墨汁日記

墨汁Aイッテキ!公式ブログ

平成マシンガンズを読んで 15

2006-08-31 20:54:04 | 

「しゃべりにけぇから、こっからは地で話させてもらうよ。たださ、タメグチだからって俺はあんたの事を中学生だからってなめてるワケじゃないんだ」

 死神はいきなりタメグチだ。

「分かるかな、これは親愛の表現なんだよ。あんたとフレンドリーでありつつも、なおかつコインランドリーにドリームとお話したいってことなんだ。分かるかな? 分っかんネェだろうなぁ」

 私は答えた。

「解りますよ。松鶴家千とせでしょ」

 死神は上半身をかるくゆすって言う。

「ちげぇーよ。心意気の問題だ。ってか松鶴家千とせが出るとは、近ごろのガキはマイナーでマニアックだねぇ」

 あ。私の事をガキッって呼んだ。差別発言だ。好きで若いんじゃないやい。

 死神は変な機械を出現させて言う。

「これは、憎悪を探知する電波探知機だ。俺ら死神業界じゃ『憎たん』って呼んでるんだが、まぁ、『ドラゴン・ボール』のドラゴン・レーダーみたいな物だと思ってもらいたい。って、アレ最近の中学生は『ドラゴン・ボール』って知ってんのかな?」

 私は答える。

「知ってますよ。再放送で観たことがあります!」

 死神が機械を振り回しながら言う。

「そうか、なら話は早い。この機械はドラゴン・ボールではなくて憎悪のありかを探知する機械だ。この機械に付属しているこのカウンターをこうやって人に向けると、その人の憎悪エネルギー量、よーするに暗黒さ加減が数値にピピピって表示されるって寸法だ」

 死神は、探知機の電源を入れてパイロットランプが緑に変わるのを確認してから、機械を私に手渡した。

「ためしに、カウンターを俺に向けてみ」

 私は、右手で機械を支えながらコードの先についてる傘をひっくり返したみたいな部分を左手で死神に向ける。

 ピピピ。

 数字が液晶にデジタル表示される。「+035・009」。

「ようするに、死神である俺の暗黒さ加減は35程度って事だ。ちなみに普通の人間の平均値は12から13。散歩に連れて行ってもらえないストレスたまった犬で、5から6ぐらいかな。ちなみにってかんじでカウンターを自分に向けてみな」

 面白そう。つい、何気ないかんじでカウンターを私に向けた。

 ピピピピピピッ!!!!!!

 みるみる数値が上がって行く。+999・999を表示しても機械はピピピと計測を続け、やがてエラーの表示が点滅する。

「計測不可能ってことさ。あんたの憎悪は死神の俺をはるかに超えている。あえて言うな君の天職は人殺しだ!」

 そんな天職はイヤ!!


平成マシンガンズを読んで 14

2006-08-31 19:45:34 | 

 死神は目を閉じた。
 次に目を開けなおした時には、目からまた感情が消えうせていた。
 放心し、なにも見ていないかのような穴ぼこみたいな目。
 死神は頭を下げて、その目を私の足元を向けた。
 表情はあいかわらずまったくなく、頭をやや下げ顔は動かさずに眼球だけをキョロキョロ動かし何かを探している。何を探しているのだろうか、この闇の中に落ちている物など何もない。この空間には私と死神しか存在しないのに。

 あっ。

 口にこそ出さなかったものの、私は気がついた。
 死神は「言葉」を探している。
 私をだまくらかして利用する為の「言葉」を。

 沈黙は数秒だった。

 死神は再びパクリと口を開いた。


平成マシンガンズを読んで 13

2006-08-30 21:08:50 | 

「俺はあなたを苦しめるつもりはない。むしろ、同類として優しく取り扱ってあげたいと考えている」

 私は何も答えない事にした。
 まずは、相手の出方を見ておかないと。

「俺が思うに、俺とあなたはそんなに種類の違う人間ではない。むしろ、同類である。だからお願いがあります」

 死神は、帽子をかぶりなおして、右手に凶器を出現させた。

「これは、あなたの凶器です。これで人を撃ちなさい」

 見ると、夜店で売っているようなオモチャのマシンガンだった。

「引き金を引けば、電池で光ってブヨォオンと音がします」

 なにそれ、ただのオモチャじゃない!

