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河合雅雄『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』(その7)「第12章」:「人間」の「殺戮の習性」や「食人の風習」は「サル類」から受けついだ!チンパンジーは「仲間の子どもの肉食」を楽しむ!

2021-06-30 20:30:37 | 日記
※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)

第12章 自然の掟を破ったもの:人間の「同族殺害」は「大悪」である!(225-242頁)
(13)「攻撃性」は、「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)であって、「“性”と密着している生得的な性質」である!
M コンラート・ローレンツ(1903-1989)『攻撃』(1963)は、「攻撃性」が「“性”と密着している生得的な性質」であることを証明した。(228頁)
M-2 例えばシカの雄は秋の発情期に交尾テリトリーを作り、侵入してくる雄と戦い、雌を占有しようとする。これは「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)が命ずる行動であって、「個体の意志」と無関係に雄ジカは戦い、種つけに邁進する。シカの雄は「進化」という「造物主の命」に従っている。(229頁)

(13)-2 「攻撃性を抑制する機構」:(ア) 形態の安全化、(イ)「武器となる形態」をシンボル化する、(ウ)闘争の行動を「儀式化」する、(エ)「転移行動」!
M-2-2 だが同時に「種の維持」(「個体群の維持」)のためには雄の「攻撃性を抑制する機構」がなければならない。(ア)形態の安全化:角を絡み合わせ戦うシカの角は枝分かれし、角が滑って相手を傷つけないように進化した。あるいは角の先端が扁平で巨大になった。さらに(イ) 「武器となる形態」をシンボル化する:角が闘争のシンボルとなり、より巨大な角を持った雄を優位な雄として認め無益な闘争を回避する。(ウ)闘争の行動を「儀式化」する:例えばダマジカでは「闘争の際、劣位者は横に寝転がって白い横腹を見せる。すると優位の雄は闘争を停止する。」(エ)「転移行動」:例えばアナウサギの雄は闘争で勢力が伯仲すると、戦いの相手を無視し急に穴掘りを始める。かくて闘争が鎮静する。(229-231頁)

(13)-3 動物社会の鉄則:「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」!人間の「同族殺害」は「大悪」である!
M-3 こうしてローレンツは「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」というのが「動物社会の鉄則」だと言う。(232頁)
M-3-2 だが人間はこの「自然の掟」を破る。個人的怨恨による殺人、ナチスによるユダヤ人大量虐殺、戦争、核爆弾による無差別大量虐殺など。いずれにせよ「同族殺害」は動物社会の鉄則に反する「大悪」である。(232頁)

(13)-4 人間界の「食人」の風習は宗教的・儀式的だった?!
M-3-3 「仲間を食べる」という「食人」の風習は人間界で広く行われていた。(イ)北京原人が人間の脳を食べる(or取り出す)ため頭骨の大後頭孔を大きく広げた。(イ)ネアンデルタール人(5万5000年前):脳を取り出した(or食べた)頭骨が出たが、頭骨の周りに石を輪のように並べてあったので、儀式的・宗教的な食人だったと思われる。(233-234頁)
M-3-4 「宗教」的な理由からであれ、「食物」としてであれ、人間は「人間の肉」を食べた長い歴史を持つ。(234頁)

(13)-5 「サル類の肉食」!
M-4 だが「仲間を殺し、仲間を食べる」ことは既にサル類に見られる。サル類は「動物社会の鉄則」をはずれる。「人間」の「殺戮の習性」や「食人の風習」は、「サル類」から受けついできた「原罪」だ。(以下詳しく見る。)(234頁)
M-4-2 さてサル類(真猿類)の食性は主として植物食だ。「雑食」と言われるもの(Ex. ニホンザル)もいるが動物食はおやつ程度だ。(Ex. 小動物、昆虫)長い間、このように考えられてきた。(234頁)
M-4-3 だがサバンナヒヒがガゼルの子を獲って食べる、ブルーモンキーがリスを頭からかじるなど、「サル類の肉食」が今は、多く発見されている。(235頁)

