Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(02)応用編(不作為犯論)

2020-05-14 | 日記
 第02回 作為犯と不作為犯

(1)作為犯と不作為犯
1犯罪の定義
 犯罪は「構成要件に該当する違法で、かつ有責な行為」である。

 行為者が一定の行為を行って、
 他人の自由や権利を侵害した

 例えば、殺人罪や放火罪などの
 構成要件に該当し、
 違法で、
 かつ有責な
 行為であると評価されたならば、

 その行為は殺人罪や放火罪として処罰される。

2行為とは
・行為の2類型
 作為  客体に対する作用(身体的動作)の有
 不作為 客体に対する作用(身体的動作)の無

・作為
 行為者(行為主体)が被害者(行為客体)など対して
 物理的に働きかけたため(→作為)、
 その状態が変化し、自由・権利(法益)が侵害された

 例えば
 行為者が、居住者の許可なく、
 その住居内に立ち入るりことによって、
 居住者の住居権を侵害し、
 また住居内の平穏を侵害した
 住居侵入罪(刑130前段)は作為犯

・不作為
 行為者(行為主体)が相手(行為客体)など対して
 物理的に働きかけなかったため(→不作為)
 その状態の変化が回避されず、
 自由・権利の侵害が回避されなかった

 例えば
 行為者が居住者の許可に基づいて住居内に立ち入り、
 その後、居住者が退去を求めたが、
 住居から退去しなかった。
 これとによって、
 居住者の住居権を侵害し、
 また住居内の平穏を侵害した
 不退去罪(刑130後段)は不作為犯


(2)作為と不作為
1作為と不作為の相違点の共通点
・身体の動と身体の静
 作為 →身体の「動」=客体に対する物理的な作用の「有」
 不作為→身体の「静」=客体に対する物理的な作用の「無」

 身体の動 作為  客体の状態に物理的な変化を生じさせる
 身体の静 不作為 客体の状態に物理的な変化を生じさせない

 身体の動=客体に対する物理的な作用の有=作為
 身体の静=客体に対する物理的な作用の無=不作為

 作為と不作為同じものではない。
 同じものは同じものとして、異なるものは異なるものとして扱う。
 作為は作為として、不作為は不作為として扱う。

2身体の動としての作為と身体の静としての不作為
 したがって、
 住居への無断の立入(作為)
 住居からの退去拒否(不作為)
 この2つは、同じものではない。
 だから、異なるものとして扱う。
 無断の立ち入りは、住居への侵入(130条前段)
 住居から出ていかないのは、住居からの不退去(130条後段)
 2つを区別して扱うべきであり、また区別して扱われている。

3法益侵害(居住者の住居権または住居の平穏)への侵害性
 しかし、
 住居への無断の立入(作為)
 住居からの不退去(不作為)も、
 居住者の住居権の侵害ら住居の平穏の侵害という点では
 同じであり、等しく規制する必要あり。

 したがって、
 法益侵害性とその処罰の必要性という観点から見れば、
 作為と不作為を等しく扱うことができる。

 身体の動静・物理的作用の有無の点では「異なる」が、
 法益の侵害性と処罰の必要性の観点から「同じ」である。


(3)作為犯と不作為犯
1作為犯
 刑法の条文の基本的特徴
 ~~した者は、~~に処する
 この「~~した」とは、作為を意味する

 他人の住居に侵入した(刑130前)
 要扶助者を危険な場所に連れていった(刑218前)
 大勢の人々が集合して暴行した(刑106)

 人を殺した(刑199)
 火を放って、建造物を焼損した(刑108)
 千円の買い物をした。店員に渡したのは5千円札ではなく、
 1万円札であると虚偽の事実を告げて、6千円を交付させた(刑246)

 刑法は多くの犯罪を作為の形式で定めている
 法益の侵害を惹き起起こすのは、
 客体に対して物理的作用を及ぼす身体的の動である
 犯罪=作為犯
 作為犯が犯罪の原則型

2不作為犯
 刑法の条文の例外的特徴
 ~~しなかった者は、~~に処する

 他人の住居に立ち入った後、退去しなかった(刑130後)
 要扶助者の生存に必要な保護をしなかった(刑218後)
 暴行するために集合した人々が解散しなかった(刑107)