「こんな物でも、ちゃんとたーんと人は死にます」

 どういう原理で?

「弾丸は、あなたの憎悪です。あなたの憎悪が弾丸となり、人を撃ち殺します」

 相変わらず、死神の目は穴ぼこのようでまるで操り人形のようだ。いったいどこの誰がこのデクノボウを操っているのだろう。
 私はつい油断してウソを言った。

「バッカみたい。なんで憎悪で人が殺せるのよ。だいたい私は誰も憎んでなんかいないしぃ!」

 そのとたん、死神の目に感情が宿った。

 面白いオモチャを見つけた幼児のようなキラキラした目。

 閉じられていた口は半開きとなり舌なめずりをした。

「俺は、死の安息を平等に分け与える者であり、誰も苦しめるつもりはありません。だが、このマシンガンを受け入れられないのなら、あなたが受け入れなければならない理由をあなたに解き明かさねばならないのです。それは、あなたにとって苦痛を伴う事かもしれませんよ。最後のチャンスです、すなおにマシンガンを受け入れて人を撃ちなさい」

 私は首を横に振った。死神の目に安堵がよこぎる。
 やはり、私をオモチャにして遊ぶつもりだ。
 感情をあらわした死神の目に私はとてつもない恐怖を感じた。


平成マシンガンズを読んで 12

2006-08-30 20:17:26 | 

「あなたは木村みのりさんですね?」

「はい、そうです」

 もっとも暗い闇の中に1人の男が立っていた。
 黒い野球帽に黒いTシャツの痩せた男。

「もしかして、あなたは『学園』駅前のマクドナルドで、俺の正体に気づきはしませんでしたか?」

 闇の中に男の輪郭が浮かんだ。
 あぁ、マックで本を読みながらマックチキンを食べてた人だ。
 なんとなく全体の印象が『平成マシンガンズ』に出てくる死神っぽいなと思ったんだよね。

「なんだ、やっぱり死神だったんだぁ!」

 口に出して、すぐに、すごく後悔した。
 私は無口でおとなしいはずなのに、目立たない子のはずなのに、言ってはいけない本音をよく考えもせずにポロっと言っちゃうから人に馬鹿だとか思われてしまう。

「やはり、俺の正体に気づいていたのですね」

 男はそう言って帽子を脱いだ。
 痩せていると言うよりも、やつれた顔。
 高校球児みたいに頭を坊主がりにしてメガネをかけている。
 男の顔に表情はなく、そして、メガネの奥にある目には感情がない。
 徹底した無表情な顔は私のほうを向いているのに、目の焦点は私にはない。右目を半開きかげんにして左目を引きつったように見開いている。
 男の目は目の前に立つ私を通り越して、はるかかなたを、ただ見ているだけ。なんの感情もなくただ目の前の事を均等にながめているだけの冷たく忌々しい邪眼。

 こんな目を私は今まで見たことがなかった。
 にごった白目にじっとたたずむ黒目、黒目はただの穴ぼこのようにさえ見える。
 私の目は、もっとも暗い場所より暗い穴ぼこのような目を見つけた。もはや闇ですら白昼のように見渡せる。モノトーンの地平に、私と男はいま立っている。

「俺は死神。名をウチヤマという」

 男は唇をパクパクと動かして言った。
 闇の中で、もっとも遭遇してはならない忌まわしい相手と対面してしまった。ここで逃げ出せば一生たたられるだろう。恐怖でおびえれば、いいように利用される。
 ここで拒絶し、受け入れられないと断らないかぎり、しつこい新聞の勧誘のように油断すれば何度もあらわれて私を苦しめ続けるはずだ。