DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

「川端 茅舎(ボウシャ)」『日本詩人全集31』(新潮社、1969年):劉生が1929年に死去し、同時に病気のため、画業を断念し茅舎は俳句に専念する!「写生」に殉じ「茅舎浄土」と呼ばれた!

2021-06-01 13:55:39 | 日記
川端茅舎(ボウシャ)(1897-1941)は少年の頃から、作句に長じた。画家を志し岸田劉生とともに画業に精進する。しかし1929年劉生が死去し、同時にその前後から茅舎は、病弱(脊椎カリエス)のため画業を断念する。その後、茅舎は俳句に専念し、「写生」に殉じ、「茅舎浄土」と呼ばれた。

(1)『川端茅舎句集』(S9、37歳)
★「秋暑し榎(エノキ)枯れたる一里塚」:一里塚には榎が植えられている。
★「葛飾の月の田圃(デンポ)を終列車」:葛飾は戦前、まだ田や畑ばかりだった。
★「芋の葉を目深に馬頭観世音」:道端の馬頭観世音は大きくない。里芋の葉が大きい。
★「夕粥や時雨し枝もうちくべて」:つましい夕粥。冬の濡れた小枝を燃やす。
★「一枚の餅のごとくに雪残る」:雪が残って、一枚の餅のようになる。
★「霜柱ひつこぬけたる長さかな」:霜柱が引っこ抜け倒れる。それ見てその長さに驚く。
★「生馬(イキウマ)の身を大根でうづめけり」:大根を全身に背負って運ぶ馬。
★「こまゞと白き歯並(ハナミ)や桜鯛」:桜鯛の白い歯並が生々しい。
★「一蝶に雪嶺の瑠璃(ルリ)ながれけり」:瑠璃色の蝶。雪嶺の瑠璃が流れたように見える。
★「若竹や鞭(ムチ)のごとくに五六本」:細い若竹が鞭のようだ。
★新盆「聖霊の茄子の形となりにけり」:お盆に飾る茄子の牛。きゅうりの馬とともに、聖霊を運ぶ。来るのは速く、「馬」!帰るのはゆっくり、「牛」!

(2)『華厳』(S14、42歳)
★「蚯蚓(ミミズ)鳴くうはの空蹈(フ)む闇路かな」:悩みに憑りつかれ「うはの空」の状況。
★「ひらゝと月光降りぬ貝割菜(カヒワリナ)」:月光がひらひら降る。貝割菜がひらひらする。
★「石段を東風(コチ)ごうゝと本門寺」:池上の本門寺。春の到来。
★「一心にでで虫進む芭蕉かな」:「でんでんむし」が一心に進む。大きな芭蕉の葉。
★「秋風に浴衣(ユカタ)は藍の濃かりけり」:秋、浴衣の藍色が濃い。
★「一聯(レン)の目刺に瓦斯(ガス)の炎かな」:食べられてしまう目刺が可哀想?or七輪でなく瓦斯で目刺を焼くモダンさ?
★「梅雨久し野は雑草の階をなす」:梅雨の長雨。雑草は伸び、段々を成す。
★「青蛙ぱっちり金の瞼(マブタ)かな」:蛙の金の瞼(マブタ)は、くっきりお洒落だ。
★「さらゝと落花つかずよ甃(イシダタミ)」:桜の花びらが石畳につかず、風にさらさらと流れる。
★「殺生(セツシヤウ)の目刺の藁(ワラ)を抜きにけり」:「殺生」の罪深さ。目刺の藁を抜く。
★「ギヤマンの如く豪華に陽炎(カゲロ)へる」:陽炎が豪華にガラス(ギヤマン)のように輝く。

(3)『白痴』(S16、44歳、逝去の年)
★「練馬野の月大胆に真つ白に」:広がる練馬野。大きな月が真っ白だ。
★「畑大根皆肩出して月浴びぬ」:夜の大根畑。大根が皆、白い肩を出している。
★「桜んぼくろき雀のあたまかな」:桜んぼが木になっている。雀が隠れ、黒い頭が見える。
★「また微熱つくつく法師もう黙れ」:治らず長い病気にいらいらしている。「つくつく法師」がうるさい。

(4)『白痴』以後
★「梅咲くや豆腐とんゝ賽(サイ)の目に」:春が来た。嬉しい気分。
★寒の日光浴「引かれたる葱のごとくに裸身なり」:干される玉ねぎに自分は似てる。
★「草餅のやはらかしとて涙ぐみ」:長期にわたる病気の辛さに耐える生活。草餅の「やはらかさ」が気持ちをほっとさせる。
★「かなかなの大音声(オンジョウ)や本門寺」:秋のかなかな。夕刻の大音声。
★「蟷螂(タウラウ)の尻の重さよ露時雨」:露がびっしりと降っている。秋も深まりカマキリが卵を産む時期だ。
★「我が魂のごとく朴(ホホ)咲き病よし」:白い朴の花は私の魂。今は心安らかだ。
★「朴散華(サンゲ)即ちしれぬ行方かな」:散った花びらの行方が分からない。死後の私(の魂)の行方もわからない。
★「石枕してわれ蝉か泣き時雨」:蝉のように、ただひたすら泣くばかり。古墳時代、石枕(イシマクラ/セキチン)によって遺体の頭部を安置した。それに似て、私は寝たきりだ。死は遠くない。

(5)茅舎句補遺
★「葬儀社のがらんどうなる寒さかな」:寒い冬だ。死はなにもなく「がらんどう」だ。
★「萍(ウキクサ)や水にひたひた板の橋」:夏の板の橋。池に浮草があり、「ひたひた」と橋に寄せる。
★「朧夜(オボロヨ)の光る星あるは淋しけれ」:朧月の夜は、普通、星が見えない。ところが一つだけ「光る星」が見える。淋しい。
★「冬木立ランプ点(トモ)して雑貨店」:寒い冬の夜、淋しい雑貨店。Cf. 雑貨店主にとっては商売で、別に淋しくない。生活の戦いだ。
★「蛍籠(ホタルカゴ)大きな月が覗きけり」:蛍の小さな光。大きな月の明るい光。
★「行春や灯(ヒ)は常明(ジョウミョウ)の観世音」:「常明」は神仏の前に絶えずともしておく灯。常灯明。過ぎ去るこの世。時間を超える永遠の観世音。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする