リンク: 今出河院近衛(今出川院近衛) 千人万首.
さて、「徒然草」映画化決定(妄想)の話しである。
冒頭は第五十段。「鬼女の噂」からはじまる。広大な中世の京の都をセットに、群衆シーンで以外に金がかかる。
都に、女が鬼になったのを率いて京にのぼったという噂が流れる。噂は騒ぎを呼び都は喧噪に包まれる。
そこへ、若き兼好が供の者を連れて登場する。まだ出家前である。
あまりの人だかりに閉口して、供の者に様子を見にやらせるが、帰って来た供の者は鬼などどこにもいませんでしたと報告する。
兼好は直感する。鬼の噂など、まったくのデマで、この群衆はデマに踊らされている。兼好は自分が頭がいいと確信していた。しかし、その頭の良さを、この京の都でどう生かして良いのかがわからなかったのだ。兼好は橋の上から都を眺めながら、つぶやく。
「やっぱり出家するしかないか」
時は十年ばかり流れる。兼好もすでに30代後半。最近は法師姿もサマになってきた。だが、兼好の真の目的は出家にはなく、歌人になることだったのである。
憬れるは、平安の優雅な世界。
もし、下級貴族として、自分の歌を世に出したなら、自分の歌は下級貴族の歌としてしか評価されないだろう。だが法師ならもはや身分は関係ない。法師という、ただの一人の人間として歌を評価してもらえる。それが出家のもうひとつのウラの目的であったのだ。歌の為なら「世」だって捨てられる。それが兼好法師の隠された本音であった。
そんな頃、歌のつながりで、若い女に出会う。今出川院につかえる近衛(このえ)という女。何首も歌集に入選している新鋭の女流歌人。
いつの間にか幾度となく、兼好と近衛は、私的に歌や手紙をやり取りするようになった。この頃、兼好はまだ歌人としては認められておらず、歌集への入選もない。いっぽうの近衛は若いながらも、何首も歌を歌集に収めている。
兼好はすでに三十過ぎのおっさんで、なおかつ法師だ。近衛にアタックできるような人間では、ない。
ある雪のつもった朝。兼好は使用人に近衛あての手紙を持たせた。たいした用事なんかじゃない、ただ近衛に手紙を書きたかったから、昨日の夜に書いた手紙を使者に持たせたのだ。
午前中のうちに返事が来た。
「今朝の雪の白さにもふれらぬような偏屈な方の、頼み事を聞き入れても良いものかしら」
思わずニタ~と笑う兼好。近衛ってば。か、可愛いい。
ある月のきれいな夜。兼好は供もつけずに月見に出かける。
秋の月こそ最高だよなとか思いながら、ブラブラ歩いているうちに、郊外にある近衛の家の前にたどりついてしまった。
俺は漢字の漢と書いておとこ兼好法師だ! 近衛に淫らな思いなどない。いやマジで決してないはずなのだ。清い歌の付き合いなのだ。ましてや俺は法師だ。法師の姦淫など俺の美学が許さない。許すまじきだ。女の髪で結った縄には象すらおとなしく繋がれちゃうんだよ。
でも。会うだけ。会ってお話しするだけなら、誰もとがめないよね。
気後れしながら、近衛の家の門を叩くと、年とった女中が家の中に案内してくれた。男手が足りないのか、庭には草が生い茂る。虫が鳴いている。
家の中には、普段から焚いているのだろう、なんともいえぬ香の匂いが柱にまで染み付いている。
近衛と会って、話しをしてお茶を飲んだ。それだけだ。
なごりおしく、つい帰るふりをして、見送ってくれた近衛の様子を見守る。近衛は扉を閉めずにしばらく月に魅入っていた。兼好は思う。俺と同じ月を見ている。なんだか小便を漏らしそうになるほど感動してしまう。
それから、数日後。兼好が仕えていた堀川家の主君が亡くなられた。かねての縁もあるのでイヤイヤながら葬式に出席する。
あー、葬式はかったるいと帰宅した兼好に、さらなる訃報が届く。
「近衛が死んだ」
なんで。まさになんでだ。
近衛は死んだそうだ。
その夜に近衛からもらった手紙などを取り出して眺める。いろんな記憶がとめどなく溢れ出し、涙が流れそうになる。
ふと、むかし自分が書きなぐった反古の類いを見つける。そういや、この頃は「枕草子」に憬れて似たようなモノは書けないかと模索していたっけ。思いついたように兼好は墨をすりはじめる。筆に墨をつけて少し考えてから、反古のウラに書き連ねる。