 刑法のなかには犯罪を不作為の形式で定めているものがある
 法益の侵害を惹き起起こすのは、
 客体に対して物理的作用を及ぼす身体的の動であり、
 不作為には、そのような物理的な作用はない。しかし、
 不作為によって法益が侵害されるのを止めない
 犯罪の例外型としての不作為犯

 ただし、
 許可を得て住居内に立ち入った後、
 そこから退去しないという不作為が
 無条件に処罰されるわけではない。

 居住者が退去するよう求めたにもかかわらず、
 退去しなかった場合に
 居住者の住居権や住居の平穏が侵害されるから、
 その不作為が作為による住居侵入と同等に扱われるのである。

 つまり、
 不退去罪は
 あらゆる不退去という不作為に適用されるのではなく、
 退去要求に背いた不退去だけに適用される。

 それは、
 218条後の保護責任者不保護罪、107条の不解散罪
 同じ理由で説明できる。

 したがって、
 どのような不作為が犯罪として処罰されるのか、
 それは法律によって明確に定められる(罪刑法定主義)
 不作為の形式で定められた犯罪→真正不作為犯


(4)真正不作為犯と不真正不作為犯
1罪刑法定主義と真正不作為犯
 どのような作為が犯罪として処罰されるのか
 そして、どのような不作為が犯罪として処罰されるのか
 法律による明確な規定の必要性
 罪刑法定主義の要請

 身体的な静=物理的作用の無の態度が処罰される不作為犯の場合
 法律による明確な規定はより必要
 罪刑法定主義の要請の重要性

 不作為を処罰することができるのは、
 不作為の形式で定められた真正不作為犯の規定がある場合だけ

2不真正不作為犯
 このように不作為犯を真正不作為犯に限定すると、
 不都合で不合理な結果が出てくる可能性がある。

 食事をとろうとする子どもから食事を奪って餓死させた(刑199)
 火を放って、他人の住宅を全焼させた(刑108)
 他人に虚偽の事実を告げて、金銭を支払わせた(刑246)

 上記の3つは、
 作為による殺人罪、現住建造物等放火罪、財物詐欺罪

 では、次のような場合は?
 母親Xは赤ん坊にミルクを与えなかった。赤ん坊は餓死した。

 客Yは寝たばこを消さず就寝した。ホテルが全焼し、利用客が死傷した。

 客Zは千円の商品の購入のために店員に5千円札出した。
 店員がおつりを6千円渡そうとした。
 店員が1万円札と勘違いしていることを知りながら、受け取った。

 上記の3つは、いずれも不作為
 殺人罪、現住建造物等放火罪、財物詐欺罪
 いずれも作為の形式で定められた犯罪
 不作為には不作為犯形式の犯罪規定を適用できるだけで、
 作為犯形式の犯罪規定を適用することはできない、と考えると、
 処罰できないという不都合で不合理な結果が出てくる。

 それでいいのか? それはよくない。
 では、どうすればよいのか。
 作為の形式で定められた犯罪規定のなかに、
 不作為の形式も含まれていると解釈し、
 限定された対象にだけ適用すればよい。

 作為形式の犯罪規定が適用されて処罰される不作為
 →不真正不作為犯

3不真正不作為犯の処罰根拠
 刑法では、
 犯罪は作為犯の形式で定められ、
 例外的に不作為もまた犯罪になりうる。

 作為に適用されるのは作為形式の犯罪規定(作為犯)、
 不作為に適用されるのは不作為形式の犯罪規定(真正不作為犯)

 不作為に作為形式の規定が適用されることは、
 一般的に考えると、それはない。
 何故なら、作為と不作為は異なるからである。
 作為に適用されるべき作為犯の規定を
 作為とは異なる不作為に適用することは、
 罪刑法定主義の立場からはできない(はずである)。

 しかし、そのような立場を維持すると、不都合な結果が出てくる。
 では、その不都合さを解消するために、
 作為犯形式の犯罪規定のなかに実質的に不作為犯が含まれていると解釈。
 不作為によって作為犯形式の犯罪が実行できると解釈。

 母親が赤ん坊ににミルクを与えなかったのは事実であるが、
 父親や他の家族は何をしていたのか?

