Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(第02回)講義資料

2020-10-06 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――自由に対する罪
 第02週 脅迫、逮捕・監禁、略取・誘拐、人身売買、姦淫、住居侵入

 第32章 脅迫の罪
(1)脅迫の罪
1脅迫の罪の保護法益
・脅迫罪とは、
 害悪の告知によって脅迫する行為

 害悪を告知されると、人は恐怖感を覚え、
 そのことが気がかりになって、
 自由に考え、自分の意思を決定することが困難になる

・脅迫罪によって意思活動・意思決定の自由の行使が危険にさらされる
 脅迫罪を処罰することによって保護される法益は、
 意思活動の自由・意思決定の自由

・意思決定・意思活動の自由は、
 自然人のみならず法人にも認められる


2脅迫の多義性
・脅迫はそれ自体として犯罪として処罰される。
 脅迫罪(狭義)   特定の法益への加害の告知

 また、他の犯罪の実行行為としても処罰される。
 公務執行妨害罪の実行行為としての暴行・脅迫
 公務執行妨害罪(広義)
 法益の内容・性質による限定なし
 告知の方法手段も問われない

 さらに、犯罪の手段行為として位置づけられている。
 強盗罪(最狭義)の手段行為としての暴行・脅迫
 被害者の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫であることを要する

・犯罪の手段行為としての暴行・脅迫の程度に関する異論
 強制性交等罪の手段行為としての「暴行・脅迫」
 被害者の反抗を抑圧する程度の強度な暴行・脅迫を要件とすると、
 強制性交等罪の成立のハードルが高く設定されてしまい、
 その成立範囲が限定されてします。
 その分だけ、性的自己決定権の保護範囲もまた限定されてしまう。
 刑法改正の必要性?


(2)脅迫罪
第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

1脅迫罪の実行行為
・害を加える旨を告知して脅迫する
 人に対して生命等に外を加える旨告知し、その人を畏怖させる
 畏怖させるとは、恐怖感を覚えさせるという意味

・相手方が現に畏怖したことを要するか?
 相手方が実際に畏怖したことを要しない(判例)
 ある発言をしたところ、相手方が気の小さな人だったために、畏怖した。
 同じ発言をしたところ、相手方が気の強い人だったために、畏怖しなかった。
 被害者の特性によって、脅迫罪の成立が左右されるのは妥当ではないので、
 脅迫罪の実行行為を特定化・客観化・限定化する必要がある。
 相手方を「一般人」を基準にして、
 一般人が畏怖するような害悪の告知の行為を脅迫罪の実行行為として考える。
 ただし、諸般の事情を考慮に入れることは必要。
 従って、本罪は個別の被害者に恐怖心を覚えさせる「実害犯」ではなく、
 その危険性で足りる「危険犯」として理解されている

 「失火お見舞い申し上げます」
 「この度は、○○様の突然の訃報に接し、誠に無念で仕方ありません」
 市町村合併の是非によって住民の意見が二分しているとき、
 推進派から慎重派に上記の文面の手紙が送られてきたら、
 慎重派の人はどう感じるだろうか?
 恐怖? それとも、お笑い?
 手紙の形式的な文面だけでなく、
 それが送られてきた情勢など諸般の事情を考慮に入れると、
 その手紙は言外のことがらを意味しうる。
 それが脅迫にあたる場合がありうる。


2加害の対象
・加害の告知が向けられる対象
 本人(1項)
 親族(2項)

 親族 婚姻関係・血縁関係
 事実婚にも適用
 内縁関係にも適用

 友人・知人・婚約者にも適用?
 加害の対象が拡大すると、脅迫罪の成立範囲も拡大する。
 処罰範囲の拡大は、刑罰権行使の範囲の拡大を伴う。


3告知の内容
・加害の内容
 生命、身体、自由、名誉、財への加害

 生命、身体、自由→その内容から考えて、自然人の生命、身体、自由
 名誉、財産→自然人だけでなく、法人も対象に含まれるか?

