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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)31.「エバとマリア――罪とあがない」(その1):ギリシア神話の「最初の人間の女」であるパンドラは「災いの女」だ!

2023-09-29 13:34:37 | 日記
※沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)第三章 女神と女性の神話(31~41)

(1)ギリシア神話の「最初の人間の女」であるパンドラは「災いの女」だ!
ギリシア神話のパンドラは「最初の人間の女」だ。そして「災いの女」だ。神々が、自分たちに逆らって人間の味方をしたプロメテウスを罰するために創り出した女だ。

《参考1》ゼウスが「人間と神を区別する」と考えた際、プロメテウスは「その役割を自分に任せて欲しい」と頼み了承を得た。プロメテウスは牛を殺し二つに分け、一方は「《食べられない皮》で包んだ肉と内臓」、もう一方は「《美味しそうな脂身》を巻きつけた骨」とした。そしてゼウスに、どちらかを神々の取り分として選ぶよう求めた。ゼウスは「《美味しそうな脂身》に巻かれた骨」を選び、人間の取り分は美味しい「肉や内臓」になった。(これはプロメテウスの計画だった。)ゼウスは騙されて怒り人類から「火」を取り上げた。(またこの時から人間は「肉や内臓」のように「死ねば腐ってなくなる運命」を持つようになった。)
《参考1-2》プロメテウスは、「火」を取り上げられた人類を哀れみ、人類に「火」を渡した。人類は「火」で恩恵を受けたが、同時にゼウスの予言通り人類は「火」を使って武器を作り戦争を始めた。
《参考1-3》これに怒ったゼウスは、プロメテウスを山頂に磔にし、生きながらにして毎日肝臓を巨大な鷲についばまれる責め苦を強いた。プロメテウスは不死であるため、肝臓は夜中に再生し、のちに3万年後ヘラクレスに解放されるまで拷問が行われた。

《参考2》怒ったゼウスは、さらに人類に災いをもたらすため「女性」を作るよう鍛冶の神ヘパイストスに命令した。ヘパイストスは泥から女性をつくり、神々は彼女に贈り物(パンドラ)を与えた。(この女性自身、パンドラと呼ばれる。)(ア)アテナは「織機や女のすべき仕事の能力」を、(イ)アプロディテは「男を苦悩させる魅力」を、(ウ)ヘルメスは「犬のように恥知らずで狡猾な心」をこの女性(パンドラ)に与えた。そして(ウ)神々は最後に「決して開けてはいけない」と言い含めパンドラにピトス(「甕」;後に「箱」とされた)を持たせ、プロメテウスの弟であるエピメテウスの元へ送り込んだ。
《参考2-2》美しいパンドラを見たエピメテウスは、兄プロメテウスの「ゼウスからの贈り物は受け取るな」という忠告を忘れ、パンドラと結婚した。そしてある日パンドラは好奇心に負け甕(箱)を開いてしまう。すると様々な災い(疫病、悲嘆、欠乏、犯罪など)が飛び出した。「最初の人間の女」であるパンドラが人類に災厄をもたらした。しかし「希望」(エルピス)のみは甕(箱)の底に残った。

《参考3》ギリシアにも洪水神話がある。①最高神ゼウスは「邪悪な人類」を滅ぼすことにした。②しかしピュラ(エピメテウスとパンドラの間にできた娘)とデウカリオン(プロメテウスの息子;ピュラの夫)とは正しい人間だったので、プロメテウスから教えられて造った箱舟に乗った。③最高神ゼウスは大雨を降らせて地上に大洪水を起こした。④箱舟に乗って助かったデウカリオンとピュラの二人が、洪水が引いたあとで、神託の教えに従って石を拾って肩越しに投げると、デウカリオンの投げた石は「男」に、ピュラの投げた石は「女」になった。
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沖田瑞穂『すごい神話』30.「世界中にある『三種の神器』――ケルト、スキタイ、日本」:三機能体系説(続々々)ケルトの運命の石、槍と剣、釜!スキタイの杯、斧、鋤と軛!日本の鏡、剣、玉!

