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「石田 波郷(ハキョウ)」『日本詩人全集31』(新潮社、1969年):波郷は自分について後年、「僕の系譜は―虚子―青畝―古郷―波郷となる」と述べている!

2021-06-05 18:29:18 | 日記
石田波郷(ハキョウ)(1913-1969)は松山市出身。S5、五十埼(イカサキ)古郷に師事する。古郷の師は秋桜子だった。当時の波郷は、秋桜子の『葛飾』に瞠目しながらも、阿波野青畝の庶民的であたたかな観照の世界に引かれていた。波郷は青畝の『万両』を諳んじていたという。波郷(20歳)は、S8秋桜子の『馬酔木』の同人に推される。波郷は自分について後年、「僕の系譜は―虚子―青畝―古郷―波郷となる」と述べている。

(1)『鶴の眼』(S14、26歳):楸邨・草田男らとともに「難解派」あるいは「人間探求派」と呼ばれた!
★「バスを待ち大路の春をうたがはず」:帝都の春。S7(19歳)、上京。
★「寒林をしばらく兵のよぎりたり」:戦争の時代。Cf. S11、二・二六事件。S12、日華事変。
★上野公園「夜桜やうらわかき月本郷に」:上野公園の月。月齢が若い。
★「百日紅(サルスベリ)ごくごく水を呑むばかり」:かんかん照りに百日紅。「ごくごく水を呑むばかり」だ。
(2)『風切(カゼキリ)』(S18、30歳):無季俳句・新興俳句運動を批判!(Cf. S15、当局の弾圧で新興俳句は壊滅した!)波郷、人生諷詠の方向へ!
★「帰還兵列の短さよ百日紅」:多くの兵が戦死した。
★結婚「露草の露ひかりいづまことかな」:波郷、S17(29歳)結婚。「まことかな」と喜んでいる。
★「朝顔の紺の彼方の月日かな」:過ぎた月日を回顧する。紺色の朝顔。
★「雀らも海かけて飛べ吹流し」:希望を詠う。五月。雀に「海を飛べ」とは期待が大きい。

(3)『病雁(ヤムカリ)』(S21、33歳):S18(30歳)波郷に召集令状、大陸に渡るが、しかし病気でS20、内地に送還!戦陣句集!
★佐倉入隊「悉(コトゴト)く覚束なしや芋の秋」:佐倉の芋連隊の新兵。
★大陸に向ふ「出征(イデタ)つや疾風(ハヤテ)の如く稲雀」:出陣の勇んだ気分。
★「赤き赤き韓(カラ)の低山秋の暮」異国の秋の暮、紅葉。
★「討伐隊まだかへりこぬ暮雪かな」:仲間を心配し帰還を待つ。(Cf. 敵においても同じことが起きている。戦争は兵にとっては理不尽だ。)
★南満、興城陸軍病院「遥かなるものばかりなる夜寒かな」:家族、戦友、自分の過去、いずれも「遥かなるもの」だ。
(4)『雨覆(アマオオイ)』(S23、35歳):終戦後の焦土諷詠の作品!
★「蕗(フキ)辛きけふ陥ちんとす伯林(ベルリン)は」:1945年5/7ドイツ降伏。(Cf. 4/30ヒトラー自殺。)
★上京して「風の日は風ふきすさぶ秋刀魚の値」:江東区北砂町の焦土に住む。S21、闇市の秋刀魚が高い。
★「百方に餓鬼うづくまる除夜の鐘」:S21が終わる。食糧難と買い出し!
★「焼跡に透きとほりけり寒の水」:焼跡の冬。水が透明だ。
★「はこべらや焦土のいろの雀ども」:雀は食べるものに困らない。食料の虫も居るし「はこべら」も食べる。
★松山帰省「勿忘草(ワスレナグサ)わかものの墓標ばかりなり」:戦争で多くの若者が死んだ。
★「稲妻のほしいまゝなり明日あるなり」:稲妻が好きなままに光る。その自由さ。明日がある。

(5)『惜命』(S25、37歳):再発病し3回の成形手術!清瀬の東京療養所に再入所!療養俳句の金字塔!
★「夜半の雛肋(アバラ)剖(サ)きても吾死なじ」:雛が飾ってある。子どものために、まだ死ねない。
★「天地に妻が薪割る春の暮」:男がするはずの薪割りを妻がする。
★「憂曇華(ウドンゲ)やきのふの如き熱の中」:きのうも今日も熱が下がらない。「憂曇華」はウスバカゲロウの卵。天啓の華とも言われる。
★「蝉かなしベッドにすがる子を見れば」:子どもが心配だ。自分は病気。
★「名月や格子あるかに療養所」:「格子」はないのに、病気で自由にならない。
★「鰯雲ひろがりひろがり創(キズ)痛む」:3回の成形手術の痛み。大手術に耐える。
★「綿虫(ワタ虫)やそこは屍(カバネ)の出でゆく門」:死か生かきわどい境い目。雪空だ。
★「屍(カバネ)運ぶ春丸顔の看護婦達」:死と生の対比。丸顔は幸福・健康の象徴。
★「日盛りのシャワー痩躯(ソウク)を荘厳(ショウゴン)す」:生きることはそれ自身、善あるいは奇跡だ。「荘厳(ショウゴン)」とは仏像や仏堂をおごそかに飾ること。
★「野分あと口のゆるびて睡(ネム)りをり」:野分(台風)で警戒・緊張。過ぎ去ってほっとして眠る。
(6)『春嵐』(S32、44歳):江東砂町で自宅療養!死の深淵を覗いた者の静謐!
★「虹を見し子の顔虹の跡もなし」:希望(虹)は容易に消え去る。人生は厳しい。
★「手花火を命継ぐ如燃やすなり」:手花火を次々燃やしていく。「命継ぐ如く」だ。
★「初鷗ころびし子起つためらはず」:子どもは元気。何もおそれない。
★「遠く見ゆ雀とまれる盆の墓」:墓に雀がとまっている。遠い。盆の墓参り。
★「妻のみが働くごとし薔薇芽立つ」:夫は病弱。子供もいて妻が大変だ。

(7)『酒中花』(S43、55歳):S38、肺の合成樹脂摘出手術のため入院!S44、芸術選奨文部大臣賞!
★「昼遊ぶ黄金虫をり百日紅(サルスベリ)」:夏の昼、黄金虫が百日紅で遊んでいる。自分も仕事できず入院中だ。
★「水引草目が合ひて猫立停る」:水引草の秋。目が合って猫が立ち停まった。
★「托鉢僧たちまち昏(ク)れぬ年の暮」:冬は夜が早い。布施を受ける時間が短い。
★「寒菊や母のやうなる見舞妻」:妻も年を取った。妻に世話されている。
★「空也忌の虚空を落葉ただよひぬ」:空也忌は1/13。この世は「虚空」だ。
★十二月十九日雪「雪降れり時間の束の降るごとく」:思い出の「時間の束」が降る。
★「病室に豆撒きて妻帰りけり」:妻に感謝する夫。明日は立春だ。
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