・脅迫=意思活動の自由・意思決定の自由の侵害
 自然人の生命、身体、自由、名誉、財産
 法人の名誉(評判)、財産への加害
 意思活動・意思決定の自由への圧力

 保護法益をめぐる問題との関連性
 国家体制の変革の実行を告知した場合
 共産主義体制へと変革するぞ!
 憲法上の天皇の制度を廃絶するぞ!
 国家主義者・天皇信奉者が畏怖したことを理由に、
 このような言論に脅迫罪の規定を適用して処罰してよいか?


・告知される害悪は将来的なもの
 将来において行われるかもしれない害悪
 →過去に起こった害悪の告知は脅迫にはあたらない。
  ただし、過去の害悪が将来に繰り返されることが告知されれば、
  過去の害悪の告知も「将来の害悪」の告知と同じ意味で理解可能

 告知者がそれを実行できる、左右できる害悪であることが必要
 天災、自然災害、吉凶禍福などは実行不可能
 ただし、相手方が迷信家であることを利用して、
 吉凶禍福を説くならば、相手方が畏怖することは十分ありうる。

 しかしながら、
 脅迫行為に該当するか否かをを一般人を基準にして判断すると、
 迷信・神話の世界の吉凶禍を告知しても、
 迷信家は畏怖することはあっても、
 一般人ならば畏怖することはない。

 迷信家であるという相手方の主観的事情を考慮に入れる必要はあるが、
 それ以前に実害発生の客観的可能性があるか否かが重要であろう。
 実害発生の客観的可能性がなければ、
 脅迫にあたらない。
 いたずら、悪いジョークとして片づければよい。

・告知される害悪
 告知される害悪は、相手にとって不利益な内容
 犯罪の被害がそれに当たることは明らか。
 相手方がしつこく要求してくるので、
 「警察に訴えるぞ」と告知した
 その結果、相手方が畏怖したば、
 相手方に告知されたのは、犯罪の被害ではない。


4権利行使と脅迫
 警察に訴える
 告訴権の行使は権利の行使である。
 権利行使は脅迫罪にはあたらない。

 しかし、
 告訴の意思がないのに、相手方を畏怖させる目的で告訴を予告
 告訴権の濫用(権利濫用論)
 ただし、告訴の意思の有無によって、
 適法な告訴が脅迫に変わってしまうのは問題なので、
 告訴の意思がなくても、
 社会通念上、許容される告訴の外観をとっていれば、
 適法な行為として扱うべき。脅迫罪にはあたらないと解すべき。


(3)強要の罪
(強要)
第223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。

1強要行為
・脅迫・暴行を手段として、
 「義務のないことの強要」すること
 「権利の行使の妨害」すること

 生命、身体、自由、名誉、財産に対する街区の告知をして(脅迫)
 他人の身体に対して有形力を行使して(暴行)
 義務なき行為の強制と権利の行使の妨害をすること

 謝罪文まで書く義務がないのに、……
 告訴権者に告訴を中止させる等


2権利行使と強要
・相手方に一定の行為を行うべき法的義務をがあるにもかかわらず、
 それを行わない場合、
 暴行・脅迫を手段として行い、
 それを行わせた場合
 強要罪が成立するか?

 暴行・脅迫を用いて、相手方に債務を履行させした
 債務を履行させること=債権を実現すること→これは権利の行使
 したがって、適法である。
 ただし、その実現手段・方法として行われた暴行・脅迫は「違法」
 ゆえに、暴行罪・脅迫罪が成立する?

・しかし、債務を履行させるための行為として
 暴行・脅迫を行うのは社会通念上、問題がある。
 それは、債務の履行を求める行為としては違法。
 ゆえに、暴行罪・脅迫罪ではなく、強要罪が成立する。


3未遂と罪数
・脅迫罪 既遂の場合だけが処罰される。

 強要罪 既遂のみならず、未遂も処罰される。
 強要罪の未遂は「脅迫罪」として処罰するだけでよいと考えられるが、
 義務のないことを行わされそうになった、権利の行使を妨害されそうになった
 という点があるので、強要罪の未遂には脅迫罪を超える実害と危険性がある。