(13)-6 チンパンジーの肉食:「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない」!チンパンジーは動物の「脳」を好む!
M-5 「チンパンジーの肉食」はかなりの頻度で起こる。「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない。」(235頁)
M-5-2  「チンパンジーは捕らえた獲物を分配し、死体のほとんどすべてを食べてしまう。」「最も好むのは脳である。大後頭孔に指をつっこんで脳を食べるし、歯で前頭部に穴をあけて頭蓋腔をえぐってなめる。」(235頁)
M-5-3  チンパンジーのこのような行動を見ると「古人類が脳を食べたことに驚くことはない。それは化石類人猿から人類が継承した行動に他ならない。」(235頁)
(13)-6-2 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い!
M-5-4 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い。一般に「サルは動物をからかったりいじめたりするのが、大好きだ」。(Ex. 飼ったサルが犬や猫をからかう。Ex. 幸島コウジマのサルが鶏をいじめては楽しんでいた。)(236頁)
M-5-5 「サルの動物相手のいたずら遊びに攻撃性が結びつき、つかまえて殺してしまう」。そして「いったん食べるとその味が忘れられず、つぎは食べるために動物をとらえる、ということに発展していく。」(236頁)
(13)-6-3 チンパンジーは「仲間の子どもの肉食」を楽しむ風習がある!
M-5-6 チンパンジーは「子どもの肉食を楽しむ風習がある」。「《同じ集団の雌》の子を雄が殺し、しかもそれを食べる」。さらに「雌もまた《他集団からきた雌》の子どもを殺し、それを食べる」(241頁)
M-5-6-2 「殺した子」の食べ方:チンパンジーの雄と雌、どちらの場合も、殺害者のまわりに他の個体が集まって物乞いし、「殺した子」の肉は何頭かに分配される。チンパンジーたちは「殺した子」を食べるとき、木の葉をちぎっては食べる。つまり彼らは、「肉とともに野菜を食べる」という、本格的な食事を楽しんでいる。(241頁)
M-5-6-3 「彼らチンパンジーが住むブドンゴの森は、イチジクなどの果実が豊富に実り、食物にはことかかない。」となるとチンパンジーは「[仲間の]子どもの肉食を楽しむ風習がある」と言ってよい。(241頁)
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河合雅雄『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』(その6-3):「第11章」《参考》ゲラダヒヒは「争うことをさけている平和主義のサル」だ!

2021-06-30 10:04:31 | 日記
※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)

《参考》河合雅雄(兵庫県立人と自然の博物館名誉館長)「争うことをさけている平和主義のサル」(『共生のひろば』9号, 1-6, 2014年3月)(90歳)
(1)エチオピアでのゲラダヒヒ:霊長類の社会構造を支えるはずの「順位制」と「テリトリー制」の欠如!
私は霊長類社会学で従来の定説を破る現象に出会って驚嘆したことがある。それはエチオピアでのゲラダヒヒの研究においてである。従来は、霊長類の社会構造を支える大きな柱は、「順位制」と「テリトリー制」だとされてきた。つまり、群れ社会では、個体間には順位があり、それが集団を秩序づけている大きな柱になっており、また、群れと群れはおのおの自分のテリトリーを持ち対立しているということである。これまでよく研究されてきたニホンザル、アカゲザルらのマカカ類やアヌビスヒヒ、それにチンパンジーもこの原則に従っていた。ところがゲラダヒヒの社会では、この定説が通じないことがわかったのである

(2)ゲラダヒヒの「バンド」(Cf. 「群れ」):おとなの雄(「ユニット」のリーダー)間に順位がない!
ゲラダヒヒは、重層社会という特異な社会構造をもっている。リーダー雄を中心に、複数の雌と子どもたちから成るグループを「ワンメイル・ユニット」、略して「ユニット」と呼ぶが、これらユニットが集合して大きな集団を作る。この集団を「バンド」と呼ぶ。ニホンザルの「群れ」に相当する集団である。バンドは複数のユニットから成るから、バンドの中には複数のおとな雄(リーダー雄)がいることになる。「これらのおとな雄間には、当然順位がついており、その順位秩序によって複数のユニットが共存できる」というのが従来の考え方であった。ところが、驚くべきことにはおとなの雄(ユニットのリーダー)間に順位がないのである。初めはこのことが信じられなかった。
(2)-2 ゲラダヒヒ:「バンド」(Cf. 「群れ」)内の「ユニット」どうしの間にも順位がない!
ということは、「ユニット」どうしの間にも順位がなく、ユニットとユニットは同格平等だということである。その証拠を示す現象がいくつか観察された。顕著な証拠の一つは「水飲み場」で見られた。セミエン高地は水飲み場が少ない。とくに乾季の終わり頃になると、水飲み場は減少し、台地の上には数か所しかなくなる。「バンド」は台地の上を採食しながら遊動しているが、水飲み場にさしかかると水を飲む。従来の順位社会での考え方だと、優位なユニットの順に水を飲むということだった。ところが「ゲラダヒヒのバンド社会ではユニットの間に順位がない」ので先着順に水を飲むのである。ほかのユニットは順番を待っておとなしく待機している。
(2)-3 ゲラダヒヒ:「バンド」(Cf. 「群れ」)は、「ユニット間の順位秩序」でなく「ユニット間は平等対等だという原理」によって成立している!
初めてこの状況を見たときは、信じられなかった。ニホンザルやチンパンジーなどの「順位社会」になれている身には、じつに奇妙な風景であった。「ユニット」間に順位がないということは、「バンド」の成立に今までとはまるで変った観点が必要だということである。つまり、「バンド」は「ユニット間の順位秩序」によって成立しているのではなくて、全く正反対の原理である、「ユニット間は平等対等だという原理」によって成立しているということである。ゲラダヒヒの社会は、できるだけ個体間及び集団間の争いをさけ、協調を主軸にした平和な社会を作っている。もちろん個体は嫌なことや腹が立つことがある。だがそれらを抑制する社会行動が発達している。