2023-09-28 14:35:25 | 日記
※沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)第二章 言葉と音と(世界各地の「言葉」・「音」・「数字」の神話)(19~30)

(1)ケルト神話の「運命の石」(聖性)、「槍と剣」(戦闘)、「釜」(豊穣)!
デュメジルが述べた神話のもつ三機能体系はインド=ヨーロッパ語族のケルト、スキタイの「三点一組の宝物」の神話にもみられる。ケルト神話によれば女神ダナの民はアイルランド島に到達したとき、4つの宝物を持っていた。①「運命の石」リア・ラファル:正しい王がこの石に触れると石は叫び声を上げる。つまり「正しい王」を選ぶ。これはデュメジルの神聖性・主権性に関わる第一機能(「聖性」)に相当する。②ルグ神の「槍」とヌアドゥ神の「剣」(この剣で打ち倒された者は生き延びることができない)。これらは第二機能(「戦闘」)に相当する。③ダグダ神の持つ「釜」:無尽蔵に食料が出てくる。これは第三機能(「豊穣」)に相当する。

(2)スキタイの宝物:「杯」(聖性)、「斧」(戦闘)、「鋤(スキ)と軛(クビキ)」(豊穣)!
スキタイにも「三点一組の宝物」の神話がある。これもデュメジルの三機能体系のよって説明できる。イラン系遊牧民のスキタイは自分たちの神話を書き記していないが、ギリシアの歴史家ヘロドトス『歴史』がスキタイの神話を伝える。王権を持つ者は「天から落ちてきた黄金の宝物」を所有する。それらはスキタイの王家に代々受け継がれた。①黄金の「杯」:宗教的器物でありスキタイの王たちは即位に当って女神の前で神聖な飲み物を「杯」から飲む儀礼を行っていた。「杯」はデュメジルの神聖性・主権性に関わる第一機能(「聖性」)に相当する。②黄金の「斧」:これは第二機能(「戦闘」)に相当する。③黄金の「鋤(スキ)と軛(クビキ)」:これらは第三機能(「豊穣」)に相当する。

(3)日本の「三種の神器」:「鏡」(聖性)、「剣」(戦闘)、「玉」(豊穣)!   
インド=ヨーロッパ語族の「三点一組の宝物」の神話は多くがデュメジルの機能体系説で解釈できる。日本の「三種の神器」(鏡、剣、玉)もインド=ヨーロッパ語族の「三点一組の宝物」に似る。①「鏡」はアマテラスの御神体として伊勢神宮に祀られ、神道の祭祀の中心的な役割を担ってきた。「鏡」はデュメジルの神聖性・主権性に関わる第一機能(「聖性」)に相当する。②「剣」はデュメジルの第二機能(「戦闘」)に相当する。③「玉」はデュメジルの第三機能(「豊穣」)に相当する。『古事記』によれば、アマテラスはイザナキから「ミクビタマ」という玉の首飾りを与えられている。「ミクビタマ」は別名を「ミクラタナ」という。「ミクラタナ」は穀倉の棚に祭られる稲魂(イナダマ)の神を表す。「ミクビタマ」=「ミクラタナ」は稲作を代表とする農業生産にかかわる神宝だ。(Cf. 吉田敦彦『日本神話と印欧神話』1974年)

