紹介したい本があります。
一冊は、久保俊治『羆撃ち』(くまうち)です。
日本唯一の熊ハンター。
北海道標津町在住で牧場を営む傍ら猟を続けている。
これほどまでに命の尊厳を問うた本も無い。
ひぐまを追いつめる山野での息づまる緊迫感。
撃ち取った熊の解体、、熊の内臓の温かさ、、研ぎ澄まされた感性に感動さえ覚える。
文章も実にうまい!
猟犬フチとの出会いとその死。
著者は語る。
『自然の中で生きるものの価値とは何だろう。生命とは死とは何なんだろう。そうか死 だ。自然の中で生きてきた者は、すべて死をもって、生きていたときの価値と意味を発 揮できるのではないだろうか』、、と。
本を読みながら、ふと宮沢賢治の童話『なめとこ山の熊』を思い出した。
(美しいほどの月夜の下で、猟師が熊たちに看取られて死ぬ場面があります)
命とは死とは、、、。
世界各地で未だに戦争は絶えません。 すまじいまでの人間同士の醜い殺し合い。
尊厳もなにもあったものではなく、怒りさえ覚える。
人を殺す? 熊を殺す? 同じこと?
いや絶対違う! この一人の猟師の命への鼓動を感じていただきたい。
山仲間からの紹介があった本で、すばらしい一冊であった。
もう一冊は、立花 隆著『思索紀行』です。
序論【世界の認識は旅から始まる】から始まり、無人島生活・チーズの旅・芸術への旅・
欧州反核無銭旅行・等々、、ことに有名なあの【パレスチナ報告】も掲載されている価値のある一冊。
単なる風景のみを記す型にはまった紀行文ではなく、形式においても内容においても、かなり驚愕に値する本である。
『世界の認識は旅から始まる』
『自分の身体を移動させて、はじめて見えてくるものがある』
『いかなる文明もやがて滅び、すべての巨大都市はいずれ遺跡となる、、
いずれ東京も遺跡になると私はいまも思っている、、、』
説得力があります。
東大時代反戦反核を世界に知らしめる為、ヒロシマ・ナガサキ原爆記録映画等を持参し世界各国を廻った旅をスタートに世界を四周したとのこと。
立花氏は知の巨人と言われたジャーナリストで、政治・宇宙、文明、医学等にも造詣が深いことは誰もが知るところではありますが、これほど行動的であったとは、、、。
特に印象に残った箇所は、やはり【パレスチナ報告】の記述。
~37年前の執筆ではありますが、イスラエルやパレスチナに何カ月も滞在しての執筆。
ご存じの通り、イスラエルとパレスチナの争いはイギリスの二枚舌が原因。
パレスチナの地にアラブ王国建設支持・イスラエル建国支持、、、土地・財産の分捕り争いなのですが、、、そんな単純な問題ではないようです。
現在イスラエルにユダヤ人は75%位おりますが、ユダヤ人の総意がこの国を作ったと考えるのはとんでもない誤りと一喝、、、、ユダヤ人・イスラエル人・シオニスト・アラブ人・パレスチナ人、、その宗教・民族・政治・資源・大国の思惑全てが複雑に絡まっているようです。
(シオニスト~ユダヤ人を結集させようとする政治運動者)
昨今の新聞ニュースにも
「イスラエルがパレスチナ自治区ガザを空爆し15人死亡」
「イランの核施設への攻撃も辞さない構えのイスラエル!?」の記事が。
イスラエル・パレスチナ情勢・イスラム圏への飛火は未だに平和の兆しさえみられません。
立花氏はこう語っております。
『日本人の多くは、無知から理解にではなく、無知から誤解に、、、無知ならまだ救いようはあるが定着してしまうと救いようがない』
『いい加減な理解に基づく党派的論争だけ』
(つまりイスラエルが全面的に悪いか、あるいはその逆、、との論争だけ)
『いま何より必要なのは、【無知の知】であろう』とも。
(無知の知の自覚がない限り、算数や初等数学の段階を飛ばしたくなるに違いないが、
それなしには高等数学問題は解けない)~中東問題は高等数学なのである。
平和ボケの日本人にはガツンときます。
座右に置きたい一冊です。