(3)ゲラダヒヒの雄・雌、主食、「ユニット」、「バンド」(Cf. 「群れ」)!
《1》ゲラダヒヒのおとなの雄:首、胸部、鼠径部は赤い皮膚が露出している。おとなの雌:乳房がある。
《2》赤道に近いが、高所なので朝は-2度、北壁には氷がついている。ゲラダヒヒは水分の補給に氷を食べる。主食はイネ科の草、指で切り取り、口へ運ぶ
《3》「ユニット」:1頭のリーダー雄を中心に、数頭の雌と子どもよりなる。ユニットの社会構造:(a)ユニットの雌間には順位がある。順位1の雌はリーダーとは強い親和関係がある。(b)ときにセカンド雄がいる。彼はリーダーの補佐役である。1頭のガールフレンドが許され、彼女とは仲がよい。しかし、交尾権はリーダーにある。
《4》「バンド」(Cf. 「群れ」)の社会構造:複数のユニット、フリーランスの雄、若雄グループよりなる。
(3)-2 個体は嫌なことや腹が立つことがあるが、それらを抑制する社会行動が発達している!
《5》(ア)セカンド雄をリーダーが睨む。セカンド雄は上唇をまくり上げ、上あごの歯肉を見せて恐縮の意を表す。(イ)リーダー雄の前を通るセカンド雄。片足を上げてあいさつする。
(ウ)子どもがリーダーに叱られた。叱られた子どもは、リーダーの前に立って「すみません」の意を表す。
(エ)若者がリーダーに叱られた。若者はアカンボウを抱き、敵意がないことを示す。
(オ)リーダーが大口を開ける。あくびではない。鋭くて長い牙を見せ、威嚇を表す。
《6》(カ)雌はときに浮気を起こし、他のユニットのリーダーに接近することがある。それに気づいたリーダー雄は、まぶたの白い部分を見せ、怒りの表情を見せる。
(キ)雌を連れ戻しに出かけるリーダー: 浮気雌を見つけ、叱る。雌は「すみません」とばかり、上唇をまくり上げ(リップロール)て、恭順の意を表す。雌は尻をリーダーに向け、降服の意を表す。リーダーは叱らず、雌を抱きしめてエロチックな発声をし、雌を許す。決して咬みついたり、蹴とばしたりの攻撃行動はとらない。
《7》(キ)ユニットのリーダー同士の対決。お互いの目を見つめない。喧嘩はしない。引き分けに終る。