《参考1》「三種の神器」は天孫降臨 の際にアマテラス( 天照大神 )が ニニギ (瓊瓊杵尊、邇邇芸命)に授けた「八咫鏡」 ・「 天叢雲剣 ( 草薙剣 )」・ 「八尺瓊勾玉」 の総称 だ。①「八咫鏡(ヤタノカガミ)」は伊勢神宮にある御神体と、その御神体を象って作ったという皇居にある形代の2つがある。「八咫鏡」は天照大神(アマテラスオオミカミ)が天の岩屋に隠れたとき、大神の出御を願い、石凝姥命イシコリドメノミコトが作ったという鏡である。
《参考1-2》②「天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)」あるいは「草薙剣(クサナギノツルギ)」は熱田神宮にある本体と、皇居にある形代の2つがある 。「天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)」は素戔嗚尊スサノオノミコトが出雲国で八岐大蛇ヤマタノオロチを退治した時その尾から出た剣だ。後に日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東征のおり、倭姫命(ヤマトヒメノミコト)から賜ったこの剣で草をなぎ払って難を逃れたので「草薙剣(クサナギノツルギ)」と呼ばれる。
《参考1-3》③宮中に実物があるとされる「八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)」は『古事記』に最初二度登場する。(ア) スサノオがイザナギから葦原中津国を追い出された後、アマテラスに挨拶しようと思い高天原(タカマガハラ)に向かう。スサノオが向かうと山や川、国土が震えどよめく。アマテラスはスサノオが高天原を奪いに来たと考え、武装してスサノオを待ち構える。そのとき「八尺瓊勾玉」(八尺勾玉)を飾りものとして両手や首にかけ戦闘態勢をとった。結局スサノオノは「国を奪うつもりがない」ことを誓約(ウケイ)という占いで証明した。(イ)後に「アマテラスの岩戸隠れ」の際に「八尺瓊勾玉」は、「八咫鏡」とともに榊の木に掛けられた。

《参考2》フランスの比較神話学者ジョルジュ・デュメジルはインド=ヨーロッパ語族の神話は、神聖性・主権性に関わる第一機能(「聖性」)、戦闘性・力強さに関わる第二機能(「戦闘」)、多産(生産)・豊穣性・平和・美に関わる第三機能(「豊穣」)、これら三つが絡み合うことで神話世界が構築されていると指摘する。これは「三機能体系説」と呼ばれる。
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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)29.「三点一組の宝物――北欧神話とインド神話」:三機能体系説(続々)北欧神話の「腕輪」・「槌」・「牡豚」!インド神話の「聖なる牛」・「駿馬」・「車」!

2023-09-27 13:33:01 | 日記
※第二章 言葉と音と(世界各地の「言葉」・「音」・「数字」の神話)(19~30)

(1)北欧の神話:主神オーディンの「腕輪ドラウプニル」は第一機能「聖性」(神聖性・主権性)にかかわる!
神話のもつ三機能体系は、インド=ヨーロッパ語族の「三点一組の宝物」の神話にもみられる。北欧の神話には、いたずら者の神ロキがこびとのドヴェルグたちに神々の宝物を作らせた話がある。①9夜毎にそれと同じ重さの腕輪が8つ滴り出る「腕輪ドラウプニル」。これは主神オーディンのものとなった。「腕輪ドラウプニル」はデュメジルのいう第一機能「聖性」(神聖性・主権性)にかかわる。サンスクリット語で「3」は「完全」を意味する。「3」とともに「9」もインド=ヨーロッパ語族にとって重要な数字だ。「9」は「3」にさらに「3」をかけた数字だからだ。「9」は「更新」「一巡」を意味する。主神オーディンの宝物の「腕輪ドラウプニル」は滴り落ちた8つと、最初の1つを合わせて「9個」になる。これは「王権の更新」を意味し、王権を司る主神オーディンにふさわしい宝物だ。
(1)-2 戦神トールの「槌ミョルニル」は第二機能「戦闘」(戦闘性・力強さ)にかかわる!
②宝物である「槌ミョルニル」。決して的を外さず、壊れることのない槌!これは戦神トールのものとなった。「槌ミョルニル」はデュメジルのいう第二機能「戦闘」(戦闘性・力強さ)にかかわる。戦神トールにふさわしい宝物だ。
(1)-3 豊穣の神フレイの「黄金の牡豚グッリンブルスティ」は第三機能「豊穣」(多産・生産・豊穣性・平和・美)にかかわる!
③宝物である「黄金の牡豚グッリンブルスティ」。この牡豚は光り輝く剛毛で、空と海を馬よりも速く走る。これは豊穣の神フレイのものとなった。豚は多産であり豊穣の象徴だ。「黄金の牡豚グッリンブルスティ」はデュメジルのいう第三機能「豊穣」(多産・生産・豊穣性・平和・美)にかかわる。豊穣の神フレイにふさわしい宝物だ。

