DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)11.「人口過剰は戦争でも調整することも――インド神話『大地の重荷』」:「クルクシュートラの大戦争」で多くの戦士が死んだ(『マハーバーラタ』)!

2023-08-31 12:03:35 | 日記
(1)古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』:戦争で人口が調整され、「大地の重荷」は取り除かれた!
「増えすぎた人類を戦争で減らす」という神話がある。古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』の主題である大戦争がまさにそれだ。4つの宇宙期(ユガ)の最初、クリタ・ユガの時代に大地はくまなく多くの生類によって満たされていた。その頃、神々との戦いに敗れたアスラ(悪魔)たちが天界より落とされて、人間や様々な動物に生まれ変わった。ある者は力ある人間の王として生まれ変わり、力に奢り、かくて「大地の女神」は苦しめられた。創造主の「ブラフマー神」は大地女神の悩みを知って、全ての神々に「大地の重荷を取り除くために、それぞれの分身によって地上に子を造りなさい」と命じた。人間が増えてやがて地上において「クルクシュートラの大戦争」が行われ多くの戦士(人間)が死んだ。こうして戦争で人口が調整され、「大地の重荷」は取り除かれた。

《参考1》『マハーバーラタ』(バラタ族の戦争を物語る大史詩):バラタ族のパーンドゥ王の息子である五王子(パーンダヴァ)7軍団と、その従兄弟である百王子(カウラヴァ)11軍団の間の、クル国の継承を懸けたクル・クシェートラ(クル平原)における大戦争を本題とする。18日間の凄惨な戦闘の末、戦いはパーンダヴァ側の勝利に終わるが、両軍ともに甚大な被害を出す。(この戦いで百王子は全滅した。)本題は全編の約5分の1にすぎず、その間に神話、伝説、宗教、哲学、道徳などに関する多数の挿話を含む。Ex. ヒンドゥー教の 宗教哲学的聖典『バガバッド・ギーター』など。
《参考2》『ラーマーヤナ』(ラーマ王行状記):古代インドの長編叙事詩。ヒンドゥー教の聖典の一つ。『マハーバーラタ』と並ぶインド2大叙事詩。ラーマ王子が、誘拐された妻シーターを奪還すべく大軍を率いて、ラークシャサの王ラーヴァナに挑む姿を描く。

(2)数の増えすぎた人間の重みに耐えかねた「大地の女神」の嘆願:ゼウスは「トロイ戦争」を起こし多くの人間を殺し大地の負担を軽減した!
ギリシア神話は「トロイ戦争の発端が、大地の女神のゼウスへの嘆願である」と述べる。あまりにも数の増えすぎた人間の重みに耐えかねた「大地の女神」が、その重みを軽減してくれるようにゼウスに嘆願した。ゼウスは「トロイ戦争」(Cf. 英雄アキレウス、絶世の美女ヘレネ)を起して多くの人間を殺し、大地の負担を軽減した。
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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)10.「『ノアの箱舟』は二次創作?――『ギルガメシュ叙事詩』の『洪水』神話」:神々は「数の増えすぎた人間」を滅ぼすことにした!

2023-08-30 15:31:07 | 日記
(1)
メソポタミアからギリシア、インドにかけて分布している洪水神話は起源が同じで、メソポタミアの『ギルガメシュ叙事詩』がもとになっている。
《参考》『ギルガメシュ叙事詩』:古代オリエントで広く流布した英雄叙事詩。実在の王とみられるギルガメシュGilgameshをもとに作られた。3分の2が神で3分の1が人間の「ギルガメシュ」、野人「エンキドゥ」、美の女神「イシュタル」らが登場する。
(1)-2
『ギルガメシュ叙事詩』の洪水神話によると、①神々は「数の増えすぎた人間」を滅ぼすことにした。②情け深いエア神が、賢者であった人間のウトナピシュティムに秘かにそのことを知らせ、大きな箱の形の船をつくり洪水を逃れるように教えた。ウトナピシュティムは船を造り、その中にすべての生き物の雄と雌を入れ、自分も家族と一緒に乗り込んだ。③次の日から6日と6晩、大洪水が地上を襲った。④箱舟はニシルという山の上に留まった。⑤ウトナピシュティムは船からまず(ア)「鳩」を放したが地上のどこにも休む場所を見つけられず船に戻ってきた。しばらくして(イ)「燕」を放したが、燕も戻ってきた。またしばらくして(ウ)「大烏」を放すと、水の引いた地面に食べ物を見つけたので帰って来なかった。⑥洪水が終わったことを知り、ウトナピシュティムは、生き物たちを放し、家族とともに箱舟から出て、香を焚いて神々に感謝の祈りをささげた。