・強盗罪と強要罪との関係
 恐喝罪と強要罪との関係
 強制性交・強制わいせつ罪と強要罪との関係

 いずれの犯罪も強要罪と同様に、手段として暴行・脅迫が用いられる

 しかし、
 強盗罪や強制性交等罪によって侵害される法益は
 財産や性的自己決定権

 つまり、
 強要罪は
 財産や性的自己決定権以外の法益が侵害された場合、
 つまり義務なき行為を強制されない自由、
 権利を行使する自由が侵害された場合に成立する。


 第31章 逮捕及び監禁の罪
(1)逮捕および監禁の罪
 保護法益
 人の身体の自由のなかでも重要な行動の自由・移動の自由


(2)逮捕罪・監禁罪
第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
1行為の客体としての人
 自然人

・逮捕
 人の身体を直接拘束して行動の自由を制約
 ロープなどで拘束する行為

・監禁
 人の身体を間接的に拘束して移動の自由を制約
 一定の場所に閉じこめて、そこから出られなくする行為

・被害者による自由侵害の自覚
 行動の自由・移動の自由が侵害されていることを
 被害者が自覚している場合、
 逮捕罪・監禁罪が成立することは明らか。

 では、それを自覚しえない者の場合、どうなるか。
 本罪の行為客体は、自由侵害を認識しうる者だけに限定されるのか?
 それとも、乳児、幼児、精神病者、睡眠中の者、泥酔者も含まれるのか?


2逮捕・監禁
 逮捕
 行動の自由の制約
 人の身体への直接的な有形的方法(流刑力の行使=暴行)
 人に対する無形的方法(脅迫)によっても、
 行動の自由の制約は可能可能

 監禁
 一定の場所からの移動の自由の制約
 人の身体への間接的な有形的方法
 物理的な隔離状態(部屋に閉じこめる)
 心理的な脱出困難化(出たら撃つぞと脅迫する)

 風呂の脱衣所から衣服を奪った(羞恥心を利用した脱出困難化)場合は?
 一般人を基準とした脱出困難性の有無を基準に判断する。


3継続犯
 行動の自由・移動の自由の制限によって逮捕罪・監禁罪は成立
 自由の制限が解消されるまで、成立し続ける(継続犯)

 逮捕罪・監禁罪が継続犯であることによって、
 公訴時効の起算点
 犯罪が終了したときから公訴時効の計算が始まる
 つまり、移動の自由・行動の自由が回復したときから

 逮捕罪・監禁罪の継続中に、第三者が関与
 同罪の共同正犯または幇助犯などの共犯が成立する


(3)逮捕致死傷罪・監禁致死傷罪
第221条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 逮捕罪・監禁罪から傷害・死亡の結果が発生した場合
 逮捕罪・監禁罪の結果的加重犯

 法定刑(傷害罪・傷害致死罪との比較)
 逮捕罪・監禁罪の法定刑 「3月」以上「7年」以下の懲役
 傷害罪の法定刑     「1月」以上「15年」以下の懲役
             または「1万円」以上「50万円」以下の罰金
 傷害致死罪の法定刑   「3年」以上「20年」以下の懲役

 →逮捕・監禁致傷罪 3月以上15年以下の懲役
  逮捕・監禁致死罪 3年以上20年以下の懲役

 逮捕・監禁の行為から被害者が死傷した場合に成立
 自動車のトランクに被害者を監禁した→被害者が窒息死した

 被害者の5階建てマンションの3階の部屋に監禁した
 被害者がベランダに出て、そこから階下に降りようとして、
 転落し、死亡した。
 監禁と転落死の因果関係の有無の問題


 第33章 略取・誘拐および人身売買の罪
(1)略取・誘拐および人身売買の罪
1略取、誘拐および人身売買の罪の構成
 基本類型 未成年者略取罪・誘拐罪
 派生類型 営利目的略取罪・誘拐罪
      身の代金目的略取罪・誘拐罪
      所在国外移送目的略取罪・誘拐罪