 客が寝たばこの火を消さなかったのは事実であるが、
 火災報知器やスプリンクラーが作動していれば、
 小火(ぼや)ですんだはずではないのか?

 5千円札を「1万円札」と間違えたのは店員の問題。
 客がその間違いを訂正する義務はないのでは?

 X、Y、Zが不作為の態度をとったのは事実であるが、
 その不作為に対して、
 殺人罪、現住建造物等放火罪、詐欺罪の規定を適用できる根拠は?

 学説では、
 作為義務に違反した不作為に作為犯形式の犯罪規定を適用できると主張。
 誰に作為義務が課せられているのか、
 誰の不作為に作為犯形式の犯罪規定を適用できるのかを
 特定・限定するために、
  民法の監護権者などの法律(民法)上の作為義務を負う者
  学校や病院などにおいて契約に基づいて一定の作為義務を負う者
  子どもを預かった場合の一定の事務管理に基づいて作為義務を負う者
  先行行為などを行ったことから一定の作為義務を負う者
 などを特定し、
 その人が故意に作為義務を履行せずに、
 相手を死傷させたり、家屋を全焼させた場合
 このような作為義務に反した不作為に
 作為犯形式で定められている犯罪の構成要件該当性を認める
 このような見解が主張されてきた。

 この見解は、
 作為犯形式で定められている犯罪規定を不作為に適用する要件を
 明確にし、不真正不作為犯の成立する範囲を限定する理論的努力として
 傾聴に値する。

 しかし、
 民法や契約などは刑法とは異なる法律。
 民法の義務に違反するからといって、刑罰を科すことができるのか?
 たとえ死傷や家屋の焼損という結果が発生しているとはいえ、
 民法の義務違反の不作為に
 なぜ刑法の作為犯形式の犯罪規定を適用できるのか
 この点について説得力がなかった。

 刑法上の作為犯形式の犯罪規定を不作為に適用できるためには、
 その不作為は、刑法上の作為義務に違反した不作為でなければならない。
 そのような批判が出されてきた。

 そのような批判を踏まえて展開されたのが
 保障者説という考えである。それは次のような主張である。

(5)保障者説
 作為犯形式の犯罪規定のなかには、
 人命の侵害を禁止する禁止規範(結果を惹起する作為の禁止規範)
 人命の救助を命ずる命令規範(結果を防止する作為の命令規範)
 2つの規範が含まれていると解釈できる。

 後者の「結果を防止する作為の命令の規範」は
 刑法上の作為義務である(民法の作為義務ではない)。

 では、それは誰に課されているか?

 結果を防止し、法益の維持を保障すべき地位にある者(保障者的地位)について、
 結果防止のために必要な作為に出ることが可能であり(作為可能性)、
 かつ容易である(作為容易性)場合、
 これらの要件が満たされていれば、
 保障者に結果を回避する作為義務が課される。
 そして、
 その作為義務を尽くさずに、不作為の態度をとった場合、
 その不作為は作為と同じ価値があり(不作為と作為の同価値性)、
 その不作為に対して作為犯形式の構成要件を適用し、
 実行行為性を認めることができる
 ただし、不作為と結果の因果関係が必要であることは言うまでもない。
 結果回避のための作為義務を尽くしていたならば、
 結果の回避は十中八九可能であったといえる場合(結果回避可能性)
 不作為と結果との因果関係を認め、
 その不作為に作為犯形式の構成要件該当性が肯定される。


(6)判例で問題になった不作為犯
【04】不作為と結果の因果関係
 被害者をホテルに放置した不作為と被害者の死亡の因果関係
 救急医療を要請する作為によって被害者の救命は「十中八九、可能であった」。


【05】不作為による放火
 被告人の不注意から木製の机などの物件に火が燃え移った(保障者)
 被告人はそれを目撃。その火が建造物に延焼し、焼損することを容認(放火罪の故意)。
 被告人は消火のために必要で、かつ容易な措置をとらない不作為の態度(作為の可能性・容易性)。
 (結果の回避可能性は裁判の争点としては挙げられていない)


【06】不作為による殺人
 被告人の責めに帰すべき事情によって被害者の生命に具体的な危険が発生し、
 被害者の家族から手当を全面的にゆだねられた(保障者)
 作為の可能性・容易性、結果の回避可能性