(4)ある地方のゲラダヒヒ:A、E、Kの3つの「バンド」!
ある地方に、A、E、Kの3つの「バンド」が生息していた。ニホンザルやチンパンジーなど今まで知られている霊長類では、集団は「テリトリー」(なわばり)を持ち、お互いに対立している。テリトリー境界では自領を守るために、隣接集団は相争う、というのが定説であった。
(4)-2 ゲラダヒヒのA、E、Kの3つの「バンド」:テリトリー性が皆無で、それどころかジョイントするという親和的関係!
ある日、Aバンドが山を降り、谷を越えてEバンドの方に向かって移動を始めた。AとEはテリトリー境界で戦いが起こると私は興奮し、カメラを構えてこの戦いを撮影しようと待ち構えた。2つのバンドは接近し、あわや戦いが始まるかと思ったら、全く予想に反して何の摩擦もなく、2つのバンドはジョイントしてしまった。そして、大集団となり、東のKバンドに向かった。Kバンドとも何の摩擦もなくジョイントし、さらに大集団を作って移動した。そして5日後、バンド集団は解け、K、E、Aとそれぞれの行動域におさまった。テリトリー性が皆無で、それどころかジョイントするという親和的関係に、私はしばし唖然として立ちつくした。
(4)-3 ゲラダヒヒ社会:「テリトリー」性がないとともに「集団」(バンド)間の対立がない!
霊長類の中で「テリトリー」性がないのは唯一ゴリラだけであった。だがゴリラの「群れ」は強く対立し、遭遇すると激しく戦った。しかし、ゲラダヒヒ社会のように「テリトリー」性がないとともに「集団」(バンド)間の対立がないという種は初めての発見であった。

(5)霊長類社会には、①攻撃性と競争、対立を基調とする社会と、②親和性と協調、共同を基調とする社会の2つの系列がある!
その後、研究の進展により、「親和性と協調性を主軸にした平和主義のサル」として、ゲラダヒヒのほかに、ボノボ、チベットモンキー、ベニガオザル、キンシコウなどが発見された。これらのことから霊長類社会には、①攻撃性と競争、対立を基調とする社会と、②親和性と協調、共同を基調とする社会の2つの系列があることが明らかになった。
(5)-2 霊長類の進化によって誕生したヒトは、霊長類社会の2系列(①攻撃性、②親和性)の性質を内包した存在である!
ヒトは霊長類の進化によって誕生した特異な動物である。ヒトの特異性の一つは、以上の霊長類社会の2系列の性質を内包した存在だということである。霊長類社会の2系列は「ヒトとは何か?」という問いかけに答えるための大きな基盤を提供したといえる。その意味で、ゲラダヒヒ社会の解明は大きな役割を演じたといえるだろう。
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河合雅雄『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』(その6-2):「第11章」父系社会(Ex. マントヒヒ)の攻撃性に対し、母系社会(Ex. ゲラダヒヒ)は親和性によって社会が成立する!

2021-06-29 16:18:55 | 日記
※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)

第11章 人類社会の起源は母系か父系か:「人類の祖型」は母系社会だ!(207-224頁)
(12)父系社会(Ex. マントヒヒ、チンパンジー)は攻撃性によって社会が成立する!母系社会(Ex. ゲラダヒヒ)は親和性によって社会が成立する!
L 群れのメンバーの移出入が雄によってなされる社会は母系社会だ。雌の移出入はない。ニホンザル、サバンナヒヒ、ハヌマンラングール。サル社会は「母系社会」(雄の移出入がある。)と思われていた。(209頁)
L-2 チンパンジー社会で単位集団間での雌の移出入があり、雄は基本的に移出入しない。つまりチンパンジー社会は「父系社会」だ。この発見は衝撃的だった。(209頁)
L-2-2  ゲラダヒヒは「母系社会」で雄の移出入がある。ゲラダ・ヒヒの社会的単位は1頭の雄と複数の雌からなるワンメイル・ユニットだ。(ワンメイル・ユニットが複数集まってハードを作る。)ワンメイル・ユニットは、雌グループに雄が入ってきた形で成立する。(リーダー予備軍の雄グループがある。)リーダー雄の選択は雌の側にある。(210-213頁)
L-2-3  マントヒヒは「父系社会」(orメイル・ボンド)で雌の移出入(Ex. 「子さらい」)がある。マントヒヒのワンメイル・ユニットはリーダー雄が徹底した攻撃で雌を従わせる。(ワンメイル・ユニットが複数集まってバンドを作る。)(210-213頁)
L-3  単位集団を、「父系社会」では雌、「母系社会」では雄が、離脱し移籍(移出入)するが、生物学的には、これは集団内婚の回避、遺伝子の拡散の社会的方式だ。(210頁)
L-3-2 父系社会(Ex. マントヒヒ)は攻撃性によって社会が成立する。母系社会(Ex. ゲラダヒヒ)は親和性によって社会が成立する。(214頁)
L-3-3 チンパンジー社会はメイル・ボンドと雌の離脱を中心に形成された父系社会だ。雄間の拮抗性と攻撃性は強烈だ。激しい戦いで時に相手を殺す。(214頁)