 人身売買罪


2保護法益
 被略取者・被誘拐者(被拐取者)の自由

 未成年者略取罪・誘拐罪の場合、
 被拐取者の自由に加えて、
 親権者・監護権者の権利も含まれる


(2)未成年者拐取罪
第224条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

1客体
 未成年者(20才未満
 婚姻によって成人として擬制される


2略取・誘拐の行為
 略取
 暴行・脅迫を用いて生活環境から離脱させ、
 自己・第三者の実力支配下に移転する行為

 誘拐
 欺罔・誘惑を用いて生活環境から離脱させ、
 自己・第三者の実力支配下に移転する行為

 略取罪・誘拐罪の実行の着手
 暴行・脅迫・欺罔・誘惑の開始時点
 既遂時点
 自己または第三者の実力支配下に移転した時点

 自己・第三者の実力支配下にいる間は
 本罪は継続して成立する(継続犯説)

 被拐取者の移動・行動の自由が制限され、
 それが継続しているが、
 略取・誘拐の行為それ自体はすでに終了している。
 そうすると、状態犯と解することも可能(状態犯説)

 学説の対立は
 略取・誘拐にあたる行為の終了後に
 関与した者にも本罪の共犯が成立するか否か
 公訴時効の持参点はどの時点かについて
 見解が分かれる(逮捕罪・監禁罪の箇所を参照)


3被害者の同意
 被拐取者=未成年者本人の同意
 未成年者の親権者・監護者の同意

 未成年者のなかには、略取・誘拐について十分に理解し、
 同意したり、判断したりできない年齢層の未成年者と
 その意味について正確に理解でき、
 自らの判断によって同意することができる年齢増の未成年者がいる。

 同意能力のある未成年者の同意、しかし親権者は不同意の場合、
 未成年者を略取・誘拐すれば、同罪の構成要件に該当していると判断されるが、
 違法性が阻却または減少する可能性がある。
 本罪の保護法益は未成年者の自由と保護者の監護権の二重構造になっているが、
 未成年者個人の権利・自由を第1に考えると、
 未成年者が同意している以上、
 同罪の違法性は完全には阻却さないが、
 違法性が減少し、可罰的違法性の程度を下回ると考えられる。


(3)営利目的等拐取罪
第225条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。

1客体
 未成年者・成年者の両方を含む

 営利等の目的による未成年者略取罪・誘拐罪の加重類型
 営利等の目的があることを理由に、行為客体を成年者へも拡張

2目的
 営利目的
 略取・誘拐によって利益を得る目的→被拐取者を働かせ、利益を得る目的

 わいせつ目的
 被拐取者の性的自由(性的自己決定権)を侵害する目的

 結婚目的
 法律婚・事実婚をする目的

 生命・身体加害目的
 例:移植のための臓器摘出の目的

 目的
 略取・誘拐の行為の違法性を根拠づける主観的違法要素=身分
 この目的がなくても、
 行為客体が未成年者であれば、
 略取罪・誘拐罪の基本類型である未成年者略取・誘拐罪が成立する
 この目的があることによって、未成年者略取・誘拐罪の違法性が加重されるので、
 この目的は未成年者略取・誘拐罪の違法性を加重する目的(加重的身分)

 また、行為客体が成人であれば、
 その行為が営利目的等略取・誘拐罪の違法性を根拠づけるので、
 この目的は不可罰な成人略取・誘拐を違法な行為へと構成する目的(構成的身分)


(4)身の代金目的拐取・要求罪
第225条の2 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
2 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。

1近親者と安否を憂慮する者
 近親者
 被拐取者の近親者

 安否を憂慮する者
 被拐取者と密接な関係があるために、
 その安否を(近親者と同じように)親身になって心配する者


2予備と解放減軽
 未成年者略取罪・誘拐罪、営利目的等略取罪・誘拐罪の場合
 既遂罪と未遂罪

 身の代金目的略取罪・誘拐罪の場合
 既遂罪・未遂罪、さらに予備罪


 公訴の提起前に被害者を安全な場所に解放
 刑の必要的減軽事由
 量刑判断は一般的には裁判官の裁量に委ねられる

 身の代金目的略取罪・誘拐罪が行われ(既遂に達し)、
 公訴提起前に被害者を安全な場所に解放した場合、
 裁判官は、量刑判断において、刑の減軽しなければならない。
 つまり、身の代金略取・誘拐罪を行った犯人に対して、
 公訴提起前に被害者を解放すれば、
 刑法は必ず刑を減軽すると約束する。
 225条の2の無期懲役は有機懲役へ、3年以下の懲役は1年6月の懲役へと減軽