「つれづれなるままに」
さて、「徒然草」映画化決定(妄想)の話しである。
冒頭は第五十段。「鬼女の噂」からはじまる。広大な中世の京の都をセットに、群衆シーンで以外に金がかかる。
都に、女が鬼になったのを率いて京にのぼったという噂が流れる。噂は騒ぎを呼び都は喧噪に包まれる。
そこへ、若き兼好が供の者を連れて登場する。まだ出家前である。
あまりの人だかりに閉口して、供の者に様子を見にやらせるが、帰って来た供の者は鬼などどこにもいませんでしたと報告する。
兼好は直感する。鬼の噂など、まったくのデマで、この群衆はデマに踊らされている。兼好は自分が頭がいいと確信していた。しかし、その頭の良さを、この京の都でどう生かして良いのかがわからなかったのだ。兼好は橋の上から都を眺めながら、つぶやく。
「やっぱり出家するしかないか」
時は十年ばかり流れる。兼好もすでに30代後半。最近は法師姿もサマになってきた。だが、兼好の真の目的は出家にはなく、歌人になることだったのである。
憬れるは、平安の優雅な世界。
もし、下級貴族として、自分の歌を世に出したなら、自分の歌は下級貴族の歌としてしか評価されないだろう。だが法師ならもはや身分は関係ない。法師という、ただの一人の人間として歌を評価してもらえる。それが出家のもうひとつのウラの目的であったのだ。歌の為なら「世」だって捨てられる。それが兼好法師の隠された本音であった。
そんな頃、歌のつながりで、若い女に出会う。今出川院につかえる近衛(このえ)という女。何首も歌集に入選している新鋭の女流歌人。
いつの間にか幾度となく、兼好と近衛は、私的に歌や手紙をやり取りするようになった。この頃、兼好はまだ歌人としては認められておらず、歌集への入選もない。いっぽうの近衛は若いながらも、何首も歌を歌集に収めている。
兼好はすでに三十過ぎのおっさんで、なおかつ法師だ。近衛にアタックできるような人間では、ない。
ある雪のつもった朝。兼好は使用人に近衛あての手紙を持たせた。たいした用事なんかじゃない、ただ近衛に手紙を書きたかったから、昨日の夜に書いた手紙を使者に持たせたのだ。
午前中のうちに返事が来た。
「今朝の雪の白さにもふれらぬような偏屈な方の、頼み事を聞き入れても良いものかしら」
思わずニタ~と笑う兼好。近衛ってば。か、可愛いい。
ある月のきれいな夜。兼好は供もつけずに月見に出かける。
秋の月こそ最高だよなとか思いながら、ブラブラ歩いているうちに、郊外にある近衛の家の前にたどりついてしまった。
俺は漢字の漢と書いておとこ兼好法師だ! 近衛に淫らな思いなどない。いやマジで決してないはずなのだ。清い歌の付き合いなのだ。ましてや俺は法師だ。法師の姦淫など俺の美学が許さない。許すまじきだ。女の髪で結った縄には象すらおとなしく繋がれちゃうんだよ。
でも。会うだけ。会ってお話しするだけなら、誰もとがめないよね。
気後れしながら、近衛の家の門を叩くと、年とった女中が家の中に案内してくれた。男手が足りないのか、庭には草が生い茂る。虫が鳴いている。
家の中には、普段から焚いているのだろう、なんともいえぬ香の匂いが柱にまで染み付いている。
近衛と会って、話しをしてお茶を飲んだ。それだけだ。
なごりおしく、つい帰るふりをして、見送ってくれた近衛の様子を見守る。近衛は扉を閉めずにしばらく月に魅入っていた。兼好は思う。俺と同じ月を見ている。なんだか小便を漏らしそうになるほど感動してしまう。
それから、数日後。兼好が仕えていた堀川家の主君が亡くなられた。かねての縁もあるのでイヤイヤながら葬式に出席する。
あー、葬式はかったるいと帰宅した兼好に、さらなる訃報が届く。
「近衛が死んだ」
なんで。まさになんでだ。
近衛は死んだそうだ。
その夜に近衛からもらった手紙などを取り出して眺める。いろんな記憶がとめどなく溢れ出し、涙が流れそうになる。
ふと、むかし自分が書きなぐった反古の類いを見つける。そういや、この頃は「枕草子」に憬れて似たようなモノは書けないかと模索していたっけ。思いついたように兼好は墨をすりはじめる。筆に墨をつけて少し考えてから、反古のウラに書き連ねる。
「つれづれなるままに」