(12)-2 人間とゲラダヒヒの性的二型は、男も女もor雄も雌も、両方が異性を誘引するための道具立てを持つ!
L-4 性的二型(雄と雌の形態的差)は、少数の雄が複数の雌を誘引するために、雄において特に顕著に現れた形態として理解することができる。(Ex. マントヒヒやゲラダヒヒの雄の長い毛のマントと頬ひげ、マントヒヒの雄の尻の紅い座布団のような肉塊、ゲラダヒヒの大きな尻だこの下の同形の黒い皮膚のパッチ、ゴリラの雄のシルバー・バックと頭骨の大きな刺状突起。)(218-219頁)
L-4-2 マントヒヒ、ゲラダヒヒ、ゴリラの社会的単位は1頭の雄と2-10頭の雌からなる小集団だ。(217頁)
L-4-3 オランウータンは単独で生活するが、雄は複数の雌のなわばりを含む大きななわばりを作り、複数の雌を占有する。(Ex. オランウータンの雄は首が隠れるほどの脂肪の蓄積を持つ。)(219-220頁)
L-5 人間の性的二型は、男も女も、両方が異性を誘引するための道具立てを持っている。男性のごつごつした筋肉質、ひげ。女性の脂肪が多くなめらかで優しい体型と乳房。(220-221頁)
L-5-2  実はゲラダヒヒは雌にも性的二型を示す形態的特徴がある。胸に逆ハート形の赤い皮膚の露出部があり、その縁にラムネ玉のような肉塊が並び雄を誘引する。(220-221頁)

(12)-3 人間も、「性的二型の特徴を両性が担っている」からゲラダヒヒのように「両性の社会的平等化」が基調の母系社会だったと類推される!(222-223頁)
L-6  「性的二型とエソロジカル(※動物行動学的)な観点を組み合わせて考えると、人類の祖型はゲラダヒヒ型であったのではないか」と想像可能だ。(222-223頁)
L-6-2 「霊長類で性的二型を示す特徴が、雄と雌の両方において著しいのは、人間とゲラダヒヒだけだ。」(222頁)
L-6-3 「ゲラダヒヒのユニット」は「雄の一方的な支配と雌の服従」(父系社会的なユニット)でなく、「両性の積極的な誘引」によって形成された。(母系社会的なユニット)(223頁)
L-6-4 人間は今、「性的二型の特徴を両性が担っている」から、人類の祖型も、ゲラダヒヒのように「両性の社会的平等化」が基調だと類推される。(223頁)

(12)-4 「人類学者」のように「狩猟採集民社会」では「男性の優位性が社会の原動力となっている」(父系社会)と決めつけるのは危険だ!
L-7 現在の「ブッシュマンやピグミーなどの男女の結合様式を見ると、男女間に等しく個性的で独立した交際が行われ、婚資をともなわない個と個の結合という形でなされている」。(※つまり母系社会的だ!ゲラダヒヒの社会に似る!)(223頁)
L-7-2  これに対し「人類学者」は「未開社会」の研究から、「集団間での女性の交換」を重視し、「女性が財あるいは労働力をもつものとして交換される」ことが、「家族とコミュニティーの維持」に大きく機能している(※父系社会!)と主張する。これが「人類社会の特質」だとする。しかし上記のブッシュマンやピグミーの例を見ると、「狩猟採集民社会では、男性の優位性が社会の原動力となっていると決めつけるのは危険だ。」(223頁)

(12)-5 「現存する狩猟採集民社会」、例えばブッシュマンは「平等で対立のない社会」だ!
L-7-3 「人類社会の特質」として「男性優位の原則」(※父系社会!)を認めることは、「人類の祖型」において「ユニットの形成や集団間の関係」を「攻撃性」を基盤に考えざるをえない。(223頁)
L-7-3-2 Cf. すでに見たようにサル類において「父系社会」(Ex. マントヒヒ、チンパンジー)は「攻撃性」によって社会が成立する。「母系社会」(Ex. ゲラダヒヒ)は「親和性」によって社会が成立する。(209-214頁)
L-7-4 「人類の祖型」において「攻撃性」によって社会が成立するとの「人類学者」の考えは実情にそぐわない。「現存する狩猟採集民社会」、例えばブッシュマンは「平等で対立のない社会」だ。(223頁)