(2)
『ギルガメシュ叙事詩』の洪水神話の影響を受けて、『旧約聖書』「創世記」の「ノアの洪水」の話ができた。①「主」は「地上に人の悪が増し、常に悪いことばかりを心に思い計っている」のをご覧になって、「人を地上から消し去ろう」と決めた。②しかしノアは主の好意を得た。主はノアに言った。「大きな箱舟をつくり妻子や嫁たちと共に舟に入りなさい。また舟の中にすべての生き物を、雄と雌を入れ生き延びるようにしなさい。」③洪水は40日間地上を覆った。水は150日の間、地上で勢いを失わなかった。④箱舟はアララト山の上にとまった。⑤ノアは箱舟からまず(ア)「烏」を放したが水の上を行ったり来たりするだけだった。次に(イ)「鳩」を放ったが地上のどこにも休む場所を見つけられなかったので船に戻ってきた。(イ)-2 ノアはさらに待って再び「鳩」を放った。鳩はオリーブの枝をくわえて戻ってきた。(ウ)さらに7日待ち、また「鳩」を放つと今度は戻ってこなかった。⑥ノアは洪水が終わったことを知り、家族とともに箱舟から出て、祭壇を築き感謝の祈りをささげた。主はノアとその息子たちに「今後ふたたび洪水が世界を滅ぼすことはない」と言い、その印として「虹」が空にかけられた。

(3)
ギリシアの洪水神話もメソポタミアの洪水神話からの影響を受けて成立した。①最高神ゼウスは「邪悪だった人類」を滅ぼすことにした。②しかしデウカリオン(プロメテウスの息子)とピュラ(エピメテウスとパンドラの間にできた娘)は正しい人間だったので、プロメテウスから教えられて造った箱舟に乗った。③最高神ゼウスは大雨を降らせて地上に大洪水を起こした。⑥洪水が引いたあとでデウカリオンとピュラの二人は、神託の教えに従って、石を拾って肩越しに投げると、デウカリオンの投げた石は「男」に、ピュラの投げた石は「女」になった。
(3)-2
ギリシアの洪水神話も①最高神が洪水で人類滅亡を計画すること、②神に選ばれた一組の男女が洪水を逃れて、⑥人類の祖先となったことなどで、『ギルガメシュ叙事詩』の洪水神話の影響を受けている。

《参考》オウィディウス(前43-後18)『変身物語』(上)「巻1」(7)「デウカリオンとピュラ」:大洪水でデウカリオンとその妻ピュラだけが死ななかった!投げた石から新しい人間が生まれた!
(A)デウカリオンとピュラ!
ユピテルは人類を滅ぼすため大洪水を起こしたが、デウカリオンという男とその妻ピュラ二人だけが、パルナソスというひときわ高い山の頂に、小さな筏(イカダ)に乗ってたどり着き助かった。デウカリオンは正義を愛する男であり、ピュラは敬神の心あつい女だった。彼らのために、ユピテルは大洪水を終わらせた。
(B)テミス女神の神託!
世界は復旧したが、そこは空漠な荒れ果てた大地で、深い静けさが包んでいた。「今や、人類は、私たち二人が残っているだけだ。」デウカリオンが言い、妻ピュラとともに泣いた。助けを求め二人は聖なるテミス女神の神殿で祈った。テミス女神は「大いなる母の骨を、背後に投げよ!」という神託を授けた。(プロメテウスの子)デウカリオンが、(エピテウスの娘)ピュラに言った。「『大いなる母』とは大地のことだ。『骨』とは大地のふところに包まれた石のことだ。テミス女神は『石を背後に投げよ』とわれわれに命じたのだ!」
(C)投げた石から新しい人間が生まれた!
2人は神殿を出て、それぞれが石をうしろの方へ投げた。すると石はしだいに柔らかくなり、また外形も徐々に大きくなっていった。そして神の思召(オボシメ)しによって、男の手で投げられた石は男の姿をとり、女が投げた石からは女が新生した。そういうわけで、われわれ人間は石のように頑健で、労苦に耐える種族となった。

