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河合雅雄『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』(その7)「第12章」:「人間」の「殺戮の習性」や「食人の風習」は「サル類」から受けついだ!チンパンジーは「仲間の子どもの肉食」を楽しむ!

2021-06-30 20:30:37 | 日記
※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)

第12章 自然の掟を破ったもの:人間の「同族殺害」は「大悪」である!(225-242頁)
(13)「攻撃性」は、「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)であって、「“性”と密着している生得的な性質」である!
M コンラート・ローレンツ(1903-1989)『攻撃』(1963)は、「攻撃性」が「“性”と密着している生得的な性質」であることを証明した。(228頁)
M-2 例えばシカの雄は秋の発情期に交尾テリトリーを作り、侵入してくる雄と戦い、雌を占有しようとする。これは「種の保存」のために「遺伝的に組み込まれたプログラム」(「本能」)が命ずる行動であって、「個体の意志」と無関係に雄ジカは戦い、種つけに邁進する。シカの雄は「進化」という「造物主の命」に従っている。(229頁)

(13)-2 「攻撃性を抑制する機構」:(ア) 形態の安全化、(イ)「武器となる形態」をシンボル化する、(ウ)闘争の行動を「儀式化」する、(エ)「転移行動」!
M-2-2 だが同時に「種の維持」(「個体群の維持」)のためには雄の「攻撃性を抑制する機構」がなければならない。(ア)形態の安全化:角を絡み合わせ戦うシカの角は枝分かれし、角が滑って相手を傷つけないように進化した。あるいは角の先端が扁平で巨大になった。さらに(イ) 「武器となる形態」をシンボル化する:角が闘争のシンボルとなり、より巨大な角を持った雄を優位な雄として認め無益な闘争を回避する。(ウ)闘争の行動を「儀式化」する:例えばダマジカでは「闘争の際、劣位者は横に寝転がって白い横腹を見せる。すると優位の雄は闘争を停止する。」(エ)「転移行動」:例えばアナウサギの雄は闘争で勢力が伯仲すると、戦いの相手を無視し急に穴掘りを始める。かくて闘争が鎮静する。(229-231頁)

(13)-3 動物社会の鉄則:「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」!人間の「同族殺害」は「大悪」である!
M-3 こうしてローレンツは「同じ種類の仲間を殺さない、食べない」というのが「動物社会の鉄則」だと言う。(232頁)
M-3-2 だが人間はこの「自然の掟」を破る。個人的怨恨による殺人、ナチスによるユダヤ人大量虐殺、戦争、核爆弾による無差別大量虐殺など。いずれにせよ「同族殺害」は動物社会の鉄則に反する「大悪」である。(232頁)

(13)-4 人間界の「食人」の風習は宗教的・儀式的だった?!
M-3-3 「仲間を食べる」という「食人」の風習は人間界で広く行われていた。(イ)北京原人が人間の脳を食べる(or取り出す)ため頭骨の大後頭孔を大きく広げた。(イ)ネアンデルタール人(5万5000年前):脳を取り出した(or食べた)頭骨が出たが、頭骨の周りに石を輪のように並べてあったので、儀式的・宗教的な食人だったと思われる。(233-234頁)
M-3-4 「宗教」的な理由からであれ、「食物」としてであれ、人間は「人間の肉」を食べた長い歴史を持つ。(234頁)

(13)-5 「サル類の肉食」!
M-4 だが「仲間を殺し、仲間を食べる」ことは既にサル類に見られる。サル類は「動物社会の鉄則」をはずれる。「人間」の「殺戮の習性」や「食人の風習」は、「サル類」から受けついできた「原罪」だ。(以下詳しく見る。)(234頁)
M-4-2 さてサル類(真猿類)の食性は主として植物食だ。「雑食」と言われるもの(Ex. ニホンザル)もいるが動物食はおやつ程度だ。(Ex. 小動物、昆虫)長い間、このように考えられてきた。(234頁)
M-4-3 だがサバンナヒヒがガゼルの子を獲って食べる、ブルーモンキーがリスを頭からかじるなど、「サル類の肉食」が今は、多く発見されている。(235頁)