(12)-6 人間の祖型社会は、「ゲラダヒヒ型のユニット」でなく、「男も女も集団間の移籍が可能な、個体の自由度が非常に大きな社会」だったかもしれない!
L-8 なお人間とゲラダヒヒの「性的二型」に関し、ゲラダヒヒは雄雌の体重・身長差が大きい(ある資料によれば、《体重》雄20-23kg・雌12-14kg、《体長》雄69-74cm・雌50-65cm)。(224頁)
L-8-2 ところが人間は男女間の体重や身長差が小さい。すなわち人間の祖型社会は、「ゲラダヒヒ型のユニット」が社会的単位でなかったかもしれない。人間の始源の社会は「男も女も集団間の移籍が可能な、個体の自由度が非常に大きな社会」だったかもしれない。(224頁)

(12)-7 「父系説系譜論」は誤りだ!「牧畜・農耕社会」になってから、「父系」が社会構造の基軸となった!
L-9 「人類の祖型」において「攻撃性」によって社会が成立する(※「父系社会」!)との「人類学者」の「父系説系譜論」に対して異議を申し立てたいと河合雅雄氏が言う。(224頁)
L-9-2  サル社会からの類推では「父系社会は攻撃性を基調にした社会だ。」(224頁)
L-9-3 だが「父系」が制度化され社会構造の基軸として織り込まれるのは、「牧畜・農耕社会」になってからだと、河合雅雄氏は考える。そのとき以来、「女性は物として交換の対象となり」、「男性優位の歴史」が始まった。(224頁)
L-9-4 「牧畜・農耕社会」の成立は、「男性優位の歴史」のはじまりとして、「男が女に対して生みだした原罪」だ。(224頁)

《参考》(11)-3 ヒトは狩猟採集社会では「なわばり」を持たない平和な生活を送った!牧畜農耕社会になって物の所有、土地所有、財の蓄積が生じ、再び強い「なわばり制」(Ex. 国家)が発生し、ヒトは殺戮や戦争を開始した!
K-4 「ヒトは狩猟生活をしている間は、なわばりを持たない平和な生活を送っていた。ところが牧畜農耕革命によって人間は再び強いなわばり制(Ex. 国家)を持つに至った。」(206頁)
K-4-2 牧畜農耕社会になって物の所有、土地所有、財の蓄積が生じると、再び強いなわばり制(Ex. 国家)が発生し、ヒトは殺戮や戦争を開始した。(206頁)
K-4-3  牧畜農耕革命後の、物質文化の進歩、所有概念の発生と強化、財の蓄積にともなう物欲と権力のとめどのない増幅作用が、殺戮・戦争を発生させた。かくてそれらは人間に「悪の深淵」をのぞかせ、「悪魔の所業」をプログラムさせるに至った。(206頁)
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河合雅雄『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』(その6):「第10章」サル類の「なわばり制」は平和的!樹上から地上生活になり「なわばり制」消滅!ヒトの「なわばり制」は攻撃的だ!

2021-06-28 13:36:37 | 日記
※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)

第10章 ヒト、なわばりを復活させたもの(190-206頁)
(11)サル類は群れを安泰に維持する、つまり群れ同士の争いを避けるために「なわばり」を持つ!
「なわばり制」が「攻撃性と排他性」を中心とするという見解(R. アードレイ)は誤り!
K  劇作家ロバート・アードレイ(『アフリカ創世記:殺戮と闘争の人類史』1961年)は、サルからヒトへの進化においては、サル類の「攻撃性と排他性を中心とするなわばり制」が原動力となっているとする。かくて「闘争と殺戮の歴史」がヒトの進化と進歩をなしとげたと主張する。(198頁)
K-2  だが森に住むつまり樹上生活のサル類における「なわばりを持つ集団」は出会った場合、「対峙や転移行動」が普通で、「相手を傷つける行動」は少ない。サル類は群れを作るが、「群れを安泰に維持する」ため、つまり「群れ同士の争いを避ける」ために「なわばり」を持つ。(198-199頁)

(11)-2 「森林からサバンナへ進出した霊長類」は「地上生活」で「なわばり制を放棄した」!
K-3 「樹上生活」のサル類は「なわばり制」を持つが、「地上生活」のサル類は「なわばり制」を放棄した。「地上生活」のサル類は、少ない「水場」・「採食地」・「泊り場」(安全なねぐら)を共有せざるを得ず、「なわばり制」を放棄した。(202頁)
K-3-2 「ヒト化を促進させた重要な決め手」は「霊長類(※サル類)が森林の生活を捨て、サバンナへ進出した」ことにある。そして「森林からサバンナへ進出した霊長類」は「なわばり制を放棄した」。(203頁)