(4)
インドにも洪水の神話がある。人間の祖先にマヌという人がいた。マヌが水を使っていると彼の手の中に一匹の魚が入ってきた。②魚は自分を飼ってくれるように頼み、「もし飼ってくれたら、やがて起こる洪水の時に助けてあげます」と言った。マヌは魚を飼ってやることにした。その時、魚が言った。「これこれの年に洪水が起こります。その時までに船を作っておきなさい」。マヌは全て魚に言われた通りにして魚を育て、大きくなると海に放してやった。③やがて魚が伝えた年になり、洪水が起きた。マヌが作っておいた船に乗ると魚がやって来たので、マヌはその魚の角に船の縄を結びつけた。④魚は北方の山、ヒマーラヤに箱舟を導いた。⑤魚が言った。「約束どおり、あなたをお救いしました。これからは、水が引くにしたがって、少しずつ山を降りてください」。⑥洪水は全ての生き物たちを滅ぼし、世界にはマヌだけが残っていた。マヌは「どうしても子孫がほしい」と願った。彼は神々を讃え、儀式を行って、水の中にグリタという乳製品などをそなえた。1年が経つとグリタからひとりの乙女があらわれた。乙女はマヌのもとへ行き、娘であると名乗った。こうしてマヌとこの乙女が始祖となってふたたび地上に人類があふれた。

(5)
オリエント(orメソポタミア)からギリシア、インドの洪水神話の系統とは別に、東アジアから東南アジアにも洪水神話がある。中国のミャオ族の洪水神話によれば、大昔、「雷さま」が暴れ回るので、ある男がさすまたで捕らえて鉄の檻に閉じ込めた。ある日、男が留守をするとき、二人の男女の子供(きょうだい)に見張りを命じ、「決して水を与えてはいけない」と言いつけた。雷さまがあまりに苦しそうに水を求めたので、「きょうだい」はついに同情して「一滴の水」を雷さまに与えた。そのとたん雷さまは檻をやぶって飛び出し、天空に昇っていった。その時。雷さまは自分の「歯」を抜いて、それを植えるように言い残した。戻ってきた父親は、驚いて船を造りはじめた。きょうだいが雷さまの歯を植えるとたちまち生長し、大きな「瓢(フクベ)」の実がなった。まもなく大雨が降って大洪水になり、船に乗った父も人々もみな溺死した。瓢(フクベ)の中に入った「きょうだい」だけが助かり、のちに結婚してひとつの肉塊を産んだ。それを細かく切って撒くと、人間に変わった。
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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)9.「人口過剰は洪水で解決する――インドネシアの『洪水』神話」:「洪水」が起こり「一組の男女」をのぞいて人類が滅亡した!

2023-08-29 14:38:37 | 日記
(1)スラウェシ島の「洪水」神話:人類は原初の海の中の「孤島」に降りてきた「一組の男女」から発祥した!
インドネシアのスラウェシ島の「洪水」神話は「『洪水』が起こり、『一組の男女』をのぞいて人類が滅亡した」と述べる。①人類は原初の海の中の「孤島」に降りてきた「一組の男女」から発祥した。何か必要なものがあれば、夫が天に昇って天の神からもらってきていた。やがて男は地上で農耕を始めたので、天地の結びつきはなくなった。
《感想1》『古事記』では伊邪那岐・伊邪那美の二神が「淤能碁呂島」(オノコロジマ)に降り、男女(神)として目合った(性交した)ことで国生み、神生みがなされた。他方、人間が「命ある青人草(あおひとくさ)」として「葦原の中つ国」で繫栄した。Cf. 黄泉の国から逃げ帰る途中、イザナキは追ってきた亡者たちに「魔よけの呪力を持つ桃の実」を投げつけることによって命拾いする。そこでイザナキは、その桃の実に言った。「汝よ、われを助けたごとくに、葦原の中つ国に生きるところの、命ある青人草(あおひとくさ)(※人間)が、苦しみの瀬に落ちて患い悩む時に、どうか助けてやってくれ」。