(5)所在国移送目的拐取罪
第226条 所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、2年以上の有期懲役に処する。

 現在滞在する国から国外に移送する目的
 日本に滞在する人をA国へ移送する(それを行った者すべて処罰する)
 A国にいるA国人をB国へ移送する(それを行った日本人を処罰する 3条)
 A国にいる日本人をB国へ移送する(それを行った者すべて処罰する 3条の2)


(6)人身売買罪
1人身売買罪
第226条の2 人を買い受けた者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
2 未成年者を買い受けた者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
3 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、1年以上10以下の懲役に処する。
4 人を売り渡した者も、前項と同様とする。
5 所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、2年以上の有期懲役に処する。

2被略取者等所在国外移送罪
第226条の3 略取され、誘拐され、又は売買された者を所在国外に移送した者は、2年以上の有期懲役に処する。

3被略取者引渡し等
第227条 第224条、第225条又は前3条の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
2 第225条の2第1項の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され又は誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
3 営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、又は蔵匿した者は、6月以上7年以下の懲役に処する。
4 第225条の2第1項の目的で、略取され又は誘拐された者を収受した者は、2年以上の有期懲役に処する。略取され又は誘拐された者を収受した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、同様とする。

5未遂罪
第228条 第224条、第225条、第225条の2第1項、第226条から第226の3まで並びに前条第1項から第3項まで及び第四項前段の罪の未遂は、罰する。


6解放による刑の減軽
第228条の2 第225条の2又は第227条第2項若しくは第四項の罪を犯した者が、公訴が提起される前に、略取され又は誘拐された者を安全な場所に解放したときは、その刑を減軽する。

7身の代金目的略取等予備
第228条の3 第225条の2第1項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、2年以下の懲役に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

8親告罪
第229条 第224条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した第227条第1項の罪並びにこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。


 第22章 姦淫の罪
(1)姦淫の罪
 性的自由・性的自己決定権に対する罪


(2)強制わいせつ罪
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

1客体
 13才以上の人
 13才未満の人

2わいせつ行為
 わいせつ行為
 性的自由・性的自己決定権を侵害する全ての行為
 ただし、性交等の行為は含まれない。
 性交等の行為は強制性交等罪で処罰される

3暴行・脅迫
 強制わいせつ罪=反抗が困難な程度の暴行・脅迫+わいせつ行為
 例:脅して、相手方の性器を触る

 被害者が13才以上の場合
 わいせつ行為を行うための手段行為として暴行・脅迫が必要
 ただし、13才未満の場合
 暴行・脅迫を要しない

 暴行・脅迫を行って、性器を触った→強制わいせつ罪が成立
 では、正規を触る行為しか行われなかった場合は?
 反抗を困難にする程度の性器への接触であれば、本罪が成立するが、
 すれ違いざまに瞬時に触れただけの場合、本罪は不成立(暴行罪どまり)。


4故意と内心傾向
 年齢の錯誤
 13才未満の人を13才以上だと錯誤し、
 わいせつ行為だけを行った。
 事実の錯誤→強制わいせつ罪の故意なし

 13才以上の人を13才未満だと錯誤し、
 わいせつ行為を行った。
 13才未満の人は存在しないので、
 13才未満の人への強制わいせつ罪の既遂罪は成立しないが、
 行為当時の行為者の認識を基準にして判断すれば、
 13才未満の人への強制わいせつ罪の既遂罪は未遂罪が成立する理論的余地あり。

 わいせつ行為は、
 従来までは、性的意図という内心傾向が外部的に表された行為。
 性的意図ではなく、復讐心から、相手を裸にして写真を撮影した行為
 たとえ、性的自己決定権を侵害していても、
 性的意図に基づいていなければ、
 強制わいせつ罪の成立は認められなかった(性的意図必要説)。
 しかし、判例の変更
 性的意図必要説から不要説へ


