)が入ります。


学生C 私は、共同正犯者間では、( ② )と考える。そうすると、過剰防衛の法的性質を責任減少事由と考えても、違法減少事由と考えても、この見解を採ることができる。
→Cはこの【見解】をとっています。つまり共同正犯とは、構成要件該当性のレベルで捉えるだけで、違法性・責任は個別的に検討するという立場です。(②)には(ア)が入ります。


学生A 私は、共同正犯者間では( ③ )と考え、過剰防衛の法的性質を( ④ )と考える。従って、私は、この見解を採ることができる。
→Bがウ、Cがアの立場をとっているので、Aはイということになります。
(③)には(イ)が入ります。
そうすると、共同正犯は、構成要件・違法性のレベルでは同じであり、責任だけが個別的に検討されることになります。共同正犯者の1人に正当防衛が成立せず、他の1人に過剰防衛が成立する場合、その他の1人の刑が減免されるのは、責任が減少するからだということになります。
(④)には(エ)が入ります。


【発言】
ア 構成要件該当性は共通であるが、違法性の有無・程度および責任の有無・程度は必ずしも共通ではない
 2人以上で共同して行為を行って、それが犯罪の構成要件に該当すれば、そのレベルにおいて共同正犯が成立します。ただし、違法性の有無と程度、責任の有無と程度は行為者ごとに個別的に検討されます。
イ 構成要件該当性、違法性の有無・程度は共通であるが、責任の有無・程度は必ずしも共通ではない
 2人以上で共同して行為を行って、それが犯罪の構成要件に該当し、違法であれば、そのレベルにおいて共同正犯が成立します。ただし、責任の有無と程度は行為者ごとに個別的に検討されます。
ウ 構成要件該当性、違法性の有無・程度および責任の有無・程度が共通である
 2人以上で共同して行為を行って、それが犯罪の構成要件に該当し、違法であり、かつ責任が成立すれば、共同正犯が成立します。違法性の有無と程度、責任の有無と程度は、行為者全員に共通しています。
エ 責任減少事由
 2人以上で共同して行為を行って、それが犯罪の構成要件に該当し、違法であれば、共同正犯が成立します。そのうちの1人に過剰防衛が成立するのは、その責任が減少するからです。
オ 違法性減少事由
 2人以上で共同して行為を行って、それが犯罪の構成要件に該当すれば、共同正犯が成立します。そのうちの1人に過剰防衛が成立するのは、その理由は違法性が減少するからです。
(1)①ア②イ③ウ④エ (2)①ア②ウ③イ④エ (3)①イ②ア③ウ④オ
(4)①ウ②ア③イ④エ (5)①ウ②イ③ア④エ → こたえ(4)
Nо.066 共犯と錯誤
 次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討し、甲に(  )内の犯罪が成立する場合には1を、成立しない場合には2を選びなさい。
ア 甲は乙に対しA宅に侵入して窃盗するよう教唆したが、A宅の戸締りが厳重だったため、乙はA宅に侵入することができず、これをあきらめた。しかし、その後、乙はあたらに強盗を実行することを思い立ち、B宅に侵入して強盗を行った。(窃盗教唆)
→甲は乙にA宅に侵入し窃盗することを教唆しました。しかし、乙はB宅に侵入し強盗を実行しました。乙は住居侵入罪と強盗罪の正犯です。甲はどうなるでしょうか。このような問題を考えるにあたっては、次の点に留意してください。
 甲は乙に「A宅への住居侵入罪」と「Aに対する窃盗罪」を教唆しました。乙が行ったのは「B宅への住居侵入罪」と「Bへの強盗罪」です。このように整理すると、教唆犯における抽象的事実の錯誤の問題のように見えますが、ただしそのよう言えるのは、甲が乙を教唆して、乙がその教唆を受けて犯罪を実行したこととの間に因果関係がある場合だけです。「甲が乙を教唆したので、乙が犯罪を実行した」という因果関係が必要です。この場合には、甲には強盗罪と窃盗罪の構成要件の重なる窃盗罪の範囲において窃盗罪の教唆が成立します。