(11)-3 ヒトは狩猟採集社会では「なわばり」を持たない平和な生活を送った!牧畜農耕社会になって物の所有、土地所有、財の蓄積が生じ、再び強い「なわばり制」(Ex. 国家)が発生し、ヒトは殺戮や戦争を開始した!
K-4 「ヒトは狩猟生活をしている間は、なわばりを持たない平和な生活を送っていた。ところが牧畜農耕革命によって人間は再び強いなわばり制(Ex. 国家)を持つに至った。」(206頁)
K-4-2 牧畜農耕社会になって物の所有、土地所有、財の蓄積が生じると、再び強いなわばり制(Ex. 国家)が発生し、ヒトは殺戮や戦争を開始した。(206頁)
K-4-3  牧畜農耕革命後の、物質文化の進歩、所有概念の発生と強化、財の蓄積にともなう物欲と権力のとめどのない増幅作用が、殺戮・戦争を発生させた。かくてそれらは人間に「悪の深淵」をのぞかせ、「悪魔の所業」をプログラムさせるに至った。(206頁)

《感想》「なわばり制」は、もとは森に住むつまり樹上生活のサル類の「すみ分け」的、平和的なものだった。ところがヒトが復活させた強い「なわばり制」(Ex. 国家)は、殺戮や戦争を伴い、さらに物欲と権力のとめどのない増幅作用という「悪魔の所業」をもたらした。
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河合雅雄『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』(その5)「第8章」「文化環境」の創出は「非自然」・「悪」の出現だ!「第9章」人間には生殖期がなくなった!

2021-06-27 16:03:36 | 日記
※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)

第8章 反自然的文化の源流(151-169頁)
(9)「種」の自然的な「適応」システム:「すみ分け」!(Cf. 「優勝劣敗」)
I 今西錦司の「すみ分け」理論:生物の種は、できるだけ他の種との競争を避け、安定した種固有の生活の場を確保しようとして進化してきた。種はお互いにすみ分け、無用の競争を避けるように進化してきた。これが環境への「適応」である。(154-155頁)
I-2 ただし「環境」が激変すれば、「種」の自然的な「適応」システム(「すみ分け」)は破綻する。(155頁)
I-3 「優勝劣敗」理論: 同時に種と種は競争し、優位者が勝ち残り、劣者は淘汰されることで、種が存続する。これが環境への「適応」のもうひとつの側面だ。(154-155頁)(※なお「優勝劣敗」理論に対し河合雅雄氏は否定的だ。)

(9)-2 「文化環境」の創出は、「生物の自然存在の枠組み」(すみ分け)を破る「非自然」の出現だ!
I-4 適応的行動が自然環境や自然社会に対し行われるかぎり、善悪と関係ない。(159頁)
I-4-2 しかし「文化環境」の創出は、「生物の自然存在の枠組み」(すみ分け)を破る「非自然」の出現だ。(159頁)
I-4-3  長い進化の歴史を通じて、種は固有のニッチェをもってすみ分け、調和ある社会を構築してきた。ところがヒト類は「文化環境」という異質の環境を設定し、他の「種」の社会やニッチェ(※生態的地位)を侵害する。(159頁)
I-4-4 「文化」は「善」でヒトをヒトたらしめるものだとの考え方もある。(153-154頁)だが「文化を創造することは・・・・生物界に悪の要素を持ちこむことに他ならない。」(159頁)

第9章 人間には生殖期(性交期+出産期)がなぜなくなったか(171-188頁)
(10)サル類で出産後、赤ん坊がすぐ死亡すると、雌が時期外れ(性交期でない)に発情する!
J 動物にとって性行動は種族維持のための行動だ。例えばトゲウオは「生得的に」生殖行動をとる。(175頁)
《感想》DNAの遺伝子情報によって行動がプログラム化されていると言える。
J-2 ニホンザルは生殖期(性交期9-1月→妊娠期間6カ月→出産期3-7月)が決まっているが、ある雌の赤ん坊が4月に生後15日で死亡すると、雌は時期外れ(性交期でない)に発情し雄が続けざまに3頭交尾し妊娠したという例があった。(179頁) 
J-2-2 これは「どうしても子どもがほしいと思う」気持ちが、「発情」という生理的な変化を起こしたと考えられる。(179-180頁)
J-2-3 ニホンザルで「子どもを失った母ザル」が「赤ん坊がほしくて」、自分より劣位の雌の赤ん坊を奪ったことがある。(180頁)
J-2-4  産んだ赤ん坊がすぐ死んでしまったアカゲザルの雌が、他のサルの赤ん坊を奪えなかったため、ネコの子を奪い乳を与えた例がある。(しかし子ネコは死んだ。)(180頁)

