月夜とポプラ Moonlight night and a poplar
木(コ)の下かげには幽霊がゐる Under a tree, there is a ghost.
その幽霊は、生まれたばかりの
まだ翼(ハネ)弱い蝙蝠(カウモリ)に似て、 The ghost looks like a newborn bat that has weak wings.
而(シカ)もそれが君の命を
やがては覘(ネラ)はうと待構へてゐる And it is also prepared for eventually killing you.
(木の下かげには、かうもりがゐる。) (Under a tree, there is a bat.)
そのかうもりを君が捕(ト)つて
殺してしまへばいいやうなものの It seems better that you catch and kill the bat.
それは、影だ、手にはとられぬ But the bat is still only a shadow. Therefore you can't catch it.
而(シカ)も時偶(トキタマ)見えるに過ぎない。 In addition, you can see it only once in a while.
僕はそれを捕つてやらうと、
長い歳月考へあぐむだ。 In order to catch it, I have been planning for a long time.
けれどもそれは遂(ツイ)に捕れない、 However I have not caught it after all.
捕れないと分かった今晩それは、
なんともかんともありありと見える―― Tonight, now I have realized that I can't catch it, I can clearly see it to my vexsation.
《感想1》
木の下は、幽霊の居場所。薄暗いから。また幽霊は、蝙蝠に似る。蝙蝠は黒く、顔は醜く、夜飛翔し、不気味で不吉とされるから。(可愛そうな蝙蝠!)
《感想1ー2》
死者は無に帰ったはずだから、幽霊として姿を現すと、日常の現実のルールからはずれ、不気味だ。また幽霊は、死を体現するので不吉だ。
《感想2》
詩人は、不気味で不吉な死を発見し、その正体をとらえたい。ただし、まだその出現した死は、死そのものでなく、死の影にすぎない。君が命を取られるのは、つまり死そのものに会うのは、先の話だ。
《感想3》
詩人は、死を捕らえて、殺してしまいたい。だが(死の影でなく)、死そのものが、君に姿を現すとき、それは君の死だから、生きている君が、死を捕らえることはできない。
《感想3ー2》
生きている君が見る、あるいは知る死は、結局、死そのものでなく、死の影だ。
《感想4》
死は、本人にとっては、規定できない事態だ。ただし死は、「おそらく無であろう」と、自己の類似物である他者の死から、推定される。
《感想4ー2》
自然の諸規則(または法則)が、自己の類似物である他者と同様、自分にも適用される。かくて、これまで他者がすべて(これはくまなく確認したわけでないが)死んだことは、君が死ぬ確率も極めて高いと推定させる。(これが普通、死の必然性と呼ばれる。)
《感想5》
「死が何であるかは、死んでみないとわからない」と冗談に言われるが、この詩は、その冗談を詩にしてみたわけだ。
木(コ)の下かげには幽霊がゐる Under a tree, there is a ghost.
その幽霊は、生まれたばかりの
まだ翼(ハネ)弱い蝙蝠(カウモリ)に似て、 The ghost looks like a newborn bat that has weak wings.
而(シカ)もそれが君の命を
やがては覘(ネラ)はうと待構へてゐる And it is also prepared for eventually killing you.
(木の下かげには、かうもりがゐる。) (Under a tree, there is a bat.)
そのかうもりを君が捕(ト)つて
殺してしまへばいいやうなものの It seems better that you catch and kill the bat.
それは、影だ、手にはとられぬ But the bat is still only a shadow. Therefore you can't catch it.
而(シカ)も時偶(トキタマ)見えるに過ぎない。 In addition, you can see it only once in a while.
僕はそれを捕つてやらうと、
長い歳月考へあぐむだ。 In order to catch it, I have been planning for a long time.
けれどもそれは遂(ツイ)に捕れない、 However I have not caught it after all.
捕れないと分かった今晩それは、
なんともかんともありありと見える―― Tonight, now I have realized that I can't catch it, I can clearly see it to my vexsation.
《感想1》
木の下は、幽霊の居場所。薄暗いから。また幽霊は、蝙蝠に似る。蝙蝠は黒く、顔は醜く、夜飛翔し、不気味で不吉とされるから。(可愛そうな蝙蝠!)
《感想1ー2》
死者は無に帰ったはずだから、幽霊として姿を現すと、日常の現実のルールからはずれ、不気味だ。また幽霊は、死を体現するので不吉だ。
《感想2》
詩人は、不気味で不吉な死を発見し、その正体をとらえたい。ただし、まだその出現した死は、死そのものでなく、死の影にすぎない。君が命を取られるのは、つまり死そのものに会うのは、先の話だ。
《感想3》
詩人は、死を捕らえて、殺してしまいたい。だが(死の影でなく)、死そのものが、君に姿を現すとき、それは君の死だから、生きている君が、死を捕らえることはできない。
《感想3ー2》
生きている君が見る、あるいは知る死は、結局、死そのものでなく、死の影だ。
《感想4》
死は、本人にとっては、規定できない事態だ。ただし死は、「おそらく無であろう」と、自己の類似物である他者の死から、推定される。
《感想4ー2》
自然の諸規則(または法則)が、自己の類似物である他者と同様、自分にも適用される。かくて、これまで他者がすべて(これはくまなく確認したわけでないが)死んだことは、君が死ぬ確率も極めて高いと推定させる。(これが普通、死の必然性と呼ばれる。)
《感想5》
「死が何であるかは、死んでみないとわからない」と冗談に言われるが、この詩は、その冗談を詩にしてみたわけだ。