 では、アの事案では、乙が行ったB宅の住居侵入罪とBへの強盗は、甲が乙を教唆したから行ったのでしょうか。甲の教唆と乙の実行との間に因果関係があるでしょうか。乙は、甲によって教唆され、A宅に侵入しようとしましたが、これができなかったため、あきらめました。この時点で、甲が行った教唆は、住居侵入の前の時点において未遂に終わっています。その後、乙は「あたらに強盗を実行することを思い立」っています。これは甲が教唆したからでしょうか。違います。「あらためて」というのは、乙が自分で犯罪を決意したということであって、甲の教唆とは無関係です。甲の住居侵入と窃盗の教唆と乙の住居侵入と強盗の間には因果関係はありません。そうすると、乙がB宅へ住居侵入したことも、Bに強盗をしたことも、甲の教唆とは無関係です。抽象的事実の錯誤の問問題は生じません。したがって、甲に窃盗教唆罪は成立しません。→(2)
イ 甲と乙はAに対する傷害を共謀したが、乙はAに対する殺意をもって暴行を加え、結果的にAは死亡した。(傷害致死)
→この問題を解説するために、甲・乙ともに傷害の故意しかなかった場合を想定します。甲は乙とAに傷害することを共謀しました。そして、共同してAを傷害しました(この時点では傷害罪の共同正犯です)。そのためAが死亡しました。甲・乙には傷害致死罪の共同正犯が成立します。傷害致死罪は、故意に暴行・傷害を行い、それにより被害者が死亡した場合に成立する犯罪です(結果的加重犯)。傷害と死亡との間に因果関係が必要です。
 設問では、甲には傷害の故意があり、乙には殺意がありました。甲には傷害致死罪が、乙には殺人罪が成立します。共同正犯とは、故意犯の共同正犯のことであると解すると(犯罪共同説)、甲・乙は異なる罪を犯そうとしていたので、共同正犯は成立しません。この場合、甲には傷害致死罪、乙には殺人罪の単独正犯が成立しますが、Aが死亡した原因が誰の行為にあるのかを特定しなければなりません。それが明らかでなければ、甲には傷害罪、乙には殺人未遂罪の単独正犯が成立するだけです。
 これに対して、共同正犯とは、各人が関与者の行為を利用し、または補充しあって自分の犯罪を実現することであると解すると、共同正犯には犯罪の故意を共同していることは必要ではなく、行為を共同して実行する認識で足ります(行為共同説)。そうすると、甲・乙は行為を共同して(相互に利用・補充しあって)実行しているので、甲には傷害致死罪が、乙には殺人罪が成立し、それは共同正犯になります。
 判例は、基本的に犯罪共同説の立場に立ちながら、甲が実現しようとした「傷害罪」と乙が実現しようとした「殺人罪」の構成要件が重なる「傷害罪」の限度で共同正犯の成立を認め、傷害から死亡が発生したので、甲には「傷害致死罪」の共同正犯が成立するとします(部分的犯罪共同説)。→(1)
ウ 甲と乙は、「丙」に対して「虚偽公文書作成罪」を教唆することを共謀したところ、乙が勝手に「丁」に対して「公文書偽造罪」を教唆し、丁は公「文書偽造罪」を実行した。(公文書偽造罪の教唆)
→虚偽公文書作成罪とは、公的な機関において使用する公文書を作成する権限のある人(多くは公務員であす。丙は公務員だと思います)が「内容虚偽の公文書を作成」する行為です。甲と乙は、それを丙に実行させようと共謀しました。ところが、乙がかってに丁に公文書偽造罪を教唆しました。公文書偽造罪とは、公文書を作成する権限のない人(多くは民間人です。丁は公務員ではないと思います)が無断で公文書を作成する行為です。
 乙は丁を教唆して公文書偽造罪(刑155:1年以上10年以下の懲役)を実行させましたが、甲は丙を教唆して虚偽公文書偽造罪(刑156:1年以上10年以下の懲役)を実行させるつもりでした。犯罪を共謀した者の間で認識が食い違っています。これは抽象的事実の錯誤の問題を教唆類型へ応用することによって解決されます。甲が行おうとしていた虚偽公文書作成罪の教唆と実際に行った公文書偽造罪の教唆の教唆類型の重なる限度で犯罪が成立します。虚偽公文書作成罪と公文書偽造罪の構成要件は、どの部分が重なっているでしょうか。保護法益は公文書の社会的信用です。行為態様は文書の作成です。重なり合いがあります。したがって、乙が丁を教唆して実行させた公文書偽造罪について、甲にもその故意を認め。公文書偽造罪の教唆が成立します。→(1)