(1)-2 人間は年を取ると「脱皮」して若返っていた!
この時代、②天の神は人間の死を認めなかった。人間は年を取ると「脱皮」して若返っていた。その結果、地上は人間であふれ争いが増えた。
《感想1-2》「脱皮型」死の起源神話は、蛇の脱皮を「若返り」つまり「不死」ととらえ、人間は「脱皮」することがなくなったので「死ぬ」運命となったと述べる。
(1)-2-3 「洪水」による人類滅亡:「一組の男女」のみ生き残る!
②-2 だがやがて「洪水」が起こり、「一組の男女」をのぞいて人類は滅亡した。
《感想1-2-3》『旧約聖書』「創世記」(6-9章)の「ノアの方舟」の大洪水神話では、洪水後に生き残るのは「ノアとその妻、三人の息子とそれぞれの妻」だ。Cf. ノアはすべての「動物のつがい」も方舟に乗せた。

(1)-3 「バナナ」(死)と「小エビ」(不死)!
③「一組の男女」の乗った船は水とともに天に昇った。天神は二人に「小エビ」を与えたが二人は食べなかった。次に「バナナ」を与えたところ、二人は食べた。二人は「小エビ」を食べなかったので「脱皮」して不死になることがなかった。
《感想1-3》インドネシアの「バナナ型」の死の起源神話では不死の「石」を選ばず、「バナナ」を選んだので不死でなくなったとする。ただし人間は(個体として)死んでも愛により子を持ち(種として)存続して行く。
《参考》大山津見神(オオヤマツミ)の娘である磐長姫(イワナガヒメ)は木花咲耶姫( コノハナサクヤヒメ)とともに天孫・邇邇芸命(ニニギノミコト)の元に嫁ぐが、姉の磐長姫は醜かったことから父の元に送り返された。大山津見神はそれを怒り「磐長姫を差し上げたのは天孫が岩のように永遠のもの(不死)となるためであり、木花咲耶姫を差し上げたのは天孫が花のように繁栄するためである」、だが磐長姫を送り返したことで天孫(代々の天皇)が不死でなくなると告げた。磐長姫は「岩のような永遠性(不死)」を象徴する。木花咲耶姫と磐長姫の話も「バナナ型」神話だ。

(2)「不死」による人口過剰は「死の女神ムリトゥユ」によって解決される:インド神話『マハーバーラタ』!
「不死」による人口過剰の話はインド神話『マハーバーラタ』にもある。ここでは人口過剰は「洪水」でなく「死の女神」によって解決される。すなわち創造神ブラフマーは多くの生類を創造したが、それらは死ななかったため、大地に溢れ大地の女神を苦しめた。困ったブラフマーは、破壊神シヴァの助言にしたがって、「死の女神ムリトゥユ」を創造し、生類を殺すことを命じた。
《感想2》「不死」という運命を終了させる「死の女神ムリトゥユ」は、「死」という運命を前提する「死神」(シニガミ)あるいは「冥界の神」と異なる。
《感想2-2》生類が「不死」であれば、そもそも死者の国である「冥界」はなく、「天上界」と「地上界」のみある。「死神」(シニガミ)あるいは「冥界の神」は存在しない。
《感想2-2-2》生類に「死」が不可避の場合、はじめて「天上界」と「地上界」のほかに「冥界」が存在する。この場合は「死神」(シニガミ)あるいは「冥界の神」が出現する。
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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)8.「分離する天と地――ニュージーランド神話のランギとパパ」:エジプト神話では「大地の神ゲブ」と「天空の神ヌト」が父神によって引き離された!