(13)-6 チンパンジーの肉食:「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない」!チンパンジーは動物の「脳」を好む!
M-5 「チンパンジーの肉食」はかなりの頻度で起こる。「チンパンジーはしばしば協同して、けものを囲み、巧みに捕獲する。それは人類の原始的な狩猟と何ら異なるところがない。」(235頁)
M-5-2  「チンパンジーは捕らえた獲物を分配し、死体のほとんどすべてを食べてしまう。」「最も好むのは脳である。大後頭孔に指をつっこんで脳を食べるし、歯で前頭部に穴をあけて頭蓋腔をえぐってなめる。」(235頁)
M-5-3  チンパンジーのこのような行動を見ると「古人類が脳を食べたことに驚くことはない。それは化石類人猿から人類が継承した行動に他ならない。」(235頁)
(13)-6-2 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い!
M-5-4 チンパンジーの狩猟と肉食は「遊びと嗜好の要素」が強い。一般に「サルは動物をからかったりいじめたりするのが、大好きだ」。(Ex. 飼ったサルが犬や猫をからかう。Ex. 幸島コウジマのサルが鶏をいじめては楽しんでいた。)(236頁)
M-5-5 「サルの動物相手のいたずら遊びに攻撃性が結びつき、つかまえて殺してしまう」。そして「いったん食べるとその味が忘れられず、つぎは食べるために動物をとらえる、ということに発展していく。」(236頁)
(13)-6-3 チンパンジーは「仲間の子どもの肉食」を楽しむ風習がある!
M-5-6 チンパンジーは「子どもの肉食を楽しむ風習がある」。「《同じ集団の雌》の子を雄が殺し、しかもそれを食べる」。さらに「雌もまた《他集団からきた雌》の子どもを殺し、それを食べる」(241頁)
M-5-6-2 「殺した子」の食べ方:チンパンジーの雄と雌、どちらの場合も、殺害者のまわりに他の個体が集まって物乞いし、「殺した子」の肉は何頭かに分配される。チンパンジーたちは「殺した子」を食べるとき、木の葉をちぎっては食べる。つまり彼らは、「肉とともに野菜を食べる」という、本格的な食事を楽しんでいる。(241頁)
M-5-6-3 「彼らチンパンジーが住むブドンゴの森は、イチジクなどの果実が豊富に実り、食物にはことかかない。」となるとチンパンジーは「[仲間の]子どもの肉食を楽しむ風習がある」と言ってよい。(241頁)
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河合雅雄『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』(その6-3):「第11章」《参考》ゲラダヒヒは「争うことをさけている平和主義のサル」だ!

2021-06-30 10:04:31 | 日記
※河合雅雄(1924-2021)『森林がサルを生んだ・原罪の自然誌』1977年(53歳)

《参考》河合雅雄(兵庫県立人と自然の博物館名誉館長)「争うことをさけている平和主義のサル」(『共生のひろば』9号, 1-6, 2014年3月)(90歳)
(1)エチオピアでのゲラダヒヒ:霊長類の社会構造を支えるはずの「順位制」と「テリトリー制」の欠如!
私は霊長類社会学で従来の定説を破る現象に出会って驚嘆したことがある。それはエチオピアでのゲラダヒヒの研究においてである。従来は、霊長類の社会構造を支える大きな柱は、「順位制」と「テリトリー制」だとされてきた。つまり、群れ社会では、個体間には順位があり、それが集団を秩序づけている大きな柱になっており、また、群れと群れはおのおの自分のテリトリーを持ち対立しているということである。これまでよく研究されてきたニホンザル、アカゲザルらのマカカ類やアヌビスヒヒ、それにチンパンジーもこの原則に従っていた。ところがゲラダヒヒの社会では、この定説が通じないことがわかったのである