(10)-2 サル類の子ども殺し:「雄リーダーの交代」という「社会的な原因」で雌が発情する!
J-3 インドのハヌマンラングールというサル類は、1頭の雄を中心に6-13頭の雌を含む単雄群を形成する。新たな雄が、旧雄を追放し新リーダーとなると、新リーダーは群れの赤ん坊をすべてかみ殺し、少年期の雄を追い出す。すると雌たちが次々と発情し、新リーダーと交尾する。(181-182頁)
J-3-2 この場合、「リーダーの交代」という「社会的な原因」で雌が発情する。性が「自然的な枠組み」とは別に、一部は「社会」に帰属している。(182頁)

(10)-3 ゲラダヒヒの新リーダーは「性」を媒介にして雌たちと「親密な紐帯」を形成・強化する!性が「生殖」と無縁に機能している!
J-4 ゲラダヒヒの場合も、雄1頭と数頭の雌からなるグループ(ユニット)を作る。しかし新たな雄が、旧雄を追放し新リーダーとなっても、「子ども殺」しはしない。雌たちは新リーダーができると、一斉に発情する。ゲラダヒヒは「雌たちと頻繁に交尾するが妊娠しない」という方法を採る。(182-183頁)
J-4-2 ゲラダヒヒの新リーダーは、性を媒介にして雌たちとの「親密な紐帯」を形成・強化する。性が「生殖」と無縁に機能している。(183頁)

(10)-3-2 ゲラダヒヒの前リーダーは、性衝動を「個体の努力」によって抑制できる!
J-5  ゲラダヒヒの前リーダーはユニットから追放されず、セカンド雄となってユニットに居残る。ただし前リーダーは雌に対する性行動を一切、放棄する。つまりゲラダヒヒは、性衝動を「個体の努力」によって抑制できる。つまり性は、個体において、「生理的レベル」を離れ、「社会心理的な次元」で扱われる。(183-184頁)

(10)-4 雌の「育児」の負担が軽減されない限り、性は「種族維持」に関わる制約のうちに置かれる!
J-6 サル類でも性は「生理的なレベル」を離れた所で機能しかけている。だがサル類においては人間のように、「性行動の自由な発現」が保証されていない。(186頁)
J-6-2 「雄」は、いつでも性行動をとれるから、生殖期がなくなる(「性行動の自由な発現」が保証される)かどうかの問題は「雌」の側にある。(186頁)
J-6-3 サル類の「雌」が出産すると性行動をストップさせる(発情しない)が、これは「育児」のためだ。サル類では「育児」は母親の負担においてのみ行われる。かくて雌の「育児」の負担が軽減されない限り、性は「種族維持」に関わる制約のうちに置かれる。(186頁)

(10)-4-2 人間が「家族という社会単位」を持つようになると、(ア) 女の「育児」の負担が軽減され性は「種族維持」に関わる制約から解放され、また(イ) 異性の新入者と迎え入れる者の親密な関係の形成のため「性的な結びつき」が必要となった!かくて性はいつでも自由に機能するようになった!
J-7 人間がサル類と区別されるための大きな条件の一つは、人間が「家族という社会単位」を持つことだ。
J-7-2 (ア)女(雌)は家族という枠組みの中で経済的保証を与えられる。また家族のメンバーが子どもの面倒をかなりみる。かくて女(雌)の「育児」の負担が軽減される。性は「種族維持」に関わる制約から解放される。性行動の「自然的な制約」がなくなる。(187頁)
J-7-3 さらに (イ)家族という社会的単位が定着すると「外婚制」(エクソガミー)が行われ、異性の新入者と迎え入れる者の親密な関係の形成のために「性的な結びつき」が必要となる。性はいつでも自由に機能しなければならない。(187頁)
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