2023-08-28 15:47:48 | 日記
(1)
ニュージーランドのマオリ族の世界起源神話によれば①はじめは何もなかった。すべては全くの「無」から始まった。
《感想1》今日の科学の知見でも、ある説では宇宙は「無」から生まれたとする。「無」から幻のように「有」(宇宙)が現われ、様々に展開する。(Ex.「私」という存在or出来事も「有」つまり「宇宙」の様々な展開の一つだ。)
《感想1-2》『新約聖書』「ヨハネによる福音書」「第1章」は「初めに言(コトバ)があった。・・・・言(コトバ)は神であった。・・・・すべてのものは、これによってできた」と述べる。キリスト教では始源は「無」でなく「神」=「言(コトバ)」(ロゴス)だ。
(1)-2
次は②「夜」だった。(つまり「無」は「夜」を生み出した。)暗黒の夜が計りしれないほど広く長く続いた。
《感想2》宇宙の最初の存在(有)は「夜」(暗黒)だ。Cf. 「暗黒」は「無」でなく「有」(存在)である。
(1)-3
そこに③「光」がさした。それは虫が放つような光にすぎなかった。④時が経ち「大空」ができた。すなわち「天空神ランギ」だ。④-2ランギは「月」と「太陽」を作ったのち、④-3「大地の女神パパ」と一緒に住んで子供たちの神々を作った。⑤その頃、「天空」は10の層からなっていた。その最下層の部分が「大地」の上に横たわっていて、大地を不毛にしていた。⑥「ランギとパパの子供たちの神々」はひたすらに続く「闇」に疲れ果て、また「人間」を生み出すために、「両親を引き離さなければならない」という結論に至った。⑥-2 タネ・マフタという「森の神」が力の限り空を押し上げた。⑥-3 こうして「大空」(ランギ)と「大地」(パパ)の間に大きな空間ができて、「光」も降り注ぐようになった。
《感想3》「天空神ランギ」と「大地の女神パパ」とが一緒に住んで「子供たちの神々」を作ったというマオリ族の世界起源神話は、『古事記』の伊邪那岐(イザナギ)・伊邪那美(イザナミ)の二神が目合った(性交した)ことによる「国生み/国産み」(クニウミ)および「神生み/神産み」(カミウミ)の神話に相当する。
(1)-4
天空神ランギと大地の女神パパは苦しみに満ちたうめき声を上げた。「両親の愛をどうして殺そうとするのか」。大空のランギと大地のパパは今でも深く慕いあっていて、朝霧はランギの涙、霧はパパの吐息と言われる。
(1)-5
天と地を引き離した「森」の神タネ・マフタは、あたかも天地を媒介する「世界樹」のようなはたらきをしたと、沖田瑞穂氏は言う。
(2)
「分離する天と地」というモチーフは他の神話でも見られる。エジプトの神話では「大地の男神ゲブ」と「天空の女神ヌト」は抱き合っていたが、父神である「大気の神シュウ」によって引き離されたとされる。

《参考1》エジプト神話における「シュー」・「ヌト」・「ゲブ」:「大気の神シュー」(父)によって「天空の女神ヌト」(娘)と「大地の神ゲブ」(息子)が分離された。ヌトとゲブは夫婦。
《参考2》「天空の女神ヌト」:大気の神シュー(男神)と湿気の神テフヌト(女神)の娘。兄でもある夫「大地の神ゲブ」との間に、オシリス、イシス、セト、ネフティスをもうける。(Cf. オシリスの配偶神はイシスであり、彼女との間に天空の神ホルスを成した。)夫のゲブと抱き合っている所を無理矢理シューによって引き離され、天と地が分かれた。天空の女神ヌトは、指先と足先だけで大地(ゲブ)に触れ、弓なりになった腹部に星が輝き(天の川)、ゲブの上に立つシュー(大気)がこれを支える図像がよく知られている。
《参考3》「大地の神ゲブ」(男神):妻ヌトと別れるのを嫌がったゲブの一部が隆起して山になったと言われる。またゲブがくしゃみor笑いが地震とされる。
《参考4》「大気の神シュー」(男神):「創造神アトゥム」から自慰によって(両性具有的に)誕生した。(アトゥムは両性具有とされる。)「大気の神シュー」は、妹でもある妻「湿気の神テフヌト」との間に、「大地の神ゲブ」と「天空の神ヌト」をもうける。