(3)強制性交等の罪(強姦罪)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門(こうもん)性交又は口腔(こうくう)性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

1主体と客体
 客体は、改正前までは女子に限定
 主体は、改正前までは男子に限定されて解釈されてきた。

 現在は、性別による区別なし
 男性・女性による男性・女性への強制性交

2行為
 手段行為としての暴行・脅迫
 従来までは「姦淫」とされてきたが、
 現在では、「性交等」(性交、肛門性交、口腔性交)
 性交(性器性交:従来までの「姦淫」)
 肛門(こうもん)性交(従来までは「わいせつ行為」として扱われてきた)
 口腔(こうくう)性交(従来までは「わいせつ行為」として扱われてきた)

3実行の着手
 性交等を行う目的に基づいた暴行または脅迫の開始


(4)準強制わいせつ及び準強制性交等の罪
第178条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

1行為
 心神喪失の状態
 性交等の意味を理解できない精神的状態

 抗拒不能状態
 性交等に対して抵抗することができない物理的・身体的状態

 これらの状態の利用することは、
 暴行・脅迫によって性交等に対して抵抗することができないことと同じ

2錯誤の効果
 心神喪失や抗拒不能ではなかったが、
 錯誤したため抵抗しなかった場合

 医師から「性交が可能であれば、完治している」との説明を受けて、
 錯誤に陥り、医師と性交することに同意した場合

 相手が他人であるにもかかわらず、夫であると錯誤して、性交に同意した場合

 この同意が有効であれば、通常の性行為として扱われるが、
 この同意が無効であれば、準性交罪の成立が認められる。

・性交目的の誤認
 「一流のモデルになるためには、大胆に裸になることも必要だ」と欺かれて、
 裸になることに同意した。
 裸になる目的を錯誤しているが、裸になることそれ自体は正確に理解しているので、
 この同意が有効であり、同意に基づく通常の行為。
 しかし、欺かれなかったならば、同意しなかったといえるので、
 このような同意は無効である→準強制わいせつ罪が成立する。


(5)監護者わいせつ・監護者性交等の罪
第179条 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。

1行為客体
 18才未満の人

2行為主体
 監護者

3行為
 暴行・脅迫を手段行為として行わずに、
 わいせつ行為・性交等を行った。
 強制わいせつ罪・強制性交等罪は基本的に成立しない。

 18才未満の者が心神喪失・抗拒不能の状態になかった場合、
 準強制わいせつ罪・強制性交等罪も成立しない。

4監護者であることによる影響力があることに乗じた
 監護者の影響力
 わいせつ行為や性交等に応じなければ、監護されなくなるおそれ

 行為客体は明示的に不同意の意思を表示していないが、
 同意の意思を表示してもいない。
 監護されなくなるため、不同意の意思を表示しにくい。
 つまり、実質的に、または内心では不同意。

 この同意に基づかないわいせつ・性交を
 監護者がその影響力に乗じて行った場合にだけ処罰する

 不同意と監護者であることによる影響力があいまって犯罪性を帯びる


(6)未遂罪
第180条 第176条から前条までの罪の未遂は、罰する。

 着手時期 手段行為である暴行・脅迫の開始時期

 暴行・脅迫を伴わない場合、わいせつや性交に着手し、それを遂げる前の時期


(7)強制わいせつ等致死傷
第181条 第176条、第178条第1項若しくは第179条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
2 第177条、第178条第2項若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。

1因果関係
 死傷と因果関係にあるのは、どの行為か?

 基本犯の行為(手段行為である暴行・脅迫とわいせつ・性交)と死傷の因果関係
 さらに、
 基本犯の行為に随伴する行為(随伴説)、さらには
 基本犯の行為の機会に行われた行為(機会説)
 これらの行為と死傷と因果関係があれば、
 強制わいせつ等致死傷罪が成立する?
 