(2)インドの神話:神ブリハスパティ(「祈りの主」)の「聖なる如意牛」(不死の飲料アムリタを生み出す)は第一機能「聖性」(神聖性・主権性)にかかわる!
神話のもつ三機能体系は、インド神話の「三点一組の宝物」に関してもみられる。インド最古の宗教文献『リグ・ヴェーダ』には、リブと呼ばれるものづくりの三神が登場する。彼らが「三点一組の宝物」を作りだす。①神々にとって不可欠で神聖な不死の飲料アムリタを生み出す「聖なる如意牛」。これは神ブリハスパティ(「祈りの主」)のものとなった。「聖なる牛」はデュメジルのいう第一機能「聖性」(神聖性・主権性)にかかわる。
(2)-2 戦の神インドラの「駿馬」(二頭の栗毛の駿馬)は第二機能「戦闘」(戦闘性・力強さ)にかかわる!
②宝物である「二頭の栗毛の駿馬」。馬は「戦車を牽く」動物であり、これは戦の神インドラのものとなった。「駿馬」はデュメジルのいう第二機能「戦闘」(戦闘性・力強さ)にかかわる。戦車を牽く「駿馬」は戦の神インドラにふさわしい宝物だ。
(2)-3 豊穣・生産性のアシュヴィン双神の豊穣を授けて回る「乗物=車」は第三機能「豊穣」(多産・生産・豊穣性・平和・美)にかかわる!
③宝物である「馬がなくても走る乗物=車」。これはアシュヴィン双神のものとなった。「アシュヴィン双神」は瓜二つの双子神であり常に行動を共にする。「双子」は豊穣・生産性の象徴である。アシュヴィン双神の「乗物=車」はデュメジルのいう第三機能「豊穣」(多産・生産・豊穣性・平和・美)にかかわる。豊穣を授けて回る「乗物=車」(馬がなくても走る)は豊穣・生産性のアシュヴィン双神にふさわしい宝物だ。

《参考》フランスの比較神話学者ジョルジュ・デュメジルはインド=ヨーロッパ語族の神話は、神聖性・主権性に関わる第一機能(「聖性」)、戦闘性・力強さに関わる第二機能(「戦闘」)、多産・生産・豊穣性・平和・美に関わる第三機能(「豊穣」)、これら三つが絡み合うことで神話世界が構築されていると指摘する。これは「三機能体系説」と呼ばれる。
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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)28.「力や富を得るよりも、ヨーデルをうまく歌いたい――ドイツの昔話」:三機能体系説(続)白い乳漿は「魔術」(聖性)、赤は「力」、緑は「富」(豊穣)!

2023-09-26 13:14:04 | 日記
※第二章 言葉と音と(世界各地の「言葉」・「音」・「数字」の神話)(19~30)

A 「ヨーデル」という歌唱法の起源について次のようなドイツの昔話がある。牛飼いのレスがある夜、小屋で3人の妖精がチーズを作っているのを見つけた。妖精たちが「赤い乳漿(ニュウショウ)、緑の乳漿、白い乳漿のいずれを飲みたいか?」とレスにたずねた。最初の妖精が言った、「赤を選べばお前は誰にも負けぬほど強くなる。」二番目の妖精が言った、「緑を選べばお前はたくさんの黄金を手に入れとても裕福となる。」三番目の妖精が言った、「白を飲め。お前は素晴しい魔術力を持つ『ヨーデル歌い』になる。」
A-2 レスは「白い」乳漿を選び、並ぶもののない「ヨーデル歌い」となった。 
A-2-2 ヨーデルは魔術力を持つ。①すべての動物が「ヨーデル歌い」に付き従う、②小屋のテーブルや椅子が踊り、また牝牛が後ろ足で踊る、③気の荒い牝牛が和みおとなしく乳を搾られる。