《参考5》天地創造の神「アトゥム」:エジプト・ヘリオポリス神話の9柱の神々(創造神アトゥム、大気の神シュー、湿気の神テフヌト、天空の神ヌト、大地の神ゲブ、冥界の神オシリス、豊穣の神イシス、戦いの神セト、葬祭の女神ネフティス)の筆頭格。(Cf. 1. オシリス、イシス、セト、ネフティスは4兄弟姉妹。)(Cf. 2. オシリスの配偶神はイシスであり、彼女との間に天空の神ホルスを成した。)(Cf. 3. 兄オシリスが弟セトに殺害され身体をバラバラにされたとき、これを探すオシリスの妻イシスに、セトの妻ネフティスが同行し手助けする。 オシリスの復活に協力したことから、ネフティスは死者の守護神、葬祭の女神となった。)(Cf. 4. セトの妹であり妻であるネフティスは、不倫関係でオシリスとの子アヌビスを産む。アヌビスは狼の頭を持ち冥界の神、ミイラづくりの神だ。)
《参考5-2》「アトゥム」は、原初の水「ヌン」より自らを誕生させ、他の神々を生み出した偉大な造物主だ。
《参考5-2-2》アトゥムは「蛇」の姿をして誕生した。蛇は、死を運ぶ忌まわしい存在であると同時に、脱皮によって死と再生を繰り返す生命を象徴する存在でもあった。アトゥムは、世界が破滅を迎え「ヌン」の中に帰っていく時、再び蛇の姿をとるとされる。
《参考5-3》天地創造の神「アトゥム」は太陽神であり、ヘリオポリスには、太陽神であるアトゥムを象徴するベンベン石があり信仰の対象となっていた。アトゥムは、この石の上に立ち世界を照らしたとされる。後にこの石は、「ラー」や「アメン」を象徴することになった。
《参考5-3-2》「アトゥム」信仰は、あらゆる太陽神信仰の根底にあり、後に「太陽神ラー」と習合して「ラー・アトゥム」となった。これにより「ラー」は、ヘリオポリス神話の最も重要な神とみなされるようになった。また中王朝時代になると「アメン」がラーと習合することでアトゥムとも同一視された。

《参考5-4》「太陽神ラー」はエジプト神話の最高神であり、太陽の化身にして宇宙の創造者である。(Cf. 天地創造の神「アトゥム」と「太陽神ラー」はすでに習合している。)ラー(アトゥム)は混沌が擬人化された神格「ヌン」(原初の水「ヌン」)から生まれた最初の神であり、大気の神シューや湿気の女神テフヌト、猫の女神バステトの父となった。
《参考5-4-2》「太陽神ラー」は、昼は太陽船に乗って東から西へと天空を移動し、夜は「天空の女神ヌト」の体内を通ってふたたび東方へ戻る。「ラー」は天空神としての鷹、あるいは太陽円盤を頭上にのせた鷹の頭をした人像として表現される。

