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「西東 三鬼(サイトウ サンキ)」『日本詩人全集31』(新潮社、1969年):S15(40歳)三鬼の第1句集『旗』刊行!この年、『京大俳句』から相次いで検挙者が出る!三鬼も検挙される!

2021-06-06 14:16:12 | 日記
西東三鬼(サイトウサンキ)(1900-1962)は岡山県津山出身。歯科医師となりT14(25歳)、シンガポールに移住。コスモポリタンのダンディズムを身につける。S3(28歳)、東京に戻る。S8(33歳)、初めて俳句を作る。彼は高浜虚子『ホトトギス』の世界と無関係に天馬空を行く如く自己の俳句を確立した。S9新興俳句勃興の時期、その気運に乗じ三鬼は句作に没頭した。S10 『京大俳句』に加わる。S15(40歳)三鬼の第1句集『旗』刊行。この年、『京大俳句』が共産主義運動の嫌疑を受け、相次いで検挙者が出る。三鬼も検挙されるが、起訴猶予となる。その後、戦争中、三鬼は俳句を離れた。

(1)『旗』(S15、40歳):三鬼の戦争俳句は、俳人たちから指弾された!「見てきたような嘘をつく」講釈師的だ!「ぬくぬくと家にこもって、血を流す同胞をもてあそぶ」!
★「水枕ガバリと寒い海がある」:熱がある時、頭を冷やす水枕はゴム製でガバガバしている。
★「兵隊がゆく真つ黒い汽車に乗り」:不吉な死の黒色。あるいは敵兵を殺す殺意の黒色。(Cf. 《国家当局or時代》が要求する《国土or国民or国家》防衛の愛国心について詠わない。)
★「機関銃天ニ群ガリ相対ス」:航空戦の描写だ。
★「砲音に鳥獣魚介冷え曇る」:反戦の立場。
★「悉く地べたに膝を抱けり捕虜」:捕虜の運命は過酷だ。
★「逆襲ノ女兵士ヲ狙ヒ撃テ!」:一般に軍隊に性的暴行・虐殺は不可避だ。人間の非道性。
★「闇を馳け騎兵集団の馬の眼玉」:人は命を懸け、馬も必死に走る。
(2)『空港』(S15、40歳):『旗』からの抜粋と新作からなる!
★「寒夜明るし別れて少女馳け出だす」:寒夜の密会。
★「滝青し合ひ離れ合ふ眼に落つる」:男女二人で滝を見ている。二人の視線が「合ひ離れ合ふ」!

(3)『夜の桃』(S23、48歳):戦後の思想解放とともに三鬼、俳句に復活!深夜、枕頭の句帳を手繰りよせ俳句を書く俳句執念の鬼となる!三鬼俳句の第2のピーク!
★「寒燈の一つ一つよ国敗れ」:敗戦の冬。一つ一つの灯のもと、人々が苦労し暮らす。
★「恋猫と語る女は憎むべし」:恋多き女。自分(男)に飽き、別の男と恋をする。
★「飢えてみな親しや野分遠くより」:食糧難で助け合う。空は荒れ模様。
★「倒れたる案山子の顔の上に天」:人為の非力。天は人を超える。
★「元日を白く寒しと昼寐たり」:食糧難・焦土の正月。寝るしかない。
★「雑炊や猫に孤独といふものなし」:猫の意味世界は人間と異なる。猫は食べていれば満足。
★「緑陰に刈落とされし髪のこる」:自分の一部が、分身として緑陰に落ちて残る。
★「灯を消せば我が体のみの秋の闇」:視覚が働かない。触覚が主となる。「灯を消せば我が体のみ」だ。味覚・嗅覚・聴覚もめだたない。思念・感情は穏やかだ。
(4)『今日』(S26、51歳):三鬼、生活に敗れ、大阪郊外の公病院の歯科に在勤!
★「春の昼樹液したたり地を濡らす」:不穏な春。
★「穴掘りの脳天が見え雪ちらつく」:深い穴を掘る。冬の過酷な労働。
★「雪国や女を買はず菓子買はず」:雪が深い。出かけない。「女」も「菓子」も買わない。
★「石の上に踊るかまきり風もなし」:秋の日。石の上にカマキリが居る。
★「歩くのみの冬蠅ナイフあれば舐め」:ナイフの上を歩く冬蠅。舐めているようだ。
★「ボートの腹真赤に塗るは愉快ならむ」:確かに愉快だろう!

(5)『変身』(S37、62歳):三鬼、S31(56歳)、歯科勤務をやめ、プロ俳人の道を選び身一つで東京に出る!
★「蜘蛛の糸の黄金消えし冬の暮」:生命の輝きである「蜘蛛の糸の黄金」!
★「やはらかき蝉生まれきて岩つかむ」:蝉の脱皮が岩の上で行われた。
★「群集のためよろよろと花火昇る」:「群集」が待つので、花火がみずから叱咤し「よろよろ」と昇る。
★「満天に不幸きらめく降誕祭」:クリスマス、満天に不幸がきらめく。三鬼が不幸だ。
★「向日葵(ヒマワリ)播き雲の上なる日を探す」:「向日葵」が「日」を欲しがる。曇りで「日」が出ていない。
★「枝の蛇そのまた上の鰯雲」:上方の「枝」に「蛇」がいる。さらにその上方に「鰯」がいる。
★「雨の珠耳朶(ジダ)にきらめく労働祭」:雨のメーデー。「きらめく」労働祭!
★「寒月下の恋双頭の犬となりぬ」:犬の交尾。「恋」と言っても即物的だ。抒情的でない。
(6)変身以後(S37、62歳):三鬼、この年、4月死去(胃癌の手術後、血清肝炎による)!
★「海に足浸る三日月に首吊らば」:胃癌の手術をし、三鬼は死を考えた。もし三日月で首を吊れば、足が海に浸るだろう。
★「切り捨てし胃の腑かわいや秋の暮」:自分の一部であったが、手術で切除された「胃の腑」を見る。
★絶句「春を病み松の根つ子も見あきたり」:病臥して見えるのは「松の根つ子」ばかりだ。
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