エ 甲は、Aが住んでいる家に火をつけるよう乙を教唆し、乙はA宅に延焼させる目的で、それに接続した現住建造物であるB宅に放火したが、B宅のみを焼損し、A宅を焼損するにいたらなかった。(現住建造物等放火教唆)
→甲は乙にA宅放火を教唆し、乙はB宅放火を行いました。甲は乙にA宅の現住建造物等放火を教唆し、B宅の現住建造物等放火を実行させたので、具体的事実の錯誤における方法の錯誤の問題ですが、法定的符合説を適用すると、甲にはB宅の現住建造物等放火罪の教唆の故意が認められます。→(1)
オ 甲と乙はAの所持品を強取することを企て、帰宅途中のAに襲いかかった。Aは鼻骨を骨折し、全治3ヵ月を要する傷害を負ったが、これは乙がAの顔面を殴った際に生じたものであり、甲にとってAに傷害の結果が生じたことは意外なことであった。(強盗傷害)
→強盗傷害罪は、(イ)において解説した結果的加重犯の一例です。故意に強盗を行い、その手段行為である暴行から、または強盗の機会継続中に行った暴行(例えば逃走中の暴行)から被害者を負傷させた場合に成立します。判例は、故意に強盗を行い、そこから傷害が生じている以上、強盗傷害罪が成立し、傷害が行為者にとって意外な結果であっても、また予期し得ない結果であっても、強盗傷害罪が成立するという立場に立っています。したがって、乙がAの顔面を殴ってケガを負わせたのが、甲にとって意外な結果であっても、甲にも強盗傷害罪の共同正犯が成立します。
ア2 イ1 ウ1 エ1 オ1
Nо.067 間接正犯と教唆犯の錯誤
 学生AからEは、「医師・甲は、患・丙者を殺害しようとして、看護師・乙に、毒入りの薬であることを秘して薬の注射を命じたところ、乙は、当初からそれに気づいていたが、そのまま命令に従い、患者・丙に注射し、死亡させた。」という事例における甲の罪責に関し、次のⅠまたはⅡのいずれかの結論を採り、下記のように発言している。各発言の(  )内に語句群からもっとも適切な語句を入れた場合、Ⅱの結論を採る学生の発言の(  )内に入る語句の種類は何個あるか。
【結論】
Ⅰ 殺人罪の間接正犯が成立する。
→殺人罪の間接正犯が成立するためには、甲が乙を道具のように利用していることを論証しなければなりません。乙は甲の意図を見抜いていました。自分が丙に注射をすると、丙が死ぬことも認識していました。乙は知らぬ振りをして、丙を殺害したといえます。間接正犯を根拠づける「道具理論」が適用できるかどうかが問題になります。
Ⅱ 殺人罪の教唆犯が成立する。
→甲は殺人罪の間接正犯を実行するつもりで、乙に毒入りの注射を渡し、丙に撃たせようとしましたが、乙がそれに気づき、丙に注射して殺すことを決意しました。つまり、甲は、主観的には殺人を行うつもりで、客観的には乙に殺人の教唆を行っていました。これが「間接正犯と教唆犯の錯誤」と呼ばれる問題です。殺人罪の間接正犯と殺人罪の教唆犯は、「殺人罪の教唆犯」の限度で重なり合いが認められるので、甲には殺人罪の教唆犯が成立します。


学生A たしかに、単に刑法第61条1項の規定を根拠として、( )と( )とを同視することはできないけれど、実質的な非難可能性の程度に即して考えれば、( )の( )は、( )の( )を、そのうちに包摂するといえる。
→Aは何を言っているのでしょうか。刑法61条1項は、教唆の規定です。( )と教唆は同視することはできないと言っているようです。ただし、61条1項によれば、教唆には正犯の刑が科されるので、教唆と正犯はkなじ程度に非難されるということです。そうすると、正犯の故意は、教唆の故意を包摂している(符合している)という発言になりそうです。間接正犯と教唆犯は同視できないが、間接正犯の故意は教唆犯の故意を包摂しているという発言しているようです。この発言のAは、Ⅱの結論を採用しています。
abaebe(3個)