B  「ヨーデル歌い」の物語は、神話についてのジョルジュ・デュメジルの「三機能体系説」にピッタリ当てはまる。「白い乳漿」は「魔術」を与える第一機能(「聖性」)、「赤の乳漿」は「力」を与える第二機能(「戦闘」)、「緑の乳漿」は「富」を与える第三機能(「豊穣」)をそれぞれ示す。これら三つが絡み合うことで昔話「ヨーデル歌い」が構築されている。
B-2  なお三機能体系のうち「魔術」を与える第一機能(「聖性」)が一番価値が高く、続いて「力」を与える第二機能(「戦闘」)、そして「富」を与える第三機能(「豊穣」)という価値の順序がある。

《参考》フランスの比較神話学者ジョルジュ・デュメジルはインド=ヨーロッパ語族の神話は、神聖性・主権性に関わる第一機能(「聖性」)、戦闘性・力強さに関わる第二機能(「戦闘」)、多産(生産)・豊穣性・平和・美に関わる第三機能(「豊穣」)、これら三つが絡み合うことで神話世界が構築されていると指摘する。これは「三機能体系説」と呼ばれる。
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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)27.「もっとも美しい女神はだれか――ギリシア神話『トロイ圏伝承』三機能体系説」:「パリスの審判」のヘラ(聖性)・アテナ(戦闘)・アプロディテ(豊穣)!

2023-09-25 10:04:24 | 日記
※第二章 言葉と音と(世界各地の「言葉」・「音」・「数字」の神話)(19~30)

A  フランスの比較神話学者ジョルジュ・デュメジルはインド=ヨーロッパ語族の神話は、神聖性・主権性に関わる第一機能(「聖性」)、戦闘性・力強さに関わる第二機能(「戦闘」)、多産(生産)・豊穣性・平和・美に関わる第三機能(「豊穣」)、これら三つが絡み合うことで神話世界が構築されていると指摘する。これは「三機能体系説」と呼ばれる。(Cf.  ジョルジュ・デュメジル『神々の構造 印欧語族三区分イデオロギー』国文社)

B ギリシアには「トロイ圏伝承」と呼ばれる「人間と神々を巻きこんだ大規模な戦争」(「トロイア戦争」)を物語る一連の叙事詩がある。この戦争の発端となった出来事(「パリスの審判」)は次のようなものだった。
B-2  結婚式が神々のもとで盛大に行われた時、「争いの女神」エリスだけが招待されなかった。これを怨んだエリスは「最も美しい女神」へと書いた黄金のリンゴを宴会場に放り込んだ。「ヘラ」(最高神ゼウスの妻で神々の女王)と「アテナ」(戦いの女神)と「アプロディテ」(美と愛欲の女神)の三女神が「誰が最も美しい女神か?」ゼウスに審判を求めたが、ゼウスはトロイの王子パリスに判定を委ねた。三女神は自分を選んだ場合の贈り物をパリスに提示した。「ヘラ」は世界の支配権を、「アテナ」はあらゆる戦闘における勝利を、そして「アプロディテ」は世界一の美女を。パリスは「アプロディテ」を選んだ。パリスは女神アプロディテの手助けによって、スパルタ王メネラウスの妻ヘレネを誘拐した。これが「トロイ戦争」の始まりとなった。

C  「パリスの審判」の物語はインド=ヨーロッパ語族の神話についてのジョルジュ・デュメジルの「三機能体系説」にピッタリ当てはまる。ヘラの贈り物である「世界の支配権」は第一機能(「聖性」)、アテナの贈り物である「戦における勝利」は第二機能(「戦闘」)、アプロディテの贈り物である「世界一の美女」は第三機能(「豊穣」)をそれぞれ示す。これら三つが絡み合うことで神話「パリスの審判」が構築されている。
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