《参考5-5》「太陽神アメン(アモン)」:もともとはナイル川東岸のテーベ(現・ルクソール)地方神(大気の神、豊饒神)である。中王国時代第11王朝がテーベを首都としてエジプトを(紀元前2040年頃)再統一して以来、末期王朝時代の第30王朝(紀元前4世紀、エジプト人最後の王朝)までの1,700年余にわたり、「ラー神」と一体化し、「アメン=ラー」としてエジプトの神々の主とされた。ファラオも「アメンの子」と捉えられた。新王国時代(ヒクソスを撃退しエジプトを統一;紀元前1570年頃 - 紀元前1070年頃)には、アメン神殿と祭司団は絶大な権力をふるい王権を脅かすほどになった。アメンホテプ4世(在位紀元前1364頃~紀元前1347頃)はアマルナ改革(Cf. 唯一神アテン)を行ったが、彼の死後アメン信仰は復活した。新王国は前13世紀ラムセス2世(在位:紀元前1279頃 - 紀元前1213頃)の時、最盛期となる。「アメン(アモン)神」は エジプト最大の神殿であるカルナック神殿(テーベ=現ルクソールにある)に祭られている。
Cf.  アメン神は、神々の主とされることから、ギリシア人はゼウスと、ローマ人はユーピテルと同一視した。
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沖田瑞穂(1977-)『すごい神話』(2022)7.「世界は一本の巨木で出来ている――北欧神話の『ユグドラシル』」:世界(世界樹)は常に危機に瀕している!インドの世界樹「ジャンブー」は健康で楽園だ!

2023-08-28 08:41:18 | 日記
(1)北欧神話の世界樹「ユグドラシル」!
北欧神話を記した13世紀の詩人スノリ・ストルルソンが世界樹「ユグドラシル」(イグドラシル)について語る。それは巨大なトネリコの木であり、その枝々は全世界の上に広がり、天の上にまで出ている。この樹を3本の根が支える。1本はアースたちの世界(アースガルズ)に立ち(そこには神聖なウルズの泉がある)、1本は霜の巨人たちのもとに立ち(そこにはミーミルの泉があり賢さと知恵が隠されている)、そして3本目の根はニヴルヘイム(ニフルヘイム)(氷の国)に立っている。3本目の根は下から蛇ニーズホッグ(ニズヘグ)が齧っている。また上の葉は牡鹿が齧る。このように苦しむ世界樹ユグドラシルだが、ウルズの泉のほとりに住むノルンたち(運命の女神)が毎日泉から水を汲んで、ふりかけ枝が乾いたり腐ったりしないようにしている。
(1)-2 北欧神話における世界の終末「ラグナロク」!
世界を貫く、あるいは世界そのものである巨木ユグドラシルは、常に苦しみの中にある。世界は常に危機に瀕している。実際、北欧神話では世界の終末「ラグナロク」が語られる。そこでは神々と巨人が最終戦争をして双方が滅び、人類も滅び、大地は海に沈む。
(2)インド神話の世界樹「ジャンブー」!
インド神話は世界樹「ジャンブー」について語る。それはマハーメール山の南の山腹にある。この樹は一年中、果実や花をつける。半神族がこの樹に水を与える。その枝は天界の縁にまで届く。象ほどの大きさの熟した実が地面に落ちて割れる。そこから流れ出した液汁はジャンブー川となって流れる。この川の岸に住む女神ジャンブヴァーディニーは人々に健康、長寿、富、繁栄、幸福を授ける。ジャンブーの実の液汁が土、水、空気、太陽の光線と混じりあうとジャンブーナダという金に変わる。神々や半神族はこの金で妻たちの装身具をつくる。
(2)-2 インド神話の世界樹は健康だ!
インドの世界樹「ジャンブー」は健康で、その記述も楽園のようだ。北欧の世界樹「ユグドラシル」が緊迫した世界観のもとに表現されているのと対照的だ。

《感想1》世界樹の「世界」は地球上の現実の時空的「広がり」のことだ。科学が明らかにした現実においては、「世界」の「広がり」(時空)が、地球上の現実の場合より拡張された。その拡張された「世界」が、「宇宙」と呼ばれる。
《感想2》「世界樹」は科学の時代の神話としては「宇宙樹」として語られるべきだ!