 随伴説
 基本犯の行為だけでなく、それに随伴して行われる行為との因果関係

 機会説
 基本犯が行われる機会に行われた行為

 住居侵入し、準強制わいせつの既遂・未遂成立後、
 現場から逃走する際に被害者を負傷させた
 準強制わいせつ致傷罪が成立する。
 随伴説・機会説のいずれからも説明可能

2死傷の結果について認識がない場合とある場合
・強制わいせつ等致死傷罪の基本的性格
 故意に強制わいせつ等の罪を行い、
 そこから意図していなかった死傷の結果が発生
 結果的加重犯
 つまり、基本犯(強制わいせつ罪など)を故意に実行し、
 その行為から死傷の結果が発生したが(因果関係あり)、
 死傷については故意はなかった(学説は予見可能な死傷に限定)

 では、死傷につき故意がある場合
 強制わいせつ等の罪と傷害罪の観念的競合?
 強制わいせつ等の罪と殺人罪の観念的競合?

 それとも、
 強制わいせつ等致傷罪と傷害罪の観念的競合?
 強制わいせつ等致死罪と殺人罪の観念的競合?

 通説・判例は後者の見解


 第12章 住居を侵す罪
(1)住居を侵す罪
1保護法益
 憲法 住居の不可侵性(憲法35)

 権利としての住居
 戦前
 旧住居権説
 住居権を有するのは家父長のみ

 戦後
 平穏説(平穏侵害説)
 新住居権説(意思侵害説)

2客体
 住居
 邸宅
 建造物(囲繞地・いにょうちを含む)
 艦船


(2)住居侵入罪
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
第131条 削除

1侵入行為
 住居検者の意思に反する立ち入り(住居権説)
 平穏でない立ち入り(平穏説)

 条文の配列によれば、本罪は社会的法益に対する罪
 それを個人の自由に対する罪として捉え直す試み


2同意と錯誤
 同意の効果
 同意は一般に超法規的違法性阻却事由
 ただし、同意があることが、
 住居への立入の「正当な理由」にあたると解されるなら、
 同意は住居侵入罪の構成要件該当性を否定する理由になる。

 居住者の一部の者の同意でもかまわないか?
 家族の住居
 構成員の同意があれば、その住居への立入が許される。
 しかし、ある構成員が同意しても、他の構成員が明示的に拒絶した場合、
 また、他の構成員が不在であるため、明示的に拒絶できる状況にないが、
 事情を知らされたなら、拒絶することが合理的に推定できる場合、
 その住居への立入は認められない。


 欺かれて同意した場合、それでも犯罪の成立を否定する効果を持つか?
 同意は無効→構成要件該当性や違法性が肯定される。

 マンションなどの集合住宅の場合
 マンションの敷地内には不特定または多数の人が自由に出入りすることが許可されている。
 しかし、それは正当な目的があるから。
 マンションの管理組合などが許可していないビラ配りなどをするために
 マンションの敷地内に立ち入った場合、
 住居(邸宅)侵入罪として処罰される可能性がある。

 銀行のATMで他人のキャッシュカードの暗証番号を盗み見するために
 ATMに入った場合
 体感器を使用してパチスロを行い、不正にメダルを取得するために
 パチンコ店に入った場合
 いずれも、そのような目的からの立ち入りは明示的に拒否されている。
 また、たとえ拒否されていなくても、建物の管理権者は
 そのような立ち入りを拒むことが合理的に推測できるので、
 建造物侵入罪にあたる。
 銀行のATMやパチンコ店が客に対して自由な出入りを許可しているとはいえ、
 そのような犯罪的な目的に基づく立ち入りまで許可されているとはいえない。


(3)不退去罪
 正当な理由に基づいて、他人の住居などに立ち入った後、
 住居権者などから退去を要求されたにもかかわらず、
 そこから退去しないことによって成立する。

 誰の不退去が処罰されるのか?
 住居権者から退去要求を受けた者の不退去。

 不退去という不作為が処罰される。
 真正不作為犯

 押し売りや訪問セールスなどで問題になりうる。


 退去しない間は本罪が成立する(継続犯)


(4)未遂罪
第132条 第130条の罪の未遂は、罰する。