学生B 殺人の( )をなしたのは( )であり、( )を支配していた事情が存在しない以上、( )には正犯としての殺人行為は存在しないよ。
→設問の事案では、患者・丙を殺害したのは、毒入り注射であることを認識しながらそれを打った看護師・乙です。殺人の実行行為を行ったのは乙です。したがって、甲は殺人罪の正犯ではありません。Bは( )を支配していた事情が存在しないと言って言いますが、これは利用者・甲が被利用者・乙を支配していた事情がないという主旨です。そうすると、殺人の実行行為を行ったのは被利用者であり、被利用者を市街していた事情が存在しない以上、利用者には正犯としての殺人行為は存在しないという発言になります。この発言のBは、Ⅱの結論を採用しています。
ckkj(3個)
学生C ( )が情を知っていたとしても、背後者の行為は殺人の( )にあたるから、( )と共に競合的に殺人の正犯にあると考え、殺人の教唆にもなっている点については、正犯に吸収されると考えるよ。
→情を知っていたというのは、甲が丙を殺害するために毒入り注射を渡したという事情を知っていたという意味です。そうすると被利用者が情を知っているので、被利用者の行為が実行行為になります。そうであれば、被利用者の背後にいる利用者は被利用者を教唆したことになりますが、そうであっても利用者の行為は実行行為、間接正犯にあたるという発言につながっていきます。そうすると利用者は被利用者を教唆しながら、同時に実行行為を行い、間接正犯を行っていることになります。
 被利用者・乙は殺人罪の直接正犯です。利用者・甲は殺人罪の間接正犯であり、かつ殺人罪の教唆犯にもなります。乙の殺人罪の直接正犯と甲の殺人罪の間接正犯は競合関係にあります。また、甲の殺人罪の間接正犯と殺人罪の教唆犯の2個の犯罪は、軽い方が重い方に吸収されて、1個の重い犯罪として処理されます。このように整理すると、次のような発言になります。被利用者・乙が情を知っていても、背後にいる利用者・甲の行為が殺人罪の実行行為にあたるので、乙の殺人罪の直接正犯と甲の殺人罪の間接正犯は競合することになる。また、甲の殺人罪の教唆犯は殺人罪の間接正犯に吸収される。このような発言になります。この発言はⅠの結論を採用しています。
( )内には、kckが入りますが、Ⅰの結論を採用しているので、カウントしません。
学生D この事例における錯誤は重要でないから、( )にはその意思に応じた犯罪を認めるべきだよ。
→この設問において錯誤しているのは誰かというと、甲です。甲の錯誤は、殺人罪の間接正犯のつもりが、殺人罪の教唆をしていたという「間接正犯と教唆犯の錯誤」です。この錯誤は重要ではないというのがCの発言です。乙を利用しようとした利用者・甲には、その意思(間接正犯の故意)に応じた犯罪を認めるべきだというのは、甲に殺人罪の間接正犯が成立するという主旨です。
( )には利用者jが入りますが、この発言はⅠの結論を採用しているので、カウントしません。
学生E ( )に立った場合、( )も、( )も正犯結果を惹起(じゃっき)することが処罰根拠にあたることに変わりはないから、( )の射程は( )と( )とで共通し、結論としては、軽い( )が成立すると考える。
→「正犯結果の惹起」というキーワードは、因果的共犯論の主張の核心を表しています。構成要件該当行為を行う正犯も、それ意外の行為によって構成要件の実現に関与する共犯も、結果の惹起に因果的に関与しているがゆえに処罰されるというのが因果的共犯論の主張です。したがって、正犯も教唆犯も構成要件的結果(正犯結果)の惹起を意図しているので、故意の射程は結果にまで及んでいます。主観的には間接正犯の故意で客観的に教唆犯を行った場合、軽い教唆の範囲で故意が成立します、これはⅡの結論を採用しています。
( )にはieが入ります(1個) →A君3個+B君3個+E君1個=7個
【語句群】a間接正犯 b教唆犯 c実行行為 d期待可能性 e故意 f過失 g相当因果関係 h責任共犯論 i因果的共犯論 j利用者 k 被利用者(1)7個(2)8個(3)9個(4)10個(5)11個→