DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

金子みすゞ(1903-1930)「金魚のお墓」:死の世界と生の世界

2016-11-30 11:36:15 | 日記
 金魚のお墓

暗い、さみしい、土のなか、
金魚はなにをみつめてる。
夏のお池の藻の花と、
揺れる光のまぼろしを。

靜かな、靜かな、土のなか、
金魚はなにをきいている。
そっと落葉の上をゆく、
夜のしぐれのあしおとを。

冷たい、冷たい、土のなか、
金魚はなにをおもってる。
金魚屋の荷のなかにいた、
むかしの、むかしの、友だちを。

《感想1》
①死の世界のイメージは、詩人にとって、どのようなものか?
①-2 それは「暗い」、「さみしい」、「静か」、「冷たい」。そして「土の中」!しかも晩秋を示す「落葉」、「夜」、「しぐれ」!
②死んだ金魚が「見つめてる」のは、《過去》、つまり生きていた時のこと。では、生きることのイメージは、どのようなものか?
②-2 それは「夏」、「花」、「光」。
②-3 そして死の世界から見る時、生の世界は「揺れる」「まぼろし」である。

《感想2》
③死んだ金魚が「きいている」のは、《現在》のこと。だから、それは、死の世界にふさわしい音である。
③-2 すなわち「落葉」、「夜」、「しぐれ」をめぐる音。
③-3 死の世界から聞く、生の世界に属す音は、姿を持たない。だから、それは、「あしおと」。

《感想3》
④死んだ金魚が「おもってる」のは、《過去》、つまり生きていた時のこと。
④-2 自分が生きていた時の「むかしの、むかしの、友だち」ばかりを、金魚は思う。
④-3 つまり、生の世界で最も大切なのは、「友だち」だと、詩人は言う。

 THE GRAVE OF A GOLDFISH

In the dark, lonely soil,
What does a goldfish stare at?
At a flower of water grass in a pond in summer,
And a shaking phantom of light.

In the quiet, so quiet soil,
What does a goldfish listen to?
To footsteps of light rain at night,
Proceeding softly on fallen leaves.

In the cold, so cold soil,
What does a goldfish think about?
About old, so old friends
Together in a burden of a goldfish shop.
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金子みすゞ(1903-1930)「犬」:敵意と共感       

2016-11-29 00:00:35 | 日記
 犬

うちのだりあの咲いた日に
酒屋のクロは死にました。
 
おもてであそぶわたしらを、
いつでも、おこるおばさんが、
おろおろ泣いて居りました。
 
その日、学校(ガッコ)でそのことを
おもしろそうに、話してて、
 
ふっとさみしくなりました。

《感想》
①「酒屋のクロ」が死んだ。少女は、それを知った。
①-2「おもてであそぶわたしらを、/いつでも、おこるおばさんが、/おろおろ泣いて居」た。
①-3 わたしらは、「その日、学校(ガッコ)でそのことを/おもしろそうに、話し」た。「いい気味!」とか、話したのだ。
②ところが、少女は、「ふっとさみしくな」る。
②-2 なぜか?「おばさん」の悲しみに、気づいたから。
②-3 一方で、「いつでも、おこるおばさん」への敵意。ところが、他方で、今、その「おばさん」の悲しみへの共感が、少女を捉えた。

 A DOG

On the day when a dahlia of my house bloomed,
The dog, KURO, keeped by the liquor shop died.

The shop owner’s wife who always scolded us when we played outside there
Was crying nervously.

On the day, at school,
We talked about the scene interestingly.

At that time, I suddenly became sad.
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じゅうぶん年を取った     

2016-11-28 20:20:21 | 日記
もう、じゅうぶん年を取った。
温和でいたい。
賢くありたい。

不公正に対し怒るが、慎重でありたい。
死を恐れるが、平静でありたい。
身体は衰えたが、精神の威厳を保ちたい。

残念だが、過去は修正できない。
それが君だったのだ。
過去と折り合いをつけて、生きるしかない。

 OLD ENOUGH

You have already become old enough.
You want to be moderate.
You want to be wise.

You get angry about unfairness, but you want to consider a matter carefully.
You fear your death, but you want to be calm.
Your body have become weak, but you want to keep the dignity of your soul.

Regrettably, you cannot change your past.
It was really what you were.
You can live only when you come to terms with your past.
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アルチュール・ランボー(1854 - 1891)、中原中也訳「食器戸棚」   

2016-11-27 22:27:37 | 日記
 食器戸棚

これは彫物(ホリモノ)のある大きい食器戸棚
古き代の佳い趣味(アジ)あつめてほのかな槲(カシワ)材。
食器戸棚は開かれてけはひの中に浸つてゐる、
古酒の波、心惹(ヒ)くかほりのやうに。

満ちてゐるのは ぼろぼろの古物(コブツ)、
黄ばんでプンとする下着類だの小切布(コギレ)だの、
女物あり子供物、さては萎んだレースだの、
禿鷹の模様の描かれた祖母(バアサン)の肩掛もある。

探せば出ても来るだらう恋の形見や、白いのや
金褐色の髪の束、肖像(ニガオ)や枯れた花々や
それのかほりは果物のかほりによくは混じります。

おゝいと古い食器戸棚よ、おまへは知つてる沢山の話!
おまへはそれを話したい、おまへはそれをささやくか
徐(シズ)かにも、その黒い大きい扉が開く時。

《感想》
①古い品物は、(日本では)付喪神(ツクモガミ)と呼ばれる霊を持つ。古いほど霊の力が強い。
①-2 ここにある食器戸棚は、「彫物(ホリモノ)」があり、「大きい」。そして「古き代の佳い趣味(アジ)」を集め、「ほのかな槲(カシワ)材」製。まさしく相当古い食器戸棚。
①-2 今、食器戸棚は、扉が「開かれて」、霊の「けはひ」が流れ出し、その「中に浸つてゐる」。「けはひ」が、「古酒の波、心惹(ヒ)くかほり」のように満ちる。