《参考1》「国立天文台」の説明によると、私達のこの「宇宙」(世界)は、138億年前のビッグバンで誕生したと考えられている。
《参考1-2》「時間と空間の始まり、宇宙の急膨張『インフレーション』」:「ビッグバン」のすさまじい高温は、その直前まで宇宙に満ちていたエネルギーが熱に変化したものだった。「宇宙」は誕生直後から「ビッグバン」直前までの10の34乗分の1秒の間に、「インフレーション」と呼ばれる、数十桁も大きくなるような猛烈な加速膨張を起こした。現在の宇宙膨張を加速させているダークエネルギーと同じの、しかしその100桁以上もの驚異的な大きさをもった「真空のエネルギー」が、生まれたばかりの宇宙空間を倍々に膨張させた。そしてこのインフレーションとともに、この宇宙には「時間」が流れ「空間」が広がり始めた。(「国立天文台」の説明)
《参考1-2-2》「超高温の火の玉宇宙、灼熱のビッグバン」:宇宙は誕生直後、とてつもない大量のエネルギーによって加熱され、超高温・超高密度の火の玉となった。「ビッグバン」の始まりだ。その中で、「光(光子)」を含む、大量の「素粒子」が生まれた。「素粒子」にはふたつの種類があった。ひとつが「粒子」で、もうひとつが粒子と反応すると光を出し消滅する「反粒子」だ。何らかの理由で、粒子よりも「反粒子」の方が10億個に1個ほど少なかったため、宇宙のごく初期に反粒子はすべて消滅し、わずかに残った「粒子」が、現在の宇宙の物質のもととなった。(「国立天文台」の説明)
《参考1-3》「すべてを生み出した3分間、物質生成の出発点」:宇宙誕生直後の約3分間に、私たちのまわりにあるすべての物質のもとが生み出された。超高温の宇宙は、この間に急激な膨張を起こしながら冷えていった。その中で、物質のもとである素粒子のうち「クォーク」が集まり、陽子や中性子となった。さらにはその陽子や中性子が集まって、元素の中でももっとも軽い水素やヘリウムの「原子核」がつぎつぎと生み出され。(このとき生まれた原子核は、総数の92%が水素、残り8%がヘリウムだった。)(「国立天文台」の説明)

《参考2》「宇宙の姿」:①「宇宙」を構成する成分の7割以上が宇宙膨張を加速させる謎のエネルギー「ダークエネルギー」、②2割以上が正体不明の物質「ダークマター」であり、③普通の「元素」は4%程度である。またこの宇宙には、星が数百億、数千億集まっている「銀河」や、銀河が数百個、数千個も集まっている「銀河団」、さらに何億光年にもまたがった「銀河の網の目状の構造」すなわち「大規模構造」など、多様な階層構造が存在している。(「国立天文台」の説明)
《参考2-2》「銀河の網の目状の構造『大規模構造』」:「銀河」はなぜ、網の目状に分布しているのか?原因は「ダークマター」(重力は働くが、光で観測することのできない、いまだ正体不明の物質)である。かつてこの宇宙では、ダークマターがまわりよりわずかに多い部分に、重力によっていっそう多くのダークマターが集まり、立体的な網の目のような「大規模構造」が作られた。ダークマターの多い部分には普通の「物質」もより多く集まるので、この大規模構造をなぞるようにしてやがて「銀河」が誕生した。(「国立天文台」の説明)
《参考2-3》「最初の星が宇宙に灯る」:約130億年前には、銀河はすでに宇宙に存在したと観測からわかっている。しかし最初の星がいつ頃生まれたかは、正確なことはわかっていない。宇宙で最初の巨大な星々が、内部でさまざまな元素を作り出した後、超新星爆発を起こした。まき散らされた元素が、次の世代の星の種となった。(「国立天文台」の説明)

《参考3》「宇宙の誕生」:「宇宙」の始まりについて、ある説では、宇宙は「無」から生まれたとする。「無」とは、物質も空間も、時間さえもない状態。しかしそこでは、ごく小さ な「宇宙」が生まれては消えており、そのひとつが何らかの原因で消えずに成長したのが、私たちの宇宙だという。(「国立天文台」の説明)
《参考3-2》また生まれたての「宇宙」では時間や空間 の次元の数も、いまとは違っていた可能性がある。ある説によれば、「宇宙」は、最初は11次元で、やがて余分な次元が小さくなり、空間の3次元と時間の1次 元だけが残ったという。「宇宙」の始まりは、まだ多くの謎につつまれている。(「国立天文台」の説明)
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