(2)ゲラダヒヒの「バンド」(Cf. 「群れ」):おとなの雄(「ユニット」のリーダー)間に順位がない!
ゲラダヒヒは、重層社会という特異な社会構造をもっている。リーダー雄を中心に、複数の雌と子どもたちから成るグループを「ワンメイル・ユニット」、略して「ユニット」と呼ぶが、これらユニットが集合して大きな集団を作る。この集団を「バンド」と呼ぶ。ニホンザルの「群れ」に相当する集団である。バンドは複数のユニットから成るから、バンドの中には複数のおとな雄(リーダー雄)がいることになる。「これらのおとな雄間には、当然順位がついており、その順位秩序によって複数のユニットが共存できる」というのが従来の考え方であった。ところが、驚くべきことにはおとなの雄(ユニットのリーダー)間に順位がないのである。初めはこのことが信じられなかった。
(2)-2 ゲラダヒヒ:「バンド」(Cf. 「群れ」)内の「ユニット」どうしの間にも順位がない!
ということは、「ユニット」どうしの間にも順位がなく、ユニットとユニットは同格平等だということである。その証拠を示す現象がいくつか観察された。顕著な証拠の一つは「水飲み場」で見られた。セミエン高地は水飲み場が少ない。とくに乾季の終わり頃になると、水飲み場は減少し、台地の上には数か所しかなくなる。「バンド」は台地の上を採食しながら遊動しているが、水飲み場にさしかかると水を飲む。従来の順位社会での考え方だと、優位なユニットの順に水を飲むということだった。ところが「ゲラダヒヒのバンド社会ではユニットの間に順位がない」ので先着順に水を飲むのである。ほかのユニットは順番を待っておとなしく待機している。
(2)-3 ゲラダヒヒ:「バンド」(Cf. 「群れ」)は、「ユニット間の順位秩序」でなく「ユニット間は平等対等だという原理」によって成立している!
初めてこの状況を見たときは、信じられなかった。ニホンザルやチンパンジーなどの「順位社会」になれている身には、じつに奇妙な風景であった。「ユニット」間に順位がないということは、「バンド」の成立に今までとはまるで変った観点が必要だということである。つまり、「バンド」は「ユニット間の順位秩序」によって成立しているのではなくて、全く正反対の原理である、「ユニット間は平等対等だという原理」によって成立しているということである。ゲラダヒヒの社会は、できるだけ個体間及び集団間の争いをさけ、協調を主軸にした平和な社会を作っている。もちろん個体は嫌なことや腹が立つことがある。だがそれらを抑制する社会行動が発達している。

(3)ゲラダヒヒの雄・雌、主食、「ユニット」、「バンド」(Cf. 「群れ」)!
《1》ゲラダヒヒのおとなの雄:首、胸部、鼠径部は赤い皮膚が露出している。おとなの雌:乳房がある。
《2》赤道に近いが、高所なので朝は-2度、北壁には氷がついている。ゲラダヒヒは水分の補給に氷を食べる。主食はイネ科の草、指で切り取り、口へ運ぶ
《3》「ユニット」:1頭のリーダー雄を中心に、数頭の雌と子どもよりなる。ユニットの社会構造:(a)ユニットの雌間には順位がある。順位1の雌はリーダーとは強い親和関係がある。(b)ときにセカンド雄がいる。彼はリーダーの補佐役である。1頭のガールフレンドが許され、彼女とは仲がよい。しかし、交尾権はリーダーにある。
《4》「バンド」(Cf. 「群れ」)の社会構造:複数のユニット、フリーランスの雄、若雄グループよりなる。
(3)-2 個体は嫌なことや腹が立つことがあるが、それらを抑制する社会行動が発達している!
《5》(ア)セカンド雄をリーダーが睨む。セカンド雄は上唇をまくり上げ、上あごの歯肉を見せて恐縮の意を表す。(イ)リーダー雄の前を通るセカンド雄。片足を上げてあいさつする。
(ウ)子どもがリーダーに叱られた。叱られた子どもは、リーダーの前に立って「すみません」の意を表す。
(エ)若者がリーダーに叱られた。若者はアカンボウを抱き、敵意がないことを示す。
(オ)リーダーが大口を開ける。あくびではない。鋭くて長い牙を見せ、威嚇を表す。
《6》(カ)雌はときに浮気を起こし、他のユニットのリーダーに接近することがある。それに気づいたリーダー雄は、まぶたの白い部分を見せ、怒りの表情を見せる。
(キ)雌を連れ戻しに出かけるリーダー: 浮気雌を見つけ、叱る。雌は「すみません」とばかり、上唇をまくり上げ(リップロール)て、恭順の意を表す。雌は尻をリーダーに向け、降服の意を表す。リーダーは叱らず、雌を抱きしめてエロチックな発声をし、雌を許す。決して咬みついたり、蹴とばしたりの攻撃行動はとらない。
《7》(キ)ユニットのリーダー同士の対決。お互いの目を見つめない。喧嘩はしない。引き分けに終る。