②食器戸棚に「満ちてゐるのは/ぼろぼろの古物(コブツ)」 。
②-2 「黄ばんでプンとする下着類」、「小切布(コギレ)」、「女物」、「子供物」、「萎んだレース」、「禿鷹の模様の描かれた祖母(バアサン)の肩掛」。生活は、これらの物なしに、成り立たなかった。しかし今は無用で、「ぼろぼろの古物(コブツ)」。

③心ときめかせた情熱的な恋愛も、食器戸棚に隠されている。恋文など「恋の形見」、恋人の「白いのや金褐色の髪の束」、「肖像(ニガオ)」、想い出の「枯れた花々」。
③-2 「それのかほりは果物のかほりによくは混じります」。「ぼろぼろの古物(コブツ)」の向うに、初々しく甘く熱い恋のかつての実在。その「かほり」は「果物のかほり」に似る。

④「おゝいと古い食器戸棚よ、おまへは知つてる沢山の話!」詩人は、「古い食器戸棚」の霊が、「沢山の話」を「知つてる」ことに感慨する。
④-2 食器戸棚の霊に、詩人は共感し「おまへはそれを話したい、おまへはそれをささやく」と代弁する。「徐(シズ)かにも、その黒い大きい扉が開く時」、食器戸棚は語り出す。
④-3 そして、今、まさに「食器戸棚は開かれて」、そこから昔の人間たちの生活が、霊の「けはひ」として広がり、周囲を浸す。

 A CUPBOARD

This is a big cupboard with carved decorations.
It gathers good tastes of old days, and it is made of elegant oak.
The cupboard is opened and sink in sensitive atmosphere
Which is like waves of old spirits, that is, like scents fascinating us.

It is filled with useless old things.
A smelled underwear yellowly stained, a small piece of cloth,
A woman wear and a child one, and moreover, a shrunk race.
There is also an old woman’s shawl decorated with design of a condor.

If we search it, we can maybe find a reminder of love,
A buch of white or golden-brown hairs, a portrait, and withered flowers,
The scent of which is adequately mixed with that of fruit.

Oh, an old cupboard, you know a lot of stories!
You want to talk about them, or you whisper about them,
When the old black doors of yours slowly open.
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中原中也(1907-1937)「少女と雨」 :少女が「雨」の魔術によって、「夢」へと変形する

2016-11-26 16:05:57 | 日記
 少女と雨

少女がいま校庭の隅に佇(タタズ)んだのは
其処(ソコ)は花畑があって菖蒲(シヤウブ)の花が咲いてるからです

菖蒲の花は雨に打たれて
音楽室から来るオルガンの 音を聞いてはゐませんでした

しとしとと雨はあとからあとから降って
花も葉も畑の土ももう諦めきっています

その有様をジッと見てると
なんとも不思議な気がして来ます

山も校舎も空の下(モト)に
やがてしずかな回転をはじめ

花畑を除く一切のものは
みんなとつくに終ってしまった 夢のやうな気がしてきます

《感想》
①恐い詩である。少女が、「雨」の魔術のもとで、「とつくに終ってしまった/夢」へと変形してしまう。

②少女でないと、花畑を見ないわけでないから、《花畑に咲く菖蒲の花》を見る人なら、誰でもいい。少女は、この詩の主題でない。
③ 主題は、一方で、《花畑に咲く菖蒲の花》である。
③-2 主題は、他方で、魔術的エネルギーをもつ「雨」である。

④ 「菖蒲の花は雨に打たれて」、「オルガンの/音」から遮断される。
④-2 「雨はあとからあとから降って」、この世界に魔術をかけ、変形させる。
④-2 その「雨」の魔術に、「花も葉も畑の土ももう諦めきって」抗わず、従順に従う。

⑤目撃者である詩人も、「雨」の魔術に、支配され始める。だから「その有様をジッと見てると/なんとも不思議な気がして来ます」と詩人は言う。
⑤-2 「山も校舎も空の下(モト)に/やがてしずかな回転をはじめ」、魔術的に変形する。
⑤-3 「花畑」(「花」(菖蒲の花)・「葉」・「畑の土」)のみが、「雨」の魔術のもとで、この世界に実在することを許される。
⑥-2 他のこの世の一切のものは(ここでは「山も校舎も」)、「雨」の魔術によって、終了し不在の「夢」となる。「花畑を除く一切のものは/みんなとつくに終ってしまった/夢」になる。

⑦ただし詩人自身は、「雨」の魔術に完全には支配されず、「やうな気がしてきます」と、魔術を客観視する。
⑧「空」は、「雨」の根拠であり、この世の魔術的変形に対し、超越する。「空の下(モト)に」、花畑を除く「一切のもの」は(「山も校舎も」)、しずかに回転し、「夢」へと変形する。

 A GIRL AND RAIN

A girl is standing at the corner of a school building,
Because a flower garden is there and flowers of iris are in bloom.

While flowers of iris is in the rain,
They don’t listen to the sounds of an organ from a music room.

As rains are quietly and continuously falling one after another,
Flowers, leaves, and soil of the field already abonden themselves completely.

When I stare at the situation intensely,
I come to have an obscurely magical feeling.

Mountains and a school building under the sky
Soon begin to revolve quietly.

Then, I come to feel that all things except the flower garden
As a whole seem to be a dream already finished.
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