(4)ある地方のゲラダヒヒ:A、E、Kの3つの「バンド」!
ある地方に、A、E、Kの3つの「バンド」が生息していた。ニホンザルやチンパンジーなど今まで知られている霊長類では、集団は「テリトリー」(なわばり)を持ち、お互いに対立している。テリトリー境界では自領を守るために、隣接集団は相争う、というのが定説であった。
(4)-2 ゲラダヒヒのA、E、Kの3つの「バンド」:テリトリー性が皆無で、それどころかジョイントするという親和的関係!
ある日、Aバンドが山を降り、谷を越えてEバンドの方に向かって移動を始めた。AとEはテリトリー境界で戦いが起こると私は興奮し、カメラを構えてこの戦いを撮影しようと待ち構えた。2つのバンドは接近し、あわや戦いが始まるかと思ったら、全く予想に反して何の摩擦もなく、2つのバンドはジョイントしてしまった。そして、大集団となり、東のKバンドに向かった。Kバンドとも何の摩擦もなくジョイントし、さらに大集団を作って移動した。そして5日後、バンド集団は解け、K、E、Aとそれぞれの行動域におさまった。テリトリー性が皆無で、それどころかジョイントするという親和的関係に、私はしばし唖然として立ちつくした。
(4)-3 ゲラダヒヒ社会:「テリトリー」性がないとともに「集団」(バンド)間の対立がない!
霊長類の中で「テリトリー」性がないのは唯一ゴリラだけであった。だがゴリラの「群れ」は強く対立し、遭遇すると激しく戦った。しかし、ゲラダヒヒ社会のように「テリトリー」性がないとともに「集団」(バンド)間の対立がないという種は初めての発見であった。

(5)霊長類社会には、①攻撃性と競争、対立を基調とする社会と、②親和性と協調、共同を基調とする社会の2つの系列がある!
その後、研究の進展により、「親和性と協調性を主軸にした平和主義のサル」として、ゲラダヒヒのほかに、ボノボ、チベットモンキー、ベニガオザル、キンシコウなどが発見された。これらのことから霊長類社会には、①攻撃性と競争、対立を基調とする社会と、②親和性と協調、共同を基調とする社会の2つの系列があることが明らかになった。
(5)-2 霊長類の進化によって誕生したヒトは、霊長類社会の2系列(①攻撃性、②親和性)の性質を内包した存在である!
ヒトは霊長類の進化によって誕生した特異な動物である。ヒトの特異性の一つは、以上の霊長類社会の2系列の性質を内包した存在だということである。霊長類社会の2系列は「ヒトとは何か?」という問いかけに答えるための大きな基盤を提供したといえる。その意味で、ゲラダヒヒ社会の解明は大きな役割を演じたといえるだろう。
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